クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する   作:那珂テクス

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リンリンリン、リンリンリン、ローザリン!!!


8話『こんな美人が構ってくれたらそりゃ懐く』

 ロザリン・クルーズチカ・ローエファルタ。またの名を、ファトゥス第8位の執行官「淑女」。

 彼女はかつてモンドで暮らしていた。歌を好み、とある青年と愛を育む普通の少女だった。

 ところがある日、ドゥリンという毒龍がモンドを襲った。西風騎士団が一丸となってこれに立ち向かうも、騎士団の一員だった青年は命を落としてしまう。

 当時スメールに留学していたロザリンは厄災を免れたが、ある意味での死を迎えることになった。外法に手を染め、己が血肉を贄とし、理不尽と不浄を燃やし尽くさんとする「炎の魔女」に生まれ変わったのだ。怨讐の化身となった彼女を人々は恐れ、忌避し、歴史学者さえも忘却の彼方へと追いやった。そうして500年の歳月が過ぎたが、その炎は今なお天高く燃え盛っている。

 では、そのような恐ろしい存在に遭遇してしまった時、人はどうするべきか。

 

「ロザリン!」

 

 ──豊満な胸に思いっきり飛び込めばいい!!

 

「はいはい。元気そうで何よりね」

 抱きついたまま顔を(うず)めると、わしゃわしゃと頭を撫でてくれる。少し荒っぽいが、優しさに満ちた手つきだ。

 ご覧の通り、私とロザリンは仲が良い。

 というかペルヴィが「お父様」になった頃からの付き合いなので、勝手に姉か母のように思ってすらいる。

 最初はビビりまくってたけどね。原作の苛烈なイメージがあったし。ただ身内に対しては割と世話焼きな一面があることを知り、コロッと落ちてしまった。綺麗なおねーさんが見せるギャップに弱いんだ、私は。

 心ゆくまでロザパイとなでなでを堪能した後、ふと浮かんだ疑問を投げかけてみる。

「ここに来て良かったの?」

「何よ。どこに行こうと私の勝手でしょ」

「監視されてるんだけど」

「知らないわよそんなの。自分でどうにかしなさいな」

「えぇ……」

 にべもない。だがこの程度の我儘(わがまま)はもう慣れっこだ。

 ファトゥスとの密会の言い訳は後で考えるとして、そろそろ本題に入ろう。

「それで、本日のご用件は?」

「ちょっとした確認よ。貴女、近々モンドを発つのでしょう? しかもまた各国を旅するだなんて、一体どういう風の吹き回しかしら」

 ロザリンが私の真正面に立ち、腕を組んで見下ろしてくる。将来──恐らくこの後すぐ──蛍とパイモンが相対することになるその姿は、執行官に相応しい威容を誇っている。

 実際は姉が妹の悪だくみを問い質そうとしてるだけなんだけどね。

「意地悪。分かってるくせに」

「貴女の口から直接聞きたいの」

 冗談めかしてむくれてみると、意外にも真面目な答えが返ってきた。あのロザリンが儀式めいたやり取りを望むなんて、珍しいこともあるものだ。

 実のところ、彼女は『らぶらぶ♡死ぬまでハネムーン計画』について何も知らない。私がひた隠しにしてきたからだ。好感度の問題とかそういう話ではなく、計画を知った人間に及ぶ影響が未知数すぎて怖いのだ。当事者であるペルヴィと私を除いて、誰1人としてこの計画を知る者はいない。

 ただ、私の目的が『恋人と添い遂げること』だと知る者はいる。ロザリンもその1人だ。

 付き合いが長く、かつ天理関係のあれこれを知っている彼女だからこそ、私がやろうとしていることに勘づいたのかもしれない。

 うーむ。このまましらばっくれるのも気が引けるし、決意表明くらいはしておくか。

「行ってくるね、ロザリン。私の本懐を遂げに」

 菫色の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。これが今彼女に示せる、最大限の誠意だ。

「……そう。好きにしなさいな。それこそ貴女の勝手というものよ」

 しばらく無言で見つめ合った後、ぷいと横を向くロザリン。相変わらず素直じゃないなぁ。

 さて。これで彼女の用事は済んだわけだが、まさかこれだけの為に500年ぶりの帰還を果たしたわけではあるまい。タイミングから察するに、ウェンティの神の心を奪いに来たのだろう。

 となるともうほとんど時間ないよね。久々に酒の1杯でも奢りたかったのに。

「そういえば、いつまでモンドにいるの?」

「用が終わったらすぐに帰るわ。というか貴女、私がここにいること自体は驚かないのね」

「あっ」

 やばい。しくじった。

 最後にロザリンと会ったのは数年前のことだ。久々かつ異国での再会ともなれば、何故ここにいるのかくらいは尋ねるのが道理だろう。だが私は嬉しさのあまり舞い上がり、原作知識を前提とした受け答えに終始してしまった。あまりにも迂闊すぎる。

 もう何度もペルヴィに指摘されてるのに……どうしようもないな、この悪癖は………。

「えっとその……あはは」

「下手な嘘を吐かないのは褒めてあげる。まったく、いつもどこで嗅ぎつけるのやら」

「言っとくけど──」

「『ペルヴィのせいじゃないからね』? 知ってるわよそんなの。だから余計に厄介なの」

 わざとらしく嘆息するロザリン。私は恥ずかしさでいたたまれなくなってしまい、思わず顔を伏せてしまう。

 いやマジで面目ない。でもぶっちゃけ相手がロザリンで良かった。

 10年以上の長い付き合いの中で、私は今回のようなプレミを何度もやらかしている。最初の方は彼女も警戒するなり気味悪がるなりしていたのだが、そのうち「またか」と軽く受け流すようになっていったのだ。災い転じて福となす、といったところだろうか。

「ごめんね。邪魔はしないから許してほしいな」

「あら本当? ちょうど貴女が留守にしていた夜、私の部下が襲われたみたいだけど」

「スーッ」

 いやちゃうんすよ姐さん! 全部闇夜の英雄って奴の仕業なんです! あっしは脅されて仕方なくやっただけなんです!

 心中で全力の命乞いをしつつ、明後日の方向を見つめる。そのまま押し黙っていると、ロザリンは呆れたように頭を振った。

「そろそろ時間ね。ま、精々死なないように頑張りなさい」

「うん。鍾離先生によろしくね」

 部屋から立ち去ろうとしていたロザリンが、不意に足を止める。私の口から思いがけない名前が飛び出したからだろう。

 ちなみにこれはわざとである。

「……本当に邪魔しないで頂戴ね」

 そう念押しし、今度こそ部屋を後にする。足音が遠ざかるのを聞きながら、私は情報を整理することにした。

 彼女がこれから向かうのは西風大聖堂だろう。天空のライアーを返却した蛍たちの前に姿を現し、強引な手法で風神の心を回収するはずだ。数日前のウェンティの様子を鑑みると、彼は本気で抵抗しない可能性が高い。裏で何らかの取引をしているのだろうか? いずれにせよ、風神の心は氷の女皇の駒となる。

 そして去り際のロザリンの反応を見るに、彼女の次の目的地は璃月で間違いない。協力者も鍾離先生で確定。

 とどのつまり、概ね原作通りの流れというわけだ。

 でも璃月に入ってからの展開が不安だな~。ウェンティとは本当に初対面だったが、モラクスと私は既に面識がある。原作とこちらの彼にどんな差異が生まれ、璃月全土を巻き込んだ計画にどんな影響を及ぼすのか、皆目見当がつかない。なんとも胃が痛い話だが、原作知識が役に立たなくなる日もそう遠くないのかもしれない。

 せめてモンドを発つその日まで、細かいことは考えず気楽にやりたいものだ。

 

「というわけで風神様、あとよろしく」

 

 ロザリンが酒場から離れたのを確認し、開け放たれた窓に向かって語りかける。

 遠くから聞こえる琴の優美な旋律が、微かに乱れたような気がした。




ペルヴィが残念に思うくらいだし、本来のロザリンは心優しい娘だったと思うんです。壁炉の家の子たちにも慕われてたみたいだし、本人も満更じゃなかったみたいだし。

正史の彼女は最期まで怨讐の炎に身を焦がし、凄絶に果てた。
では、こちらでは……?

感想お待ちしてます。飢えてます。
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