単刀直入にいえば、どうやら地上は核の炎で一度焼かれたらしい。見渡す限りの荒れ地を逃げ惑うのはボロを纏う痩せ
細った核家族一同。いや、変な意味ではなく、父母子の組み合わせという意味で。そんな三人をバイクに乗って追い回すのは屈強な荒くれたち。もちろん、肩にはトゲの生えたパットを付けている。ガソリンはどこで調達しているのだろうか、などは詮索してはいけない。ただ、火炎放射器を無駄にボウンボウンさせているので、燃料は潤沢に確保しているのだろう。
そして、ここぞというところで子供は転ぶ。子供とは事あるごとに転ぶものだ。体格上、頭が重いということもあり。しかし、世はいわゆる世紀末である。弱肉強食――大人たちも自分が助かることで精一杯だ。
「うわーん! パパー! ママー!」
泣き叫ぶ子供。
「誰がパパだ!」
「たまたま行き先が同じだっただけでしょ!」
苦し紛れのウソか、本当に赤の他人か――パパママと呼ばれたふたりは足を止める素振りさえ見せずに逃げていく。これには追っていた方も――とりあえず倒れた子供を取り囲んでみたもののドン引きだ。
「おーい……どうするよ……」
「あと何年か経てば労働力になるんだろうけど……」
「おい小僧、歳はいくつだ」
「え、えーと……四歳……」
少年はサバを呼んだ。少しでも自分が役に立たないと思わせるため、ふたつほど少なく。子育て経験のない荒くれたちに、その真偽を見抜くことは難しい。
「どーするよ……?」
「うーん……人質としての価値もなさそうだしなぁ……」
リリースということで話がまとまりそうだったところで――
「話は聞かせてもらったっ!」
その声は女のものだが、先程逃げた他称ママではない。当の彼女は――顔面をボコボコにされて目蓋と頬を腫らしている。ついでに男の方も。さすが世紀末というべきか、男も女も平等に容赦がない。
ぐったりとしたふたつのボロを威勢よくモヒカンたちに放り投げるのは屈強な大女――ということもなく、むしろ小柄だ。細い腕、細い足――金色の後ろ髪は長く、サイドはくるくるの縦巻きロール――モヒカンだって作れるのだから、縦巻きロールも可能なのだろう。
そんな少女がどうやって大人ふたりを――そのチカラの源は何となく察せられる。ツヤッツヤでテカッテカの生地はパッションオレンジ色。スカートは花びらを思わせるように大きく開き、似たような材質のブーツのつま先はツンと尖り――さらには竹箒を背負っている。掃除用具としてその大きさは標準、もしくは少々長いくらいのものだが、持ち主の背丈が低いこともあり、異様に大きく見える。
火炎放射器さえ日常的となったこの時代、清掃員とて竹箒を振るうことはない。そんな中、わざわざシンボル的なアイテムを誇示する彼女は――
「マジカル☆えりりん、お前に呼ばれて即参上ッ!」
お前が誰を指すのか――先程の少年の声に向けて事態が収まりかけたところでノコノコと――もしくは、他称パパママが呼んだのかもしれないが、当の本人たちは手遅れなほどボコされ済みである。それも魔女っ子本人によって。
魔法少女といえばチビッコたちの憧れの的ではあるはずなのだが――残念ながら、少年はキョトンとしている。これが少年ではなく少女だったら違った反応が見れたかもしれない。
だが、大きなお友だちにとっては只事ではないようだ。
「え……えりりん……ッ!?」
「貴様……『
「キツネゆーなやアホゥ!」
両者の間で呼び名がまったく異なる。しかし、それもまた彼女の名であるらしく――動揺したのか少々方言が顕になってしまった。
が、咳払いひとつで気を取り直し――
「知っているなら話は早いわね」
再び標準語に戻した。
「貴方たちが乗ってる『スピニングホイール』と『ファイアストーム』二丁、その場に置いて立ち去りなさい!」
どうやら彼女を呼んだのは少年でもボロを着たふたり組でもなく、モヒカンたち――正確にいえば、彼らの持つ魔具――どうやら核の炎で滅んだ後の世界では魔法が発達したようだ。
キツネの名は魔具を持つ者の間では広く知られているようで――男たちは何とか逃げる隙を窺っている。スピニングホイールと呼ばれたバイクに乗っているにも関わらず徒歩の女子から堂々と逃げようとしないあたり――もしかすると、背中の箒はマッハで飛ぶのかもしれない。
モヒカンたちは誰も彼も見るからに三下ではあるが、それでもリーダー格という存在はあるようだ。先頭を走っていた紫色のモヒカン頭は観念したように――それでも腕組みした仁王立ちのえりりんからは一瞬たりとも目を離さず――背負っていた燃料タンクを下ろしてファイアストームという名の火炎放射器を地面に置いた――
――と見せかけてッ!
ゴアッッッ!!
至近距離から最大出力で――ッ!
だが――
「あー、やると思ったで、このカス共」
炎の中から飄々とした声が響く。そして、真っ赤な
「魔法少女に魔法が効くと思ぅたか? このアホゥめ」
いや、その理屈はおかしい。だが、理屈が通じないのが魔法という世界か。
「ひぃぃぃっ!?」
モヒカンリーダーは出力最大のままで。効かないとわかっていても抵抗せずにはいられないのがザコのサガである。
「MPがもったいないからやめーや」
次に炎の中から槍のように突き出されたのは竹箒の柄――当然のように対炎不燃性であり、額に一撃を喰らったモヒ隊長はゴロンゴロンと荒野を転がっていく。それでようやく火は止まった。
「……ったく、どーしてくれんねん」
もちろん、えりりんもまったくの無傷である。――えりりん“本体”は。
「この衣装手に入れんの苦労したんやで!?」
焦げたブーツはロングではなくスニーカー丈になっている。あとは全裸だ。毛も生体として魔法防御が適応されているらしく縦巻きロールまで含めて無事である。あと、背丈は低く幼児体型ではあるが幼女ではないらしい。他はご想像にお任せする。
「ったく、手間かけさせよって」
仁王立ちの貧乳全裸女は地平の彼方を眺めていた。その先には砂煙――リーダーが時間を稼いでいる間に他の連中はしっかり逃げていたらしい。魔法アイテム『スピニングホイール』に跨って。
それを回収するために
「よっ、と――」
やはり魔法少女といえば箒に
「アブないアブない。モロに食い込ませたらカンじてまうからな」
と魔法少女らしからぬアブない独り言を口にして座り方変更。柄に対して横座り――足を開く必要もないし、ある意味上品にはなった。全裸ということを除いて。
そして、飛ぶ。超高速で。やはり、魔法少女の箒はモヒカンのバイクより速かった。男たちも一応は魔具取扱者である。魔力センサーに強い魔力の反応を見て一斉に振り向いた。すると、そこには――
「スピホ置いてけやダボ共ーーーッ!!」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
箒の乗り方が違う。さっきまでの上品のカケラくらいはあった横座りではなく――柄にぶら下がり健康法――ついでに全裸健康法――ボンキュッボンではなく文字通り幼女に毛が生えただけの体型では男たちも報われない。
「ハブラシクサルトウゥゥメェェヤァァァァッ!!」
魔法少女というより東洋の呪文のようなものを叫びつつ高速回転――両足を開いた竜巻がモヒカンたちの群れを蹂躙していく。
そんな戦いから離れた喧騒の合間で――
「……どうしても、それを持って行くのか……坊主」
「うん、この世紀末を生き抜くためには……チカラがいるから」
ランドセルと呼ぶには少し大きい火炎放射器――ファイアストーム――それを、少年は重そうに背負う。しかし、よろめくことはない。それは、その身に宿る意志のように強く――その瞳に負けて、モヒカンリーダーはため息をついた。
「気をつけるんだな、坊主。キツネはすぐに嗅ぎつけてくるぞ」
「ありがとう。隊長もお達者で」
「よせよ。俺はしがない課長にすぎんさ」
マジックワークス・販売部第一宣伝課長――シゲル・ノブヤマは少年の背を見送りながら、その小さな身に余る波乱の幕開けを予感して――少しだけ涙した。
それから十分後くらいにえりりんが戻ってきたが、その際にブチ切れた全裸の魔法少女から八つ当たり気味にボコされてマジ泣きした。そんな、三八歳の夏。