前回までのあらすじ――えりりんと博士、そして少年の三人によるアテのない旅が始まった。
以下、本編(最終回)
そして、三人での旅は終わった。魔具『ファイア・ストーム』の回収に失敗したえりりんたちは、身体で償わせる(意味深)ため、少年に同行させたものの、そこは狡猾な少年である。三日目には姿をくらませていた。何となくそんな予感はしていたので、博士もえりりんも中指こそ立てながらも大して驚きはしなかったという。
そして、十年の時が流れた。唐突ではあるが。
世紀末の世界は今日も元気に荒野である。さすがに、十年やそこらで文明が復興するようなことはないらしい。そして、ファッションセンスもそのままのようだ。掛け声も。
「ヒャッハーっ!」
モヒカンたちも元気である。彼らはおそらく、マジックワークスの社員たちだろう。
――と思われたが――『ミスティックファクト』――ロゴが異なる。製品自体は
一方、追われている女性が乗っているのは電動キックボード――もちろん、背筋はピンと立てている。文明社会では道交法やら何やらで問題になっているが、信号も車線もないこのような時代であれば気にすることはない。ひび割れだらけの路地を懸命に走るが――やはり、浮遊バイクの方が未来型である。あっという間に追いつき追い越し、電動キックボードの進路にスイーっと回り込んだ。
「よォよォ、オタク、まだ“マジワ”の製品使ってんの」
「うちに乗り換えなよォ。いまならそのガラクタも店頭価格で引き取ってやるぜェ?」
どうやらこれが世紀末の営業スタイルのようだ。まあ、ルール無用であれば脅迫まがいになるのは頷ける。
「お助けください……っ。私の兄の嫁のお父様がマジックワークス社員でして……」
同業他社の製品を使うのは気不味いらしい。
「ほぅほぅ、アンタの兄の嫁の親父さんが……って全然関係ねーだろ!」
「いや、結構近いぞ」
モヒカンの間でも少々意見が食い違ったところで――
「待ちなさい!」
甲高い声が響く。そこに現れたのは――
これが十年間で成長した魔法少女の姿か。いや、魔法少女が少女でなくなったらすでに別物である。少なくとも、胸周りは胸周りは少女のままではあるが。という話は置いといて。
「まじかる☆えりりん、顧客の嘆きに即参上!」
ポーズをキメると爆炎が上がり、背後では男たちが『おおおおお……ッ』と野太い歓声を上げる。彼らの浮遊バイクはスピニング・ホイール――マジックワークス製。つまり、追っていたモヒカンとは別勢力のモヒカンである。モヒカン同士の衝突はやや珍しいかもしれない。
えりりん側のモヒカン部隊の先頭の男には見覚えが――ない。いや、本当はある。一話に登場したシゲル・ノブヤマだ。どうでもいい。なお、十年経った現在は販売部の部長まで昇進したとのこと。本当にどうでもいい。
そんなモブモヒカンたちを従えて、えりりんは果敢に競合他社と立ち向かう。
「ここはお逃げください、コタケさん」
社員の名前なので、えりりんもしっかり把握している。と思ったが。
「あ、いえ、コタケは嫁家族の方で、私はオヤマと申します」
「部長っ!」
社員親族の名前を呼び間違えて、えりりんは慌ててノブヤマを呼びつける。それに恐縮して深々と跪く部長。どうやらえりりんの役職はそれより上らしい。
「申し訳ありませんっ! 入籍による社員名の変更手続きが……このご時世ですので、役所の方も処理が滞っているものと……」
いつの時代も役所の仕事はお役所仕事ということか。社外マターとあってはそれ以上責めようもなく、えりりんは改めて社員関係者の方へと向き直る。
「それでは改めまして……お逃げください、コヤマさん。そして、今後もマジックワークスの製品をよろしくお願いします!」
「いえ、コヤマではなくオヤマ……」
「いいから早く!」
普通に言い間違えたので、えりりんは強引に誤魔化す。
非戦闘員が捌けたことで、ようやくミスティックファクトのモヒカンたちはえりりんに相手をしてもらえることとなった。環境に配慮して止めていたアイドリングも再開されて、まさに臨戦態勢である。
「行きますよ、ノブヤマさん!」
「はっ!」
えりりんとマジックワークス――かつて敵対していたふたりの共闘――だが、残念なくらいに盛り上がらない。
えりりんは空飛ぶ箒に横座りで先陣を切りながら、右腕を前方にかざすと――
「マジカル☆ステッキ!」
慣性の影響を受けない光の粒が手の平に集まり、即座に星をあしらった可愛らしい魔杖の形を成す。そして。
「バスターモード!」
その一声で、宇宙世紀に登場しそうなビームライフルへと早変わり。もはや、魔法少女の欠片もない。
「
何故かドイツ語の掛け声を上げると光の剣が地表を薙ぎ、敵対企業の社員たちをことごとく蹴散らされていく。そんなえりりんに喝采を浴びせるノブヤマたち。結局何もしていない。
規格外のマップ兵器によって浮遊バイクごとひっくり返されたものの、ミスティックファクトの社員たちの命に別状はないらしい。
完敗を認めて、隊長と思われる仕切っていたモヒカンが苦々しく呟く。
「……フッ、さすがは世紀末就職したい企業ランキング一位様はちげーや」
世紀末といえど意外と堅実な生き方が求められているらしい。
自虐的な笑みを浮かべながら空を仰ぐミスティックファクト側のモヒカン隊長――その視界を遮って、魔法少女が覗き込む。
「いえ、貴方たちの技術力も相当のものですよ。ミスティックファクト第一技術開発部のヤムラさん」
己の名を呼ばれ――ヤムラは静かに目を閉じる。
「そうか……俺の名をご存じでしたか……」
少し感慨深そうに、けれども、その目尻はみるみる歪んでいく。
「なら……どうして俺を
どうやらヤムラとマジックワークスの間には並々ならぬ因縁があったらしい。そして、それはチーム全体でも共有しているようだ。
「そうだ! ヤムラ部長の技術力は世紀末一だ!」
「ヤムラ部長の下で働けて俺たちは幸せだった。でも……!」
部下たちから感謝の意を受けて男泣きするヤムラ。そんな彼と――えりりんは最初から争うつもりはない。
「我が社は中途採用枠も設けておりますよ」
まさかのヘッドハンティング――これには思わずヤムラも飛び起きる。だが――
「しかし――」
いつの間にか集まってくれていた同胞たち――誰もがいかつい笑顔で後押ししてくれている。とはいえ、仲間を残してひとりで発てるほどヤムラは薄情な男ではない。
「でしたら、チームごと――」
ノブヤマも頷いているので、これも既定路線だったのだろう。
しかし――
「待て、騙されんな!」
ハッとして声の方へ振り向く。そこは切り立った崖の上で――同じような魔法少女スーツに身を包んだ女子がひとり。背丈としてはちんまりしていて、こちらの方が少女っぽいことは少女っぽい。
そう、彼女こそ――
「マジカル☆えりりん、貴様に呼ばれて即参上ッ!」
十年前と変わらぬ姿で――口上については初登場時よりやや物騒になっている気がする。
えりりん(小)は背中の箒を抜き取ると、えりりん(大)に穂先を向ける。
「そいつは魔法少女やない! そいつはなぁ――」
と、少し溜めて、衝撃的な事実を叫ぶ。
「ち ん ぽ 生 え と る で !」
ただし、これに驚いたのはミスティックファクトの社員のみ。マジックワークスサイドのモヒカンたちはむしろ当然の顔をして崖の上へと罵声を浴びせている。
「黙れ! 盗賊キツネがッ!」
「こんな可愛いコが女のコのはずがないだろう!」
「キツネ呼ぶなや!」
かばわれている当のえりりん(大)は不服そうに目を逸らす。どうやら納得してこの格好をしているわけではないようだ。
そして、えりりん(小)も納得していない。
「盗賊ゆーなら、そっちのがよっぽど盗賊やろが」
これに、(大)はため息ひとつ。
「……はぁ、ファイアストームならもう新品で補償したでしょう。十年前のことをいつまでひきずってるんですか」
かつての少年――十年経ち世紀末美青年となった現えりりん(大)は面倒くさそうにあしらおうとしている。そして、これに同調するノブヤマたち。
「そうだ! えりりんは我が社のマスコットだ!」
「お前みたいな盗賊と違って、えりりんは何も盗んじゃいない!」
美少年に群がるオッサンにイラつき始めてきたえりりんだが――その背後から白衣の男が現れる。やや顔つきはフケているが、あの博士に違いない。
「いいや、ソイツはとんでもないものを盗んでいったぞ」
そして、博士はフッと優しそうな笑みを浮かべて。
「それは、貴方の心です」
「……はい」
頬を赤らめるノブヤマ。
「ちゃうわ! ウチの名前やねん!」
えりりんはすぐさま手の甲で博士にツッコミを入れる。
「いえ、僕もいらないのでできれば返上したいのですが」
言ってえりりん(大)はちらりと背後のノブヤマたちを見るが――その名を捨ててくれるなと涙目で訴えている。まさか、魔法少女白衣を羽織っていたばかりに、そのまま魔法少女を襲名することになるとは思わなかったようだ。
そして、えりりん(小)もその名を奪われるとは思っていなかったのだろう。
「勝手にウチの名前
「良かったじゃないですか、正義の味方みたいで」
「良かないわ! 魔力の行使は慈善事業やないねんで!?」
なお、青年の方は会社から給料が出ている。
「何より、ウチにまでちんぽ生えてる思われたらたまらんねん。ギャラリーたちにも見せたるわ、どっちが本物の魔法少女か――」
ここで直接戦って白黒つけたる――それが元祖えりりんの思惑だったようだが――いつの間にかマジックワークスのモヒカン勢力が倍増している――否、ミスティックファクトの社員たちも青年側についていた。戦いの結果を待たずして。
これに、えりりん(小)はビキリと青筋を立て――
「そーいやぁオタクら、マジックワークスに就職したいと本社ビルを眺めとったなぁ?」
えりりん(小)の見つめる先――蜃気楼のようにゆらめくのは世紀末に似合わぬ高層ビル――ひょいと指先を立てると、その先には小さな灯火――しかし、その手を高く掲げると、その灯火はみるみる膨れ上がり、いつしか太陽のように――!
「いつか転職できるとええなぁ」
くいっ――えりりんの指が折れると、そちらに向けてゆったりと――そして、まっすぐに――!?
「この方角は……マズイ! あの人、本社を直接……ッ!」
魔法少女青年(自己矛盾)が元杖だったビームライフルの銃口を空へ向けると――
「マジカル☆ステッキ、出力最大・コズミックモード!」
えりりん(小)のパワーボールと同じようなエネルギー球が紡がれる。そして――
「マジカル☆メテオーーーッ!」
上空で爆ぜ、せめぎ合う巨大な魔力の塊――まるで第二の核戦争のようだ。
「無駄無駄無駄無駄ァ! たかが魔具使いが生粋の魔法少女に勝てるかァッ!」
「僕たちは信じます! 魔具の……人々の叡智の力を……ッ!」
最初は憧れの視線を向けるばかりのノブヤマたちも、苦戦するえりりん(大)の姿にハッとして――たったいま和解したばかりの仇敵に手を伸ばす。
「ヤムラさん! パワーをメテオに!」
「いいですとも!」
モヒカンたちの繋がれた手と手により増幅された魔力がえりりん(小)の魔力を押し返していく――が、腐っても魔法少女である。その底力はこの程度ではない。
「カカカッ、面白くなってきたやないけーーーッ!」
えりりんと