悟空くんと夫婦になってから,平和な月日が流れて私たちの息子が生まれた。名は悟空くんが決めてくれて孫悟飯という名前にした。
……その子はとても穏やかで優しい子で生き物が大好きだった。将来はどうやら生物関係のお仕事に就きたいらしく,ウチの子頭良いなぁと母親ながら感心し,素直に応援してあげている。今はお勉強とその合間によく悟空くんと体を動かして遊んでいる。
私も結婚当初,人と共に過ごすということに慣れていなかったため,苦戦していた。
それに何より私はそこまで家事が得意なわけではないし,料理も苦手だったので,ご飯をいっぱい食べる悟空くんとの生活は至難を極めた。
「ねぇ……悟空くん。私料理ずっと練習してて…今日の晩御飯は私が作ってみたんだけど……どうかな?」
「……このいっぺぇある料理をルナが?」
「うん……食べてみて……欲しい」
正直私は今まで全く出来なかった料理がようやく形になったレベルだ。美味しくはないと自身で味見して分かっている。
……でも私の大切な人にどうしても食べて欲しかった。
「……どう?」
「……うめぇぞ!」
「本当に……?無理しなくても……いつもみたいにお魚を狩って,それを焼いて食べても……」
「いや本当にうめぇぞ……それに,何かすっげぇ嬉しいんだ。オラこんな食いもんは初めて食った」
……最初のうちは悟空くんがよくパオズ山で狩りをしてそれを丸焼きなどにして食べていたけど,私が初めて練習した料理を食べてくれた時,お世辞にも美味しいとは言えない出来だった料理を何だか嬉しそうに美味しいと言って食べてくれたのがとても嬉しかった。このおかげか今では割と料理は得意になったと思う。
悟空くんと過ごす毎日はとても幸せだった。彼の明るい笑顔を見ると,彼の暖かな温もりに包まれると,彼が美味しそうに私のご飯を食べてくれると……まるでお日様に包まれているかのような暖かさが胸に宿る。
けどそんな毎日は急に激変することになった。確かきっかけは悟空くんの兄を名乗るらしいサイヤ人というのがやってきた事だったと思う。
悟空くんが悟飯を攫われたのを助けるためにそのサイヤ人と戦って死んでしまったと聞いた。
頭が真っ白になった。仲間の人達はドラゴンボールで生き返れるだなんて簡単に言うけど,私は例えそうだとしても気が気じゃなかった。悲しみと絶望が心を支配した。
「……それと悟飯くんもピッコロに攫われて……」
「…………なんで」
「……ルナさん?」
急に暖かった日々が凍えるように寒くなった。ピッコロ大魔王に悟飯が攫われて一緒に修行をしているというのも仲間の人達から聞いたけど,それが頭に入ってくるほどその時の私には余裕がなかった。
「……寒いよ悟空くん」
悟空くんが死んだーーーただその事実だけで私の時は錆び付いたように動かなくなった。
それからは急に悟空くんが何処か遠くへ行ってしまったかのように家に居ないことが増えた。
サイヤ人との戦いでボロボロになって入院して,退院したらすぐにナメック星というよく分からない宇宙に仲間の人達を生き返らせる為に行って……そしてまた行方不明で帰ってこなくなった。
「……お母さん。今日も沢山料理…作ったんだね」
「…………お父さんがいつ帰ってきてもいいようにね。きっとお腹を空かせて帰ってくると思うから」
「…………お父さんがいなくても僕がいっぱい食べるよ!だからお母さん……元気出して」
「……………………悟飯。そろそろ…お外で遊んだ方がいいんじゃない?最近お勉強ばっかりで体を動かしてなかったでしょう?」
「うん……分かったよお母さん」
私は誰も居ない家でただ毎日悟空くんが帰ってきてもいいようにご飯を作って,息子の成長を見守りながら平和に過ごし続ける。
……悟空くんとの息子だから,立派に成長して欲しかった。
仲間の人達が言うには……悟空くんは生きているらしいけど,だからといって何でそこまで心配無くいつも通り過ごしているのだろうか。
私は悟空くんが楽しそうに戦っている姿を見るのが好きだ。でもそれはあくまで命も地球も懸かっていない,己を高めるための戦いだ。
……悟空くんに,自分がボロボロになって死んでしまう可能性があるような戦いには行って欲しくなかった。
ナメック星に仲間の人達を生き返らせる為に悟空くん達は行ったらしいけど……私個人の本心を言うなら,別にそんな危険を犯してまで行く必要を感じられなかった。
分かっている。悟空くんの大切な仲間達なんだって
でも私は悟空くん以外の人はよく知らないから,正直そこまで思い入れは無かった。私の大切な
……何よりあのピッコロ大魔王とこの地球を滅ぼすためにやってきたらしいサイヤ人の1人が平和に過ごしているのに,何故悟空くんばっかり危険な目にあって家に帰ってこれないんだ。
腹が立つ。よく悟飯の様子を見に,家の近くに来ているピッコロ大魔王が,ブルマさんの家に行くとのうのうと過ごしているあのサイヤ人が。
悟飯はピッコロ大魔王に何故か懐いてるけど……私には理解出来ない。
仲間の人達はあのサイヤ人を受け入れて,共に過ごしているみたいだけど私は信じられない。
それこそ命を懸けた戦いなんてピッコロ大魔王やそのベジータとかいうサイヤ人に任せておけばいいと思った。どうせそういう戦いに慣れているのだろうし。
本当に正直に言えば,悟空くんじゃなくて他の
……でもきっと悟空くんはそんな事する訳ないし,何より悟空くんがいなければ悪いヤツには勝てないんだろうなとは分かっていた。
ーーー私はただ悟空くんに平和な世界で笑っていて欲しかった。
それからも人造人間やセルとかいう悪いヤツとの戦いに悟空くんは赴いていき,その度に心臓病で倒れたり,死んでしまったりした。
「……ルナさん。悟空も今は薬で落ち着いてるんだし……別にずっと傍に居なくても……それに少し休んだ方がいいですよ。暫く寝てないせいで顔色が……………………」
「……大丈夫ですよ。ヤムチャさんこそありがとうございました。あとは私が見ているので休んでいて大丈夫ですよ。」
「……ルナさん」
心臓病で倒れた時なんか,私は悟空くんの傍を離れることが出来なかった。悟空くんに纏う死の気配に私はその温もりが消えないようずっと傍に居続けた。
けど未来から来たらしい子から貰った薬で何とか助かった。その時にふと聞いたのだけど……
「……その悟飯さんのお母さん……ですよね?」
「……そうですよ。」
「……あの良かったです。大丈夫そうで」
「……どういう?」
未来から来た青年……トランクスさんが何故か私のことを酷く心配そうに見ていた。
「……あの俺の未来ではルナさんは死んでしまっているんです。……その…………自殺で」
「……自殺?」
「……はい。悟空さんが心臓病で亡くなって……その事実に心が耐えきれなくて……悟飯さんを置いて死んでしまったんです。俺は悟飯さんの弟子なので……その事を知っていてつい気にかけてしまって……」
「……なるほど。でも悟空くんはあなたが持ってきてくれた薬のおかげで無事です。ありがとうございました。」
未来の私は悟飯を置いて自殺して死んでしまったらしい,悟空くんが心臓病によって亡くなり,それに心が耐えられなかったとの事だ。
……何となく納得してしまった。だって私はきっと悟空くんが居ない世界なんて耐えられないからだ。
実際その後悟空くんがセルとの戦いで死んでしまって,生き返らないと聞いた時,私はそんなの耐えられなかった。
「……お母さん。もうずっと食事も……水だって摂ってないですよ……このままじゃ…………」
「……ごめんね。悟飯。でも何か……何もやる気が起きなくって…………体がまるで私の体じゃないかのように動かないの」
「…………お母さん。
………………少し待っててください。」
何も手につかないし,食事だって喉を通る気がしない。
そんな私の様子を見かねた悟飯がブルマさんと協力してナメック星のドラゴンボールで結局悟空くんを生き返らせてくれたのだ。
「……悟空……くん」
「……ルナ。悪ぃなぁいっつも心配ばっかかけて…………でぇじょうぶだ。オラはちゃんと生き返ったし,これからはまた家族一緒に過ごせるさ……」
「うん……!!」
ーーーまるで死人のような雰囲気で驚いた。
後の悟空くんはこの時の私のことをそう言っていた。
生き返って帰ってきてくれた悟空くんは,少し困ったような,心配するような表情をしていたけど……私を優しく抱きしめてくれた。それがとても嬉しくて……
ただ……それだけで私は幸せで,生きていられた。
貴方が傍に居てくれれば,一緒に生きていてくれれば……貴方がずっと笑っていてくれれば………私は幸せだった。
それからは平和な時を悟空くんと……新たな息子の悟天を加えた家族4人で過ごした。
……魔人ブウとの戦いもあったけど,結果的には悟空くん達が何とか倒してくれた…でも神殿にいた魔人ブウはとても怖かったし,私はずっと仲間の人たちの傍に隠れていた。
「……ルナさん大丈夫ですか?」
「は……はい大丈夫です。」
「無理せずに……神殿の奥の方で休んでいてもいいんですよ」
「……すみませんそうさせてもらいます。」
……あんな化け物みたいなヤツらと今まで戦ってたんだと私は思った。
けど私は,それ以外にも魔人ブウとの戦いで地球を守るために冷静沈着な表情で時に非情な判断を下す悟空くんがとても嫌だった。
……大切なものを守るためなのは分かるけど,酷く別人のように見えて,まるで人じゃない地球を守るための機械のような悟空くんが私はとても嫌だった。
そして何よりそんな悟空くんを頼って,まるで言うこと全てが正しいとでも言うかのように悟空くんに素直に従う仲間の人達の……悟空くんのことを見る目が……人を見ている目じゃない気がした。
そんな表情をしないでほしい。いつもみたいに戦いを楽しんで……笑顔でいて欲しい。
なんやかんや……悟空くんと長年過ごしてきたから…分かった。何となく……悟空くんが少し…苦しそうな表情をしているんだって
「……悟空くん」
「どうしたんだ?ルナ。」
「……無理…しないでね。辛くなったら……戦いは無理だけどそれ以外で私が力になるから」
「…………あぁ!ありがとな!」
私はただいつまでも平和な世界で貴方と一緒に居たいだけ
そして魔人ブウは倒されたけど,私はその戦いで初めて死を経験して……正直トラウマになった。
あのお菓子にされる感覚。そして何も出来ない状態で噛み砕かれて殺される感覚。恐怖で泣き叫びたかった。
けど悟空くんが無事で,平和な世界でそばに居てくれるだけで私は気丈に生きていられた。
もうあんな敵は出てこなければいいな……なんて思いながら日々を過ごす。
ーーーここまでが,私の人生。私が
補足(長め)
〇ルナの弱さ
ルナは自身にとって初めて出来た大切な家族である悟空に割と依存していたというのもあるが,悟空が戦いでボロボロになったり,死んだりするのに耐えられる心が本当に一般人であるルナには無かったため,ラディッツ戦後やフリーザ戦後は割と病み気味だった。
特にセル戦後悟空の死に耐えきれず,本当に死んでしまいそうだったので見かねた悟飯やブルマがナメック星のドラゴンボールで悟空を生き返らせたため,ルナ世界の悟空はセル戦後から魔人ブウ編までの7年間修行は変わらずしていたけど,生きたままだったため本来の悟空より弱体化した。
……というかルナが嫁の時の悟空は結婚してから,家を空ける度に寂しそうな表情をするルナを見て,少しバツが悪いのか恐らくチチが嫁の世界線よりも家にいたり,家族サービスしている時間が多い。
なのでハッキリと大幅に弱くなってる訳では無いですが,そういう日々の積み重ね+7年間現世で生きてたというので
本格的に原作悟空より弱体化した。
原作や小説本編の悟空を10と仮定するならば,ルナ世界の悟空は7〜8くらいに落ちてます。この差がどう響くか次の話でわかると思います。
というか零話の(1),(2)は最初の導入的なもので大切なのは次ですね。
〇親としてのルナ
決してルナは親として悟飯や悟天に愛情が無いわけでは無いですし,悟飯悟天も優しく,ご飯が美味しいルナを嫌ってる訳では無いですが(なんなら悟飯→チチの親子関係より悟飯→ルナの親子関係のが関係値高いと思う)
描写を見る限り,ルナにとっての大切なものは
悟空>>>>>>越えられない壁>>息子たち>>>>>>>>>その他
くらいの差があるので,正直良い親とは言えないのがルナです。特に悟空が死んでる(いない)期間,チチと違って息子たちを気にかけてる余裕がルナには全くないです。
〇ルナから他の仲間たちへの印象
ルナは悟空以外の人物はあんまり関わりがないため結構ドライです。特にフリーザやセル,魔人ブウとの戦いなどは本心では,「別に悟空くんがやる必要なんてないし,ピッコロ大魔王とかベジータとかそのほかのそういう事に慣れてる人らが解決すればいいじゃん」とか思ってます。
ただ悟空がそんな事する訳がないこと,ルナには一般人らしく心の中で毒を吐いてもそれを表に出さない"常識"があること……何よりそういう敵には悟空がいないと勝てないことを理解してるので,それをハッキリと伝えることは無いです。
〇未来世界(ルナが嫁ver)のルナ
番外編の未来世界でも描写してますが,ルナは未来世界では悟飯を置いて死亡しています。
死亡理由は自殺です。悟空が心臓病で死んで,悟空がいない世界に耐えられなかったからです。はっきり言えば廃人化して,そのまま静かに1人死にました。
〇魔人ブウにビビり散らかすルナ
ルナは本当にこの世界で一般人だったため,魔人ブウのような異形の敵を見て恐怖しか感じませんでした。
そのためこのルナ世界では,神殿にブウがいる時チチのように悟飯が殺されたことに激昂して叩いて殺されたりはせず,普通にほかの仲間達と一緒にお菓子にされて死んで,その初死亡がトラウマとなっています。(というかルナは多分仮に悟空が殺されていたらチチのように激昂したと思う。悟飯が殺されて勿論ショックは受けたけど普通に恐怖心が勝った)
〇Zの頃の悟空(独自解釈含む)
超の悟空はアホになったと言われてますが,アホになったというより基本的に悟空が望むような戦いが多くなったため,そこまで気を張っていないというのが正しいと解釈してます。(まぁ庇護できないレベルで知力低下してる部分あるけど)
逆にZの頃の悟空は敵が基本的にヤバいやつばっかり+性根から悪人のやつばっかりで,しかも地球や仲間の命が懸かっていて,それに加えて自分以外に頼れる人物がいない(悟空がいなければ恐らく詰む)というそんな戦いばっかりなので,悟空は基本的に超の時と違って冷静沈着で,冷酷だろうと時には機械的に非情な判断を下して戦う必要があったのだと思います。
特にセル編から魔人ブウ編辺りの悟空はまるで神のような視点で何処か人間離れした雰囲気を感じるほどでした。
悟空の後進育成の思考もここら辺を解決するためだったんじゃないかなと思います(自分が居なくても地球を守る)要するにZの頃は割と悟空にとって不本意な戦いが多く,苦しいことも多かったんだと解釈して,超の頃はあくまで自分を高めるため,ただただ強い相手と戦えるという悟空にとって夢のような時間だったのが,性格の差なのだと考えています。
ルナはこのZ悟空がまるで人間ではない,人間として見られていないような気がして嫌だったということです。
このルナの想いは恐らく単純に妻としては良いものだと思いますが,間違いなくドラゴンボール的には……孫悟空の妻としては間違った想いなんじゃないかと思いますね。
ここまでは導入的な感じとなります。