今回の話は後半に閑話を含んでいます。
私はこの世界に来れて,また悟空くんと一緒に居れるんだと思った。正直。復讐なんてもうどうでもよかった。
ただ私は悟空くんと一緒に生きていけるだけで満足だったんだ。
けどこの世界で生きていって徐々に理解してしまった。私は最初ここは私が悟空くんを助けるために巻き戻った世界なんだと思っていた。でも……悟空くんはチチさんと結婚して,その2人の夫婦関係や,お互いの思いを見て……理解した。
ーーーあぁ……私はきっと悟空くんの妻として相応しくなかったんだろうなって
この世界はきっと最初から私がいてもいなくてもいい世界だった。恐らくこの世界こそが本来あるべきだった世界。
それは,明らかに私の知ってる悟空くんよりも活き活きとして,より強く逞しく修行を積んで実力を伸ばしているこの世界の悟空くんと,
私がまた悟空くんと一緒に生きるための世界じゃない。惨めで,脆弱で,醜くて,過ちだらけの後悔から人生を棒に振ってきた私に正解を……答え合わせをするための世界だったんだ。
……私がすることなんて何も無かった,何もする必要なんて,最初から私は必要なかったんだから
認めたくなかった。だってこの世界が正しくて,悟空くんが強く平和に生き続けられているなら,私の世界の悟空くんが死んだ理由は破壊神ビルスじゃなくて……………私が………
ーーー私が実質的に悟空くんを殺してしまったんだって
だからきっとこれはカミサマが私に与えた罰。私に過ちを見せつけるために与えた世界。
ただの平凡な女が身に余る立場を手に入れてしまった末路。私は悟空くんのパートナーの器じゃなかった。身の程知らずのでしゃばった馬鹿な人間の果てがこれだ。
でも……だとしてもあんまりじゃないか。たとえ誤っていたとしても,相応しくなかったとしても,身の程知らずだとしても……
ーーー私は心の底から悟空くんを愛してしまった
そんな難しいことなんて考えない。考えたくない。ただ……
ただただ私は悟空と共に生きていきたかった。
平和な世界で私は悟空くんの笑顔を見ながら,貴方を支えて,傍に入れればそれで良かった。
戦いなんて嫌だ。復讐なんてどうでもいい。器だとか相応しいとかそんなの知らない。間違ってるかどうかなんてそんなの分かりっこない。
ねぇお願いカミサマ。ごめんなさい。もう私は悟空くんの足枷になったりしないし,身の程を弁えて生きるから………もう一度だけ悟空くんに……………
私はこんな世界もう見たくないよ………助けて…悟空くん
〜〜〜〜〜〜
「………ん」
目が……覚めた。体を起こし,周りを見渡す。
「………ルナ」
「悟空くん。私は………」
悟空くん。こっちの世界の悟空くんが私を動揺した目で見ていた。そして辺りを見渡して,他の人達を見てもみんな私に対して酷く悲しげな,驚いたような表情を浮かべていた。
それだけで察してしまう。
ーーーあぁ……みんな知ってしまったんだな。
「見たの……?私の……全部」
「あぁ……見た。貴様の正体は別世界の孫悟空の妻だったという訳だな。」
「……ふふ。ようやく私の正体が明らかになって随分と腑に落ちてそうだねピッコロさん。」
「……………不気味な女……貴様の強さの根底もわかった訳だが……たかが地球人の女が為せる修練とは思えん。イカれてやがるぜ……」
私が何もかも諦めたように溜息をつきながらポツリと話すと,ピッコロさんやベジータさんが明透に思ったことを言ってくる。こういう所で堂々と気にせず言及できるのは2人の良いところなんだと思う。
「……ふーん。妙に僕に攻撃的だと思ってたら,君の世界で君の夫だった孫悟空が殺されたからってことかい?全く……この次元の僕には身に覚えのないことで恨みを持たれてもたまったもんじゃないよ。」
「……まさか完全に世界の根本から違う次元から来た者とは珍しいですねぇ………」
「興味が失せた………帰るぞ!ウイス。一応君と戦ってそこそこ満足できたし,今回は地球を見逃してあげるよ。食べ物も美味しかったことだしね。超サイヤ人ゴッドは今度でいいや。」
破壊神ビルスとその付き人が勝手に私の過去を見たくせに,好き勝手吐き捨てるように言うとすぐに帰って行った。
まぁ一旦一段落ってことなのかな。
「……ごめんね。悟空くんとチチさん。変なの見せて,気分悪くしたでしょ?まぁ私のせいじゃないんだけど
気にしないで,もう関係ないことだからさ。今回でもう色々私の中でも精算ついたんだよ。」
「ルナさん……今まで…オラと悟空さをどんな気持ちで……」
「……だから気にしなくていいって,薄々分かってたんだ。私の復讐に意味が無いことも,私が間違ってることも,この世界がきっとあるべきだった世界なんだってことも。」
チチさんが私に悲しげな目を向けてくるけど,私はそんな顔で見られたくなかった。チチさんの言葉を聞きたくなかった。
……だから何も言わせないよう,捲し立てるように言う。
「見て見ぬふりを……してただけ。認めたくなかっただけ……
分からないふりをしてたんだよずっと。だから今回を機に私の中でもう精算された。もうみんなにもバレちゃった訳だしね。もう全部スッキリ諦めれたよ。これでようやく私の馬鹿な復讐劇も終わったんだ。」
私は早口で捲し立てると,みんなの顔を見ずに背中を向けて逃げるように飛ぼうとする。
「……ちょっと!ルナちゃん!」
「ブルマさん……」
「アンタ……死んでも何にもなんないわよ」
「…………私に自分で自分を殺す勇気なんてないですよ。大丈夫です。心配しなくても,これからはのんびり1人で,せっかく享受できる平和な世界を生きていきます。」
何もかも諦めた。でも私は自分で死ぬ勇気なんてない。
せっかく力を持ったまま再び時間が巻き戻って平和な世界で過ごせるのだから,これからは幼い頃のようにまた1人でのんびり暮らしていけばいいと思った。
「……多分もう会うことはないと思います。今までありがとうございました。さようなら…………ブルマさん」
「待って!ルナちゃん!!」
私は振り向くことはなく,ブルマさんの顔を見ないように自身の家へと帰る。
〜〜〜〜〜
「……ふぅ。」
家へと独り帰ってきた私はフッと一息ついた。
「……………あぁ」
ーーー終わってしまったんだ何もかも
もうとっくに枯れ果てたと思っていた涙が今になってボロボロと溢れて止まらない。
寂しかった。悲しかった。苦しかった。辛かった。寒かった。
でも今はもう然程そんな感情は感じなかった。ただただ私の心の中にあるのは空虚な喪失感。
……失恋に近いのかもね。私の大切な人は私がいなくても…いない方が幸せになれる。私の愛は間違っていた。私の陽だまりは,もう私を照らすことはなかった。だから……もう潔く終わらせるんだ。私の過ちだらけの物語を。
ーーーさようなら。私の
この日。私は気が遠くなるほど長い時をかけてようやく悟空くんの死を精算する事ができたんだ。
〜〜〜〜〜
「…………」
「お父さん……いいんでしょうか……」
ずっと何も言えず黙りこくっていた悟空に,ルナを慕っていた悟飯が困った表情で問いかけてきた。
「………正直。よく分かんねぇ。」
悟空には分からない。ルナの過去の全てを見て,彼女の素性を知った今も悟空にはまだ彼女が別の世界の自身の妻という事実は呑み込めないでいた。
「けど……オラは,別にルナのことは嫌いじゃねぇし,あのルナがいた世界っちゅうのを見たら……少し何とかしてやりてぇなとも思った。」
悟空の妻はチチだ。それは変わらない。今の世界の自分には,別の世界の話なんか理解出来るわけが無いからだ。
……だが仲間としてルナのことは決して嫌いではないし,あの過去を見て何とかしてやりたいという想いも持っていた。
「……ルナさんが…よくオラに気を使ってくれてたのは多分オラの事を過去の自分と重ねて,比べてたからなんだべか………だったらちょっと悪いことをしたべ……」
「………あんな飄々としてたのに,どんな気持ちでずっと過ごしてたのかしらね…ルナちゃん」
チチとブルマ。お互いルナとは別のベクトルで関わりが多かった2人だ。その2人はルナと関係を持っていた者として,……そして女としてルナの気持ちを理解し,心配していた。
他の仲間たちも各々ルナに対して思うところはあるようだが,ルナ自身が関係を拒絶して去っていった今,何もできることはなかった。
……こうして破壊神ビルスの襲来と,それによる予想外の出来事であるルナの話は一旦。一段落ついたのだった。
〜〜〜〜〜〜
閑話 在りし日の憧憬
「……んぅ」
倦怠感に包まれ,朝に目が覚める。
そのままふと隣を見ると,自身の最愛の旦那がいた。……まだ寝ている。じっくりとその寝顔を見てみると,今は超サイヤ人の状態をキープしているからか何となく雰囲気が普段と違く,昨日の夜もそうだけどこれはこれでいいな……とルナは思った。
「……ん?ルナ?」
「あっ……!おはよう悟空くん」
顔を近づけて寝顔を見ていたので,急にパチっと目を開き,起きた悟空につい驚いてしまった。
ーーー変に思われてないよね……
「…………」
「え……?ちょ……ちょっと!?」
無性に感じる恥ずかしさから顔を赤らめ,そわそわとしていると,悟空が突然ルナを抱き締めるように胸元に押しかかってくる。
「……どうしたの?悟空くん。何処か体調悪い?」
「いやそんなことねぇ……でぇじょうぶだ。」
ルナは珍しい悟空につい心配の声をかけてしまう。何処か疲れた様子の悟空にルナは何となく探りを入れてみる。
「……セルとの,戦いが近いから?」
「…………分かんねぇ」
セルゲーム。その地球の命運を分ける戦いが近づいていた。そして間違いなく今いる地球の戦士の中で最強クラスの悟空は,その戦いにおいての最も重要な戦士であった。……だが悟空がまさかプレッシャーや戦いへの不安でここまで弱るとは思えない。ルナはほかの理由を探る。
「…………心臓病で,本当に死んじゃう気がしたから?」
「……」
当たりかな……とルナは悟空の反応を見て思った。
何となく心臓病が治ってからの悟空は雰囲気が今までと違う気がした。それは恐らく自身が本当に死ぬ可能性というのを一瞬とはいえ感じてしまったから。自身が戦いに参加出来ない未来を見てしまったから。
……恐らく悟空がセルとの戦いで悟飯を頼りにしているのも,自身がいなくても地球を守れるようにという意味があるのだろう。
「…………大丈夫だよ。今はもう心臓病だって治ったんだし,悟飯はもう悟空くんより強いって…自分で言ってたでしょ?」
「……そうだな。」
何となくバツが悪そうな反応にこれも違うのかな……?なんてルナは思った
「……たださ。何となく心臓病で寝てた頃によ…ルナがずっと傍にいてくれてた暖かさを思い出しただけだ……」
「……人肌恋しいの?」
「……かもな。」
心臓病で悟空が倒れ伏していた頃。ルナは不安と死の気配を振り払うために何となくずっと悟空の手を握っていたり,なるべく傍にずっといるようにしていた。どうやらその時を思い出したらしい。……悟空くんも人肌恋しい時があるんだな…とルナはふと思った。
「……前にさ。言われたことがあんだ……オラが悪いやつを引き寄せてるんじゃないかって……考えてみっと…確かにそうだろ?だから地球にはオラが……」
「悟空くん」
話を遮る。絶対にその先を言わせないように。
「…………確かにさ。悟空くんが悪いやつを引き寄せてるって思われるくらい地球は何回も色んな敵に襲われてると思う。」
「…………」
「でも私はそんなの知らない。地球なんて,他の他人の命なんて気にするほど私は余裕なんてないし,お人好しでもない」
ルナは胸元にいる悟空が離れないよう強く強く抱き締めながら言う。絶対に聞き逃させないように。
「……私は。自分と自分の大切な人が無事だったらそれでいいの。だからたとえ悟空くんが悪いやつを引き寄せてるんだとしても,関係ない。
悟空くんが地球にいない方が平和なんだとしても,私はそんな平和は嫌。」
ギュッと苦しいくらいに自身の胸に悟空を抱え込む。
「仮に地球の誰もが悟空くんをいらないって言っても,私だけは悟空くんが必要だよ?私は悟空くんがずっと傍にいてくれないと嫌。だから……そんな事言わないでよ。」
「……ルナ。」
何となく悟空はルナの方を見上げると,彼女は自身のために涙を流していた。
その綺麗な蒼い瞳から流れる宝石の欠片のような雫に,つい悟空は嬉しく思ってしまった。
「……悟空くんが辛いなら…戦いなんて行かなくてもいいから。苦しいなら全部投げ捨てても……いいから。それを誰かが責めたとしても,私は……肯定するから。私は悟空くんがどんな選択をしても,貴方をずっと支えるから……っ……だから……ね?」
「…………わりぃな……ルナ。何となく元気が出た気がするぞ」
自身を肯定し,癒そうとしてくれる彼女を見て,悟空は何となくスッキリとした気持ちになった。
「……悟空くん。きっと悟空くんはこれからも何度も戦いに行くと思うけど…………もし辛くなったら,いつでも投げ出していいから。ずっとずーっと戦い続けて苦しくなったら,せめてそれが癒せるように…………貴方が笑顔でいられるように私も頑張るから……」
「……あぁ」
「だから……無事に帰ってきてね?待ってるから」
優しく胸元にある悟空の頭を撫でる。せめて彼が安心して戦いに行けるように,いつか彼が命を懸けた戦いじゃなく,彼の望む自身に負けないよう己を高めるための戦いが出来る平和な時が訪れることを願って彼女は彼を癒せるよう寄り添い続けた。
「……愛してるよ悟空くん」
「……あぁ」
「……言ってくれないの?」
「いや……それは……」
何となく照れ臭くて悟空はその言葉を返せなかった。それを見た彼女はしょうがない……とでも言うような感じで,気にすることなくゆったりと触れるような口付けをした。
……そんな幸せな在りし日の憧憬だ。
「…………」
目が覚めた。ふと隣を見ると,…………そこには誰もいない。
当たり前だこの家は自分1人で住んでいるのだから。
「はぁ…………最悪」
みんなに自身の過去がバレて,皆と決別し,悟空の死を自らの中でようやく精算して,自身の馬鹿な復讐劇も終わらせ独りで生きていくと決めた矢先に
ーーーやはりそう簡単には未練は拭えないらしい。
「………………さむ」
布団に軽く包まる。独りで暮らしていくのは精神的にも慣れてきた。案外人は自身の中で上手く決意出来れば,どうとでもなるらしい。
だがルナは最悪な夢を見て,あることをふと思い出した。
ーーーそういえば…昔は何となく思ってたな
私も悟空くんみたいに強ければ,悟空くんが苦しい戦いをしなくても地球を守れるのに……なんて思ってたっけ。
まぁ思ってただけで,実際に修行し始めたのは破壊神に悟空くんを殺されてからなんだけど。
ーーーあぁやっぱり……
ーーー私は何よりも貴方が暖かく笑ってる姿が好きだったんだなぁ
そう……もう手に入ることは無い想いを抱いたある日の一幕なのであった。
補足(長め)
〇本編世界に来てからのルナ
前の補足で記述した通り,この本編世界はルナが存在するif世界というより,原作世界に別世界の孫悟空の妻であるルナが来てしまったという解釈が正しい。(トランクスの世界が原作通りなのが証明。セルはルナが来てしまったことによって起きたバグ)
ルナが悟空に選ばれなかった理由は異質な力に気づかれ,警戒された以前に,そもそもこの世界はチチが悟空の妻になる(正しい在り方)ようになっていたとも捉えられる。
〇ルナの考えの変化
この世界に逆行して最初の頃は,悟空と再び一緒に居れるとウキウキしてた(素のルナに近い)が,段々とこの世界を生きていくうちに,悟空がチチと結婚し,自身が知っている顛末との微妙な差異から,この世界の真実や自身の世界の悟空が死んだ理由を察していき精神と時の部屋産のルナに戻っていった。(精神的に達観した状態)
〇ビルス戦後のルナ
何もかも諦め,皆に自身の過去がバレてしまったことで薄々分かっていたこの世界の事や悟空の死の原因を自身の中で向き合えたため,全てを心の中でしっかり精算することが出来た。
それからはもう独りで生きていこうと潔く決意し,特に誰とも関わることなく独りでパオズ山の深い山奥で過ごしている。別に精神的に病んでるわけでも,また何かを活力に生きてる訳でもなく,自殺する勇気も無いのでただ惰性で生きている状態。
〇ルナの状態
この世界に逆行した際に前の世界から力と記憶を受け継いできた。それだけでなく作中で何度か描写している「ルナは全く見た目が変わらず,老いない」というのは前の世界でドラゴンボールに願った【全盛期の体のまま不老にして欲しい】という願いが引き継がれているから。なので幼少期から成人するまでは体が成長したが,成人して体が全盛期になってからは成長しなくなった。(歳を取らない)
ルナもそれを理解したため,悟空やブルマ達が老衰で死んだくらいで自分も死ねたらいいなーくらいに考えている。
〇ルナ世界の悟空
セル編辺りから,悟空の立ち位置もしくは考え方が変わったような感じがあるためそれを深堀した番外編。
この番外編はルナがパートナーになったことによる変化で,悟空が戦闘力だけでなく心も少し弱くなっていることを表している。
仮にチチがこの番外編のルナと同じ立場になったと考えたら,恐らく悟空の話を聞きつつも最終的にはその背中を後押しするように悟空を戦士として送り出すと思うが,ルナは悟空の全てを肯定し,たとえその選択が退避や逃避だとしても受け入れるような発言をしている。
このような微細な差が恐らく本来の悟空とルナの世界の悟空の心身の強さの差となっていると考えられる。
決してルナとチチ。どちらの考えや対応が正しいのか・間違っているのかというのは無いと思うが,少なくともドラゴンボールという世界観においては間違っているのはルナの方なのかもしれない。