ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
ひーちゃんが淫蟲を操作する時は、僕のベッドでごろごろが定番のスタイルになってきた。
作戦を前に、サナちゃんが内容の確認をしてくれる。
「ひーちゃん、ルールは覚えましたか?」
「ひとつ、退魔巫女たちに姿を晒す。ふたつ、適度に戦う。みっつ、えっちなことはあんまりしない。よっつ、いい感じに負けて消えていく。なお、おにーさんという呼び方は一切出さないこととする」
「完璧です」
性格的に綿密なものにしてもうまくいかないだろうと、大雑把なルールだけ決めた感じだ。
「私もサポートに回りたいんですが、隠蔽と認識阻害を一度切ったらまた張り直しで、ちょっと燃費が悪すぎるんですよね」
「だいじょぶ。ひーにまかせる」
ふんす、とやる気十分。
体勢的にはベッドで寝てる形だけど。
「頑張ってね、ひーちゃん」
「うん。終わったら地獄にいこ。要塞探しが一人で出来るとは思えない」
ひーちゃんのやってるボックス系クラフトゲームには、通常世界の他に地獄と呼ばれる別世界が存在する。
そこ限定のアイテムもあるためどこかで挑戦する必要があるのだが、いかんせん地獄の名前通り難易度が高い。ひーちゃん単独では攻略ができないようで、僕が学校に行っている間はノンタッチを貫いているそうだ。
「おっけー、いっしょにやろう」
「じゃあ、退魔巫女に片付けられてくる」
片付けてくる、でないのに若干変な気分になる。
でもそれで正解だから仕方ない。僕はひーちゃんの頑張りに期待し、しばらく待機する。
……淫魔は人間よりも寿命が長い。サナちゃんだって十年以上封印されていたというので、見た目よりかなり上の年齢ではあるはず。
そう考えてしまったからこそ、僕は気付いていなかったのだ。
この子達が、わりと十分無邪気な子供だということに。
※ ※ ※
その夜、春乃宮姉妹はまたも退魔装束に身を包み、夜の街に足を踏み入れた。
既に日付が変わり、繁華街を除けば人の目もない。退魔巫女たちは陰に潜みながらも、立ち止まることなく駆ける。
父を通じて蟲魔ヒラルス・ラールアの情報は退魔協会に送った。
援軍として送られてきたのは、氷の巫術の使い手である椎名薫。そこに夏雅城俊哉を加えた四人編成となった。
本来ならばもう少し準備時間をかけたかった。
なのにそれができなかったのは、蟲魔の方が先に動いたからだ。
「ちぃ! いくぞ咲綾、美桜! あと、あんたもな!」
「リーダー気取りで命令しないでよ!」
その夜、市内の公園で淫蟲が女性を襲う事件が勃発。幸いにも調査班の察知が早く、被害者が出る前に対応ができた。
乱雑な号令に美桜が反発するものの、それぞれ淫蟲の駆除を始める。
「うざってえ!」
夏雅城俊哉は霊力をまとわせた拳で、淫蟲を叩き潰す。
空を飛ぶ羽虫を打ち抜けるほどの打撃を繰り出せる時点で、彼もまた相応の実力を有した退魔師である。
動きが大きいのは未熟なためではない。淫蟲の体液が掛からないように注意しているからだ。
五大淫魔の名を聞いても臆することはない。
むしろ、状況によっては自らの手で葬れるのでは、と考えていた。
ただし、自惚れは強くても迂闊ではない。戦力として、自らの女である咲綾と美桜。それに椎名薫という対淫蟲用の術師もいる。有利なのはこちらだ、という想定だった。
「数、そこまで多くないですね」
薫は冷静に周囲を見回す。
彼女は符を使って遠距離向けの術を使うスタンダードな退魔巫女である。
その属性は氷。淫蟲を手早く氷漬けにして、体液を撒き散らすことはない。この手の蟲は体液が女性を狂わせる媚薬である場合が多いため、遠距離戦の方がやりやすい。
だから炎の美桜、氷の薫を護衛する形で近付く淫蟲を俊哉と咲綾が退けるという陣形が自然に出来上がっていた。
「巫術、
美桜の放つ炎が淫蟲を包み、まとめて焼き払う。
専用の護符を用いて、強力な炎や風の巫術を行使する退魔師はいる。しかしこの娘は何の触媒もなく、淫魔を一撃で消すレベルの威力を生み出せてしまう。天才という評価は伊達ではない。俊哉ですら舌を巻くほどに、春乃宮美桜は飛び抜けている。
俊哉はにやりと笑う。こいつがいるなら、或いは本当に五大淫魔を葬れるかもしれない。
それに、多少胸の育ちは悪いが、こいつも充分に美しい。
若手でも有望な退魔巫女であるため、咲綾に手を出すことは叔父にそれとなく止められている。
だが高校を卒業して婚約の話が進めば、咲綾は名実ともに自分のもの。見目麗しい少女の豊かな胸を揉みしだき、ベッドで組み伏せ、乱れ喘がせてやるつもりだ。
俊哉はいずれ退魔協会を継ぐことになる身である。
その際には美桜の方も、かわいがってやってもいい。そそり勃つモノを姉妹二人に舐めさせてやるのも悪くないだろう。
なお彼の性癖的に、合法ロリ退魔教師巫女は一切眼中になかった。薫の巫女レオタード姿を見ても風のない湖のように心は平穏なままである。
「はあっ!」
咲綾が霊刀で淫蟲を斬り伏せたところで、状況は小康状態になった。
全滅させたわけではない。
あの夜と同じように、何匹もの淫蟲が集まり、巨人の姿を形成していく。
「来ます、蟲魔ヒラルス・ラールアです……!」
咲綾の声にそれぞれが構えをとる。
羽音や節足の擦れる音が重なり合い、気分が悪くなってくる。
「退魔巫女ども……ここで、片付ける……」
以前は主の命令で倒さないと言っていたが、方針の変更があったのか。
今度はこちらの命を奪いに来たようだ。緊張が走る。まず動いたのは、退魔巫女側だった。
「美桜さん。初めから全力でいきますよ」
「わかったっ、せんせ!」
炎と氷の巫術を繰り出す。
同時にではない。まず美桜が炎を撃ち、それに反応し羽虫たちがばらけたところを氷漬けにする。
一気に叩き潰すのではなく、少しずつ体を削り取っていく。
要は二人の退魔巫女。そちらを先に片付けようと、媚薬を腹に溜め込んだ媚毒ハチをまるで弾丸のように飛ばしてくる。
しかし一直線に飛ぶだけなら対処は容易い。咲綾が刀でそれらが届く前に切り落とす。体液によって被害が出ないよう注意する余裕まであった。
雑魚散らしには俊哉が回る。こちらの安全を確保しつつ、継続的に攻撃を続けていく。
「ぐわあああああっ(ひーは、演技派……)」
淫蟲の巨人がうめき声を上げた。
確実にこちらの攻撃は効いている。
「よしっ!」
(よし……)
美桜と蟲魔ヒラルスの思考は見事に一致していた。
しかし戦いは水物。
ほんのわずかな出来事で、一気に変化してしまう。
それは何気ない一言で起こった。
「はっ、楽勝じゃねえか。この調子じゃ、こそこそ隠れている主とやらも大したことねえな。」
調子づいた俊哉は蟲魔の主を馬鹿にした。
それだけで気配が明確に濃くなった。同時に、巨人の腕が振るわれる。
打撃といっても淫蟲の集合に過ぎない。一撃のダメージは大きくないはず。そんな想像は一瞬にして打ち砕かれた。
「っ!」
四人の中で、まず反応したのは美桜だった。
いくら俊哉が嫌いだからと、戦いに個人的感情は持ち込まない。
炎で折り重なる膜を作り出し、彼の前に展開し盾とする。もとが淫蟲ならこの炎を乗り越えられない。
しかし蟲は散開。退魔巫女たちの周囲を高速で旋回し始める。
「分散したなら……! 美桜さん、右半分は任せます!」
「おっけ!」
氷塊をぶつけるのではなく冷気の範囲を広げ、複数の蟲を凍らせる。
炎と混じり合えば威力が軽減する。背中合わせで、それぞれ別個に撃破するため巫術を繰り出す。
対応は決して間違っていなかった。
ただ想定以上に、淫蟲の動きが早かっただけ。
美桜たちが次の一手を繰り出すより先に、俊哉は巨人の腕で横殴りにされた。
咄嗟に防御はした。にも拘らず、吹き飛ぶ。
先程まで劣勢に喘いでいた筈の蟲魔ヒラルス・ラールアは。震える重々しい声を退魔巫女たちに突き付ける。
「主は優しい。私のためなら、共に地獄を歩んでくれる。そういう人。お前なんかに、バカにされる謂れはない」
これもまた想定との違いだ。
最初に遭遇した時の情報から、蟲魔ヒラルス・ラールアは赤き天上の宝珠という餌につられて、淫魔の王に従っているのだと考えた。
それがどうだ。軽口のような侮辱さえ認めないといった気迫。忠誠どころか心酔に近い。
虎の尾を踏んだのだと、少女たちは自覚した。
(やってしまった……)
なお虎の方はたいそう焦っておりました。
おにーさんを馬鹿にされて、衝動的に殴ってしまった。
でも怒ってちょっとはたいた、くらいのもの。まだ大丈夫。ここから修正が可能だ。
男の退魔師が立ち上がって皆で反撃→うわあああああっ退魔巫女強いぃぃぃでいけるはず。
(さあ、立ち上がれ退魔師。ふぁいと)
退魔巫女たちの巫術を交わしながら、蟲魔はその時を待つ。
(立って戦う。そうしたらひーは負ける。完璧)
戦い、いなしつつ、蟲魔はその時を待つ。
(立て。立つんだ。立つ…んだ……?)
蟲魔はその時を待つも、一向に俊哉は立ち上がらない。
何故……と思っていると咲綾が叫ぶ。
「だめ、完全に気を失ってる!」
悲報。
小突いた程度の一撃で退魔師のっくあうと。
なお人間の小突くと五大淫魔の小突くの差は考えないものとする。
(思ったより、弱かった……!)
想定外。
夏雅城俊哉、一撃で気を失ってしまった。
そこからの退魔巫女たちの判断は早かった。
「退き時ですね。蟲魔は明らかに力をセーブしていた。タガが外れてそれが解けた……。つまり主なる者が、なんらかの思惑を持って、手加減の上で戦わせていたと考えるのが自然」
椎名薫、大正解。
「そもそも、調査班が情報を得てから私たちが辿り着くまで、被害が広がらなかったことがおかしかった。最初からおびき寄せるのが目的。罠と分かって突っ込むのは分が悪すぎます」
椎名薫、不正解。
教師として退魔巫女の先達として、子供たちを守ろうとする意識が悪い方に働いた。
既に彼女は逃げの一手を選んでいる。
「そ、そんなことはない、罠なんてない」
「その時点で答えを言っているも同然ですよ」
まったくそんなことはない。
淫蟲巨人は本音しか口にしていない。
にも拘らず颯爽と退魔巫女たちは退却していく。
「ただし逃げるにしても、数は減らさせてもらいます」
「だよね!」
しかもただ逃げるだけではない。
退避しつつ、高威力の巫術を目くらましの代わりに使い、今後のため淫蟲を削っておこうという算段だ。
「ま、まって」
それらが直撃し、追い縋ることもできず。
まんまと退魔巫女たちは逃げおおせて見せたのだった。
去り際、椎名薫はぐっと奥歯を噛んだ。
「淫魔の王。どうやら、宝珠とやらで力を得ただけの小物とは違うようですね」
※ ※ ※
ひーちゃんがベッドから起き上がった。
けっこう時間が経ったし、おそらく決着がついたのだろう。
僕は仕事終わりの緑茶と羊羹を用意し、ひーちゃんに声をかける。
「おつかれさま、うまくいった?」
すると、何も言わず顔だけを向けて、彼女はぎこちなく笑う。
「に、にへぇ……」
あっ、これ絶対ミスってるわ。
やらかしちゃった後のごまかしスマイルだわ。