ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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事件前夜

 

 

 基礎とはいえ堕淫魔術の訓練を重ね、デブサイクが快感に悶えるという非常に醜悪な手段によって多少ながら魔力を確保できた。

 付け焼刃とはいえ、手乗りサナちゃんの補助がなくても今は魔術を使える。

 ただ結局二日も学校をサボってしまい、僕はいつもより緊張しながら登校の準備をする。

 

「いってらっしゃい、ナオトくん。大変かもですけど頑張ってください」

 

 エプロン姿の幼な妻スタイル・サナちゃんが応援してくれる。

 当然ながら裸エプロンな辺り淫魔超すごい。

 この子は、ひーちゃんがゲームしている間にお風呂とかトイレの掃除や皿洗いとかを普通に手伝ってくれています。家事ができるタイプの淫魔です。

 

「うん、頑張るよ」

 

 二日も休んだから悪評関係がどうなっているかちょっと怖い。

 でも休み続ける訳にもいかないし、多少の気後れを感じながらも登校した。

 通学路で、僕を見ながらヒソヒソ話をする生徒がちらほらいた。手乗りサナちゃんが「気にしちゃダメですよ」と励ましてくれる。

 校門を潜り校舎に入った変な視線は続いたが、俯いたりはしない。

 負けるもんか。意地になって歩き、教室に入るとクラスメイトの男子三人組と目が合った。

 

「……よ、よう」

「う、うん。おはよ、う」

 

 その内の一人、近藤正樹くんがちょっと微妙な挨拶をした。

 僕もぎこちない返しになってしまった。

 

 僕こと佐間直人の学校での立ち位置は非常に微妙だ。

 まずデブでブサイクであり、勉強はそこそこ運動が苦手。性格も明るいタイプではないので、評価はすこぶる低い。自分で言うのもなんだけど、いじめの標的にされやすいタイプだと思う。

 

『よっ、デブ! 今日はマラソンだぞ、ちんたら歩いてんじゃねぇよ!』

『キモブタがいると安心するわぁ。あれよりマシだって思えるもんな』

 

 そうやって同じクラスの人に嘲笑された経験なんて数えられないくらいだ。

 だけどキモブタ地元メシちゃんねるで顔出し配信をしており、好意的に声をかけてくれる視聴者さん的生徒も少なくない。

 自分で稼いで一人暮らしなのも知られているから、『親に面倒見てもらってる僕ちゃんが経済面でも生活面でも自立してるキモブタ馬鹿にするとかどんなだよw』という勢もいる。そういう擁護するのは、意外にも“お金を稼げる男”に一定の価値を認める一部の女子だったりする。

 で、キモチよくマウントをとっていたのに女子からキモブタ以下と判断された男子は、『ブサイクのくせに動画配信とか調子乗ってる』とアンチ勢になる。

 また女子の中には単純に容姿でキモっとなる人も多い。

 総合すると、僕は周囲から無視されるような陰キャでなく、嫌う人とそうじゃない人がはっきり分かれるタイプなのだ。

 だから悪評が流れると、アンチ勢が活発になってしまう。

 

「あー、なんか。大変だな?」

「いや、はは……」

 

 近藤くんからちょっと気遣った言葉を貰った。

 件の男子三人組。近藤正樹(こんどう・まさき)くん、只野栄吉(ただの・えいきち)くん、百地貫太郎(ももち・かんたろう)くんの三名は、友達というほど仲良くはないけど、アンチみたいな攻撃も仕掛けてこない、ちょっと距離のある間柄だ。

 まあ先輩の立てた悪評に乗っからないだけありがたい。僕は軽い挨拶だけして、自分の席に向かった。

 

「おう、キモブタ。引き籠ったかと思ったぜ」

「そこまではさすがにね」

 

 見るからに金髪不良な相沢くんが、いちばん優しいです。

 悪評だの嫌な視線なんてガン無視で僕に話しかけてくれる。

 

「しっかしよぉ! お前も大変だよなぁ! 責めることだけはいっちょ前のヘタレばっかのクラスでよぉ!」

「ほんと、ほんと大声やめてもろて? 相沢くんの評判が下がるだけだから」

「俺に下がるほどの評判が残ってる訳ねぇだろ」

「なんで自信満々なの?」

 

 こんな感じで周りをちょくちょく威嚇するクセがあります。

 僕のためだと分かってるからこそ、自分を大事にしていただきたい。

 

「だがまあ、しばらく休んでてよかったわ。いたら騒ぎがデカくなってた」

 

 先輩の流言、もうけっこう浸透しちゃってるみたいだ。

 早々にどうにかしないとな。なんて考えていると、教室に中学生くらいの女の子が入ってきた。

 違った。合法ロリ退魔教師巫女の、椎名薫先生だった。彼女はまっすぐ僕のところまでやってくる。

 ぐっと前に乗り出したぽっちゃり系・百地貫太郎くんはただのロリコンです。

 ちなみにデブサイク系な僕にはロリ趣味はありません。

 

「おはようございます、佐間くん。昨日お休みだと聞いて、心配したんですよ」

「ど、どうも。おはよう、ございます、椎名先生。あのー、なにか、ありましたでしょうか……?」

「はい。お昼休み、生徒指導室に来ていただけませんか」

 

 え、なんか僕やったっけ?

 と思っていたら、椎名先生は柔らかい笑顔を見せた。

 

「最近、佐間くんに対する事実無根の誹謗中傷が流れています。私は教師として、そんなことをしていないと知っていますが、形式的なヒアリングをしないといけません。噂を流している生徒達には、相応の処置も検討されています」

 

 これ、相沢くんが教室で大声を出すのと似たような手法だ。

 敢えてみんなの前で「事実無根」「処置」という言葉を出して、火消ししようとしている。

 だってね、本当に指導が入るなら非常勤講師が動くなんてしないのよ。つまり今言った内容のほとんどは嘘。単純に、教師が佐間直人を擁護してるとクラスメイトに勘違いさせるための見せ札だ。

 椎名先生、見た目幼いカワイイ系なのに、やり方が若干アレじゃない?

 ありがたくはあるけども

 

「そ、そうだよ! 佐間くんの悪い噂を流すなんて、とんでもない生徒がいるもんですよね。俺は全然そんなことないけども!」

 

 立ち上がり必死にアピールする百地くん。

 椎名先生の気を引きたいのがモロバレなので、近藤くんと只野くんは若干以上に引いていた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「いきなり休んでさぁ、心配かけないでよ、もぉ」

「誠に申し訳なく」

「こうやって顔見れたからいいけどさぁ」

 

 お昼休み。

 想像の通り、生徒指導室に行っても特にヒアリング等は始まらなかった。

 っていうか春乃宮さんもいて、普通に三人でご飯を食べるだけです。彼女は急に休んだ僕をかなり案じてくれていたようで、唇を尖らせている。

 

「本当に申し訳ありません。協会の者が……」

「そんな、椎名先生が悪い訳では」

「俊哉くんは、夏雅城会長の甥っ子に当たります。会長は現場上がりの比較的真っ当な人ではあるんですが、何分親類縁者には甘いところがありまして。俊哉くんは代を重ねて退魔の血の薄れてきたお家で、例外的に多くの霊力を持って産まれた男の子。退魔の家系としての夏雅城家再興の礎……そういう意味でも優遇される立場ですから」

 

 結果、俺様すげーマインドの傲慢さんに育っちゃったわけですか。

 

「マジメな話、退魔協会って、本当に夏雅城先輩がトップになるんですかね……?」

「可能性としてはありえますよ。会長の甥っ子で、運営資金の大部分を賄う夏雅城グループ総帥の息子さんで、淫魔相手に戦える退魔師ですからね。協会としては、現場の不満よりお財布のご機嫌の方が大事です」

「わーい、生々しーい」

 

 もしかして僕、けっこう協会に夢を抱いていたのかも。

 というより、初めて見た退魔巫女が春乃宮さんと椎名さんだから、なんだかんだ正義の組織的な捉え方をしてました。

 春乃宮さんも美少女台無しの仏頂面だ。

 

「やめてよ、せんせ。そういう話は。すっごい嫌になってくる」

「ですが、お金があるから協会は回って、淫魔の調査にも人員を割ける。拝金主義は私も遠慮したいですが、ある程度は仕方がないですよ。俊哉くんに人の上に立つ器量があるかは別にして」

 

 巫女としての信念も正しさも持つ春乃宮さんに対して、大人だから多少の汚れは許容して実利を求める椎名先生。

 ただ、どちらにしても先輩がトップはないと考えているようだ。 

動画の仕事をしている僕としては、実は椎名先生寄り。配信者は夢のある仕事だと思ってるけど、現実の面倒臭さは避けられないのです。

 

「あと、春乃宮さんの処罰とかって」

「ちょ、気にしないでいいって」

 

 本人には止められたけどそこは確認しておきたい。

 椎名先生はちょっと困ったような顔をした。

 

「微妙なところなんですよね。夏雅城会長は、退魔巫女は淫魔を倒して人々の安寧を守るべし、な人です。変な諍いで春乃宮さんを処罰はしないと思います。でも、協会の上層部の半数は夏雅城の血縁です。となると、俊哉さんに忖度したい幹部からの受けは悪くなるかもしれません」

「そうしたらフリーの退魔巫女になってやるってのよ」

 

 腕を組んでそんなことまで言う。

 もうすでに腹をくくってしまっている。

 

「退魔巫女を辞めたり、とかは考えないんだ?」

「え? 当然でしょ。私は才能あるし、淫魔さいてーだし。放っておいたらダメなヤツを私が倒せばその分友達も安全になっていい感じじゃない?」

 

 すっごいシンプル。

 彼女にとって退魔巫女は、家がどうこう伝統がうんぬんではなく、大切な人を守る手段に過ぎないのだろう。

 協会にいるのも、その方が便利だからくらいの考えしかないのかもしれない。

 

「美桜さんはこの辺り、さっぱりしてますよ。誰かを守るためにその才能を使う、だからと言って遠くの悲劇を嘆くほど自惚れてもいない。下手に手を伸ばすより自分に出来る範囲を精一杯やる子です」

「ていうか、すぐ悩むお姉ちゃんみたいなタイプが変なの」

「咲綾さんは咲綾さんで、自分の弱さを知り努力のできる、責任感のあるいい子ですよ。あまり悪く言ってはいけません」

 

 めっ、と優しく叱る椎名先生。

 いいなぁ、あれ僕もやってほしい。

 

「でもさぁ……」

 

 まだ春乃宮さんはぶつぶつと言っている。

 仕方ない、と先生は肩を竦めていた。

 

「昨日の喧嘩が尾を引いてますね」

「喧嘩?」

「実はですね、佐間くんが休んでいる間に……」

 

 そうして椎名先生は、僕がいなかった間に教室で起こった出来事を教えてくれた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 咲綾の婚約者、夏雅城俊哉によって「佐間直人は春乃宮姉妹にちょっかいをかけている。何ならセクハラまで」といった噂が拡散された。

 それを咲綾が積極的に否定しなかったことが噂に真実味を持たせてしまった。

 美桜は佐間直人の現状を心配して、教室に顔を出す。しかし肝心の彼は休み。もしかしたら、気に病んだのだろうか。

 だというのに佐間を心配する声は少なく、男子の中には「大丈夫、キモブタに変なことされなかった?」「あいつ最低だよな」と話しかけてくる者もいる。

 容姿に優れた美桜とお近づきになりたいという下心ありきだ。煩わしく思った彼女は、皆に聞こえるよう声を張った。

 

「変な噂に流されて、ばっかじゃない? ちょっかいかけてるのはむしろ私の方だっての」

 

 しん、と静まり返る教室。

 苛立ちを押さえられない美桜は、席に座ったままの咲綾に食って掛かった。

 

「ねえ、お姉ちゃん。なんでこんなことなってんの?」

「美桜……」

「一言、私は何もされてませんって言えばいいだけじゃん」

「それは……」

 

 言葉に窮する姉の姿に苛立った美桜は、その頬を叩いた。

 

「なに、するの……」

「は? こっちのセリフですけど? お姉ちゃんにとっては親しくもないクラスメイトでも、私には友達なの。友達を侮辱されて、その片棒を担いでる相手に何も思わないとでも思ってんの?」

 

 そこで、何故か分からないが、咲綾は激昂した。

 けれど美桜にぶつけることはできず、肩を震わせている。 

 

「親しくもない? 私は、わた、しはっ……!」

 

 一食触発の状況は、駆け付けた椎名薫が取りなして、一応は事なきを得た。

 しかしこの一幕が教室で繰り広げられたため、一部では噂の内容が微妙に変化した。

 

『あれ? これもしかして、佐間がちょっかいかけてるってより、四人でのドロドロなのでは……?』

 

 という風に。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「悪評の内容が思ってたのと違う……!?」

 

 てっきりクソセクハラデブ野郎ふざけんなや、だと思ったのにわりと僕が渦中にいる。

 もしかしてあれですか? 視線の中には「えー、あんな顔で意外ー」「美桜さんとけっこう仲良いらしくてさー」みたいなのが含まれてたんですか?

 ちらりと見れば、顔を背けたまま春乃宮さんが呟く。

 

「……めんご」

 

 あっ、やっちゃった自覚はあるのね?

 

「私としてはね? 佐間の擁護をするつもりだったんだけど、お姉ちゃんとのケンカは余計だったよね。そこは、ほんとごめん」

「あ、いや、僕はかばってもらった立場だし」

「ほんとさ、ボンボンといいお姉ちゃんといい……」

 

 先輩はもちろん、お姉さんにもかなり腹を立てているようだ。

 でも僕にとっては昔仲良かった「さあやちゃん」だから、ちょっとフォローもしてしまう。

 

「その、さ。春乃宮さんのお姉さんも、僕を貶めようとしてる訳じゃない、と思うよ? ただ、格差のある婚約者だから、立場というものもあって。だから、あんまり嫌わないであげてほしい、なんて、思っちゃう次第でありまして」

 

 僕の希望的観測が多分に含まれている。

 でも、優しかった「さあやちゃん」が、先輩の同類だとは思いたくなかった。

 

「意外とお人好しだね」

「ブタはきれい好きだからね」

「答えになってない答えになってない」

 

 呆れたように溜息を吐く。

 でもくすりと笑ってくれたから、ちゃんと答えになっています。

 

「ありがとう、僕のために怒ってくれて」

「そういういい方されると恥ずいって」

 

 照れてパタパタ手を振る春乃宮さん。

 こういうところを見れたんだから、悪評もそれなりに利点があったみたいだ。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 そうして放課後、帰路の途中で僕は手乗りサナちゃんに話しかける。

 

「一部に変化はあったとはいえ、やっぱり女子は夏雅城先輩の方を信じる人が多いっぽいね」

「なちゃメン、お金持ちらしいですしね」

「なちゃメン?」

「なんちゃってイケメンの略です」

 

 独特の略し方するね?

 まあそれはともかく。

 

「春乃宮さんも協会で嫌な扱い受けるかも、みたいな感じ。ならさ、僕、やっぱりやるよ」

「では……」

「うん、近いうちに。ひっそり、静かに、事を起こそうか」

 

 僕は佐間直人でも配信者のキモブタでもなく、淫魔の主として動くと決めた。

 そうして数日後の夜。街の各所で、淫蟲の発生が確認された。

 

 

 

 

 

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