ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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それぞれの思惑

 

 

 

 

 

 蟲魔ヒラルス・ラールア。

 大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。

 吐き気がするほど醜悪なヒラルスとは反対に、サーナーティオはひどく美しい。

 数多の女性が裸足で逃げ出すほどの豊満な体つき。過激な衣装とは裏腹に嫋やかな佇まい。長い銀髪をたなびかせ、くすくすと蠱惑的な笑みを浮かべている。 

 しかし、二柱とも五大淫魔に数えられる強大な存在。

 美桜は静かに霊力を集中し、いつでも巫術を放てるように準備をする。

 

 秋英寺楓もまた戦意をむき出しにする。

 彼女の退魔装束は、春乃宮家とは違って巫女レオタードではない。紅白の巫女装束ではあるのだが、袴の代わりにミニスカートになっており、襦袢も多少布地が削られている

 退魔巫女の衣装の露出度が妙に高いのは、本能で人を襲う下級淫魔を自らに誘導するため。あえて扇情的な姿を晒すことで、戦闘中の周囲への被害を減らす目的がある。

 一応分類は呪具。守りの加護が込められており、薄着に見えても防御力も精神耐性も高い、有用な防具なのだ。

 

 そして楓はバットを予告ホームランのように突き付ける……バット?

 楓の武器は、野球で使う木製のバットだった。

 霊力を込めることができれば武器としては成り立つのだが、退魔巫女装束とバットの組み合わせは、あまり合っていなかった。

 いや、そんなことはどうでもいい。美桜は雑念を振り払い、淫魔たちの動きを見逃さないよう睨み付ける。

 

「……五大淫魔? その割に、大した魔力も感じないけど」

 

 美桜は敢えて挑発めいた言葉をぶつける。

 しかし銀髪の美しい淫魔の口調は、優しいと思えるくらい柔らかだった。

 

「あらぁ、だったら、確かめてみる?(ダメです、確かめないでください。サナちゃんパゥワーの大半をナオトくんに貸してるので、わがままボディせくしー幻影以外なんにもできません)」

 

 その余裕な態度、なにか裏があると美桜は踏んだ。

 淫魔は一個体一種族。それだけに、他とは隔絶した特殊な能力をサーナーティオが有している可能性は否定できない。

 こちらのリーダー、椎名薫が一歩前に出る。

 

「サーナーティオ、でしたか。貴女の口上。心優しき主の欲望に寄り添う者……それはつまり、従っているのではなく、対等な関係、と考えていいんですね?」

 

 美桜と楓はそのやりとりに疑問符を浮かべていたが、咲綾が「魂霊契約……!?」と呟いたことで、警戒度を一気に引き上げた。

 

「……ええ、そうね。私は、主と魂霊契約を交わした身。あの方は、とても優しい。貴女たちを傷つけないよう、人々に余計な被害が出ないよう、私たちに指示を出しているの。こちらに危害を加えない限り、この町の平穏を崩すことは絶対にしない」

 

 サーナーティオの主張に対して、薫は静かに反論する。

 

「なにを。この街で起こっている女性失踪事件、貴女たちは関係がないとでも?」

 

 突き付けられた問いにサーナーティオは横目で淫蟲巨人を見てから小さく笑った。

 

「さあ、知らないわ?」

「ぬけぬけと……!」

 

 激昂しそうになる楓を、薫が制する。

 

「そうですね。確かに、淫蟲は人を死に至らしめることまではしていない。サーナーティオに至っては、表立って動いたのは今回が初めて。だからこそ、貴女が失踪事件を手引きしていると考えたのですが」

「まさか! 主の意に背くことはしないわ」

「だとすれば、あなたたちの狙いは?」

「それを聞かれて話すほど、優しくもないわね。主と違って」

 

 この機会になるべくを情報を聞き出したいが、肝心なところまでは踏み込ませてもらえなかった。

 大淫魔は意外と手強い。なら、蟲の方に。

 

「蟲魔ヒラルス・ラールア。あなたが動くのは、赤き天上の宝珠のためですか?」

「違う、今回は輝ける翠玉」

「ヒラルスっ!?」

 

 サーナーティオの驚きは演技ではなかった。

当たり(・・・)だ。蟲の集合体だからか、ヒラルスの方は迂闊。おそらく銀髪の淫魔は、それを踏まえてのサポート役なのだろう。

 ならば、実力は蟲魔が上で、大淫魔が下。

 

「宝石? いえ、呪具ですか?」

「これ以上は話せないわ。私に言えるのは、主は決してこの町や退魔巫女を害そうとしている訳ではないこと。目的を達成すれば、私たちは去る。それまでのお目こぼしをくれないかしら?」

 

 淫魔、それも上級種が人間に対してお願いをする。

 不思議な状況だが頷くことはできない。

 その目的が、破滅的なものではないと、誰にも証明できないのだから。

 

「五分五分、ですね。それでも今夜の企みが貴女たちの主の引き起こした事実は変わりません。五大淫魔、ここで討たせてもらいます」

 

 その発言と同時に、美桜が巫術を発動した。

 初めから会話は時間稼ぎ。薫の意図を完璧に読んだタイミングだった。

 鳥の羽ばたきを思わせる炎が、淫魔たちを包み込もうとする。

 

「巫術・鳳翼(ほうよく)っ!」

 

 ここは屋外。距離さえとれば媚薬ガスを気にする必要もない。

 一気に燃やし尽くす。そのつもりで放った一撃は、甲虫が寄り集まって壁になることで防がれた。正確には幾重にも折り重なる蟲の死骸に遮られ、本体までは届かなかった。

 その隙に、咲綾の刀が、楓のバットがサーナーティオを襲う。

 見るからにこちらの方が弱い。確実にとった(・・・)

 しかし二人の退魔巫女は驚愕する。

 刀とバットは銀髪の淫魔にかすりもしなかった。特別な手段で防いだのではなく、シンプルに避けただけ。その速度が近接戦を得意とする退魔巫女の予想を上回っていた。

 

「速いっ!?」

 

 咲綾が刀を振りぬく間に、既に空へ逃げおおせる。

 弱いなんてとんでもない。魔力を感じなかったのは単なる隠蔽、実際は並ではない身体能力だ。

 反撃に備え、巫女たちは構える。

 が、いくら待っても淫魔たちは動かない。

 

「おお、怖い。ここはこのまま逃げさせてもらうとしましょう。重ねて言うわ。私たちの目的と、女性失踪は関わりがない。主の名誉に誓って、嘘は言ってない。信じてもらえると嬉しいわね」

 

 サーナーティオは柔らかな笑みを見せると、そのまま夜の闇に消えていく。

 巨人も複数の淫蟲たちに戻り地を這い、空に紛れてしまった

 余力はあったはず。なのに、一度も攻撃をしてこなかった。

 

「本当に、私たちを倒すつもりはなかった……?」

「どうでしょう、微妙なところです」

 

 咲綾の呟きに、薫が答える。

 

「行動だけで見れば、確かに私たちに被害はありません。ですが、相手は魂霊契約をしています」

 

 魂霊契約は外法術師の奥義。

 それを為したものは、退魔師たちから最大級の害悪と忌み嫌われる。

 なぜなら。

 

「あれは、淫魔と魂を同調しなければできない禁忌の術。つまり、魂霊契約ができた時点で、契約者は人より淫魔に近い化物(・・・・・・・・・・)なのです」

 

 危害を加えないという行いが、人間的な善性から生まれた発想であるとは限らない。

 だからどれだけ人を傷つけないように立ち回っても、信用できるかどうかは別問題だ。

 それに、輝ける翠玉。淫魔の主は、なにかの呪物を集めている? 詳細は不明だが、およそ真っ当なものとは思えない。

 

「ただ、当面は、という意味なら安全でしょう。少なくとも主は、五大淫魔の二柱を完全にコントロール。いえ、忠誠を誓わせている。淫魔たちの暴走はないと思います」

「だけどよー、ああいうタイプは、変な突き方するとキレるぜ?」

 

 楓の発言に間違いはない。

 実際に蟲魔ヒラルスは、言葉で軽く主を揶揄しただけで手加減を忘れた。

 あれらは特大の爆発物のようなもの。刺激せずに、うまく処理しなければならない。

 

「秋英寺さんの言う通りですね。加えて、淫魔の主に明確な目的があると明らかになった。その如何によっては、私たちは最大級の害悪と正面から戦うことになるでしょう」

 

 薫の言葉にそれぞれが息を呑む。

 退魔巫女たちは、べったりと張り付くような不安に表情を曇らせた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 僕がマンションに帰ってきた時、ひーちゃんはベッドの上でぐでーっとしていた。

 

「ひ、ひーちゃん、大丈夫?」

「ミオウにかなり淫蟲燃やされた……」

 

 蟲魔ヒラルス・ラールアの根幹たる能力<淫蟲創造>は、魔力を消費して淫蟲を作り出す能力だ。

 本来なら一度作った淫蟲は女性を苗床にして数を増やせるのだが、ひーちゃんはうちに同居するようになってから、僕が嫌がるだろうと子宮での繁殖方式を自ら禁じている。

 なのに今回、囮や甲虫の壁で魔力回収できないままかなりの数を失い、けっこうな量の魔力を消費したようだ。

 

「ありがとう、ひーちゃん」

「私たちの、のんびり暮らしのため。だいじょぶ」

「お礼にケーキ用意してるんだ。皆でお茶しよ」

「おにーさん、はやくはやく」

 

 すぐさまベッドを離れテーブルに向かう現金なひーちゃんです。

 紅茶の準備をしているとサナちゃんも戻ってきた。

 

「ただいまです」

「おかえり、サナちゃん。お茶の準備がもうできるから、先に手を洗ってきてくれる?」

「はーい」

 

 ティーポットカップ、お皿を並べる。

 ケーキは作戦後のご褒美に前もって買っておいた。

 ひーちゃんは表情はあまり変わらないけど、明らかにワクワクしている。

 

「本日はロマン洋菓子店の、シャインマスカットのミルクレープでございます。幾重にも重なる、しっとりとしながらも歯切れが心地良いクレープ生地。滑らかに蕩ける上質のクリーム。そして存在感を放ちつつ、クリームと生地と調和する適度な酸味と甘みを併せ持つシャインマスカット……。フルーツタルトの苺が赤き天上の宝珠なら、こちらは輝ける翠玉(すいぎょく)……その味わい、ご堪能あれ」

 

 僕の勧めを聞いてからひーちゃんはミルクレープを一口。

 どうやらお眼鏡にかなったようだ。目が輝いている。

 

「おいひい……。シャインマスカット、すごい」

「このクリーム、美味しいですね。滑らかで甘すぎず、ぜんぜん重くないです」

 

 これなら果物系好きなひーちゃんも、クリーム系好きなサナちゃんも満足してくれると思った。

 僕も一口。うん、やっぱり美味しい。ロマン洋菓子店、おすすめです。

 

「今日は二人とも、本当にありがとうね」

「いえいえー、今回は一応の成功、ですね」

 

 サナちゃんは成功と言いながらも、ちょっと困ったような顔をした。

 

「何かあったの?」

「いえ、退魔巫女側は、どうやら最近起こっている女性失踪事件の犯人が、私たちだと考えていたようです」

「ええ!?」

「否定はしましたよ。あと、美桜さん達の前で、私たち五大淫魔の二柱は主に従い、人間にも退魔巫女にも危害を加えないと散々アピールをしてきました。ただ攻撃はされたので、向こうのリーダーのロリ教師巫女さん的には五分五分。信じても半分程度、という判断でしょう」

 

 椎名先生、わりと警戒心強いタイプなのか。

 素直に全部信用してくれたらいいのにとは思うけど、そういうタイプだと退魔巫女は長く続けられないんだろうな。

 

「ですが、こちらには目的があり、それは女性失踪とは関係ないと明言しました。達成すればここを去るとも。向こうが攻勢に出る可能性はあります。ですが同じくらい、刺激せずにやり過ごす消極的な策に出る可能性も十分あります。そういう意味で、一応の成功です」

 

 本来は足止めだけだったのに、色々考えて動いてくれた。

 ほんとサナちゃんには頭が上がらない。

 

「そっか、ありがとう。サナちゃん、ひーちゃん。おかげで僕の方は、当初の目的通り夏雅城先輩にお仕置きできたよ。……多少やり過ぎちゃった感あるけど」

「まあまあ、ああいう人はきっちり怒らないとまた余計な真似をしますよ」

「うん、だよね。あと、ね。なんか、変なことが起こったというか……」

 

 僕は、先輩を倒した後に起こった自分の異変について問う。

 

「先輩を倒したら、魔力が回復したんだけど、なんで?」

「え、当然じゃないですか。最初に言った通り、契約者は対象を絶頂させることで生まれる快楽のエナジーを魔力に変換します。なちゃメンがアレだけアレでアレになった結果ですね。おかげでサナちゃんパゥワーもちょっと回復してます」

「あんなのでおっけーなの!? ていうか男でも!?」

 

 つまり今の僕の魔力って悶える先輩から吸収したもの?

 なんかすごく微妙な気分だ。

 

「あくまでキーワードは絶頂ですから性別は関係ありません。感度向上の魔術が解けるまでは、定期的に魔力が回復しますね」

「そうか……つまり、僕が魔力を得たタイミングで先輩は……」

 

 やめよう、考えたらダメだ。

 僕は余計な想像を紅茶で洗い流し、輝ける翠玉を頬張る。

 ああ、美味しい。シャインマスカットはジャスティス。だから脳をよぎった嫌な光景を、正義の輝きで消し飛ばしてください。

 

「ともかく、今は作戦の成功を喜びましょう」

 

 サナちゃんが麗しい笑顔で言う。

 そうだ。目的はあくまで、悪評を立て春乃宮さんに変な処罰を与えようとした夏雅城先輩の排除。

 目的は達した上に、魔力が得られて、退魔巫女側に無害アピールもできた。

 今は、皆で頑張って得られた結果を噛み締めるとしよう。

 

「すごく、おいしかった……。このお店は、五大淫魔ひー部門受賞……」

 

 あと、ロマン洋菓子店はたぶん栄誉ある賞をいただきました。

 今後のますますのご活躍を祈っております。

 

 

 

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