ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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僕たちの戦いはこれからだぜぇ!

 

 

「おい、キモブタ……肉がほどけるって、マジだったんだな? この柔らかさ、味わい、尋常じゃねえぞ」

「分かるかい、相沢くん。これが良質な赤身の力さ。日本人は蕩ける脂を信奉し過ぎている。深い味わい、優しくほぐれていく繊細な肉質。そんな牛肉を惜しげもなく使ったのが、このお店の牛丼だよ。まさしく豊かなる女王の玉座……」

 

 僕は約束通り、相沢くんに高級店の牛丼を奢った。

 一流料亭がランチメニューとして提供しているもので、牛丼一杯2480円の強気な値段でもお客が殺到する逸品である。

 

「ありがとね。相沢くんが、ああやって味方になって反論してくれたの、嬉しかった」

「あん? 俺は夏雅城のやり方にイラついた。乗っかって聞こえるように陰口を叩く奴らにもな。キモブタの味方をしたんじゃなくて、気に食わねえから気に食わねえってだけだ」

「あはは、それが嬉しいんだよ」

 

 僕を擁護したのではなく、自分が正しいと思うことをちゃんと表に出せる。

 そういうシンプルなあり方の相沢くんがいっしょにご飯を食べてくれるのは、本当にありがたい。裏表がなさ過ぎて、僕を利用するつもりとかまったくないんだろうなぁ、というのが簡単に分かるから。

 

「今日は僕のおごりだから、どんどん食べて」

「マジか。二杯目、おかわりいいですかっ?」

「何故に敬語? もう限界まで行こうよ」

「しゃぁっ!」

 

 僕たちは高級店にあるまじき勢いで牛丼をがっつく。 

 以前食べた時より、二割増しで美味しかった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 夏雅城俊哉との戦いから数日、学校生活は落ち着いている。

 もともと淫魔と退魔師の戦いなんて世間一般には公表されないものだし、当然と言えば当然だ。

 ただ、少し変わったこともある。

 

「ボンボンさぁ、今引き籠ってるんだって」

 

 ウチのクラスに遊びに来ていた春乃宮さんが、軽い調子で教えてくれた。

 

「ひ、引き籠り?」

「“あっちの事情”でね。ちょっと大変で、精神的に出てこれる状態じゃないらしいよ」

「そう、なんだ……」

 

 あっちの事情というか、シモの事情というか。

 魔力回復ができると知ったので、感度向上の魔術は解いていない。僕自身に隠蔽の魔術をかけているから気付かれていないけど、時折魔力が流れてくる。

 残った魔力を全部注ぎ込んだから、どれくらいで自然に解けるかも分からない。たぶんもうしばらくは、ちょっとの刺激でアレがアレする快感地獄だ。当然ながら学校なんて行ってる場合じゃないだろう。

 

「……まあ、それがなくても来られないだろうけどさ」

 

 春乃宮さんが溜息を吐く。

 先輩が登校できない理由はまだある。

 なんというか、予想通りと言えば予想通り。例の工事現場でのオホ声フェスティバルが、ネットに出回ったのだ。

 そりゃあね、汚い声で喘ぎながらイキ散らかす男子高校生とか、もうネタですよ。

 SNSで彼のあられもない姿は拡散されて、一部界隈はお祭り騒ぎ。

 しかも夏雅城グループの総帥の息子だというのだから、さあ大変。ただ、大企業を取りまとめる立場だけに、夏雅城パパさんの行動は速かった。

 

 異例の記者会見。

“息子が申し訳なかった。親として見捨てることはしないが、企業としての信頼を揺るがすような真似は決してしない”と発言。

 

 暗に「ウチのグループで要職には就かせないべさ」ということ。

 行動が早かっただけに、世間では「息子の変態オ〇ニーで謝るパパかわいそう」論調が多く、株価への影響も最小限で済むだろう、という見解だ。

 そんな状況にプライドの高い先輩が耐えられるわけもない。登校できないまま退学しちゃうだろうなぁ。

 

 

 ……やばいよ、堕淫魔術やばいよ。

 エロ目的どうこう以前に、「狙った対象に意図したタイミングで醜態を晒させることができる」は現代社会において最悪の武器だ。

 しかもサナちゃん曰く、感度向上だけじゃなく「人間が想像できるえっちなことはだいたい術式になってますよ」らしい。

 それってあれですよね。おもらしとか、急に素っ裸にさせるとか苦も無くできちゃう系ですよね。

 絶対悪用はしない。僕にはより一層の自制心が求められるだろう。

 

「そっか、た、大変だね」

「まあ、私らのお仕事からすると、こういうのも珍しくないんだ。引き籠ったりは、うん」

 

 言葉を濁したけど、淫魔にやられた退魔巫女がどうなるかなんて容易に想像ができる。

 できれば、春乃宮さんがそんな目に合ってほしくないと思う。

 

「春乃宮さん、気を付けて……じゃない。危ないんじゃ……でもなく。そうだ、パワーを高めるためにおすすめのニンニクおにぎりの店が!」

「一応女の子だから、平日からにんにく臭いのはヤなんだけど?」

「そ、そっか」

 

 僕のバカな発言を、春乃宮さんは思いっ切り笑い飛ばす。

 申し訳なくて縮こまっていると、ぽんっと優しく胸元を叩かれた。

 

「あー、おかし。私がそんなことにならないよう、力の出る食べ物を勧めたかった、でいい?」

「は、はい……。あと、頑張ってる人に頑張っては変だし、気を付けても危ないも、春乃宮さんのやってることを軽く見てる気がして。最終的には、ニンニクに頼るしかないかなって」

「なにその、にんにくに対する妙な信頼感」

 

 いやでも、スタミナといえばニンニクなんですよ。

 僕も動画編集で徹夜する時はガツ盛り豚ニンニクライスをつくるから。

 

「もー、佐間は意外と心配性だなぁ」

「そ、そうかな?」

「うん。あと、お人好し。お姉ちゃんのことだって」

 

 ちらっと、教室にいるお姉さんを見る。

 彼女の周りにはクラスの女子の姿があり、色々と話をしている。

 

「てかさー、結局婚約って、家の権力で無理矢理だから逆らえなかっただけなんでしょ? 今時そんなことあんだねー」

「なのに嘘バラまいてたって、夏雅城先輩、普通に最低じゃん」

「先輩って言えば、工事現場で変なことしまくってたってマジ?」

「ほんとほんと。優等生だと思ってたのにヤバいしキッモ」

「婚約解消でよかったね」

 

 クラスの女子たちの掌返しはひどい。

 さんざん夏雅城先輩を煽てていたのに、今じゃ汚物扱いだ。

 春乃宮さんに教えてもらったけど、先輩とお姉さんの婚約は解消になるっぽい。

 もともとが次代に強い退魔師を産むための政略。淫魔の術がかけられた男が子作りなんて子供にどんな影響があるか分からない。なにより変態行為で騒ぎになった息子をとか無理じゃね? という判断らしい。

 今回の責任は謎の外法術師にあるので、もちろん春乃宮の家もお咎めなしだ。

 というかもしかしたら僕、夏雅城のお家断絶の危機を作ったかもしれない。殺すよりはマシだ、なんて思ったけど考えようによってはもっとひどいのでは?

 ……いや、気にしない方向で行こう。

 

「タイミング的に、お姉ちゃんが見切りをつけた、みたいに思われてもおかしくなかった。なのに、佐間に助けられたね」

「いやー、あはは……」

 

 状況を考えたらクラスの皆には、先輩オホ声→婚約なんてイヤ! 破棄! の流れに見えなくもない。

 だから僕が矢面に立った。

 

『実は、僕は、小さい頃春乃宮さんと同じ小学校で、同じクラスだったんだ。その縁で少し話して、親の都合での婚約が辛いって相談を受けてたんだ。それを夏雅城先輩が、ちょっかいをかけてるっていう風に悪評をバラまいて。春乃宮さんに、俺に逆らったらどうなるか、って脅しをかけてたんだよ』

 

 ごめんね、先輩。さらに責任押し付けてしまいました。

 こういう経緯があって、お姉さんは純粋な被害者として扱われるようになった。

 まあ、だからと言って昔のように喋れる関係に戻ったわけじゃない。お礼は言ってもらえたけど、ただのクラスメイトって感じだ。

 

「春乃宮さんは、お姉さんと仲直りした?」

「べっつに、ケンカしてる訳じゃないけど? ただ、男を見る目がなくて、ボンボンのやり口もスルーして、それなのに佐間に助けられたことにムカついてるだけ」

 

 めっちゃ辛辣やん。

 でも春乃宮さんは、そっと目を伏せた。

 

「でも……あんなんでもお姉ちゃんだから。別に、クラスでひどい目に合ってほしい訳じゃないし。ありがとね」

 

 ちょっと恥ずかしそうに彼女はそう言った。

 決してお姉さんを嫌っている訳ではないのだ。

 今はぎこちないけれど、もう少し姉妹の関係がうまくいけばいいなと思う。

 

「ところでさ、お姉ちゃんも春乃宮だし、呼び方面倒臭くない? 私は、美桜でいいよ。こっちも直人って呼ぶし」

 

 照れ隠しのようにそんな提案をされた。

 こちらとしてもちょっと困ってはいたけれども。

 

「ええと、いいの? なら、僕はキモブタで」

「今まさに直人呼びするって言ったけど!?」

 

 ごめんなさい、照れくさくってボケてしまいました。

 

「じゃ、じゃあ……み、美桜、さん?」

「うん。直人、これからもよろしくね」

 

 美桜さんは眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。

 まあ、色々過程はひどかったけれど。

 得られた報酬がこの笑顔なら、決して徒労ではなかったと思えた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ナオトくん。もうすぐお風呂沸きますよー」

「いつもありがとね。サナちゃん」

「こちらこそ、いつもお夕食ありがとうございます」

 

 夕食後、サナちゃんがお風呂の準備を整えてくれた。

 平日の掃除や消耗品のチェックなども彼女が抜かりなくやってくれている。もちろん休みの日は僕もやる。家事は皆で協力して、がモットーです。

 淫魔っ子達との共同生活は違和感がないレベルに馴染み、今やこちらの方が日常と思えるくらいになっていた。

 調理担当は僕。なんでもそつなくこなすサナちゃんだけど、食事が嗜好品にしかならないせいか、調理だけは不得意だ。でもキモブタ地元メシちゃんねるを見て興味がわいたらしく、時々いっしょに練習をしている。

 ひーちゃんとのゲームも楽しみの一つになった。

 いい子だから動画の撮影とか編集で忙しい時に我儘言ったりしない。時折肩揉みまでしてくれる。小学生スタミナだからすぐ疲れて僕に覆いかぶさって寝たりするけど。

 

「おにーさん、宝石シリーズ他にもないの?」

「水晶をイメージしたケーキなんてのもあるよ。ムースをソーダ味のゼリーで包んだもので、外見はまさしく神秘の青水晶って感じ。味も最高だよ」

「次それ、それがいい」

「おっけー。サナちゃんはどんなのが食べたい?」

「ケーキもですが、皆でお鍋したいです」

「それもいいね」

 

 ゲームしながら皆でお喋り。

 最近は魔術したりバトルしたりで忙しかっただけに、なにもない穏やかな時間が身に染みる。

 

「あー、やっぱりこうやってのんびりが一番だよね」

 

 気を抜いている僕を見て、サナちゃんはくすりと笑った。 

 

「初めての戦いでしたし、その節はお疲れ様でした」

「いやいやぁ。そういえば、試したんだけど、普通の状態だと振動張り手も魔力加速ぶちかましも使えないんだよね」

「あれは、契約の繋がりを強化して魔術の精度を上げて、私の魔力を使って初めて可能になったモノですからね」

 

 エロ魔術の戦闘流用は『魂霊契約サーナーティオ』モード限定スキルだ。

 使う機会なんてそうそうないから別にいいけど。 

 

「でもナオトくん自身が魔力をしっかり溜めて、堕淫魔術を習得していけば、いずれは普通に使えるようにもなります。頑張りましょう」

「頑張るって……」

 

 相変わらず恋人はいないし、夏雅城先輩の魔術が解けたら、もう魔力入手の経路がない。

 僕の場合は“うすい快楽”で回復はできないし。かと言って男性から通り魔みたいに魔力を回収するのも正直あんまりやりたくない。

 

「最強の外法術師を目指すのも悪くないかもしれませんね」

「いやいやいやいや、そんなのになったところでなんもいいことないよ」

「そうですか? 自衛のためには力も必要だと思います」

「自衛って、退魔巫女対策?」

「それもありますが、ロリ教師巫女さんは、私たちが最近の女性の行方不明者に関わっている、と予想していたんですよね」

 

 そう言えば、今までサナちゃんが姿を現さなかったのは、失踪の主犯だからみたいなこと言われたんだっけ?

 

「でも、ひーちゃんはそんなことしていません。もちろん私も。なら、行方不明者の原因になりそうな、悪辣な外法術師か高位の淫魔がこの街にはいる、ということになりませんか?」

「あ」

 

 本当だ。

 偶然の失踪が重なっただけ、人間の犯罪組織が女性をさらっていた、とかなら退魔協会が出張ってくることはないだろう。

 でも、もし他の淫魔がこの町にいるのなら、なし崩しで僕たちが巻き込まれる可能性は否定できない。

 変な話、調査した結果勘違いのまま僕たちが退魔巫女に襲われることだってあるかも。

 

「さ、サナちゃん……」

「ね? 基本ひっそりは変わりませんが、強くなるに越したことはないでしょう?」

 

 だから、と幼くも妖艶に彼女は誘う。

 

「これからもよろしくお願いしますね、ご主人様」

「あ、海底探索もお願い、ご主人様」

 

 契約は対等だっていうのに、わざわざそんな言い方をしてくる。

 ひーちゃんはマジひーちゃん。

 どうやら、もうしばらく僕はこの小さな淫魔たちに振り回されることになるようだった。

 

「……こうなると、本気でサナちゃんねる開設しないとまずいかもね」

「えっ?」

 

 でも強くなるならサナちゃんの魔力確保は必須なので、こっちとしても振り回されるだけで終わるつもりはありません。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そこから更に数日。

 春乃宮の神社の本堂で、美桜は姉と共に父の言葉に耳を傾けていた。

 

「咲綾。どうやら夏雅城俊哉くんは、かなり強力な呪いを受けたようだ。未だ解除はできず、正式に婚約は立ち消えとなった」

「はい、分かりました」

「すまなかったな、家の都合で振り回して」

「いいえ」

 

 実力のある春乃宮の娘を塩漬けというわけにもいかない、ということらしい。

 引きこもりとなった俊哉はもはや次期会長候補ではない。かわいそうと思わなくもないが、今までの態度のひどさを考えれば自業自得ではあるだろう。

 

「それと、だ。椎名さんからの報告を上層部に伝えた。現状、この町では五大淫魔の二柱が活動している、と」

 

 蟲魔ヒラルス・ラールア。

 大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。

 それらを使役する淫魔の主。

 現状では大きな被害を出していないが、女性失踪事件との関連も疑われており、油断できる相手ではない。

 

「今回の件、ピンポイントで俊哉くんが狙われた。反面、お前たちには確かに傷一つ負わせなかった。つまり……淫魔の主は、現場で戦う退魔巫女ではなく、退魔協会そのものを敵視している、と考えられる」

 

 俊哉が狙われたのは、次代の会長だから。

 淫蟲は単なる陽動に過ぎなかったのだろう。

 そういう扱いを上級種が受け入れるくらいに、忠誠を誓わせる。その手腕に背筋が寒くなった。

 

「また、赤き天上の宝珠、輝ける翠玉。淫魔たちに関わる宝玉……淫魔の主はそれを求めて行動しているのでは、との意見もある。実在するかも分からないものだ。退魔協会が総出で、ということはない。しかし今後、椎名薫、秋英寺楓の両名にもこの地に駐留してもらい、謎の宝物に対する調査班を編成する」

「淫魔の主の討伐、じゃないの?」

 

 美桜の問いに、父は首を横に振った。

 

「協会としては、藪をつついて蛇を出す真似を避けたいようだ。あくまで、奴らの狙いを探ることが優先。結果如何によっては、五大淫魔に先んじて宝物を奪取するよう動くこととなる。お前たちも、覚悟をしておきなさい」

 

 もしも実在が確認されたなら、宝物の争奪戦に発展するかもしれない。

 変化する状況に姉妹は唾を飲み込んだ。

 




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