ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
パティスリー・ミスジ。
牛肉の希少部位とは関係なく、三線《みすじ》本通り沿いにあるお店だからそう名付けられた洋菓子店である。
黒を基調としたクラシカル且つ高級感溢れる店舗で、海外でフェルネリア賞を受賞した有名パティシエがオーナーを務めている。
煌びやかなお菓子は贈答用に好まれるが、イートインも充実している。
紅茶が素晴らしく、ケーキに合わせてブレンドされたコーヒーもまた絶品。心地良いキレと爽やかな酸味が、舌に残るケーキの甘さをさっと流してくれる。
こうして舌をリセットして新たなケーキを食べているうちに、十個二十個となってしまう美味しいがゆえに危険な店でもあった。
「いや、お姉ちゃんなに言ってんの? 十個も無理だから」
「私の見てる……動画配信者さんが、そう言ってたの」
退魔巫女たちはパティスリー・ミスジの店内でお茶をしていた。
店を勧めたのは咲綾。少しお高いが味は確かなのだという。
多少のぎこちなさは残っているが、諍いの原因である夏雅城俊哉がいなくなったことで、ようやく姉妹の仲も落ち着き始めている。
ただ、咲綾は何かを考え込むことが増えたように思う。
「お姉ちゃんって動画けっこう見るんだ?」
「うん。駄菓子屋さんの特集とか、懐かしかったな」
何故か姉は遠い目をする。
不思議に思いながらも美桜はフルーツタルトを頬張る。確かに、美味しい。生地もクリームも絶品だし、メインのいちごの爽やかな酸味のおかげで軽く食べられてしまう。が、さすがに十個は無理そうだ。
「お、美味いな。オレ、あんまこーいうの食べないけど、これはイケる」
秋英寺楓はタルトを手づかみでもしゃもしゃと食べていた。
顔立ちもスタイルもいいが、一人称はオレで、服装は革製品を好み、髪は無造作。どことなくワイルドなコーディネートだ。
「普段はどんなの食べてるの?」
「焼き鳥とビール」
「それはスイーツじゃない」
二十歳の女子大生がおっさんみたいなことをいうものだから、美桜は呆れて溜息を吐いた。
しかし教師である椎名薫は楓に賛同する。
「私も焼き鳥とビール好きですよ。仕事帰りの一杯はたまりません。……まあ何度店員さんに止められたかは分かりませんが」
「薫せんせの場合しゃーないと思っちゃうなぁ……」
美桜は改めて薫の容姿を眺める。完全に中学生、下手したら小学生だった。
パンツルックでピシッと決めても背伸びしているようにしか見えなかった。
「しっかし、赤い宝石探すなんて言っても、どうすりゃいいもんか」
楓がいちごを頬張りながらぼやく。
四人の退魔巫女は淫魔の主を刺激しないよう、赤き天上の宝珠・輝ける翠玉についての調査任務を命じられた。
実物を見たこともない、実在するか定かでもない呪具だ。いきなり手詰まり感がある。
「ひとまずは郷土資料館ですね。この町の古い文献を探って、伝承を調べる。該当する記述の有無、この土地に伝わるものなのか、流れ着いたものか。その辺りから明らかにするべきでしょう」
「げー、オレそういうの苦手だ……」
「私もー。修行のためには古書も読むけど歴史とかあんまり興味なーい」
直感派の楓は思い切り嫌そうな顔をしている。美桜もそちら側の人間で、書類だの文献だのはあまり得意ではなかった。
対して咲綾と薫はマジメにコツコツ派である。
「当然、協会の調査班にもお願いしますよ。ですが、実働班だからとなにもしないでいい訳ではありません。任せるにしても“とっかかり”を見つけるのは現地にいる私たちの役目。お金も手数も限りアリ。やれることは自分で、が基本です」
「そうだね。私たちも、できることは頑張ろう?」
咲綾の言葉に渋々ながら頷く。
苦手ではあるが、これも任務だ。
淫魔の主は、何らかの目的を持って行動している。こうしている間にも、よこしまな企みをしている可能性だってある。
ならば、苦手だのなんだの言っている場合ではない。五大淫魔たちの動向を掴むために、美桜たちは気合いを入れ直した。
※ ※ ※
「さて、では“サナちゃん動画配信者デビュー”企画会議を行います」
僕は淫魔っ子たちに真剣な表情で語りかける。
「まず、魔力調達に関して。僕は恋人がおらず、ワンナイトする勇気もなく、何の罪もない一般男子を夏雅城先輩みたいなオホ声フェスティバル地獄に叩き落とすこともできません」
ぶっちゃけ手段を選ばなければ、魔力の獲得は容易だ。
あとは僕次第なんだけど、悪辣に身を落とすだけの覚悟が出来ていなかった。
でもサナちゃんもひーちゃんも、そんな情けない僕を責めたりはしない。
「そこは私も同じです。知らない人とえっちなんてイヤですし、ワンナイトなんてもっての外。ちょっと魔力は回復したから堕淫魔術で通り魔的に快楽のエナジーを奪えますが、魔術の行使には隠蔽を一時解除する必要があります。目立って困るのは私よりもナオトくんです」
そう、例えば夏雅城先輩の時のように、魔術が成就した状況で隠蔽を使っていれば、僕に魔力が流れ込んでも隠せる。
だけど魔術の“発動の痕跡”は、どうしたって隠せない。だから快楽のエナジー集めを常態化すると、それだけバレる危険性は増える。
変な話、魔力を辿らなくても事件が起こった場所から徐々に範囲を狭めて行けば、淫魔の存在の特定は退魔巫女じゃなくてもできるし。
サナちゃんは、その辺りを警戒している。
色々バレて退魔巫女たちに目をつけられても、淫魔っ子たちはこの町を捨ててどこかに逃げれば済む。
でも僕には戸籍があるし、逃げてすぐ生活の拠点を確保するのは難しい。
つまりサナちゃん・ひーちゃんの「ひっそり行動」の土台にあるのは、僕が今後問題なく暮らせるように、という気遣いだ。
淫魔超優しい。
「なので、僕の案としては動画配信により自己承認欲求を満たし、お金を稼ぐことで快楽を覚え魔力を回復する……というものになります。ですが、現実的に可能な範疇で代案があれば、そちらに変更も考えています。なにか、ご意見はありますか?」
「はい、ナオトくん議長」
しゅたりとサナちゃんが手を上げる。
「はい、サナちゃん。どうぞ」
「魔力は契約者たるナオトくんが女の子を絶頂させても獲得することができます。ここは美桜さんと恋仲になってえっちをするというのはどうでしょうか?」
「うん、それは現実的に可能な範疇に含まれておりません」
美桜さんは強気で明るいスレンダー美少女です。
普通に考えて僕のようなデブサイクを選ぶことはありません。
「えー、そんなことはないような気が。淫魔と女の勘が囁いています」
「ははっ、ないない。有り得なさすぎます。もしもそんな状況が実際に起こったら、冬護院プリンセスホテルのカフェスペースで食べられる高級スイーツを全種類一気にご馳走するよ」
まあ絶対有り得ないけど。
僕の言葉に今度はひーちゃんが手を上げる。
「おにーさん議長……」
「はい。どうしました、ひーちゃん」
「全種類一気にだと食べ切れない可能性があるので、残した分は持って帰れるように最初からお店側に伝えておくべきだと思う……」
なんで既に食べられる前提なんですかね?
「こほん。ええと、で、ですね。サナちゃんの動画出演に関しまして、僕の動画に出演するより、初めからサナちゃんアカウントを作った方がいいと考えています」
「それは、どうしてですか?」
「シンプルに“ブタちゃん”の人気が減る可能性があるから」
主に僕の動画の再生してくれているファン層には、ここら近辺のメシの情報を求める地元民・キャラクターとしてのキモブタのファン・大食い動画好きの他に、僕のことを馬鹿にしている人がいる。
そう説明すると、サナちゃんが小首を傾げた。
「ファンなのに、バカにしてる……?」
「ここで言う“バカにしてる”はアンチじゃなくてね。デブでブサイクなキモブタくんが、醜く飯にがっついている姿を見るのが面白いっていう層は一定数いるんだ」
感覚的には滑稽な劇を見て笑う感覚に近い。
でも、そういう視聴者さんも貴重な再生数。弄られてお金になるなら充分許容範囲なのだ。
「はっきり言えば、サナちゃんはかわい
登録者数十万人以上。
トップ勢からすれば少ないが、それでも初手から一定の視聴者に認知してもらえるのは強い。
だけど、僕が可愛い女の子と絡む絵面自体が、好まれない可能性もある。
「だから、お互いにアカウントが安定してのコラボならともかく、現時点では美味しくない、って僕は思う」
「なんでそこまでマジメに考えてるんでしょう……?」
いや、やるなら成果は出したいし。
「ということで、僕が提案するのは天使です」
「淫魔ですよ?」
「いや、いわゆる天の声というやつ。まず、僕の動画でナレーションを担当。同時に3Dアバターの作成を依頼。ナレ担当でサナちゃんの声を知ってもらってから、カワイイアバターを使ったデジタルストリーマーとしてデビューするのが方針です」
ロリっ子姿で淫魔として行動していた時期もあるし、変なところでバレてもつまらない。
可能な限り安全策をとるのがベター。
そこでまたもひーちゃんが挙手。
「はい、ひーちゃんどうぞ」
「ひーもゲーム実況やってみたい……!」
意外にも力強いご意見です。
いや、淫蟲のいるひーちゃんはそんなにやる必要はないんだけど。
でもなんか妙にやる気を見せている。そうなると、サナちゃんも心が動いてきたようだ。
「うーん、ひーちゃんといっしょなら、楽しい、かも?」
「キモブタ地元メシちゃんねるの妹分……メス豚ちゃんねるのさーちゃんとひーです」
「その名前は絶対やめてもろて?」
そんな感じで二人のロリサキュバスのデジタルストリーマーデビューが決定しました。
今後配信系の話になるわけではありません
健全版への移行で主人公が弱体化しているので魔力確保のために裏では色々やってるよ、というだけです