ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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そう、だん……? なんで……?

 

 

 

 これまで行方不明者が増えたと聞いても、あまり実感はなかった。

 けれど友人の恋人が実際にいなくなったと知って、初めて僕はそれを身近な危機として認識した。

 

「あ、相沢くん、落ち着……けるわけないよね。とりあえず学校出よう」

 

 サナちゃんが、ひーちゃんがいなくなったら。

 そう考えれば冷静に、なんて言い聞かせる方が間違っている。

 もしも落ち着かないといけないのだとしたら、それは僕であるべきだ。相沢くんにはちゃんと怒って焦ってもらって、他の役割を僕が担えばいいだけの話じゃないか。

 でも教室を出ようとした時、運悪く五限目の担当教師が早めに来てしまった。

 

「先生、今日は顔の作りが悪いので早退します」

「俺も今日は頭の出来がワリィんで早退するわ!」

 

 なのでちゃんと早退を伝えてから廊下を全力疾走する。

 背後で「いや、それいつものこと……」みたいなクラスメイトの呟きが聞こえてきた。事実陳列罪です。

 

「ぶひぃっ、ぶひぃっ、はひゅっ、はひゅぅ……っ!?」

「走んの遅っせぇよ!?」

 

 全力で走っているのに相沢くんとの距離が開いていく。

 ここで悲しいお知らせ。

 サナちゃんとの契約の恩恵で、魔力を使わない時でも身体能力は多少ながら向上している。それでも僕の走る速さは一般的な高校生のレベルに達していなかった。

 

 

 

 

「ワリィな、サボらせて」

「だ、大丈夫」

 

 腰を据えて話をしようと、相沢くんは僕を自宅に招いた。

 彼の家は二階建ての庭付きで、ご両親と三人家族で暮しているらしい。お母さんは専業主婦で、リビングにいたところを挨拶した。

 普通に素行不良な彼だけど家族仲はいい模様。ただ「りゅーちゃん、その子、いじめとかじゃないわよね……?」と、信用度自体は決して高くなかった。

 

「りゅーちゃん。私たちの仲間みたいですね」

「やめてもろて?」

 

 手乗りサナちゃんがこっそり隠れながらそんなことを呟く。

 TSロリ相沢くんを想像してしまいそうになったので、自分の頭を殴っておいた。

 案内された部屋には、懸垂用のバーが設置されている。床に置かれた漫画本や鉄アレイを足でどかし、座る場所を確保してくれた。

 

「俺のカノジョ、他校だから顔は知らなかったよな? こいつ」

 

 見せてくれたスマホの画像は、いかつい相沢くんの隣にいても見劣りしないくらいの、派手なギャルだった。

 髪を明るいピンクに染めて、ネイルをばっちり決めて、きわどいミニスカートのパンクな衣装。身長は高めでキレイ系の女の子だ。

 

早瀬夏凛(はやせ・かりん)、美人だろ? 素行は俺と似たようなもんだが、ストリートダンスが得意でよ。汗で崩れるからってメイクはあんましてなかったな。親とはあんまうまくいってねーから、ウチにもよく泊まりに来てた」

 

 聞けば、夏凛さんのご両親はどちらも一流企業の共働きで、あまり娘のことを気にかけていないらしい。

 家に帰ってこなくても「おおかた、不真面目な友人たちと遊んでいるのだろう」と考え、特に心配もしていなかった。

 相沢くんにしても、夏凛さんが通っているのは僕たちのところよりも偏差値の高い進学校で、放課後に会えない時もままあったから当初はあまり気にしなかった。

 ところが夜に連絡しても返信がこなくなった。さすがにおかしいと心配して家を訪ねて、ようやく行方不明だと発覚したのだという。

 

「嫌な親はどこにでもいるね」

「まったくだぜ。ツレにも頼んで探し回ったが見つかんねえ。警察も頼りになんねえ。いなくなった日から、もう一週間も経っちまった」

 

 ツレというのは学校外の、外見の怖い不良側の友人たちだ。

 その人たちからは僕、あんまりよく思われてないので、あんまり近付かないようにしている。

 

「俺らはこんなだから、聞き込むにもビビられるしよ。だけどキモブタなら地元の飯屋に顔が利くだろ? 一声かけてもらえりゃあって」

「分かった。これまで動画撮影してもらったお店にお願いしてくる」

 

 幸い、夜の営業はまだ始まっていない。

 下拵えで忙しい時間ではあるだろうから、お詫びの菓子折りを持って頭を下げてこよう。

 

「ありがてえ……あとよ、動画で呼びかけとかって、できねえもんか?」

「で、できなくはないけど、やったら最悪なことになるかもしれないよ」

「あん?」

「たとえば、僕が夏凛さんの写真を行方不明者として公開するでしょ。それで見つかったとして、男性による誘拐だったら? なにかされたんじゃ……って考える人は騒いで、デジタルタトゥーになって残り続けるよ」

「あぁ……」

 

 だから、ネットでの公開は安易には踏み切れない。

 多くに呼び掛けられる反面、かなりリスキーでもある。

 

「あいつの将来を考えたら、ってか。じゃあ、やめだ。だがよ、いよいよになったら、頼んでもいいか?」

「その時は任せて。キモブタ全開で頑張るよ」

 

 たぶんやったら炎上、最悪チャンネル凍結もあるかも。

 でも関係ないよね。なんだかんだ、学校でいじめられなかったのは相沢くんのおかげだと思ってる。

 なら、ちゃんと報いないと。

 

「いざって時に連絡が繋がらないと困る。今は、休憩がてら自宅で待機してもらっていいかな」

 

 かなり疲れてるように見えたから、僕の都合ということにして休んでもらう。

 反論しようとしたみたいだけど、大きく溜息を吐いた相沢くんは、渋々ながら頷いてくれた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 通っている高校や、不良仲間の溜まり場。普段夏凛さんが使うお店などは粗方探し終わっている。

 となると、僕が探すべきはそれ以外になる。

 たぶん相沢くんの考えとしては「単なる家出なら良し。パパ活やらで他の男の家に転がり込んでもまだ許せる。問題は誘拐や、危ない輩の家に転がり込んでいる状況」だと思う。

 だけど僕の懸念は、現在この町では公にされていない女性失踪事件が起こっているという点だ。

 もともと行方不明者の裏側には淫魔か外法術師の存在があるのでは、とサナちゃんが推測していた。それを考えれば、なるべく早く足取りを掴まないといけない。

 僕はサナちゃんの加護である感知能力を使い、魔力の痕跡を探りつつ、撮影でお世話になったお店を回る。

 画像と菓子折りを渡して、見かけたら連絡を貰えるようお願いもした。

 どこも快く引き受けてくれたけど、その中でロマン洋菓子店の店長さんは、画像を見た時ちょっと他とは違った反応を見せた。

 

「あれ、この子ウチの店によく来てたよ」

「そ、そうなんですか⁉ 来てたのって、いつぐらいでしょうか」

「あー、最後は、二週間前くらいかな。派手な格好だからよく覚えてる。チョコ系が好きでねぇ。週二で来てくれたのに、近頃は全然で。他にも数人の常連さんが顔見せてくれなくなっちゃってさぁ。味、落ちてないつもりなんだけどなぁ」

 

 突っ込んで聞くと、店に来なくなった常連さんは皆若い女性ばかりのようだ。

 こうなると、本格的に怪しくなってくる。

 ならば早期解決のためにも、蟲魔ヒラルス・ラールアの力を頼らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

「ひーは、ぱわーが微妙……」

 

 ダメでした。

 帰宅後、ケーキをお土産にひーちゃんに頼んでみたけれど、美桜さんに甲虫をけっこう燃やされたので魔力の残量に不安があるとのこと。

 

「断ったら、食べちゃダメ?」

「そっちは普通におみやげだから食べてくれると嬉しい。僕とサナちゃんの分もあるし」

「わーい、きゅうりのタルト……」

「キウイね」

 

 僕のベッドでごろごろしたままタルトを頬張る。

 これも微量ながら魔力回復にはなるし、甘いものは心の栄養です。

 ちなみにサナちゃんは、ちょっとむくれていた。

 

「ふーん、そうですか。ナオトくんは契約した私でなく一直線にひーちゃんを頼るんですねー」

「え、あ、ご、ごめん。もちろんサナちゃんも頼りにしてるよ! ていうか、今日走ってその恩恵を自覚したというか、そもそも僕、サナちゃんがいないと戦えないし」

「……ふふ、ごめんなさい。ちょっとからかいました」

 

 サナちゃんがふくれっ面、かと思ったら可愛らしく、ぺろりと舌を出す。

 うまいこと彼女に転がされ慌てる僕です。

 

「実際、こういう時はひーちゃんが頼りになります。でも、淫蟲創造は燃費悪いですから」

「淫蟲でちまちま集めてるからもうちょっと待って……」

 

 本来なら女の子に卵を植え付けて繁殖させることができる。それを封じているのは僕に対する心遣いで、そこを指摘しないのはサナちゃんとひーちゃんの優しさだ。

 とはいえ、いきなり手詰まりになってしまった感がある。 

 

「いっそ、退魔巫女たちを頼りますか? 失踪事件についても多分調べていると思いますよ。……淫魔の主の手掛かりとして」

「案外、アリかも? でも、椎名先生だとうまい具合に転がされそうな感じがする……。ここはやっぱり、美桜さんかな」

 

 退魔巫女勢の中で、一番よく話すし。

 僕はさっそく美桜さんにメッセージを送っておいた。

 女の子の連絡先を交換したの、初めてです。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 退魔巫女たちは蛍火神社に集まって、情報の共有を行っていた。

 薫が大学で郷土研究を専門とする教授に接触。この町の説話集を手に入れた。

 けっこうな量があるため全てに目を通せてはいないが、ちゃんと目次があり簡潔にまとまっているので作業はそれほど大変ではない。

 春乃宮の当主も独自にこの町の伝承を調べている。もしも宝珠が古くから伝わる呪具ならば、該当する説話が出てくるだろう。

 

「今のところ、淫蟲も五大淫魔も大きな動きはなし。ですが、女性の失踪者は出ています。もしかしたら、本当に。大淫魔サーナーティオの言う通り、失踪に関しては淫魔の主は関わっていないのかもしれません」

 

 言いながら、薫は紙の資料をぺらぺらと確認していく。

 

「失踪者ですが、全員に共通点がありました。まず、全員が十代から二十代の若い女性。それぞれが、一時期【心光の癒し】に身を寄せていました」

「薫せんせ。その、しんこうのいやしって?」

「ここ最近勢力を伸ばしている、新興宗教の類ですね。ストレス社会に傷付いた現代人の心を癒すのだと。つまり、女性たちは一度この教団の信者となって、そこから足取りが掴めなくなっています」

 

 それは、あからさまに怪しい。

 しかし薫は困ったように小首を傾げる。

 

「ただ、教団としての回答は『親からの虐待、恋人や夫からのDVに悩む女性信者に共同生活の場を提供しているだけ』だそうです。つまり、理由があって身を隠しているので、所在地は教えられない、という論法ですね」

「裏に外法術師がいるか、それとも普通の怪しい教団か、判別できないという話ですか?」

「咲綾さんの言う通りです」

 

 楓が両手を頭の後ろで組み、呆れたようにぼやく。

 

「まあ、淫魔じゃなくてエロいおっさんの企みってのも、ないわけじゃないしなぁ」

「です。退魔協会は公的機関ではありません。宗教団体への強制調査をする権限は持っていませんし、淫魔の行いだと確定するまでは、うまく動けていないのが現状です」

「それさあ、潜入捜査とかして見る?」

 

 気軽な調子で美桜が提案する。

 薫たちは目をぱちくりとさせた。

 

「はい?」

「実はさ、佐間から相談されたんだよね。友達のカノジョが失踪した。退魔巫女さん達はそういう事件について何か知らない? って。タイミング的に、案外当たりかもしれないし。協会としても調べないといけないでしょ?」

 

 それなら友人のよしみで、少しくらいカラダを張ってやろう。

 美桜なりの優しさだった。薫としても、淫魔と関わりがある教団なら見過ごすわけにもいかない。

 

「ほら、私なら触媒なしで巫術使えるから、潜入にうってつけ。淫魔との繋がりを掴んだら即撤退で、改めて協会としての対応を……みたいな」

「単騎で戦おうというならともかく、その辺りの判断を見誤らないのなら、意外といいかもしれ……」

「ま、待ってください!」

 

 言い切る前に、珍しく咲綾が遮るような大声を出す。

 

「わた、私! 教団の調査と言うなら、私も参加させてください!」

 

 その時の彼女は、妙に切羽詰まった表情をしていた。

 

 

 

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