ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
『いつものように商店街を歩くキモブタ。本日は、“洋食のたいよう”にお邪魔します』
「お店のオムライスは色々あるよね。ホワイトソース、デミグラスソース。お米もチキンライスじゃなくて、香辛料を使って個性を出すお店も多い。昔ながらのライスを卵で包むタイプだけでなく、プレーンオムレツを上に乗っけて切りを入れるのも市民権を得た。卵なら、生クリームを入れるところもあるかな」
「さて。このお店、大洋食堂のオムライスは玉ねぎ・鶏肉のシンプルなチキンライスを卵二個で包み、トマトケチャップをかけたごくごくオーソドックスなもの」
「……だけど、侮るなかれ。ライスは鶏がらスープで炊き、ケチャップは完熟トマトで作った自家製。玉ねぎはバターでトロトロになるまで炒め、地鶏に地卵を使用。つまりね、皆が知ってる昔ながらのオムライスを、拘り抜いた食材と店主さんの凄腕で調理する、ハイスペックオムライスなんだ」
「創業四十五年、三代目の店主さんが初代の看板メニューの味を守りながら進化させた、歴史ある新しいオムライス……ふわぁ、うっま。奇をてらわず、シンプルにただただうっまい。舌に馴染むっていうのはこういうのを言うんだろうね。あ、すいません。オムライス、大盛りおかわりでお願いします」
『ふんわり卵のオムライス。その美味しさにキモブタも魅了されています。食べたいです』
「ナレーションのサナちゃんさん? 若干の本音がこぼれてますよ……?」
今日もキモブタ地元メシちゃんねるで動画投稿。
デブなブサイクがオムライスにがっつく動画は、多少笑われつつも視聴数が二十万を超えた。
ナレーションのサナちゃんさんは、最初の方は真面目に説明だけだったけど、わりと早い段階で人気が出たのでちょっとキャラを崩している。
サナちゃんさんの幼くも舌っ足らずではないよく通る声は、キモちゃんの視聴者にも好評である。
【サナちゃんさんの声かわいい!】
【もっとキモブタをいじれ】
【アニメ声みたいな作った感じじゃないロリ声だよな】
【サナちゃんさんASMR出してもいいのよ】
【私はキモブタさんがおはよう、おやすみって言ってくれる音声がほしいです】
「……本当に、魔力が若干回復してるんですよね」
投稿された動画のコメント欄を読みながら、サナちゃんは複雑な表情をした。
これは魔術による吸収ではなく、自己肯定感が満たされるという快楽だ。
言葉面はそれほどでもないが、多くの人にサナちゃんさんのナレーションを褒められて頬が緩んでいた。
「もしかしたら堕淫魔術の応用で、動画の私でビクンビクンしたら快楽のエナジーを魔力に変換する術式が作れるかもです。動画配信対応型エロ魔術、ちょっと練習してみましょうか」
「まんま呪いのビデオじゃないですかね、それ?」
あと普通に足がつきそうなのでやめていただきたい。
閑話休題。
美桜さんにメッセージを送ったら、けっこう時間が掛かったけど返信が来た。
【おそくなってごめーん。一応ね、こっち側で心光の癒しっていうカルト? が怪しいんじゃないって話は出てる。失踪者が全員ここの信者だってさ。ただ、詳しいことまでは分かんない感じかなー?】
【美桜さんありがとう!】
【でも協会って強制捜査の権利があるわけじゃないから、普通のカルト教団だった場合は踏み入った対応が取れないの。もー、こういうのまじめんどい。ちょっと時間かかるかもだよ】
【そっかぁ。じゃあ、僕の方でも何かできることがないか考えてみるよ!】
協会は、一応ちゃんとした組織だ。
動きが遅くなるのは仕方ない。
だから、相沢くんを早く安心させるためにも、まずは単品料理な僕が行動する。
僕は美桜さんに感謝して、パソコンを起動した。
※ ※ ※
『心光の癒し』は、最近勢力を伸ばしている宗教団体だ。
掲げたスローガンは「人との繋がりと善意の施しこそが心を癒す」。
この厳しいストレス社会、尖ってばっかりじゃ傷付くだけ。隣人との関係性を大切にし、無私の精神で奉仕活動を行う。奪うのではなく与えることで人生とは豊かになるもの。
だから心光の癒しで、優しい生き方の修行をしましょう、というのが主な目的である。
大仰な言い方だけど、地域でのボランティア活動を頻繁にやっているそうだ。
「呼んだ?」
「蟲じゃなくて無私。自分の利益ばかりを考えない、ってことね」
ひーちゃんをいなしつつ説明続きます。
傷付いた人々への癒しがお題目だけに、この団体には駆け込み寺的な要素もある。
パワハラに疲れて退職した社会人や虐待された子供など、居場所がない人に住居を提供し、共同生活を推奨しているらしい。
で、この手の新興宗教の定番として、奇跡の力を持った教祖様がいるとか。
ただし教祖様は、人の繋がりを重視し、この力をほとんど使うことはないのだという。
使う時は、本当に救わねばならぬ人に手を差し伸べる時のみ……。
「……というのが考察系ちゅーばーな方々が語ってる、カルトな教団『心光の癒し』概要だね。くそう、登録者百万以上。僕のキモブタ地元メシちゃんねるが十九万六千だから、太刀打ちできてない……。ちなみに二万六千は最近スイーツ系に手を伸ばしたのと、ナレーターのサナちゃんさん効果だね」
「ふ、不覚にも嬉しいです……」
おや? どうやら登録者が増える快感を覚え始めたようだね?
ちなみにスイーツ系の動画も、淫魔っ子達のおみやげを探しているうちに見つけたお店がほとんどなので、サナちゃんとひーちゃんの影響力が強い。
「政治系・考察系は跳ねると大きいからなぁ。僕は学校行きながらだから、毎日投稿は出来てないし」
「ナオトくんナオトくん、話逸れてます」
「そうだった、ごめんね」
チャンネルの方針は後回し。
今は相沢くんの恋人さんを助けることを優先しないと。
「退魔協会では、最近の女性の失踪者がここの信者さんだってところまでは掴んだっぽい。でも本当に淫魔か外法術師の仕業かわからない状態、ぐらいかな。そもそも、こうやって動画のネタになるくらいには、表での活動が知れ渡ってる宗教団体だからね」
普通の“怪しい宗教”である可能性は否定できず、そうすると退魔巫女では対処ができない。
そもそも、相沢くんの恋人さんがそこにいるかも確定していない訳だし。
僕が悩んでいると、サナちゃんがふふーんと胸を張った。
「怪しそうな団体がある。聞き込む必要性が出てきた。なら、ナオトくん。使えそうな堕淫魔術があります。幸いにも魔力が少し回復しましたし、それを習得してもらいましょう」
僕が今使えるのは発情の魔眼、振動、電流、感度向上の四つ。
新たな魔法を習得し、状況を打破しようという提案である。
サナちゃんは人差し指を立てて説明をしてくれる。
「【真実】……これも、えっちな魔法の定番。嘘を吐けなくする、というものです」
知ってる、それ。
ムリヤリ系で強情なまでに快感を否定する相手に使って『あぁん♡ ほんとは気持ちいいですぅ♡ う、うそ⁉ こんなのいやぁ⁉』みたいな、本音を喋らせる魔法だ。
「真実の魔法でカルト教団に“夏凛さんはいますか?”と問いかければ一発です」
「なるほど! じゃあ、さっそく練習を!」
「はい、では私で試してみましょう」
あ、前の時と同じ形なんですね。
僕はベッドの上で、サナちゃんと正面から向かい合う。赤い宝石みたいにキレイな瞳をじーっと見つめることになるので、けっこう恥ずかしい。
「深呼吸してください。魂が繋がった時点で、堕淫魔術はナオトくんの中にもあります。今は当たり前に出来ることを、慣れるよう練習しているだけ。できない、ということはあり得ないんです」
嘘を吐けなくする、真実の魔法。
発情の魔眼と同じく、目を起点に発動する力のようだ。自身の内側にある熱の流れを調え、目に集中させ、サナちゃんの心の奥を覗くように凝視する。
解放された魔力が、形になったのが感覚で理解できた。
成功したのが彼女にも分かったようで、目を細めて誘ってくる。
「今なら、私を丸裸に出来ますよ」
妖艶と言うよりは、幼く無邪気ないたずらと言った感じだ。
顔を真っ赤にした僕は、震えた声で質問を絞り出す。
「さ、“サナちゃんの好きな食べ物は?”」
「前食べた、オムライスが好きです。デミグラやホワイトソースは邪道。ケチャップが最高ですね」
「ひーは甘いモノ全般。特に果物なすいーつ」
サナちゃんは、僕の質問に嘘を吐けない。
淀みなく本当のことを答えてくれる。
「えと、あと……ご、“ご趣味は?”」
「今は人間の暮らし自体が楽しいですね。家事がきっちりできると心地良いです。動画見るのも楽しいです。ブタちゃんだけでなく、歌ってみた系が最近のお気に入りです」
「ひーはゲーム。自由度が高いのと、しむれーしょんと、パズルがいい。おにーさんの膝は特等席」
またもすらすらと答えが返ってくる。
隠し事をさせないスキル。感度向上の時も思ったけど、堕淫魔術ってエロ目的以外の方が役に立つ奴が多い。
「すごい……対象にしたサナちゃんだけでなく、ひーちゃんにも効果が及ぶんだね?」
「すみません、そんな効果は一切ありません」
うん、知ってた。
「ほらほら、どんどん質問してもいいですよ?」
からかうようなサナちゃんの笑顔。
たとえば「ここでの生活は楽しい?」とか「五大淫魔として暴れていた頃のサナちゃんってどんな感じ?」と聞けば本当のことを教えてもらえるんだろう。
でも、魔術でそれを聞くのは、卑怯な気がした。
「ううん、これで大丈夫。感覚は掴んだから」
だから僕は魔術を解いた。
いっしょに生活しているんだ。サナちゃん達の心を明かしてくれる理由は、魔術よりも信頼がいい。
……って、あれ?
発情の魔眼の時に教えられたけど、そもそも「淫魔には精神系の干渉は通用しない」という話ではなかったろうか。
「ねえ、サナちゃん」
「どうしました?」
「真実の魔法って、淫魔には効かなくない?」
しばらく考え込んだサナちゃんは、見惚れるくらい甘い微笑みを滲ませる。
明確な答えはもらえない。
真実の魔法を習得しても、分からない気持ちもあるようです。
※ ※ ※
真実の魔術を習得した後、僕たちは改めて話し合う。
「ナオトくんは真実の魔術を得ました。でも、これは嘘を吐けなくするだけなので、知らないことを聞いても答えは返ってきません」
心光の癒しはそれなりに規模がある。
夏凛さんと会ったことがない人に質問しても意味がなく、末端の信者だと教団の事情をまったく知らないだろう。
でも総当たりなんかしたら、さすがに怪しすぎて警戒される。
なら、事情を知っていそうな人にピンポイントで聞かないといけない。
「ってことはある程度内部事情を知らないといけない。つまり、潜入だね」
「そうなります。ですが、大丈夫でしょうか?」
「任せて。僕の顔を見てよ。どう考えても学校でいじめられて居場所をなくしたデブサイク陰キャじゃないか」
新興宗教に頼るか頼らないかで言ったら、間違いなく頼る系フェイスである。
部屋が静まり返る。
ねえ、何か言って?
反応がないと自虐ネタは辛いんです。
「私は、味のあるお顔だと思っていますよ」
サナちゃん? 優しいのになんか悲しくなる物言いなんだけど。
「目玉羽虫よりかっこいいと思ぅ……」
ひーちゃん? 目玉羽虫に顔ってなくない?
「こほん。正直に言うと、私としてはナオトくんがそこまでする必要ない、って思ってしまいます。りゅーちゃんの恋人さんのために余計な厄を背負わなくても、と。でも、そういうあなただから私たちもここにいられるわけで」
つまり、とサナちゃんは真剣な目で僕をまっすぐ見る。
「お友達のために潜入は構いません。ただし、私はいざという時には恋人さんを見捨ててでも、ナオトくんの安全を確保する方向で準備しようと思います」
「さーちゃん、私
「ですね。あ、これは相談ではなく決定事項の通達ですよ。私たちは、そうします」
力強く断言された。
なんとか「あ、ありがとう」と絞り出したけど、にっこり笑顔を向けられて、嬉しいやら恥ずかしいやらで情緒が不安定だよ今の僕。
* * *
街の中心部から少し外れた、ビジネス街。
そこにそびえるくろがねのビル一棟が、まるまる『心光の癒し』の所有なのだという。表にはでかでかと心光の癒し総本部という看板が掲げられていた。別にくろがねではなかった。
新興宗教って儲かるんだな、と下世話な感想を抱いてしまう。
事前に入団希望は伝えており、建物内にはスムーズに入ることが出来た。
気になったのは、セキュリティがしっかりしてるなってこと。
玄関はオートロック形式、しかもガラスの自動ドアではない。まずカメラ付きインターホンを鳴らすと、管理室で開錠をしてくれる。その上で木製の分厚いドアを手動で開ける。
ガラス窓は小さく、中にワイヤーが編み込んである。触った感じ飛散防止用のフィルムでコーティングされているっぽい。
防犯・地震対策の範疇ではあるが、裏に潜む存在を考えると怪しいことこの上ない。
「監禁しやすそうな場所ですね」
手乗りサナちゃんも似たような感想を抱いたようだ。
だけど噂にあった、共同生活をする施設はまた別の場所に建っているらしい。
応接室でしばらく待っていると、眼鏡をかけた男の人がやってきた。カルト教団的な謎の白装束を想像していたけど、普通のスーツ姿だった。
「初めまして、今回は当教団に入信したいとのことで、詳しいお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
「はっ、はい。佐間直人です! えと、僕。ブサイクでデブで、勉強も運動もできなくて。だから、学校でいじめられてて……。そそ、そんな時に、人との繋がりが心を癒すという、この団体のことを知って、そのあの!」
「ああ、そうでしたか」
男の人はにこりと穏やかに笑い、さらに突っ込んで聞いていた。
「キモブタさん、ですよね? 配信動画の」
「そう、ですっ。うち、毒親で、兄ばっかり優遇されてて。兄には殴られるし生活費も出してもらえないから、素顔晒してお金稼がないといけなくて……もし本当に、与えることで人が癒されるなら。どうか! どうか入団させてもらえないでしょうか!」
相沢くんのおかげで直接的な暴力はないけど、ひそひそ陰口を叩く生徒も少数いる。両親や兄についてや、生活状況に関しても紛れもない事実。
それだけに僕の懇願は真に迫って見えたようで、男の人は深く頷いた。
「もちろん、我々『心光の癒し』は悩める人々を拒むことなどしません。教祖様にも確認をとっております。佐間さんのことをたいそう歓迎しておいででしたよ」
「歓迎?」
「はい。もし『心光の癒し』の修行によって心が軽やかになるならば、同じように悩める人達にそれを伝えてほしいと」
ああ、なるほど。
そこそこ登録者のいる僕が来たから、団体を褒める動画を上げて欲しい、ということか。
「わ、分かりました。この、嫌な気持ちが少しでも軽くなるなら、教団が素晴らしいものだって分かったら、頑張って動画で宣伝します。だから、ここで修業させてください、お願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぐっ、と握手をして、僕は心光の癒しに迎え入れられた。
ただ、共同生活施設への入居は認められなかった。
お金を稼いで一人暮らしができている事実があるので、逃げ込む必要性がないと判断されたせいだ。
「教祖様にはご挨拶できませんか?」
「生憎と、教祖様は忙しいもので、いつになるかは。しかし佐間さんが教団に寄与すれば、いずれはお会いになって下さるでしょう」
濁した言い方だけど、ようはお金を寄付しろ的なヤツだと思う。
ビル一棟買えるだけの儲けを出してるんだ、信者さんからけっこう吸い上げているはずだ。
どんどんきな臭くなってきたが、ここまでは「普通の怪しい宗教団体」に留まっているとも言える。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、そのものそのまま淫魔が出るか。
僕は気を引き締めて歩みを進めた。
「あ」
「え……」
「へ?」
気合いを入れたはいいが、同じ信者さんとの顔合わせで、思わずあんぐりと口を開けてしまう。
そこにいたのは見知ったツインテールのスレンダー美少女。
鬼でも蛇でも淫魔でもなく、美桜さんが出た。
その隣には、春乃宮さんもいる。姉妹二人とも心光の癒しの信者さんらしい。
「な、なんで……」
動揺する美桜さんに気付き、案内してくれた眼鏡男性が不思議そうにしている。
何も言わないのもあれなので、僕から一応説明をしておく。
「お、同じ高校の、同学年です」
「そうでしたか、妙な偶然があるものですね。彼女たちは小野咲綾さん、小野美桜さん。姉妹で、ちょうど今日から入信したのですよ。では、皆さん修行を頑張ってください」
この場に取り残された僕たちは非常に気まずい心地だった。
美桜さんが周りに聞こえないよう、こそこそと僕に耳打ちをする。
「ねえ、なんでここにいんの?」
「え、あの、協会はどうせ行動が遅くなるだろうし、僕がやってやるぜ……みたいな?」
「いざって時の直人のアクティブさを忘れてた……。友達のためなら、飛び込むに決まってるじゃん……もぉ、私のバカ……」
何故か僕が向こう見ず扱いを受けている件について。
っていうか、思った以上に退魔巫女さんたちの動きが早かった。
お役所仕事な感じで一週間二週間と遅れるものだとばかり……。
「て、春……小野、さんも?」
「う、うん。色々あって」
たぶん退魔巫女側からは、二人での潜入調査が言い渡された、感じかな?
わちゃわちゃにぎやかな美桜さんより春乃宮さんの方が冷静そうだし、ストッパー役みたいな立ち位置なんだろう。
「じゃあ、しばらく……よろしく?」
「う、うん!」
春乃宮さんが力強く頷いた。
おお、やる気に満ち溢れている。
不安だったけど、二人がいるのは心強いかもしれない。