ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
学校ではキモブタと呼ばれてイジメられている僕は、偶然にも同級生の小野姉妹とハートフルな信仰宗教【心光の癒し】のビルで遭遇した。
現代社会に心を痛めた少女たちと、僕は偉大なる教祖様の下で修行に励む……。
ということになっています、はい。
教団の修行場は言葉面ほど厳ついモノではなかった。
ちょっとお高そうな絨毯を敷き、ソファーやテーブルなどが設置されたフリーな談話室。そこでまず信者さん同士で会話し、他人との接し方に慣れていく、という趣旨らしい。修行というか、引きこもり支援みたいな印象だ。
僕は六人掛けのテーブルに参加する。流れで美桜さん、春乃宮さんも同じ席に座った。
「では始めましょうか」
信者歴が長そうな三十代くらいの男性が音頭をとる。
ここで会うと思っていなかった僕たち三人は微妙に動揺している。
だけど、いつまでもまごまごして変な疑いを持たれても困る。まずは、僕から自己紹介をした。
だいたい入団の許可を得る時に行った内容と同じ。親がクソで学校でもイジメられて、という内容を、信者さんたちは穏やかに聞いてくれる。
……やだ、どうしよう。けっこう雰囲気も居心地もいい。
続いては、春乃宮さんだ。
「小野咲綾です。その、父に……むり、無理矢理。婚約者を決められて。その人が、すごく嫌な人で。傲慢で、最低な男性だったから。私はそれが嫌。家に居たら……その、なので。教団に助けを求めました」
春乃宮は有名な退魔の家柄なので、それを隠すための偽名だろう。
演技はたどたどしいけど、苦々しい表情は本物だ。まるで本当に性格が最悪な傲慢婚約者がいたかのような振る舞いだった。まるでっていうか、そのまんまです。
「小野美桜です。うちは旧家の、いいところみたいな感じなんです。それでさぁ、父親はお姉ちゃんばかりを可愛がって、私は下働き同然。でも婚約がダメになったら、今度は私を生贄にするみたいな流れになっちゃった。だから逃げたいなって気持ちでここを頼ったんですよね」
話聞いたら春乃宮パパさん最低やなって気持ちになる。
実際はお姉さんから婚約を申し出たらしいので、ちょっとかわいそうなポジションだ。
「そうか、姉妹ともに大変なんだね。家に居るのが辛いというのは、教祖様にもしっかり伝えておくよ。佐間くんも、学校で辛い時はいつでもここに来て欲しい。ここは、傷付いた人たちの心を癒す場所なんだ」
自己紹介の後も会話は続く。
信者さんの発言に下心は感じられない。普通の優しそうな人たちだ。
「小野さんの家も色々あるんだね。僕も、両親や兄さんとはうまくいってなくて、今一人暮らしなんだ。いやぁ、家庭の問題って、逃げ場がないから辛いよね」
「そう、そうなんだ。本当は、私だって嫌だったのに……」
僕の軽い身の上話に、春乃宮さんが合わせてくれる。
わりとスムーズに信者さん達とも交流ができていると思う。
談話室にはドリンクサーバーあるみたいだ。少し喉が渇いたし「なにか取ってこようか?」と聞いたら、春乃宮さんに止められた。
「ダメだよ、佐間くん」
いきなり声のトーンが変わった。
きょとんとする僕を、美桜さんが笑った。
「そうそう。ダイエットには、会話しながらのジュースは厳禁。気付かないうちに飲み過ぎちゃうでしょ? あんたも気をつけないと」
「そ、そういうものなの?」
戸惑う僕に美桜さんは笑顔のまま視線を送ってくる。
あ、これ、教団側の飲食物を不用意に飲むなってことか。素直に従って、当たり障りのない会話をして今日の修行は終わった。
※ ※ ※
翌日のお昼休み、僕は例の空き教室に呼び出された。
今回は椎名先生や美桜さんだけでなく、春乃宮さんの姿がある。
「ごめんね、佐間くん。さすがに、リーダーに何の報告もなし、っていうのは」
「それは仕方ないよ」
春乃宮さんが僕に関して椎名先生に報告したらしい。
美桜さんは「黙ってれば分かんないのに」と不満そう。でも僕は報連相を大事にするタイプなので、これに関しては春乃宮さんの味方だ。
そういえば、なんで彼女達は空き教室のカギを持っているんだろう。疑問をそのまま口に出すと、春乃宮さんが答えてくれた。
「この学校にも退魔協会……正確に言うと、夏雅城に関わりのある教師がいるの。だから、借りの拠点みたいな形で使わせて貰ってる。私の場合、刀の予備や呪具の類を置いてるよ」
「へえ、そうなんだ」
確かに、剣道部でもないのに刀の袋を持っていたら変か。
呪具っていえば、あの露出度すごい鋭角な巫女レオタードも霊力の籠った防具なんだよね。もしかしてここに隠しているんだろうか。
「佐間くん。事実ですが、それを口に出したら少し問題ですよ」
椎名先生に心を読まれたうえ、笑顔で釘を刺されました。
そりゃそうだ。同級生の女子のえっちな衣装の在処が気になった、なんて普通にドン引き案件である。
「というか、佐間くんが教団に入信したなんて。無茶をし過ぎではありませんか?」
「でも先生。あそこには、相沢くんの恋人がいるかもしれないんです。僕は少しでも情報が欲しくて……少しでも深く調べられるよう、教団の広報動画を作る約束を信者さんと交わしております。そこから教団幹部に切り込めればと」
「なんでしょう、この子の妙な根回し能力。大学教授の件、ありがとうございました」
「あ、いえいえ」
呆れられながらも感謝された。
でもね、先生の調べているのは見当はずれのところなんだよね。そんな文献いくら探しても、宝珠なんて出てこないぜぇ。ふふふ、残念だったね。
あれ僕、暗躍する謎の悪人みたいじゃない?
「退魔巫女は公的機関ではないので、あなたの行動を制限する権利も、罰則も与えられません。それでも教師としては、危ないから止めなさい、と言わせてください」
「椎名先生。僕、美桜さんからちょっと話聞いてますよ。もしもこの件が淫魔絡みじゃなかった場合、退魔協会の方針として退魔巫女は深入りできない……ですよね? たぶんだけど」
「う……正解、です」
美桜さんの話を総合すると、退魔協会って警察みたいな国家権力ではないけど、淫魔絡みならお目こぼししまっせ、くらいの組織なんだと思う。
となると、僕にとって問題になるのは、心光の癒しに淫魔が“関わってない”場合だ。
だって、淫魔の被害者なら助けてもらえるけど、単に宗教にハマった女の子は放置される可能性がある。
美桜さんや春乃宮さんが優しさから動こうとしても、踏み込み方によって犯罪になるケースだって考えられる。
その意味で、僕は相沢くんのためにも引けないのだ。
「僕が欲しいのは早瀬夏凛さんの情報だけです。淫魔が関わっていると分かったら、安心して美桜さんと春乃宮さんに任せます。その前段階までは、どうか。も、もちろん情報は共有させていただきますんで、なにとぞ……」
「痛いところを突いてからの交渉というのが、微妙にタチ悪いですね……。最初から引くとは思っていませんよ。咲綾さん、美桜さん。この子の面倒を見てあげてください。初日の時点で教団上層部への足掛かりを得ているのは、普通にありがたいです」
わりと利用できるものは利用するタイプなのか、椎名先生は僕のことを認めた……というより、黙認をしてくれた、という感じだ。
「ただし、情報を得たら撤退。これを守れるなら、です」
「もちろんです」
僕は全力で頷いた。
教室に戻る時は、同じクラスの春乃宮さんと二人きりになった。
普段は殆ど喋らないから空気が固い。でも、彼女の方から話しかけてくれた。
「な、なんだか懐かしい、ね?」
「懐かしい?」
「ほら、高校になってからは佐間くんといる機会、減ったから」
疎遠になってからけっこう経っている。高校になってからは夏雅城パイセンの婚約者だったし、僕の方から声をかけることができなくなった。
なのに、小学生の頃は喋ったこともなかった美桜さんと今は仲良くなってるんだから、縁って不思議なものだなぁと思う。
「そうだね。また、こうやって話せるなんて思ってもみなかったや」
「私もだよ。……あの、ね。先輩が、悪い噂を立ててるのに、止められなくてごめんなさい」
春乃宮さんは心底申し訳なさそうに俯く。
ああ、そう言えばそんなこともあったっけ。
「いやいや、全然気にしてないから大丈夫」
「本当は、もっと早く謝るべきだったの。なのに、出来なかった。先輩といっしょに苦しめた私が、どの面下げて話しかけられるのかって」
ちょっと重く考え過ぎじゃないですかね。
実は僕からすると、悪評はそんなにダメージがない。何故なら、アレがなくても結構頻繁に悪口は言われてるからだ。
配信者とか調子にのんな、はバニラ・ストロベリー並みに定番のフレーズです。
「ほんと、そんな深く考えんでもろて? キモブタ呼ばわりがスタンダードな僕にとって、多少の罵倒は喉元過ぎて熱さを忘れて余熱でカラッととんかつが揚がる程度のもの。嫌なことがあっても過ぎ去れば美味しい動画のネタになるの精神です」
ムカついたのはどっちかって言うと、パイセンの美桜さんへの態度の方だし。
「それでも、謝らせて。お詫びだってしたい」
「うーん。あ、じゃあ早瀬さんが見つかったら、皆で美味しいモノを食べる的なのは? 春乃宮さんの奢りって形で、ごめんなさいは終了にしとこうよ」
「それで、いいの?」
「ただし、僕はめっちゃ食べるからね。遠慮せずにいかせていただきやす」
明確な罰っぽいのがあった方が、春乃宮さんも納得しやすいだろうしね。
「……わかった。ありがとう、佐間くん」
ちょっとあからさま過ぎたか、こちらの意図をくみ取って春乃宮さんが微笑む。
あの頃とは違う、優しいまなざしだった。
※ ※ ※
「退魔巫女たちと行動すると、私があんまり表立って動けないんですよね」
手乗りサナちゃんはちょっと不満そうな顔をしている。
一応、教団にもついてきてもらっているんだけど、姉妹と合流する前に離れるのでほとんど一緒にはいない。
「でも、手乗りサナちゃんがいてくれると心強いよ」
「地味に私のあしらい方うまくなってないです?」
「そんなつもりはないけど……」
言いつつ指で猫をじゃらすようにすると、なんだかんだノッてくれる。
いい感じに肩の力が抜けた。今日も教団での修行を頑張ろう。
初日以外は、美桜さんは別行動。教団の暗部を探ろうと、不幸な少女として様々な人と接触している。
代わりに、春乃宮さんが護衛がてら僕の傍にいることが多い。
「ごめんね、なんだか迷惑をかけちゃって」
「そんなこと、全然ないよ。むしろ嬉しいくらい」
僕に気を遣わせないためか、おおげさな物言いだった。
そうして修行という名の信者さんとの会話を続けるうちに進展があった。
「僕、実は、いじめっ子の不良に、好きな子を奪われて……」
何度も愚痴を零していると、なんと早瀬夏凛さんについて知っている信者さんにぶち当たった。
こんなに早く成果を得られるとは。
「彼女なら、この教団にいたはずだよ。ご両親と上手くいってなくて、共同住居に入ったそうでね」
「そ、そうなんですか! ちなみに、そこの場所って」
「あー、虐待する両親への対策で、住所は公開していないんだ」
くそ、でも夏凛さんがいるのは間違いない。
どうにか施設の場所を探し出せれば。
そんなこんなで修行三日目、事態は動きを見せた。
視察と言うことで教祖様がやってきたのだ。
僕たちは講堂に集められ、貴きお方の有難いお言葉を賜る。
「ぐひぃ。現代社会は荒波、晒されるあなた達は傷つき、溺れてしまう者もいることでしょぉ」
白を基調とした司祭の装束みたいなのを着た教祖様は、ぶっちゃけデブのおじさんだった。
同時にブサイクで、更にはアブラギッシュでもあった。美桜さんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
でも他の信者さんは、心酔しているのか恍惚とした目を教祖様に向けている。
「争い、奪い合うのではありません。善意からの奉仕活動こそが、心を癒すのです」
「“私はあなた達をとても大切に思っています”。あなたたちは“私を父のように。無条件に愛を注ぐ、親のように思ってください”。」
「そして、私は神の代弁者。“私に奉仕することはもっとも大切な修行”なのです。それは、傷付いた心を癒すことに繋がります」
「どうか、心の光による癒しを、ゆめゆめ忘れぬよう修行に励んでくださいねぇ」
言ってることは大したことがない。
なのに講堂には割れんばかりの拍手が包まれた。
なんだこれ、ちょっと雰囲気が異様なんだけど。
「ふぅん。教祖って言うから警戒してたけど、懐が広そうな。なんか優しそうなイケオジじゃん」
先程までは嫌そうな顔をしていたのに、最終的には高評価だったのか、美桜さんはちょっと面白そうに笑っていた。
隣にいる春乃宮さんもそれほど嫌悪感を抱いていないようだ。
「うん、そうだね。もっと分かりやすい悪人を想像してた。少なくとも、信者を大切に思っているのは本当みたい」
「だね。奉仕かぁ。それが修行……って、なに、これ!?」
美桜さんはのんびり話してたのに、何故か急に顔をしかめた。
遅れて春乃宮さんも、驚いて口元に手を当てる。
「直人、大丈夫っ?」
「え、なにが? ……って、あれ? 頭が、なんかくらっ、と?」
美桜さんが僕の表情を覗き見る。
ちなみに頭がくらっとしたというのは嘘。退魔巫女姉妹が異常を感知したっぽいので、何か意味があると思って演技しただけだ。
それは正解だったらしい。
「やっぱり。あの教祖には、あんまり近付かない方がいいみたいね」
よく分からない。
でも姉妹が信者に声をかけられて少し離れたタイミングで、手乗りサナちゃんが説明してくれた。
「教祖の言葉、すっごく弱いですけど、発情の魔眼に近い精神干渉です」
サナちゃんとの契約のおかげで僕はレジストできたけど、状況的にはヤバかったみたいだ。
美桜さん達も違和感を察知したのだろう。二人は鋭い目で、祭壇の前で手を振る教祖様を射抜いていた。
* * *
講堂で、姉妹は教祖の側近らしき信者に呼び出された。
二十四、五歳の女性で、穏やかで優しそうな美人だ。
別室に案内され、開口一番その女性は、心底嬉しそうに告げた。
「おめでとうございます、小野さん! 教祖様のお言葉により、小野さんも共同施設への入居の許しが出ましたよ!」