ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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たぶん望まれてない主人公の登場

 

 春乃宮咲綾が退魔巫女になった理由はいくつかある。

 四季家の一角としての責務。家族や友人、大切な人々を守りたいという気持ち。

 人を堕落させる淫魔に対する義憤や、市民の安寧に純粋な正義感などが絡み合っている。

 直人のために頑張ろうと思っても、失策で被害が広がることを考えれば、まず準備をと考えてしまう。

 

 それを「友達じゃないから」と判断されたのが悔しかった。

 結局、あの後もう一度美桜と話し合い、教団の信者と連絡を取り、咲綾は先んじて共同生活施設に向かった。

 アイマスクを付けたまま咲綾は車に揺られている。

 共同施設の場所を知られるのはよくないらしい。一応、協会支給のスマホには発信機があるため、咲綾の位置を把握できるようになっている。

 もっとも、『あの優しそうな教祖の言葉ならある程度信用できるし』、移動中に問題は起こらないはずだ。

 

 おそらく教祖は普通の人間(・・・・・)。しかし、教団の裏にはおそらく淫魔の影がある。それも五大淫魔クラスの、強大な。

 それを考えれば教祖を縛り上げれば終わり、とはいかない。

 虎口に飛び込み、最低限淫魔との繋がりを掴まなければ。

 

「ここが……」

 

 到着し、共同施設の中に入ってからようやくアイマスクが外された。

 一瞬眩しさに瞼を閉じるが、慣れてきて目を見開き咲綾は唖然とする。

 その内装は名前の響きとは裏腹に富豪の住んでいそうな、赤い絨毯に高級そうな調度品、きらびやかなシャンデリアと、分かりやすい豪邸だった。

 案内の信者いわく、バルコニー付きの洋館らしい。

 

「小野さんは、婚約から逃げるため、別の住居を探していると聞きました。ここで、まずは落ち着いた暮らしをしながら、修行に励んでいただきたいのです」

「わかりました。あの、教祖様は、ここに来られるのでしょうか?」

「はい。皆様が心健やかに過ごせるよう心を砕き、修行も見てくださっています」

 

 総本部よりもこちらをメインに活動している。

 ならば、淫魔の尻尾も掴めるかもしれない。

 

「では、ここでは先達の信者に、生活のルールを教えてもらってください」

「あ、なになにー。新人さん?」

 

 話をしていると、信者にしては派手な容姿をした女の子が話しかけてきた。

 年齢は咲綾と同じ高校生くらい。髪を明るいピンクに染めて、ネイルをばっちり決めた、身長の高い美少女だった。

 彼女の着ている服は、白色の変形の修道服。ただスリットが深く、背中と腋の布地がなく、谷間を惜しげもなく晒している。

 

早瀬夏凛(はやせ・かりん)でーす、よろしくねー」

 

 露出度の高い服装に関してはあまり気にしていないのか、かなり明るく軽いノリだ。

 名前は、美桜から聞いている。この子が、同じクラスの相沢竜太の恋人。

 知らず手に力が籠った。直人のことは置いておいても、助けないといけない。

 

「はい、小野咲綾です。よろしくお願いします」

「数日だけど、あーしが先輩だからそこんとこよろしく。でも敬語とかは全然ナシでいーよ」

 

 楽しそうにはしゃいでいる夏凛の隣では、生真面目そうなメガネの女性信者が溜息を吐いている。

 おそらく彼女が説明役の信者なのだろう。

 

「……早瀬さん。貴女もまだ、施設について学んでいる最中。あまり気を逸らしてはいけませんよ」

「うぃっす。教官さん」

「教官じゃありません」

 

 少し呆れ気味に叱責するが、夏凛はあまり堪えていないようだ。

 メガネの女性は、今度は咲綾の方に向き直る。

 

「初めまして、小野咲綾さん。ここで共同生活をしている人はそう多くないため、私があなたの担当も務めさせていただきます。お部屋は、早瀬さんと同じになります。細かい生活に関しては……彼女を、半分くらい頼りにしてください」

「お? 教官さんひどくない?」

「修行では、教祖様自ら指導してくださるので、しっかりと励みましょう。今日は初日ですが、ちょうど私の特別修業があります。教祖様から、見学の許しを得ていますので、是非」

「しかも無視ー?」

 

 夏凛の扱いはそれほど良くないらしかった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 まず初めに出た指示は、シャワーで汗を流し衣装を着替えること。

 用意された服は、夏凛の着ていた過度な露出の修道服だった。

 

「こ、これ、恥ずかしい……」

 

 布地が極端に少ないせいで、もともとスタイルのいい咲綾だと色々零れそうになってしまう。

 しかし、今は我慢だ。

 咲綾がするべきは教祖を操っているだろう淫魔を明らかにし、夏凛を助けること。

 そのためには今は大人しくしている方が得策だ。

 

「お、キタキタ」

 

 廊下に戻ると、別の場所でシャワーを済ませた夏凛が待っていた。

 頬が赤く染まっており、少し乱れた息が妙に色っぽい。

 

「うぉ、咲綾ちゃん、胸めっちゃすっごいね」

「あ、あんまり見ないでいただけると……」

 

 夏凛に付き従う形で咲綾は廊下を歩く。

 初対面なのに、彼女は途切れずに話しかけてくる。

 

「あーしもぁ、両親と上手くいってなくて。んで、ここの修行をーな流れ。家賃ナシで住めるから飛びついた説あるけどねー」

 

 ケラケラと笑う夏凛に悲壮感はない。

 

「咲綾ちゃんも?」

「うん、お父さんと色々。あと、妹とも、仲が良くなくて」

「うぁ、やだなぁ。姉妹でのウダウダも」

 

 部屋まで案内しがてら、夏凛は共同施設の生活について大まかにだが説明をしてくれた。

 

「基本は、学生寮みたいな感じかなー。基本は二人一部屋。起床はいつでもいいけど、朝食の時間が7時~9時なんで注意。ご飯作んのは持ち回りね。10時から信者同士の交流の修行。でも一日に数名、特別に教祖様が直々に見てくれんの」

 

 そこまで話したところで、メガネの女性と合流し、教主の部屋に向かう。

 重厚な木製の扉を開いた先は、礼拝堂のような作りの部屋だった。

 しかし神を祀っているわけではなく、奥の祭壇には女神に蛇が絡み付いたよく分からない像がある。

 蠟燭や祭器などは見当たらず、代わりに大きなハート形のベッドが設置されていた。

 

「ぐひっ、ぐひぃ。いやぁ、待っていたよ。おや、夏凛くん。そして、新しく入団した、咲綾くん、だったねぇ? ゆっくり見学していってくれたまえぇ」

 

 教祖は、上半身裸で待っていた。

 ベッドに腰を下ろし、にたりと好色そうな視線を向ける。

 太った中年男性。しかも顔は醜く、肌が脂ぎっており体毛も濃い。

 しかし咲綾は、あまり嫌悪感を抱かなかった。むしろ父親のような親しみさえ覚える。

 

「この現代社会で傷ついた心を癒すのは、争いでも奪うことでもなく、与え、奉仕すること。“『心光の癒し』の修行は、君達が健やかに日々を暮していくためにある”のだよぉ。分かるね?」

「はい、もちろんです」

 

 眼鏡の女性が、目配せ一つでベッドに向かう。

 雰囲気で分かる。奉仕というのは、性的な意味だ。

 咲綾は思わず「な、なにをっ!?」と声を出してしまった。

 しかし肝心の女性はもちろん、夏凛もきょとんとしている。

 

「咲綾ちゃん、どしたん?」

「え、だ、だって、え?」

 

 むしろ自分の方がおかしいような反応だ。

 しかし教祖は優しい態度を崩さない。

 

「彼女は真面目に修業に励んでいるだけ、そうだろぉ?」

「もちろんです」

「夏凛くんとて、ご両親に疎んじられて、とても傷付いていた。しかし、“私に奉仕することで、君は癒される”のだよ」

「しゃっす。その通りでーす」

 

 目上の人に対する言葉づかいではないが、意外と心が広いのか教祖はそれを認めている。

 この場で咲綾以外は、現状を受け入れている。

 なのに、なんだろうこの違和感は。

 

「で、でも、こういう。ベッドとか、あきらかに……」

「いやいや、君は何か勘違いをしている、私は心から、“社会に傷つけられた人々のことを憂えている”」

 

 それは、事実なのかもしれない。

 教祖の発言にはそう思わせるだけの説得力があった。

 

「ぐひっ。なによりぃ、私は奉仕されるだけでなく、教団の長としてぇ、君達に奉仕する覚悟も持ち合わせているんだぁ。そう、これはあくまでも修行。“戸惑うほどのことじゃない”だろうぉ?」

「え、あ、……確かに、そうかも知れま、せんが」

「ふむ、まだか(・・・)。考えてみれば施設に着いたばかり。早急に事を進め過ぎたようだ。済まなかったなぁ。だが君も、“初日から騒ぎを起こすのは本意じゃない”と思う。今日の見学はなしにして、一晩休むのはどうだろぉ?」

「は、はい。騒いで、申し訳、ありません……?」

 

 考えてみれば教祖に警戒されるわけにはいかない。

 ここは素直に従う方がいい。

 咲綾は、夏凛と一緒に部屋を後にすることになった。

 

「我が神、デートラヘレの祝福あれ」

 

 去り際に呟いた声は小さすぎて聞き取れなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 スマホは持ち込めた。

 この屋敷の場所は、椎名先生の方に伝わっている。

 食事に関しても薬師に頼んで解毒剤、媚薬の中和剤、体内に入り込んで操作してくるタイプの淫蟲を殺す虫下しも用意してある。

 教祖のいた祭壇には薄くではあるが媚香の類が焚かれていた。それに、屋敷の中に入ると、微妙な魔力の痕跡があった。ここは明確に淫魔の影響下にある。

 長居はしたくない。しかし夏凛と、淫魔に利用されているであろう教祖は助けてあげたい。

 

「でね、咲綾ちゃん。お昼をとったら館内清掃、これも修行だかんね。けっこう広いからマジ大変なんよね。夕食もやっぱ信者で作って、夜にはまた選ばれた人だけ、教祖様に修行を見てもらう。けっこー、のんびりっしょ?」

 

 それはつまり、幹部や教祖に性的な奉仕活動を行うということ。

 違和感のあるこの状況を、夏凛は普通に受け入れてしまっている。

 

「あの、夏凛さん」

「んー?」

「修行って、ああいう、ことなんですか?」

「だよー。一人で何人も相手してんの。あーしも鬱ってたとこ救われたし、やっぱ教祖様はすごいよ」

 

 あの行為が異常だとは分かっている。 

 でも修行だから、癒しを求めて、彼女は奉仕活動を肯定する。

 おかしい。なのに、説き伏せる言葉を咲綾は持たなかった。

 

「……夏凛さんは、恋人が。いたり、したんじゃ?」

「え、話したっけ? うん、いるよー。でも……あれ、カレシが、いて。でも、教祖様は、頼りになって。抱きしめられると、すごく、安心するんだぁ……。なんでだろ」

 

 本人も今一つ自分が何を言っているか理解出ていない様子だ。

 

「あの、いっしょに、帰ろうって言ったら……」

「えー、やめてよムリムリ! ここ、すごく安心する。帰りたくないよ……」

 

 夏凛は困ったような寂しそうな、ひどく頼りない表情をしていた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 一晩を施設で過ごし、朝になると女性信者からお風呂を勧められた。

 案内されたのは、昨日使ったシャワールームよりも広い、磨かれた大理石の浴場だった。

 溜められたお湯に触れてみる。媚薬ではないようだ。

 今日の昼から、教祖直々に咲綾に修行をつけてくださると連絡が入った。そのため、念入りにカラダを清めておくように、とのことだ。

 途中で女性信者が二人浴室に来て、咲綾の入浴を手伝う徹底ぶり。同性相手とはいえ裸を見られた上、手ずから体を洗われた。恥ずかしさに顔が熱くなる。 

 露出度の高い修道服姿に戻り、再度教祖のいる祭壇に。

 

「うむうむ。咲綾くん。今日は、君の修行をしようと思う。“教祖に直接指導してもらうのは、とても光栄なこと”なんだよぉ?」

 

 きゅうっ、と胸が締め付けられる。

 一歩を踏み込む。部屋には蠱惑的な甘い香りで満ちていた。

 

「さあ、ベッドに。“これは大切な修行”だ」

 

 その言葉に誘われて、ふらふらと幽鬼のように歩みを進める。

 しかしその途中で立ち止まった。

 

「私は、スマホを、もってきました」

「うむ?」

「美桜と、ケンカはしたけど。意地で、敵地に踏み込むほど、迂闊になれません」

 

 ぶつけた言葉は紛れもなく本物。

 それでも、私情で任務をむちゃくちゃにするのは、春乃宮に許された行いではない。

 だからあの後話して、仲直りは出来なかったが、任務ではお互いサポートし合うと約束した。

 美桜の方も「……うん。ムカつくのはムカつく。でも、いがみ合って淫魔を討ち漏らすのはもっとイヤ」と受け入れた。

 共同生活施設に単独で来たのは咲綾の暴走ではなく、美桜も知ってのことだ。

 

「教祖様が、どこまで、関わってるのかは、わからなかった。分からないくらい、私は、今たぶん。精神干渉を受けてる……。この現状が、証拠に、なる」

 

 妹より能力の劣る咲綾では、全てを看破することはできない。

 淫魔の仕業か、教祖が外法術師なのか。どういった魔術を使われたのか、まるで分らないままだ。

 けれど状況証拠からの推測ならできる。

 

「教祖様は、外法術師……。あなたが、なにか、魔術を、私にかけた……」

 

 この屋敷では、女性信者を集めて、淫魔が何かを企んでいる。

 その場所を退魔協会に知らせることができれば十分。

 妹と言い争った。直人を大切に思っていないように言われた。頭に血は登ったが、無謀な行動に出るほど考えなしになれなかった。

 そんな咲綾が選んだのは「単身共同施設に乗り込み、自身は精神干渉を受ける。しかしより実力の高い妹が後詰として、警戒及び対策をもって行動できる状況を調える」こと。

 つまりは、体を張って相手の手札を暴く。それが咲綾に出来る最大限のワガママだった。

 

「美桜たちが、ここに来る……。私は、ただの目印」

「なるほど、咲綾くんは協会の退魔巫女か」

 

 しかし教祖はにたりと笑う。

 

「だがねぇ、機械に出来ることは、金さえかければ機械で対策ができる。ここの信者は、皆見目麗しいのだ。企業のお偉方に接待をさせれば、色々優遇してもらえる。たとえば、位置情報を把握させないよう、この屋敷に特注の機械を設置したり、ねぇ?」

「……え?」

「霊力を追おうにも、結界が張られている。気付きもしなかったろう? なにせ、五大淫魔の一角が張った特別なものだぁ。まさに、デートラヘレさまの加護よ」

 

 事前に対策済み。

 呆然とする咲綾に、教祖は好色な視線を送る。

 

「淫魔の力で、無理矢理女の子を? それに、接待って」

「私は、“現代社会に疲れた人々を癒しているだけ”。そして居場所を持たない女性に、役立てる場所を作ってあげているだけぇ。もっとも、お礼金程度は、企業から貰っているがねぇ?」

「そんな、こと、許される、わけが……」

「だが、君だって、妹とは折り合いがつかないのだろぉ?」

 

 その言葉に、一瞬思考が止まってしまった。

 

「今の話しぶり、“妹のことが苦手”だろぉ? 仲良くないのかぁ。“だが、私なら君を安心させてあげられる”ぞぉ。“抱きしめられたら心が安らぐ”んじゃないかなぁ?」

「あ、やめ、て……!?」

 

 変な考えが浮かんでくる。

 魔力による強制的な発情で、媚薬でも洗脳でも、常識改変でもない。

 力としてはもっと弱い。教祖の使う魔術は『思考誘導』……言ってみれば「なんとなくそんな気がする」と思わせる魔術だ。

 だから教祖に何かを言われると、「確かに」と思えてしまう。

 

「あくまで修行、不埒な行いではない。“修行なら、先達の言うことは従った方がいい”と思わないかぁ? “教祖にカラダを許すのは何もおかしくない”。“抱かれたなら、心がすっと楽になる”ぞぉ?」

 

 霊力を高め、意識を強く持つ。

 なのに、抗い切れない。舐めていた。教祖の外法術師としての実力は、並みではなかった。

 なにより、教祖の言葉に間違いはない。

 

 だって、苦しかったのだ。 

 美桜ばかり才能があって、美桜ばかり自由に振る舞って。

 美桜ばかり……なおとくんと、お昼ごはんを食べて。

 自分は話す事さえできないのに、教室で仲良くしている様を見せつけられた。

 それがどれだけ辛かったことか。

 

 だから抗う気力が奪われる。

 本当に、教祖様にこの身を委ねれば、救われるのだろうか。

 魔術の影響下にあると理解しながらも心が揺らぐ。

 だって、魔術に関係なく、教祖様は素敵で包容力のある男性だ。抱きしめられることも……違う、そう考えてしまうこと自体が罠だ。

 唇を噛んで、必死に耐える。耐えて、耐えて。それでも心が折れそうになったその時。

 

「だっしゃおらぁぁぁぁぁ!?」

 

 まるで相撲のぶちかましだ。

 謎の叫び声をあげて、黒い外套に身を包んだ仮面の男が部屋に飛び込んできた。

 その声が、なんだかほっとする響きをしていたから、そのまま咲綾は気を失った。

 

 

 

 

 

 

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