ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
ワイドショーではカルト教団【心光の癒し】が起こした少女監禁事件について、連日取り上げている。
これまで教団に好意的だったコメンテーターが掌返したように苦言を呈しているあたり、タチの悪さじゃ芸能界も似たり寄ったりだなぁと思わなくもない。
テレビを見る僕の膝には、当たり前のように今回の功労者、ひーちゃんがいます。
「どしたの、おにーさん」
「あ、いや、なんでも」
とろんと瞼の落ちた眠たそうな表情。肩にかかる薄紫の髪。褐色の肌が妙に色っぽく見える。
ひーちゃんは身長こそサナちゃんとほとんど変わらないけれど、体格に反して胸はかなりある。契約のためとはいえキスをしたせいか、妙に意識してしまう。
でもこの子自身は、以前とそれほど態度が変わらない。
ただ、スキンシップは増えたように思う。
「おにーさんは、不快害虫って知ってる?」
テレビを見ながら、ひーちゃんが淡々とした調子で言う。
不快害虫というのは、明確な定義はないけれど、外見がキモいからいるだけで不快、存在そのものが有害と思われてしまう虫の総称である。
「私は、そういうもの。蟲魔ヒラルス・ラールアは、美しい大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィスとは違う。奪魔や触魔と同じ、化物側の存在として五大淫魔に数えられた」
サナちゃんは美しい姿を晒し、えっちな魔術を使って男から魔力を奪う。
それに比べたら淫蟲による陵辱は、確かに分類としては触手の方が近いのかもしれない。
「蟲は嫌われるものだから。誰かのお膝でゲームしたのも、お土産買ってきてもらったのも初めて。淫蟲を見ても態度を変えなかった人も初めてだった」
「あ、いや、だって淫蟲はひーちゃん製だし。外見は怖いけど、そんな騒ぐものでも。というか、僕だいぶ助けられてるからむしろ淫蟲さまさま佐間的な」
「そういう、おにーさんとなら。契約は、そんな嫌じゃない」
僕としては特別なことはなにもないつもりだったけど、この子にとっては嬉しいポイントだったらしい。
ひーちゃんは大きくあくびをして、僕にもたれかかる。
「ひー専用くっしょん……」
僕のお腹の脂肪でも、気に入ってもらえるなら嬉しい。
そういえば、契約したからまた称号が変化しているはず。僕は頭に現在のステータスを思い浮かべる。
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【淫魔っ子たちのお兄ちゃん的なキモブタ】佐間直人
<魂霊契約>
・大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。
・蟲魔ヒラルス・ラールア
<所有スキル>
・堕淫魔術:★★☆☆☆
・淫蟲創造:★★☆☆☆
・手乗りサナちゃん:★★★☆☆
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称号は、サナちゃん達のお兄ちゃん扱い。
淫魔の主なんてガラじゃないし、こんなもんだろう。
「ひーちゃん、本当にナオトくんと仲良くなりましたね」
「うん。さーちゃんも、おにーさんと仲良し」
「疑問じゃなく断定なんですね。でも、うん、はいです」
ちょっと照れた風にサナちゃんが微笑む。
この子は、僕にとっては恩キュバスだ。銀髪赤目のロリ淫魔、彼女に出会って僕の人生は明確に変わった。それもいい方に。
「ささ、じゃあナオトくん。お買い物に行きましょう」
普段から美少女なサナちゃんだけど、最近はおしゃれに磨きがかかっている。
男たちの絶頂により魔力に余裕ができたため、服を自分で作れるようになったからだ。
今日はカジュアルな感じにまとめたカワイイ系。買い物って言っても夕食の食材を求めて商店街に行くだけなのに、すごく楽しそうだった。
「ひーちゃんは、どうします?」
「私も行く……」
お、インドア派なこの子には珍しい。
なお外出する際も裸パーカーな、自然派スタイル・ひーちゃんです。
「では、サナちゃん、ひーちゃん。準備はいいですか?」
「はい。魔力隠蔽、認識阻害、ともに完璧です」
「マイバック、持った」
「僕もお財布持ちました。じゃあ行こうか」
うちの淫魔っ子は環境意識もばっちりだ。
靴を履くためにかがむと、サナちゃんが僕の首筋をじーっと見ている。
「あ、首のところ。虫刺されがありますよ」
「あれ、またか」
僕の首元と胸元には数か所、虫刺されっぽい赤い跡がある。
暖かくなってきたからか、寝て起きるとこうなっていることが多い。
蚊取り線香とか設置型殺虫剤はあんまり置きたくないし、痒みもないからそのままにしている。
「痒み止めの塗り薬、買っておきましょうか?」
「夏用に必要かもね。スーッとするやつ」
「は、ハチミツとかの方が、ひーはいいと思ぅ……」
「ひーちゃんってば、ハチミツじゃ赤みは治まりませんよ」
サナちゃんは優しく微笑む。
皆で笑い合いながらお買い物。
こんな贅沢な夕暮れ時、そうそうあるものじゃないだろう。
* * *
……僕は忘れていたのだ。
状況が上手く回り油断している時にこそ、致命的な罠に引っかかる危険があるのだと。
警戒すべきは、退魔巫女だけではないということを、僕はすっかり忘れていた。
隠蔽はばっちり、大手を振って商店街を歩く。
いえ、右手はサナちゃんと繋ぎ、左手はひーちゃんと繋いでいるので手を振ることはできませんが。
「おー、サナちゃん。今日は佐間くんとお買い物? おや、見ない顔がいるね」
「はい。ええと、ひーちゃんです。この子もナオトくんの親戚なんですよー」
「はー、この子も佐間くんに似なくてよかったなぁ」
とっても失礼なことを言われてますが、同意できるので反論はありません。
いつの間にかサナちゃんが、商店街のアイドルみたくなってる。
歩いていると店屋のおじさんおばさんに高頻度で声をかけられ、時々「味見してく?」なんて勧められるくらいだ。
「大きくなったらウチの
「あはは、だめでーす」
どう見ても小学生なのに、なんという誘いを。
でもサナちゃんは僕の足にぎゅっと抱き着いて、それを軽く否定する。
なぜかひーちゃんも同じように抱き着き、「ほんと仲いいねぇ」とお店のおじさんにからかわれてしまった。
「いっしょにお買い物ー」
鼻歌混じりのサナちゃんとお店で品物選び。
時々テンションが上がると、繋いだ手を大きく振ったりする。
こういうところは本当に子供みたいだ。
「いつもはひーちゃんとゲームが多いし、もっとサナちゃんと買い物来ないとね」
「私もナオトくんとお料理したり、ちゃんと楽しんでますよ?」
あんまり無理して気遣わなくてもいいですからね、と暗に言ってくれる。
でもシンプルにサナちゃんとも時間を過ごしたいだけなのです。
「夕食何食べたい?」
「うーん……鶏肉のソテー的ななにかを」
「じゃあそれで。サラダ、手伝ってもらって良い?」
「もちろんですっ」
嬉しそうに笑うサナちゃん。
でもひーちゃんの方はちょっと顔をしかめた。
「生野菜、好きじゃない……」
「え、しゃきしゃきサッパリ美味しいですよ? でも苦手なら、世の中にはパインサラダやヨーグルトサラダなるものがあると聞きました」
「おお、それなら私もいけそう」
あれこれ喋りながら肉屋さん、八百屋さんを仲良く覗く。
その時だった。
「はうわっ、はぁ!? かわ、かわ、かわわっ!?」
謎の奇声に振り返ると、同じクラス男子三人組がいた。
勉強も運動も卒なくこなす短髪爽やか系
時々春乃宮さん(の胸に)視線を送っている
萌えロリアニメ好きのぽっちゃり系・
ほとんど話さない相手で、友達というほど親しくはないけど、いじめてくるほど攻撃的でもない。関係性が希薄で、声をかけられるとも思っていなかった程度の間柄だ。
「やめろ、桃・痴漢太郎。変な声出すな」
「百地貫太郎だけど!?」
妙なテンションの百地くんを只野くんが抑えている。
だけど近藤くんもなにか変な顔をしていた。
「よ、よう、佐間」
「あれ、近藤、くん?」
「お、おお」
向こうも距離感微妙という自覚はあるようだ。
そもそも、偶然会っても挨拶するような仲でもないのにどうしたんだろ?
……なんて思っていたら、男子三人組の視線は僕の手と、隣にいるサナちゃん・ひーちゃんに注がれていた。
しまった、そりゃそうだよ!?
クラスのキモブタが、ちっちゃくてかわいい女の子達とお手々繋いで買い出しなんてしてたら気になって当然じゃないか。
事実、三人は完全にうさん臭いものを見る目だった。
「ナオトくんナオトくん、この三人はクラスの?」
サナちゃんの態度からムリヤリとかじゃないのは察したみたい。
ていうかこの人たち、僕が誘拐やらかしたとか考えてたな? ものすごく失敬な話である。
しかしまだ完全に疑いは晴れていないらしく、探るように話しかけてきた。
「佐間、その子たちは、妹とかか?」
「そうじゃないんだけど……なんというか、難しい関係というか」
僕がまごついていると、ひーちゃんが平然と答えた。
「私は、おにーさんと魂れ」
「わーっ、ひーちゃんストップです!?」
「むぐ」
寸前のところでサナちゃんが両手口を塞いだ。
外法術師最大の奥義の名がこんなところで垂れ流されるところだった……。
こほん、と咳払い。サナちゃんが代わりに軌道修正をして言葉を続ける。
「私たちは、ナオトくんと……こんれ、婚礼の約束をー、した、仲です」
「ぷはっ。そう、
結果、もっとヤバい言葉が出てきました。
婚礼契約サナちゃんひーちゃんです。
ちっちゃいかわいい女の子とデブが結婚の約束をしている、この犯罪臭よ。
「はっ!? あっ、ああっ!?」
「やばい、ウチの
慌てる只野くんを尻目に、「じゃあ僕たちはこれで!」と一気に逃走。
その場はどうにか逃げ切ることができた。
退魔巫女だけじゃない。僕たちには、世間体という敵がいたことを、僕はすっかり忘れていた。
後日、学校では一つの噂が流れるようになった。
『佐間直人はロリコンであり、複数の美幼女と婚約しており、さらにはいかがわしいことをしているのかもしれない』
という、根も葉もない噂が。