ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

28 / 76
それもたぶん得難き日々ではあるとかないとか

 

 

 

 

 教団関連がひと段落ついた頃を見計らって、僕は春乃宮姉妹をマンションに招待した。

 淫魔の主が僕だとバレたけど、彼女達は協会に報告せず秘密を守ってくれている。

 ならもう、うちの淫魔っ子たちを紹介してしまおうということになった。

 

「ねえ、お姉ちゃん? 菓子折りはおかしくない?」

「え? 友達の家に行く時は、おみやげにお菓子は普通じゃない、かな?」

「私だってコンビニでいろいろ買ったり、ケーキ買ってったりはするよ? だけど、同級生の家に行くのに有名店の贈答用お菓子詰め合わせ(8980円)は気合いが入り過ぎてるって言ってんの」

「そ、そう、なの……?」

  

 なお、僕の家に来るまでにそんなやりとりがあったそうです。

 春乃宮さんは真面目で穏やかだけど、引っ込み思案なところがある。小学生の頃から退魔巫女の修行を始めて、そのうちに夏雅城パイセンが決まって、同性異性問わずほとんど友達がいなかったそうだ。なので微妙にコミュニケーション能力に拙さがあるらしい。

 逆に、美桜さんはわりと要領がいいタイプで修業全力遊びも全力、クラスにも友達が多い。

 こういう細かいところでも、微妙に噛み合わない姉妹だった。

 

「来たよー」

「おじゃっ、おじゃまっ、しし、ますっ」

 

 どちらが美桜さんでどちらが春乃宮さんかは言わないでおこう。

 いらっしゃいませ、と案内をする。二人は少し緊張しているように見える。

 退魔巫女の天敵たる淫魔との邂逅だ。相応の警戒心はあるのだろう。

 部屋では既にサナちゃんとひーちゃんがスタンバっていた。

 

「いらっしゃいませ、春乃宮の姉妹さんたち。私は五大淫魔が一柱、大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス……。熱と雷の魔術を操り、数多のエクソシストを震え上がらせた上級種にして、好きな食べ物はオムライスです」

 

 銀髪赤目の幼いサキュバスは、白ワンピースの端を摘まんで、キレイなカーテシーを披露する。

 なんでオムライス好きを伝えたの?

 

「五大淫魔が一柱、蟲魔ヒラルス・ラールア。果物が好きだけどホットケーキには飾らないタイプ。メープルシロップよりバターなしのハチミツ派……」

 

 ひーちゃんに至ってはホットケーキの好み以外の情報がほとんどない。

 姉妹は言うまでもなく唖然としていた。

 

「ええと、佐間くん。……五大淫魔?」

「五大淫魔です」

「サーナーティオ? あの、妖艶な女サキュバス?」

「うん、あってます」

「えぇ……」

 

 そういえば、退魔巫女の前に姿を現した時は幻影のせくしーサナちゃんモードだったっけ。

 戸惑う春乃宮さんにそれを伝えると、「な、なるほど……」とどうにか納得はしてくれた。 

 

「よろしくお願いします、美桜さん、咲綾さん。あ、呼びにくかったらサナちゃんでいいですよ。封印されていたところをナオトくんに助けられ、こうして一緒に暮らしています」

「僕が病気で倒れた時に命を救ってくれた恩キュバスなんだ。それにすっごくいい子で、お風呂洗ってくれたり消耗品の買い出しをしてくれたり、僕も凄く助けられてる」

 

 サナちゃんのことを紹介したら、春乃宮さんから「まず恩キュバスってなに……?」というツッコミが入ってしまった。

 美桜さんの方は、ひーちゃんのことを疑いの目で見ている。

 

「蟲魔ヒラルスって、淫蟲の集合体じゃなかったの?」

「ひーは蟲使い。それっぽく淫蟲を操作してるだけ。普段はおにーさんとゲームしたり、甘いもの食べたり、ベッドでゴロゴロしてる」

「ただの怠け者じゃん……」

 

 わりと辛辣な物言いに、ひーちゃんは僕の方にてこてこ歩いて来る。

 

「おにーさん、何か言ってやって」

「ひーちゃんは困った時は助けてくれるし、僕のために魔力の限界近くまで淫蟲を作ってくれる優しい子なんだ。あんまりイジメないでくれると嬉しいなぁ」

「なんで五大淫魔の頭をナデナデして甘やかしてんの!?」

 

 だってひーちゃんだもの。

 とりあえずうちの子を紹介すると、姉妹は二人して頭を抱えていた。

 

「えー、五大淫魔ぁ……? これがぁ? もうほんとにただの子供じゃない」

「でも美桜、確かに淫魔の気配だよ」

「むしろだから混乱してるっていうか」

 

 肩書きと振る舞いが全然噛み合ってないせいで、どのような態度をとればいいのか分からないようだ。

 ただ、ちょっとだけひっかかった。

 

「美桜さん」

「ん、なに?」

「“これ”じゃないよ。サナちゃんと、ひーちゃんだ」

 

 けっこう仲良くはさせてもらっているけど、今の発言はスルーしたくない。

 ちょっと語気が強くなってしまった。

 

「退魔巫女にとっては、淫魔は敵。直人だって分かってると思うけど」

「だとしても、僕にとっては家族だから。友達が相手でも、家族を軽んじられたなら物申すよ」

 

 美桜さんは少し考え込んでから、サナちゃん達に向き合い、膝をついて視線を合わせる。

 

「……ごめん、乱暴な言い方した。サナに、ひーでいい?」

「はい、構いませんよ。あまり気にしないでください。淫魔と退魔巫女なら、美桜さんの態度は正しいと思います。ナオトくんの方がちょっと変なんです」

 

 僕にではなく、ちゃんとサナちゃん達に謝ってくれた。

 敵という意識があるだけで、美桜さんだって優しい人なのだ。

 

「あのね、佐間くん。上級淫魔には知能があり、姦計を得意とする者も多い。本当を言うと、私たちがここに来たのは、佐間くんが騙されていないか心配だったからなの」

「そういうこと。直人が思ってるより、上級種は狡猾だし危険なのよね。洗脳の魔術を使わなくても、淫魔の手管で篭絡された男なんて山ほどいるんだから」

 

 春乃宮さん達は退魔巫女として、真剣に僕に訴えかける。

 つまり二人の懸念は、僕が悪い奴かどうかより、五大淫魔に騙され利用されていないかという点だったらしい。

 なお警戒対象たる淫魔たちは「だいじょぶ、さーちゃんにそんなテクニックない。だって処じょ」「ひーちゃんそれは言っちゃダメなやつです!?」とかやってるから、微妙にシリアスが保てない。

 

「……うん。なにか、本当にここまでの警戒は必要なのかな、って思うけど。淫魔は、人間を食いものにする化物。それは退魔巫女の共通の認識だよ」

 

 春乃宮さんの言葉に反論しようとしたけど、ひーちゃんに手を引っ張られて止められた。

 サナちゃんは化物呼ばわりされても柔らかな笑みを浮かべている。

 

「ナオトくん、怒らないであげてください。私たちは五大淫魔に数えられる存在。当然ながら、人間に被害も出していますよ。特に、奪魔デートラヘレなんかは、人を苦しめることを娯楽としますね。人間側の意見としては、彼女達が正しいんです」

「ひーも、淫蟲で魔力を溜めてる」

 

 その発言に、美桜さんが「じゃあやっぱりあんたたちは敵ってこと?」と、強めに詰問をする。

 それに対しても穏やかな態度は変わらない。

 

「生態としては。なので、間違っても淫魔と分かり合えるとは思わないでください。私たちは、契約者への義理で過度に人を傷つけないようにしているだけの例外です」

 

 ひーちゃんもこくこくと頷いている。

 でも、それなりに長くサナちゃんと一緒にいるから分かる。

 この発言は、「私たちを基準にして、淫魔の性質を見誤ってはいけない」というこの子なりの気遣いだ。

 春乃宮さんがそれを察したのか、そうでないのかは分からない。ただ彼女は、鋭利な気配を漂わせながら告げる。

 

「分かった。なら、サーナーティオとヒラルスが、佐間くんと魂霊契約を続けている間は、協会の敵でないと考える。それでいい?」

「はい。私たちは、魔力収集はしますが、人を壊しも犯しもしない、ナオトくん専用サナちゃんです」

「ひーです」

 

 その表現やめてもろて?

 つまり、春乃宮さん的には「お前、佐間くん裏切ったら即処断やからな?」と釘を刺しておきたい、ということなのだろう。

 

「本当はこういうの面倒臭いんだけど、お姉ちゃんがうるさくて。まぁ、私たちも協会の退魔巫女だからさ」

 

 なにもなしで淫魔を受け入れる訳にはいかないと美桜さんは肩を竦める。

 こういうの好きそうじゃないし、マジメな春乃宮さんが形式を整えた感じなんだろう。

 退魔巫女として生きてきた彼女たちの、最大限の譲歩だ。

 

「ごめんね、佐間くん? 協会に報告はしないから、そこは信じてほしいな」

「ううん。僕こそ、温情に甘えてる側なのに、変に拘ってごめん。それと、心配してくれてありがとう」

 

 お互いぎこちなく笑い合う。

 初見で完全な和解とは言い難い。

 それでも美桜さん達は退魔巫女でありながら僕たちを認めてくれた。

 なら、これから少しずつ、歩み寄ることができればいいと思う。

 

「じゃあ、お茶しましょうか。ナオトくんがロマン洋菓子店のケーキ買ってきてくれたんです」

「あ、“ブタちゃん”で完食全種類コンプリートしてたお店だね?」

「そうです、あれ面白いですよねー」

「分かる。私もつい投げ銭しちゃうの」

 

 あれ、なんでかサナちゃんと春乃宮さんがブタちゃんの話題で盛り上がってる。

 もしかして歩み寄りはけっこう早いかもしれない。ただ同級生が僕に投げ銭してるの、嬉しい反面あんまり知りたくなかったな……。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「しかし最近のキモブタはホント話題に事欠かねえな」

 

 数日後。

 相沢くんは恋人を取り戻したことで気持ちが落ち着いたようだ。

 ただし、教室を見回して呆れたような顔をしている。 

 学校で、僕がロリコンかつ幼女の婚約者がいるという噂が流れたせいだ。

 

「何なのオマエ、いつの間にロリコンキモブタに進化してやがんだよ」

「いや、ほんと何なんだろうね」

 

 僕はめちゃくちゃ健全にこれまでやってきた。

 サナちゃんにもひーちゃんにも、家族として接してきたのだ。

 そりゃあ契約の際にひーちゃんとはキスをしたし舌も絡めたけど……あれ? よく考えたら僕けっこうやらかしてるな?

 いや、落ち着け。

 淫魔の力を性的なことに利用なんてして……るね? 相手は男だけども連続絶頂責めとかア〇ル開発とか、いかがわしい行為だね?

 どうしよう。わりと言い訳ができない。

 

「で、婚約者の正体は何モンだ?」

「ええと、サナちゃんとひーちゃんって言って、お祖父ちゃんに預けられた知り合いの女の子です。僕らと文化圏が違うから、愛情表現に遠慮がない感じなんです」

「はぁ、なるほどなぁ。あれか、おにーちゃんのお嫁さんになる、の上位版みたいなやつか」

 

 文化圏:淫魔界隈。

 

「つか、このクラスの奴らほんと陰口好きだな。シめるか?」

「いいよ、なんか、もう」

 

 わりとキレかけの相沢くんを押さえ、僕は軽く笑う。

 もともと僕には“ブタちゃん”のアンチ勢がいるため、悪い噂が流れやすい。

 根底には「動画で大金を稼いでいる」、「ブサイクのくせに知名度と人気が高い」ことに対するやっかみがある

 正直ロリコンかどうかが問題ではなく、僕を叩けるなら何でもいいという生徒が一定数いるのだ。これも配信者の常。パイセンみたくあからさまな嫌がらせならともかく、ある程度は仕方がないと受け入れていた。

 

 幸いにも、お金を稼げる能力を評価するタイプの女子はわりと擁護派が多い。

 実際、ロリコンの噂が流れても、クラスの女子のリーダー格である折原潤(おりはら・じゅん)さん辺りは普通に話しかけてくれる。

 

「おっ、キモブタくーん。またいろいろ言われてんじゃん。有名税ごくろーさん」

「あ、折原さん……どもです」

「気にすんな気にすんな。騒いでんのはどうせ童貞だって」

 

 長い黒髪の清楚系な春乃宮さんとは違い、折原さんは派手に髪色を染めた迫力美人って感じだ。彼女の周りにいる女子も、陰キャな僕とは縁遠い感じのぎゃはは系である。

 

「アンチのお相手、大変やねー」

「ウチら向けの高級レストラン特集してくれたらフォローすんよ?」

「おごれー、ローストビーフサンド奢るんならロリコン疑惑ぶっ飛ばしたるからー」

 

 オタクに優しいギャルではない。お金に優しいギャルたちです。

 ただ、夏雅城パイセンの時は「噂とかくだんねー」とスルーしていた折原さんだけど、あの時相沢くんが怒ってくれたこともあり、雰囲気が悪くなりそうな時は敢えて茶化してくれるようになった。僕にとってはありがたい変化だ。

 

「同級にタカんのやめーや、あんたら。悪いね、キモブタくん。全部冗談だから」

 

 最後に折原さんが締めて、皆「ごめんなさい」で話がまとまる。

 相沢くんは機嫌よさそうにしていた。

 

「へっ、マシなのもいてよかったな?」

「本当だね」

 

 それでもアンチ勢は「ロリコンとかキモッ」「やべーヤツすぎるだろ」とか陰口を叩くけどスルーしておく。

 そんな中、商店街で会った三人組が謝罪しに来た。

 しかもすでに何回も謝っているのに、教室で、皆にも聞こえるように声を張ってである。

 

「佐間、すまん。迷惑をかけた」

「ごめん、佐間くん。俺らのせいだ」

 

 率先して近藤くんが、次に百地くんが頭を下げる。

 彼らも、こういう事態になるとは想像していなかったのだろう。

 

「気にしないで、とは言えないけど。もう別にいいよ。……というか、近藤くんと百地くんは、謝ることないよね?」

 

 だってこの二人、特に何もしていないからね。

 近藤くんは言葉面の衝撃に驚きはしたが、後になって冷静に考え「そ、そんくらい懐かれてる、ってことだよな? そうだよな?」くらいの認識になり、触れるとヤバそうだし特に話題することもなかったそうだ。

 

 百地くんに関しては「うらやましぃ、羨ましすぎるぅ。前世でどんな徳を積めば美ロリっ娘を婚約者に出来る人生を歩めるんだよぉ」って唸ってたらしいから、婚約者云々は信じたようだけども。それでも僕に関してSNSで呟いたり、他人にもらしたりはしていない。

 

「それでも、俺らのツレがやらかしたことだ。つくづく、すまなかった」

「ほら只野、謝らないと」

「分かってるよ。ごめん、佐間。俺も、こんなことになるなんて思ってなかったんだよ」

 

 びっくりだよ。

 ロリコンを隠そうともしない百地くんでなく、只野くんが原因でここまで広がるなんて。

 只野くんは、正直に言うと三人の中で一番僕に当たりがキツイ。だとしても今回に限っては、悪意があってのことではなかったらしい。

 近藤くんたち以外の友人と話している時に、「佐間、ちっちゃい子にもファンいるみたいだぞ。懐かれてて婚約どうこう言ってた」くらいの内容をぽろりとこぼした程度のものだったそうだ。

 

 ただ、それを聞いた中に僕のアンチ勢がいた。

 ちょうどいい話題に食いついて、「ロリコン」「いかがわしいことをしている」と余計な尾ひれをつけて噂を流したのだ。

 なので、原因は間違いなく只野くんにもあるんだけど、微妙に責めきれなかった。

 

「つかよ? 俺ぁ話聞いて、百地が嫉妬拗らせてやらかしたんだと思ってたがな」

 

 強面な相沢くんの発言に対して、百地くんは「本気で分かりません」みたいな顔で答える。

 

「なんでロリコンが、ロリを傷つけるような真似をするんだ?」

 

 サナちゃん・ひーちゃんのような美ロリっ娘が羨ましい。嫉妬したし、紹介もして欲しい。それはそれとして、婚約者がいなくなったらあの子達も傷つく。だから変なことはしない、という奇妙な理論であるらしい。

 まず婚約者を信じるのをやめてもろて?

 

「ええと、その。とりあえず謝罪はもういいから。どうせ今回の件がなくても適当な理由付けてアンチしてたろうから」

「それはそれで心配になるな……」

 

 アンチは当然みたいな僕の物言いに、近藤くんが複雑そうな顔をしていた。

 三人はもう一度謝ってから、席に戻る。

 まあ只野くんのせいで騒がしくなったけど、そこまで怒ってはいない。

 おかげでちょっと嬉しいモノも見れたし。

 

「佐間くんは今、親戚のお子さんを預かってるの。その子達とすごく仲が良いから、見た人が変な風に解釈したんじゃないかな? ロリコンなんて、絶対にそんなことないよ」

 

 今回の噂で、率先して火消しに動いてくれているのは、なんと春乃宮さんなのだ。

 彼女は味方になる宣言を有言実行、噂が出る度に僕を擁護する。

 

「なんで春乃宮さんがそんなこと知ってん?」

「一応、ね。幼馴染みだし。佐間くんの、家に、行ったこともあるから」

 

 ふんわりとした柔らかい笑顔。その圧に負けて、クラスメイトは何も言えずに黙ってしまった。

 すごいよ、たぶん自覚してないけど自分のカワイイをものすごく有効活用しているよ。

 

「ありがとうね、春乃宮さん」

「ううん、頑張るよ」

 

 力こぶを作って見せる仕種が妙に可愛らしかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「なんか大変らしいじゃない?」

 

 放課後、美桜さんと昇降口で鉢合わせた。

 どうやら僕の噂は彼女のクラスにまで伝わっているらしい。

 

「いやー、なんともかんとも」

「まあ、あんだけ仲良かったらそういう噂も立つでしょ」

 

 自宅でのやりとりを見ているせいか、美桜さんはニヤニヤとからかうように笑っている。

 ねぇ? と春乃宮さんにも振ったけど、彼女は僕の目をまっすぐに見る。

 

「私は一切思ってないよ、佐間くんはそんな人じゃないから」

「お姉ちゃんがあからさまにポイント稼ぎに来た!?」

 

 姉の裏切りにショックを受ける妹の図です。

 喧嘩したと聞いたけど、冗談を言い合える程度には関係も改善されたようでよかった。

 夕陽の近付く校舎、和やかな下校の風景。校門をくぐり、僕たちは軽やかに放課後を泳ぐ。

 商店街に差し掛かったところで、見慣れた女の子たちが手を振っていた。

 

「あ、ナオトくーん」

「おにーさん……」

 

 サナちゃんとひーちゃんは僕たちを見つけるとてこてこ走ってきた。

 

「どうしたの、二人とも?」

「迎えに来ました。今日はひーちゃんの提案です」

 

 言いながらひーちゃんが春乃宮さんの、サナちゃんが美桜さんの隣に立つ。

 姉妹ともども、いきなりの流れにちょっと困惑している。

 

「ひーたちはまだ、親しい訳じゃない。だから何度も顔を合わせる。それを怠ったら、きっと進展はない」

「なので、お二人ともお喋りをしましょう、ということです」

 

 その提案に退魔巫女たちが驚愕する。

 ね、いい子でしょ?

 勝ち誇るように僕が胸を張ると、美桜さんも春乃宮さんも困ったような顔をして、でも最後には小さく笑った。 

 

「じゃ、皆で一緒に帰ろっか。ついでに晩ご飯も、美味しいとこ行く?」

 

 僕の提案にサナちゃんもひーちゃんも諸手を上げて喜んでくれる。

 

「わーい、行きたいです。美桜さんや咲綾さんは、なにが食べたいですか?」

「え、私たちもいいの?」

 

 誘われると思っていなかったのか、春乃宮さんはちょっと戸惑っている。

 

「え、今の、普通にみんなで行く流れじゃなかったです?」

「流れだった」

 

 四人それぞれが不思議そうにしているから、つい笑ってしまった。

 どこのお店に行こうかとあれこれ喋りながらゆっくりと商店街を見て回る。

 

 ……今回の一件、実は、スッキリと解決したわけでもない。

 淫魔の主の存在を協会に黙っているのは良くないし、ケンカをした姉妹にも多少のわだかまりは残っているだろう。

 僕の噂だって消えてない。

 綺麗に見えた相沢くんと早瀬さんの胸中にも、きっと少しの影がある。

 退魔巫女と淫魔と外法術師の関係だってうまくいく保証はない。

 だけど、それを分かったうえで折り合いをつけていく。ぴったりはまる形が用意されていることの方が珍しいのだ。

 だからこそ「なぁなぁ」にしていくための努力は必要なんだと思う。

 

「はぁ、なんか。気を張ってたのがバカみたいじゃない」と美桜さんが小さく息を吐く。

「本当に。でも、そんなに嫌な気分じゃないよ」と春乃宮さんが答えた。

 

 今はそのくらいでいい。

 ただいずれは、退魔巫女とか淫魔とか関係なく、和やかに過ごせるのが当たり前の関係に変わっていきたい。

 溶けるような夕陽に、僕はそう思った。

 

 

 

 そう、夕暮れがこんなにもキレイだから。

 ひーちゃんの語った「顔を合わせて好感度稼ぐ」理論が、試しにやってみたギャルゲーの無料体験版から得た情報だということは、最後まで黙っていることにした。

 

 

 

 

 

 

 




第二章終わり
次は夢魔の話です
なのでまたロリが増えます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。