ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
まず大前提として大淫魔サナちゃんは命の恩人だ。
だというのに僕は、淫魔にとっての契約のメリットである魔力の譲渡ができていない。
にも拘らずサナちゃんは僕を責めずにいてくれる。
それを考えれば住居の面倒くらいは見るし、彼女を満たす快楽を提供するのも当然だろう。
「あ、ナオトくん。先に洗面所使わせてもらってますよー」
ちなみに当の本人の順応力はかなりのものだ。
朝起きて洗面所に行くと、既にサナちゃんがしゃこしゃこ歯磨きをしていた。
「いまさらなんだけど、淫魔って虫歯になるの?」
「なりませんよ? でも、朝起きたら顔を洗って歯を磨くモノです。その方が人間っぽくて楽しいですしね」
「なる、ほど?」
淫魔としての力を十全に使えないから、人間としての生活を楽しもう、みたいな感じらしい。
言ってみれば、「人間ごっこ」という遊びだろうか。
結局魔力調達の目途が立たないので、ほどほどに僕から調達し、健やかに日常を過ごすことで回復させる方向にシフトした。
別に肉体的な接触があるわけではなく、魔術で妙に感度が高くなるくらいなので実に健全だ。どのタイミングでかは言及しない。
「ちなみにサナちゃんねる開設については」
「遠慮させてください。やですよ、恥ずかしいから」
残念。
ということでサナちゃんは普通に睡眠をとり、一緒にご飯を食べて、のんびりな生活をしている。
幸い今日は日曜日。生活に必要な日用品なんかを一気に揃えてしまおう、という話をしていたのだが問題が一つ。
「外出するなら角と、小悪魔ウィングを隠さないとなぁ」
「あ、これなら消せますよ」
瞬きの間に特徴的な部分が消えて、普通の銀髪ロングで赤い瞳の美ロリっ娘になる。
まず銀髪ロングで赤い瞳の美ロリっ娘は普通でない件について。
ただ、これなら問題ない……いや、問題あったわ。
だって角と翼がなくなっても、ものすごい露出過多なお嬢さんだもの。結局色々隠してもらわないと外出できない。
「僕の予備のTシャツでも丈的にはワンピースみたいなものだよね。悪いけど、これを着てもらっていいかな? 新品なんでキモブタ臭はしないと思う」
「ありがとうございます。逆に、こちらが申し訳ないです。本来なら、私は魔力で自分の服を編めるんです。魔力隠蔽や羽根を消すのと同じく、淫魔の基本スキルですから」
「服を作るのが基本なの?」
「はい。だって、誘惑の常套手段じゃないですか」
あっ、コスプレ用なのね。
そう考えたら確かに淫魔にとっては当然備えているスキルか。
「ただ、今は節約の必要で、ナオトくんに負担をかけてしまいます」
「これくらいは全然。むしろ、サキュバス衣装の方でいてもらうと僕のメンタルがもたないんです。可愛いよ? 可愛いけど肌色が眩しく……」
「それは仕方ありません。この身は大淫魔。魅惑のつるぺたボディで男性を虜にしてしまうのは宿業というものでしょう」
ちょっとセクハラじみた発言だったのに、ふふーんと胸を張っておられる。
淫魔的な感性だと今の発言はおっけーなんだろうか。
ともかくTシャツを着てもらう。これでセーフ……セフト? セウト?
いや、もう大丈夫の精神で行こう。それしかない。こうして僕は警戒しつつマンションを出た。
「あの、ナオトくん。その恰好は」
「ごめんね、用心に越したことはないから」
帽子+サングラス+マスク+コート。
僕のようなブサイクがシャツだけの幼い娘さんを連れて歩こうものなら確実に事件。
顔面を全て隠すのは当然の処置だろう。
「あー、ちょっと君。話、聞かせてもらえる」
道路沿いをしばらく歩いたところで普通に若めの警察官さんから職質を受けた。
なぜに。
「その子、明らかに日本人じゃないけど、どういう関係?」
「関係と言うと……居候? になるのでしょうか」
サナちゃんが先に答えるも、疑いは晴れない。
威圧的に視線を送ってくる。
「とりあえず、そのマスクとサングラスとって」
「は、はい……」
渋々従うと、しばらく警察官は僕の顔をじろじろと見る。
その後、一気に表情を柔らかくした。
「あっ、キモブタくん?」
僕は普通に顔出しで動画投稿している。この人も、それで僕を知っていたようだ。
“キモブタ地元メシちゃんねる”は、基本は大食い動画メインだけど、地域のお店を広く知ってもらって盛り上げようという意図もある。
地元密着系配信者なので商店街には知り合いも多い。知らない人は知らないけど、知ってる人はヘビーに知ってる、局所的なちょっとした有名人だ。
「あれ、なに。その恰好は」
「ええと、動画撮影の下見と言いますか。そのために目立ちたくなく」
「逆に目立ってはいるけどねぇ。あーあーあー、じゃあその子って」
「撮影の見学に来たいと言ってる親戚の子です。僕はブサイクですけど、そっちは国際結婚をした美夫婦なもので、顔立ちが全く似ておらず……。着の身着のまま来てしまったため、服がなくそれの調達も兼ねて、ですね」
「なるほどね。じゃあね、たぶんマスクやめた方がいいよ? 普通に怪しいから」
「あ、はは……」
よかった、彼が偶然にも視聴者さんで。
もう職質というかただの雑談みたいになってる。
サナちゃんも頬に手を当てて、困ったな―みたいな顔をしてみせた。
「そう、見学なんです。なのに動画に出ない? って誘ったりもするんですよ。こういうのも身贔屓っていうんでしょうか」
「はは、なるほどねー。ダメだよー」
「こ、断られてるので、そこは、はい。今のところ動画出演はしないので、僕はともかくこの子のことはどうか内密にしていただけると」
「あー、そういう誤解があるかもしれないから過度に顔を隠してた訳か。大変だねー、配信者も」
どうやらサナちゃんを動画に出すための準備と勘繰られないための変装と捉えてくれたようだ。僕たちは和やかなまま開放してもらえた。
「ふぅ、焦った……。ありがとね、サナちゃん。話を合わせてもらって」
「いえいえー。エクソシストに狙われる身、擬態はお手の物です。お望みならば兄を慕う妹から、童貞おじさんが異世界転生して女の子になっちゃった演技まで幅広く対応します」
「すごいとは思うけどちょっとお望まないかなぁ」
ほっとした分空気も和らいだ。
そのままお喋りをしながら商店街に。途中八百屋さんで「おっ、佐間くん。なんかかわいい子連れてるねぇ、いちご大粒のが入ってるよ!」と、流れるように高い果物を勧められた。
美味しそうだけど先に服。丁重にお断りして、商店街のブティックに入る。
僕にとってはこのブティックがオシャレの最先端だ。近所の定食屋のおばちゃんもここで買ってるって言ってたし。
店内に入ると男物のシャツだけ着たサナちゃんの姿に驚かれたけど「え、なんですか?」みたいな顔して余裕のスルー。僕は女の子の服なんてよく分からないし、店員さんに聞いて速やかに服を購入する。
白を基調にしたワンピースと、替えを何着か。下着も選んでもらった。
「……この下着、布地の面積大きくないですか? 厚みもあって透けないです」
「サキュバス基準やめてもろて?」
ごくごく普通の下着だよ。はく前とは言え僕に見せないでください。
発言はアレだけど、白ワンピースにサナちゃんはちゃんと清楚に見える女の子だ。
かわいい。
「ありがとうございます、ナオトくん」
「いや、いや。う、うん。イイ感じ、いいかんじ」
「そうですか?」
くるりと回ってスカートをはためかせる。
まともな誉め言葉も出てこずどもってしまうのは、女の子に慣れていないキモブタの限界である。
サナちゃんも気に入ってくれたようで購入した後は、その姿のまま日用品を買いに行く。
一人暮らしだから食器に余裕がないし、女の子は色々化粧品とかいるってネット情報で僕は知っているのだ。
「肌ケアは必要ないですよ? 私、作りが違うので。髪の毛も特に……あ、でもお風呂は気持ちいいので、ボディーソープやシャンプーはいい匂いするのがいいです」
付け焼刃の知識は一瞬で切って捨てられました。
淫魔的には人間より遥かに頑強かつ肌ダメージもないので、水で汚れさえ落とせれば問題ないらしい。
「お風呂は、いいですねぇ。シャワーだけでなく肩までつかるのが。もうそのままお湯の中で眠りたい……」
「いやいや風邪を……引かない、のかな? でも朝僕がびっくりするので勘弁していただけると」
「はーい」
こういうところは素直。
あとは食器や箸やマグカップ、タオル類や枕なんかを購入して帰る。
どうやらペンギン柄が気に入ったようで、自然とそれに統一された。
「ペンギン可愛いですね。もふもふでまるっこくて」
「ぬいぐるみとかは買わなくてよかった?」
「うーん、今は生活する上で必要なもの、だけですね」
布袋いっぱいに荷物を抱える僕に、サナちゃんは歩調を合わせてくれる。
魔力が少ない今の状態でもこの子の方が腕力はあるっぽい。でも「持ちましょうか?」とは聞かず、女の子に持たせるわけにはいかないという僕の意地と見栄に付き合ってくれているのだ。
もう夕暮れ。落ちかけてた陽がゆらりと揺れて、二人の影が伸びて重なる。
抒情的な風景だ、なんて思っていたのに、遠くに見えた人物に僕はぎくりとした。
「あ……」
春乃宮咲綾。
長い黒髪の女の子。子供の頃はよく遊んだけど、今では疎遠になってしまった。
そんな彼女は、僕ではない誰かといっしょにいる。背の高い、容姿の整った男性。彼の三歩後ろに控え、商店街を見て回っていたようだ。
「ナオトくん、どうかしましたか」
「あっ、えっ、あの。なんでも…ないよ……?」
サナちゃんの声に我を取り戻す。
見ればきょとんと不思議そうな顔をしていた。
僕は先程見た光景を無理矢理頭から追い出す。昔の仲良しなんてそんなもんだ。いつまでも子供じゃないんだし。
「ごめんね、じゃあ帰ろうか」
「はい、夕食は何ですか」
「豚肉のニンニク醤油炒めです。僕のは男の料理だから、繊細さは期待しないでね。あっ……にんにくって、大丈夫?」
「もしかして、吸血鬼といっしょにしてます?」
にぱーっと笑うサナちゃんに救われたような気がした。
* * *
休みが明けた月曜日、サナちゃんに留守番をお願いして登校する予定だった。
「それじゃあ、僕は行くね。お昼ごはんは冷蔵庫に作っておいたから、チンして食べて」
「ありがとうございます。キモブタ地元メシちゃんねるの動画は、見ててもいいんですよね?」
「うん。タブレットの方が使いやすいだろうし、そっちをサナちゃん用にしていいよ」
「分かりました。それと、私も学校について行っていいですか?」
今までお留守番の話をしていたのに、いきなりズレてちょっと戸惑う。
でもサナちゃんが指でくるくる円を描くと、小さなSDサナちゃんがぽむっと現れた。
「え? え?」
「手乗りサナちゃんです。私と記憶の共有ができる簡易分体、でしょうか」
あ、これがスキル欄にあったヤツか。
ふよふよ飛んで肩に乗った手乗りサナちゃんは「よろしくお願いしまーす」と幾分幼い声で挨拶をした。
「手乗りサナちゃんなのに肩乗りサナちゃん……?」
「手乗りはサイズの話であって手にしか乗れないわけじゃないです。契約によってナオトくんは堕淫魔術を得ました。もしもの時もありますし、サポート役だと思ってください。記憶の共有ができるので、この子の見たものは私も知れる。説明要らずで便利です」
使う気はないけど、僕のための心遣いみたいだ。
「なら、ありがたく。じゃあ行ってくるね? 変な人が来たら困るし、チャイムが鳴っても開けなくていいからね」
「微妙に私のことただの子供だと思っていますね? 魔力が減ってる状態でも普通の人間よりはるかに強いですよ、私」
ちょっと頬を膨らませるけど、見た目からどうしても強いという印象を持てない。
純粋に心配でもあるし。
ともかく、僕は手乗りサナちゃんを肩に乗せて登校した。
淫魔にとって隠蔽は基本スキルらしく、僕もその恩恵を受けている。淫魔との繋がりや魔力を隠せるし、刻まれた契約の紋様に手乗りサナちゃんも他の人に見えないようにすることができるそうだ。
「そのせいで、私と喋っていると独り言みたいな形になるので気をつけてくださいね」
僕は黙って頷いた。
教室に入ると、相沢君がいきなり肩を叩いてきた。
「おう、キモブタ! 俺のアンチョビオリーブピザ、大好評だったぜ!」
「あ、はは。それはなにより」
どうやらデートは上手くいったようだ。
二言三言会話をしてから席に着き、ちらと春乃宮さんを見る。
「咲綾、土日はどうしてたん?」
「えと、夏雅城先輩のお家に」
あの日、一緒にいた男の人のことは僕も名前と顔くらいは知っている。
春乃宮さんは、夏雅城俊哉と婚約関係にある。
なんでも昔から……小学生の頃には決まっていたらしい。
家の手伝いが始まってから余所余所しくなったのは、つまりそういうことなのだろう
「えー、もうお家デートとかしてんの!? なになに、やっちゃった!? 二日間でヤリまくり!?」
小さい頃いっしょにラムネを飲んだあの子が、今は婚約者と一緒に過ごしている。
もう縁なんて全くないけれど、やっぱり少しだけ気になってしまう。
「ふぅー」
「あひゃんっ!?」
教室なのに変な声が出てしまった。
手乗りサナちゃんが耳に息を吹きかけた。
「おう、どうしたキモブタ。キモい声出して」
「ご、ごめん。なんかその、急に筋肉がびくっとして」
「あー、俺も居眠りしてる時よくあるわ。あれ、なんなんだろな」
相沢くんが軽く流してくれたおかげクラスの皆も「なんだ……」と興味を失ったみたいだ。
くそう、手乗りサナちゃんのいたずらっ子め。でもおかげで陰鬱な状態にならなくて済んだので助かった。
本当に僕のサポート役だったみたいだ。
※ ※ ※
昼休み、相沢くんがまた僕の席にやってきた。
「昼飯、どうするよ」
「あー、今日はね。海鮮丼気分だから外に出るよ」
「お前さ、マジメぶってるけど普通にガッコ抜け出すよな」
「え、相沢くんはいかないの?」
「行くに決まってんだろ。魚なら、はまかぜ食堂か?」
「もちろん。あそこのまぐろとホタテの二色丼は僕のジャスティス」
「お前同じこと、他の店のかつ丼の時も言ってなかったか?」
「世の中に正義が一つなんてあり得ないしね。ごはんの数だけ正義はあるのさ……」
「深そうで浅えな、おい」
ということで学校を抜け出すのが決定。
そのタイミングで教室に、背の高い男子がやってきた。
「おい、咲綾。メシにしようぜ」
件の、春乃宮さんの婚約者。
三年の夏雅城先輩だ。
「咲綾っ、婚約者さんのお誘いだよっ」
「毎日いっしょにお昼なんて、らぁぶらぁぶじゃん!」
周囲の騒ぎに春乃宮さんはちょっと困ったような顔をしたけど、席を立つと小走りに先輩の方へ向かった。
「お、お待たせ、しました」
「弁当は?」
「ちゃんと、作ってきています」
「おし、さっさと行くぞ」
やっぱり夏雅城先輩、体格いいなぁ。
顔もちょっとワイルド系なかっこよさ。
春乃宮さんと並ぶと美男美女って感じだ。
教室を出ていく二人を見つめ、女子たちがはしゃいでいる。
「まじで、咲綾羨ましー」
「イケメンでお金持ちで勉強も運動もできるって最高じゃん!」
「咲綾の方も手作り弁当毎日作ってさぁ、甲斐甲斐しいよね」
聞きたくないのに余計なことを女子たちが喋っている。
夏雅城先輩の父親は、複数の企業のトップに立つ総帥らしく、彼の家はいわゆる大富豪というヤツだ。
いずれは先輩も父の跡を継ぐらしい。
いやまあ、僕は僕でキモブタ地元メシちゃんねるがうまくいってるし、そこまで卑下するつもりはない。
ただ、両親からも価値ナシと判断された僕とは生まれからまるで違うなぁ、とも思ってしまう部分もあった。
「おう、キモブタ。そろそろ行くぞ」
「うん」
僕はなるべく春乃宮さんを視界に入れないように教室を出た。