ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
のじゃ
ある土曜日。
せっかく学校が休みなのに僕は憂鬱だった。
夕方になり呼び出された個室居酒屋に行く。待つこと一時間、遅れてやってきたのは僕の兄で、
兄さんは髪を染めたり、チャラついた格好はしない。真面目で清潔感のある、スマートな美形だ。
遅れたのはどうせ「ブタに待たされるのはごめんだ」とかのくだらない理由だろう。
「僕、未成年なんだけどな」
「はは、仕方ないだろう。悪いな、お前みたいなのと一緒にいるところを大学の友達に見られたら、俺の沽券にかかわるから」
だから個室を確保できる店にした、と。
呼び出したのはそっちのくせにひどい言い草だ。表情と口調だけは穏やかだから逆に腹が立つ。
武尊兄さんは二つ年上で、今は大学一年生。県内でも有数の名門大学で、合格した時は両親もたいそうなお祝いだったらしい。
僕は高1の頃から一人暮らしをしていたので参加していない。高校合格のお祝いなんか当然なかった。
「で、なんの用なの?」
「兄に対して、そういう態度はよくないんじゃないかな」
「ぶ、ブタは弟じゃないって言ってるのは、そっちだよね?」
小学校、中学時代はよく武尊兄さんと比べられた。
僕よりイケメンで、僕より背が高く、僕より痩せていて、僕より運動と勉強が出来て、僕よりいい子な優等生のお兄ちゃん。
よく周囲からも「弟なのに何もできない」「兄とは全然違う」とバカにされたっけ。
家族で唯一味方になってくれたのはお祖父ちゃん。今のような暮らしをできているのは、間違いなくお祖父ちゃんのおかげだ。
「近所のおばさんに聞いたよ。配信者やってるんだって? クソブタがどうとかの」
「名前は違うけど、まあ」
「ふぅん。俺は見てないけどさ。ならさ、仕送りしておけな」
「……え?」
まったく意味が分からない、ということもない。
だって昔っから、武尊兄さんは僕のお小遣いを勝手に使ったりしていた。
良い子と言うのは大人たちが見ているところだけ。兄さんが家具を壊したのに、僕のせいにされたことなんてしょっちゅうだった。
だからと言って、この歳で仕送りはおかしすぎる。
「な、なんで僕が」
「今まで迷惑かけてきたんだから、それくらいは当然だろう?」
「収益化はしてるけど、主に僕の生活費だから無理。というかお金が欲しいなら、自分でバイトでもすればいいじゃないか」
「俺はお前と違って忙しいからなぁ。ようやく家族のために役立てる機会が回ってきたんだから、むしろ喜ぶべきだと思うけどな」
なにが家族だ。
僕はあんたらの輪の中に入った記憶なんて欠片もないぞ。
「話はそれだけ? なら、僕は帰るよ」
「おいおい。うちは今、余計な出費で家庭に負担がかかってるだろ? 仕送りがないと、節約しないといけないって話になってさ」
ああ、
で、仕送りをしろと。拒否したら僕の学費という余計な出費を節約すると。
「……っ、勝手にすればいいじゃないか」
「そう? じゃあ、そうさせてもらうかな。いや、母さんも喜ぶよ」
たぶん武尊兄さんは、仕送りを実際にもらえると思った訳じゃない。
単にお金を稼いでいるなら、学費も必要ないよなっていう風に話を持っていきたかっただけ。発案は、母さんだろう。
僕は強く奥歯を噛み締め、個室を出ていこうとした。
「なあ、待てよ」
なのに、呼び止められる。
嫌々振り返ると、兄さんはこちらを探るような目を向けてきた。
「昔はさ、いつも俺から目を逸らしてたよな。少し、変わったか?」
「……一人暮らし出来てるから、その分しっかりしたんじゃないかな」
親のスネかじってる兄さんと違って、とまでは言えなかったけれど。
キモブタ地元メシちゃんねるがある種の自信になっているのは事実だろう。
「ふぅん」
興味があるのないのか、微妙な反応だった。
もうここにはいたくない。僕は今度こそ部屋を出た。
昔は兄さんが怖かった。
周囲から比べられるのが、あの見下すような目が。
いっしょにいるとどんどん惨めな気持ちになっていった。
今は、それほど気後れしない。
「なんなんですか、あの人は! あーもっ、あーもぅ! ナオトくんが怒ったらピッグスラップで一発なんですからね!」
キモブタ活動もそうだけど、懐の中で僕以上に手乗りサナちゃんがめっちゃキレ散らかしてるからね。
自分の代わりに怒ってくれる誰かがいるって、とても幸せなことだなぁと僕は素直に思った。
* * *
お店では何も食べなかったからマンションに戻って夕食を済ませる。
しばらく休んだ後は最近の日課である筋トレ。契約のおかげで身体強化されているとはいえ、鍛えておいて損はない。
「ナオトくん、がんばれ♡ がんばれ♡」
「ふぬっ、ぐっ、ほぉ……!」
腕立て伏せの際は負荷をかけるためにサナちゃんが上に乗っている。
ぷにっとしたお尻の感触に耐えながらトレーニングを続けることで、精神力も鍛えられるというお得な方法だ。
なお、痩せはしていない。
鍛えた分食事量が増えて、筋肉の分も含めて体重は増加していた。
「でも、あのアニモドキ。親元でお金出してもらってご飯も作ってもらっての状態で自分の方を上に置くって、どういう頭してたらそうなるんでしょう?」
「ぐぅ……兄さんは僕より、出来が良かったからさ。昔も今も、僕は下のまんま動いてないんだよ……ふはっ」
「むぅ、納得いき辛い理由です」
「こ、これで、百回っ……!」
べちゃりとその場で崩れ落ちた。
汗だくだけどサナちゃんは気にせず、僕に乗っかったまま頭を撫でてくれる。
「あー、ごめん。お風呂入ってくるね」
「分かりました」
浴室に向かおうとすると、当たり前のようについてくるサナちゃん。
ひーちゃんもゲームを中断し「私も」と立ち上がる。
「待って? 流れるようにいっしょに入浴しようとしてるのはなぜ?」
「……日本の伝統、裸の付き合いっ!」
「ほんと待ってサナちゃん? どうしたの、君は男の人が苦手な清純派サキュバスのはずじゃないか」
「別に男の人が苦手なわけでは。ええと、アレな行為はともかく、ナオトくんならお風呂くらいは特に問題ないかなーと」
「問題あるよ。僕の心とか、僕の理性とか。ひーちゃんはパーカー脱がないで!?」
デブに許された身体能力を駆使して、僕はひーちゃんの前に回り込む。
派手な動きだったからか、いつものとろんとした目で「おお……」と拍手をしてもらえた。
結局僕が一人で入浴、サナちゃんとひーちゃんが一緒に、という形で決着がついた。
残念とか思ってません。
「ごぶれいしゅましゅた。やっぱりお風呂はいいですねぇ」
「言えてない言えてない」
お風呂上がりのサナちゃんはとろとろに蕩けている。
この子は人間の生活そのものに娯楽性を見出している。家事でさえ楽しんでやっているというのだから、感性の違いというのは不思議である。
ただ、その中でもお風呂は別格らしい。
「魔力の回復とか関係なくお風呂が大好きです……。媚薬風呂とか精液風呂とかするお馬鹿な淫魔はもう田舎に帰ってください」
相変わらず自分の種族に否定的です。
というか、淫魔の田舎ってどこだろう。
「ひーは苦手。疲れる……」
反対に、ひーちゃんは放っておくとカラスの行水だ。
たぶん今もサナちゃんに頭とか洗ってもらったんだろうな。
「おつかれー。冷たいの飲む?」
「アップル。アップルジュース」
ひーちゃんがしゅたりと手を上げる。
この子はお風呂上がりのジュースのために入浴していると言ってもいい。
サナちゃんは少し悩んだ後、「冷たいお茶を貰っていいですか?」と遠慮がちに聞いてきた。
しばらく水分補給をしつつのんびりしていると、なにかを考え込んでいたサナちゃんが、意を決して話を切り出した。
「ナオトくん、私たち食事を控えましょうか?」
「え。どうしたの、いきなり」
「淫魔にとって、食事は栄養補給でなくあくまで嗜好品です。魔力さえあれば死なない訳ですし、多少は節約になるかなーって」
そっか、武尊兄さんとの話を気にしてくれたのか。
ひーちゃんは「がーん……」みたいな顔してるけど。
「美味しいものは心の栄養、それを止めるなんてとんでもない。僕が動画を頑張ればいいだけなんだから、心配しないで。幸い貯金はそこそこあるしね」
「むぅ、心配はしますよ。……でも、ナオトくんがそう言うなら、信じます」
サナちゃんは若干頬を膨らませる。
その隣では、苦渋の表情をしているのがひーちゃんだ。
「すいーつを、三週に一度……さ、三か月に一度まで、がまんする」
「いや、ほんとに無理しないで大丈夫だからね?」
僕はこの子たちに随分救われていると改めて感じる。
陰キャ全開な僕は友達と遊びに行く機会が少なく、相沢くんは不良っぽい外見だけど僕だけにお金を出させるようなことはしないので、使わなかったお金が溜まってはいる。
でも一年後もコンスタントに収入を得られるとは言えないのが配信者。大学進学とかを考えたら、稼げるうちに稼いでおきたい。
「お祖父ちゃんに援助頼もうかなぁ。それに、新しい企画でも考えて」
「私たちも何か協力できればいいんですが……」
「大丈夫大丈夫、僕も頑張って働くから。さなちゃんもひーちゃんも、いつも通りでいてくれてる方が僕は嬉しいよ」
二人の頭をぽんぽんすると、さなちゃんはにこにこ笑顔、ひーちゃんは「照れる……」と言いながらも撫でやすいようにカラダを傾ける。
隙を見せたら可愛いところを見せてくる淫魔っ子たちです。
* * *
ちょっと教室がざわざわしている。
今まで僕と相沢くん美桜さんの三人でお昼ご飯を食べていたけど、そこに春乃宮さんが加わったからだ。
きれいかわいいな姉妹と机を囲んでいるので、男子の視線が痛い痛い。
話の流れでぽろっと「そう言えば学費止められそう」とこぼしたら、皆ものすごい目で僕を見た。
圧に負けて少し説明すると、相沢くんがモンスターのブレス並みに重い息を吐いた。
「お前んとこの家族、とこっとんクソだな!」
「否定できないのが辛いなぁ」
彼はうちの事情をそれなりに知っているので、苛立ちもひとしおだ。
姉妹もなんとも言い難い表情になってしまった。
「そう言えばお兄さん、普通に佐間くんを馬鹿にする嫌な人だったよね。なのに、大人の前ではいい子です、みたいな顔してた」
「そっか。春乃宮さんは昔、会ったことあるっけ。まあそんな感じで、今のうちに金策しなきゃなぁって悩んでるところなんだ」
彼女はすごく心配そうに僕を見ている。
生活費や学費で頭を悩ませることはないかもだけど、退魔巫女でも修行で大変だろうし、形は違えど苦労があるってだけなんだけどな。
「待った。なんで、お姉ちゃんが直人の兄貴のこと知ってんの?」
「え、と。私は……小学生の頃、よく遊んでたから、それで」
「へっ? え、なにそれ知らない」
「さすがに、神社に呼ぶのはできなくて……」
昔は気にしなかったけど、よく考えたら退魔巫女の修行場だもんね。
春乃宮さんと遊ぶのはたいてい外だったから、僕は小学生の頃に一度も美桜さんと顔を合わせたことがなかった。
「じゃあ、直人は私のこと知ってたの?」
「ううん、高校に入ってから。妹さんがいるって知ってびっくりしたよ」
「ふぅん。でもなんか変な感じ。もしかしたら小学生の頃、すれ違ったことくらいあったのかも?」
「そうだったら面白いね」
なにかの偶然があれば、“なおとくん”と“さあやちゃん”と“みおうちゃん”の三人で幼馴染、なんてこともあったのかもしれない。
まあ、ちょっとした想像だ。現実問題はお金が付きまとう。
「んなら、奨学金の申請とかしたらどうだ?」
「僕、無利子の奨学金をとれるほど成績良くないしなぁ。大学も、就職を考えたら行っとかないと、ってだけなんだよね」
いつまでも配信者として食べていけるとは思っていない。
そうなると、高卒はどうしても不利になる。だから最低限大卒の資格は取っておきたい。
すると春乃宮さんが、ちょっとためらいがちに提案をしてくれた。
「……そ、それなら。べ、勉強見ようか?」
「え、いいの?」
テストでいつも上位の彼女に教えてもらえるとか、すごくありがたい。
「あとは、お金の問題は私じゃどうにもならないけど。お弁当、とか。少しは節約になるかも……」
「超お願いします! 一度だけでもいいので!」
「超高速の土下座!? さ、佐間くん!? 顔上げてもらっていい!?」
地元の色々な飯屋を巡っている僕でも食べたことがない至高の料理。
美少女の手作り弁当……!
恥も外聞もなく縋りついてでも食べてみたい。
「あ、あんまり期待されても困るよ? で、でも、食べたいって言うなら、明日は、はい、そのつもりで、お、お願いします」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
「もぉ、それ止めて!?」
真っ赤なお顔で叱られてしまった。
でもいいんだ。春乃宮さんのお弁当……! それですべてが報われてしまう。
それを見る美桜さんは、若干不貞腐れたような顔をしていた。
「料理だと私の出番ないなぁ」
「あんだ、春乃宮妹はへたくそか?」
「事実だけどもうちょっと気を遣え。というか、別に名前でいいのに」
「勘弁しろや。面倒ごとに巻き込まれたくねえ」
相沢くんは手をひらひらと振る。
美桜さん、かわいいしね。下手に名前呼びだと彼女のファンから敵視される。僕は普段からアンチ勢がいるから気にしないけど。
気を取り直してお昼ご飯を食べていると、美桜さんが何気なく聞いてきた。
「でも学費とか生活費とかどうすんの? あ、うちに居候できるようお父さんに頼もう……ごめん。聞かなかったことにして」
うん、絶対無理だよね。
サナちゃんとひーちゃんもいっしょに春乃宮の本拠地に転がり込むとか。
でも、実際金策は考えないといけない。
※ ※ ※
帰宅すると、サナちゃんとひーちゃんが正座で待っていた。
ちょいちょい、と手招きされたので僕も二人に倣って正座する。
「ナオトくん……お昼間のうちに考えました。やはり、私たちも金銭的な負担を軽くするために、なにかをしないといけないと」
「いや、ほんとに気にしないで」
「聞いてください。ブタちゃん以外の動画も見て、私でも稼ぐ方法があると気付いたんです」
サナちゃんは、ものすごく真剣な目で僕に告げる。
「そう、ナオトくんと私たちでカップルチャンネルを開設し、荒稼ぎを」
「あ、却下で」
「えっ? アダルトなやつじゃないですよ?」
「アダルトじゃなくても無理です。サナちゃんやひーちゃんみたく小さくてかわいい女の子とカップルチャンネル作ったら僕は未来永劫動画サイトから締め出しを食らうよ」
「そ、そんな……。この魅惑のつるぺたボディが仇になるなんて……」
ショックを受けてるけど、どう見ても小学生だからね?
世間様が許してくれません。
「ぬぉぉぉ。おにーさん、足が、しびしび……」
ひーちゃんはひーちゃんでピンチだった。
正座で足が痺れ、床で悶え転がっている。
「ふ、二人とも、ありがとう。だけど一応ね、動画の再生数を伸ばすために企画を増やしていこうと思うんだ。だからあまり心配しないで」
「企画、ですか?」
「うん。今までは断っていたけど企業案件も受けるし、ちょっとコラボ企画も考えているんだ」