ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
「コラボ、ですか……?」
「うん、実は男性アバターのデジタルインフルエンサーから、コラボ依頼があるんだ。実写とデジタルのコラボ動画。最初はあんまり興味がなかったけど、受けてみようかなと」
「そんな……私たちではなく男の人とカップルチャンネルを……!?」
「違うよ? 複数人で行う動画はカップルチャンネルだけじゃないよ?」
迫真の表情やめてもろて?
「まあ細かい企画は打ち合わせで決めることだけどね。重要なのはこのコラボ相手。『炎情シュウ』さんは、自分で3Dアバターを作っているんだ」
【炎情シュウ】は、赤と金の二色の髪を使った、ウルフカットの美形かつ体格のいい青年のアバターを使ったVな配信者である。
個人勢ではあるがすでに十五万の登録者を獲得し、ここからさらに爆発させたいと僕に声をかけてくれたようだ。
彼は自身がデジタルインフルエンサーでありながら、3Dアバターの制作・販売も行っている。
つまり自分のチャンネルは「こんなにすごいアバターが作れますよ」という宣伝の場でもあるらしい。
「ほら、前にサナちゃんたちの動画の話したよね? 実は、炎情さんにアバター作成を依頼したんだ。その縁で、向こうから実写とアバターのコラボとかどうでしょうって話が来た。せっかくだし受けておけば、今後の関係にもプラスかなっていう打算ありきです」
「なるほど……」
サナちゃんは、これまで恥ずかしがって動画配信にはあまり前向きではなかった。
しかし状況が変わったことで、決意めいた光が目に宿る。
「魔力回復のため、配信もありかな、程度には思っていました。ですが、私たちが頑張れば、収入を得られるかもしれないんですよね?」
「いや、収益化って結構条件厳しいから、そこまで考えなくても」
「やるなら、やれる方がいいです。メス豚ちゃんねる……まじめに、取り組みたいと思いますっ」
「真剣な表情なところ悪いけどそのチャンネル名は絶対定着させないよ? いや、勿論やる気を出してくれたのは嬉しいんですが」
発案者のひーちゃんは、床に寝っ転がったまま「えー……」と少し寂しそうだった。
とりあえず、今後はコラボ案件を進めていきたいと思います。
※ ※ ※
春乃宮美桜は扇情的なレオタードをまとい、夜の公園で戦う。
大淫魔サーナーティオや、蟲魔ヒラルスがいくら善良でも、他がそうとは限らない。
あの子達は例外で、基本的に淫魔は女性を陵辱して強くなる化物なのだ。
深い夜、街灯に照らされて不気味なシルエットが浮かび上がる。
ぬめった触手、女性の弱い部分を執拗に狙ってくる。
「巫術、焔華。あと、凍牙」
美桜は触媒なしで巫術を行使する。
得意とする炎の次は、椎名薫から見様見真似で学んだ氷の巫術だ。
複数のつららが触手を正確に撃退する。威力は使い慣れた炎に劣るが、凍結させられるのは便利かもしれない。
実戦で術の修練をしつつ、ちらりと姉の方に視線を送る。
「やあっ!」
近付く触手を回避し、霊力を込めた刀で切断する。
美桜と比較すれば下かもしれないが、咲綾だって十分すぎるほどの実力者だ。並みの退魔師なら苦戦するであろう硬度の触手であっても容易に切り裂いていく。
触手型は淫魔の中でもポピュラーである。
伸ばす触手の形状は様々。厄介なのは、触手の表面の粘液や、放つ体液が媚薬となる点だろう。
もっとも魔力で生み出されたものであるため、霊力が高ければ軽減はできる。
退魔巫女の守りを意にも介さないヒラルスの淫蟲など、特殊な例も存在するが。
「お姉ちゃんやるじゃん。ちょっとテンション高い?」
「しゅ、集中して!」
咲綾は放たれた媚薬体液を回避、着地した瞬間に足を狙われたがそれも切って捨てる。
触手型は再生能力も高く、まともに戦っていてはジリ貧になりやすい。けれどポピュラーなタイプだけにその生態も知られていた。
この淫魔はいくらでも触手を生み出すが、起点となる部分がある。そこを潰せば再生は止まり枝葉も枯れていく。
「もう一発、巫術・凍牙っ!」
姉が雑魚を散らしてくれている間に、美桜は一点を狙いすます。
つららは触手の起点を凍結させ、見る見るうちに勢いが失われていく。
あとは雑魚を処理すればそれで決着だ。
「はい、おしまい。……で油断するのが私の悪い癖」
触手の奇襲に備え、感覚を鋭敏にする。
しかし、魔力の気配はない。咲綾に視線で合図を送る。向こうも感知できなかったようだ。
こうして夜の任務を無事に終わらせることができた。
※ ※ ※
美桜は退魔巫女としては天才である。
あれだけの喧嘩をしたのだ、姉が嫉妬めいた感情を抱いているのもそこそこに理解はした。
ただ、嫉妬というなら美桜だって似たような感情は持ち合わせている。
なにせ、姉は
対して自分は、運動は得意でも勉強は好きじゃないし料理は食べる専門。容姿には自信はあるが、胸の方はつつましく大人しいタイプだ。
分かりやすく美少女を体現している姉を羨ましく思うこともなくはなかった。
だからといってそちらに合わせようとはせず、「私は私だし真似はしないしー?」で終わらせるのが美桜ではあるのだが。
そんな姉は、朝から嬉しそうに台所で調理をしている。
メニューは純和風、卵焼きにシャケの塩焼き、ほうれん草のゴマよごしに筑前煮、豚肉の炒め物。直人が食べるからか、ひときわ大きな弁当箱も用意してあった。
「甲斐甲斐しいねー」
「そう? あ、美桜の分も作ってるからね」
「それはありがと。ていうか、お姉ちゃんが直人の幼馴染だったとは」
もしも当時知っていたら、三人組の幼馴染になっていたかもしれない。
そう思えば少しだけ残念ではある。
「もともと、佐間くんは小学校の頃から仲良かったんだ。でも周りにからかわれて、ちょうど退魔巫女の修行も始まったから疎遠になっちゃった。……夏雅城との婚約もあったしね」
「あー、それは、ごめんなさい。なんか、私でもよかったのに、お姉ちゃんが貧乏くじ引きに行ったんだよね。顔と金で選んだと思って、メチャクチャ言ってた」
「いいよ。私も、言葉が足らなかった。自分で決めたはずなのに、美桜ばかりって理不尽に僻んでた」
あの夜の喧嘩のしこりはまだ残っている。
それでも、直人の正体を隠すにあたり話し合って、ちょっとずつお互いの事情を知って、わだかまりは少し減った。
だから普通に会話する程度の関係には戻れている。
「そう言えば、幼馴染みなのに苗字呼び名なの?」
「疎遠だった期間の方が長いしね。もう、“なおとくん”と“さあやちゃん”じゃないって、お互いに知ってる。だから、昔の延長じゃなくて、今は改めてクラスメイトから始めて、仲良くなる途中なの。このお弁当も、その一環だよ」
「名前くらい気軽に呼べばいいのに」
「誰もが美桜みたいにガンガン行けるわけじゃありません」
姉からすると、美桜の勢いの方が理解できないらしい。
話しながらも手は止まっていない。手間そうなのに、とても楽しそうだ。
そもそも料理に興味のない美桜には今一つその気持ちは分からず、ただ私もできた方がいいのかなぁ、くらいには思っていた。
* * *
「おい、キモブタ。今日は一段とキモいが大丈夫か?」
「えへ、えへへ。そ、そう?」
相沢くんに指摘されても、にやけるのを止められない。僕は朝からずっとそわそわしていた。
仕方ないよ、僕だって思春期なんだ。
今か今かとお昼休みを待ち、ついにその瞬間がやってきた。
「ねえ、咲綾ぁ、今度さ。合コンあるんだけどぉ、来てくんなぁい? 有名大学の、イケメンばっかなの。婚約もなくなったしちょうどよくない?」
「あ、はは。私はそう言うのは、あんまり……」
「えー、ちょっとくらいイイっしょ?」
なんか近くの女子が春乃宮さんを誘ってる。
やめて、邪魔しないで。あと合コンに誘うとかホントにやめて。
それをやんわりと断り、春乃宮さんが二つの袋を手に、僕に小さく目で合図した。
「ごめんね、佐間くんたちと約束あるから」
はっきりとそう言ってくれたのが嬉しい。
美桜さんも「今日も来たよー」と教室に入ってきて、いつものようでいつも通りじゃない四人でのお昼ごはんだ。
「おお、芽吹く春の女神の贈り物……!」
「やめてね? その表現だと私が女神になるからね?」
いやもう十分女神さまです。
僕にとっては、赤き天上の宝珠を上回る聖なる存在……春乃宮さんの手作り弁当だ。
嬉しすぎて全裸でキモブタダンスを踊りたくなってしまう。
広げられたお弁当にさらに言葉を失った。シャケをメインにした和風のお弁当、しかも僕が物足りないだろうからと豚肉の炒め物をプラスし、量もかなり多めにしてくれている。
「私の方、サラダがちょっと違う?」
「美桜は、炒め物より冷しゃぶサラダの方がいいかなと思って」
「これが、料理上手……! 私だと絶対できない気づかいだ……」
何か敗北感ありありに、美桜さんがぐぬぬしている。
というか彼女の分も春乃宮さん製らしい。
「さ、召し上がれ」
「いただきますっ!」
僕は待ての指示を解かれた犬のように猫まっしぐらなキモブタだ。つまりキメラである。
もう自分で何を言っているのか分からないけどとにかくお弁当を味わう。
シャケは紅鮭だね。塩味がしっかり、オーブントースターでなく網で焼いてある。卵焼きは少し出汁を入れて……いけない、批評とかどうでもいい。
美味しい。嬉しい。涙が出そうになるくらいに。
「おいしい?」
「うんっ、すっごく美味しいよ! 春乃宮さん、ありがとう! お店以外の手作りのお弁当って小学生ぶりかも!」
「よ、喜んでもらえて嬉しいけど、微妙に闇が見える発言だね……」
「キモブタのやつ、中学の頃から親の弁当なかったのかよ……」
春乃宮さんと相沢くんが同情的な視線を向けていた。
でも爆食いする今の僕には気にならない。クラスの男子の嫉妬だってノーダメージだ。
むしろ「やっぱロリコンって嘘なんじゃない?」「ふつーに仲いいじゃん」みたいなヒソヒソ話が流れて有難いくらいだった。
「うん、美味しい。お姉ちゃん、すっごいね。これもうお母さんレベルじゃん」
「ふふ、ありがとう」
敗北感に打ちひしがれていた美桜さんも食べればご機嫌だ。
春乃宮さんもお弁当を一口、「ん、上出来」と満足そうに頷いた。
「すごいよね。運動も勉強もできて、料理もこんなに上手いなんて」
「昔、色々手を出してた時期があったの。料理は性に合ったみたい」
「春乃宮さんこそ微妙に闇ない?」
たぶん濁した言葉の中に「退魔巫女では美桜にかなわないから」が含まれている。
あれか、退魔巫女としての才能で及ばないから、自分だけの何かが欲しかったみたいな。
キモブタ地元メシちゃんねるも似たような部分がある。そういう意味じゃ僕たちは似ていたのかもしれない。
「僕もそこそこ料理できるつもりでいたけど、春乃宮さんにはかないそうにないなぁ。卵焼きも巻きがきれい。こういう繊細さが僕にはない」
「直人は一人暮らしだもんね。そういえば、あの子達のお昼も作ったりするの?」
「うん。チンして食べられるように、ワンプレートのお昼ごはんを用意してるよ」
美桜さんが呆れた顔をしたのは、淫魔はそもそもご飯を食べる必要がないから。
でもいいのだ。美味しいモノは心の栄養。食事が美味しくて怒る人は、よっぽどのレアケース以外いないのです。
※ ※ ※
「お前さ、調子に乗ってんなよ?」
まあそんな感じで春乃宮姉妹と仲のいい姿を見せたせいで、放課後に僕は別クラスの男子に肩を掴まれた。
たぶんお昼休みに、僕が春乃宮さんの手作り弁当を貰ったのを見ていたんだろう。
近藤くん達は、僕に対して悪意はなかった。でも今回絡んできたのは、単に僕が気に入らないというアンチ勢である。
最近は相沢くんが恋人さんの家を訪ねるために早く帰るので、その隙を狙ったのだろう。
「デブがさぁ、春乃宮たちに優しくされて舞い上がってよ」
「ブーブー鳴いてろよ」
わざわざ教室でやるのは、春乃宮さんの前で僕に情けない姿を晒させて、失望させようという意図かな。
「ナオトくん、ピッグスラップやっちゃいますか?」
手乗りサナちゃんがグッとこぶしを握ってシャドーボクシング。
やっちゃわないよ、普通の人には過剰戦力な張り手だよあれ。
春乃宮さんもムッとした顔で間に入ろうとするが、僕は小さく首を横に振る。
いつも教室の隅っこにいた。動画ではそこそこ有名でも学校で人気者になれるタイプじゃないし、運動も勉強も苦手だから馬鹿にされても強く出られなかった。
だけど、そんな僕に皆が良くしてくれる。なら、いつまでも情けない僕じゃいけないと思う。
同年代の男子に威圧されるとビビっちゃうけど、ここで負けてはいられない。
僕は、少しずつでも強くなるんだ。これはその、初めの一歩だ。
なお耳元で手乗りサナちゃんが「少しずつも何もナオトくんはすぐさまリベンジするタイプだと思いますが……」とか言ってたのは気にしないものとする。あれ、心読んだ?
「……じゃ、じゃあ、君達が僕にお弁当作ってよ!?」
ちょっと一歩目は間違えたかもしれない。
「……は?」
「こっちは! 毒親に学費を止められて! かっつかつなの! 動画で稼いでもギリギリなの! だから優しい女神が僕に差し入れをくれたの! それが気に食わないなら君が僕に優しくしてよ! 具体的に言うと生活費! お弁当作って! おやつ買って! 学費払ってくださいお願いしまぁす!?」
「なんだこいつ!?」
「払ってよぉ!? お願いだよぉ!? とりあえず財布の中身全部くれたら話聞くからさぁ!?」
世にも奇妙ないじめられっ子がいじめっ子に対してカツアゲをする図である。
迫る僕のブサイクフェイスの圧に負けて、前にいた男子が尻餅をついた。
それを見て折原さんが大笑い。
「ぎゃはっはっ! い、因縁つけといて、負けてるっ! ださっ! オニださいっ!」
女の子のぎゃはは笑い、僕は意外とありです。
キモブタ相手に後れを取った。
羞恥と怒りから顔を真っ赤にした男子は、感情のままに殴りかかってきた。
あんまり怖くない。エロ教祖の魔力弾や爆弾に比べれば迫力不足だ。
でも殴るのは僕のキャラじゃないし……とりあえずジャンプしつつ体をのけ反らせて、脂肪がたっぷり詰まったお腹をぶつける。
僕の肉圧に押されて、殴りかかった側がバランスを崩して転んでいた。
巻き起こる再度の笑い。いたたまれなくなったのか、アンチ勢は捨て台詞もそこそこに教室を去っていった。
「すげーじゃん、キモブタくん!」
「やるじゃーん」
クラスメイトが騒いでいる。
こういう目立ち方はあんまり嬉しくない。僕の内心を察したのか、春乃宮さんが声をかけてくれた。
「お疲れ様、佐間くん。帰ろっか」
「えー!? 待ってよ、咲綾ぁ合コンは!? キモブタくんも悪くないけど、付き合ってないならいいじゃん! 学生時代はもっと遊ぼうよぉ!」
まだ諦めていなかったのか、お昼の女子が執拗に誘っている。
この子、意外にも僕アンチじゃなかったっぽい。単に今が楽しければいい、たくさんの男の子と遊ぶのもステータスと考える享楽的なタイプってだけ。合コンに誘ってるのも、善意と言えばそうなのだろう。
だとしても、もう少し僕に気を遣ってもらえませんかね?
もっとも春乃宮さんにその気はなく、軽く流して僕の手を取って教室を出た。
* * *
後日。
僕は生活費と学費と、コラボ企画のための打ち合わせに臨む。
ただ、相手は新人の配信者で、僕とは畑違いの分野でもある。
というのも、その彼は3Dアバターで活動する、V系配信者。炎の狼と人間のハーフ、【炎情シュウ】さんだ。
顔出し禁止ということで、正式にプロジェクトが始まるまでは文面か、アバターを使ってのWEB会議を行う。僕の方は普通に顔出ししているのでそのままだ。
『どもっす、ご依頼振りです。今回はコラボ検討してくれて感謝です、キモブタさん』
「こちらこそ美ロリっ娘アバターの制作、ありがとうございます」
『もう調整くらいだから、近々納品できますよ』
「楽しみにしています」
声は機械を通した音声だ。
だからアバターが男だからといって、実際に男性かどうかは分からない。
「ええと、今回のコラボって、どういう内容を考えての依頼なのか、聞いてもいいですか? 受けるかどうかは、直接内容を聞いてからにさせてもらえれば、と思いまして」
『そっすよね。実はオレ、キモブタ地元メシちゃんねる見て、気付いちゃったんすよ。あ、これ今住んでるところとかなり近いなって。オレはV勢っすけど、上手くやれば、炎情シュウが商店街を巡ってキモブタさんおすすめの飯を食べる、みたいな画がとれるんじゃね? って』
なるほど、現実の配信者とV配信者が同じ画面で会話しながら街をぶらつく動画を作りたいということか。
「えーと、マジメな話させてもらいますね。僕の動画配信は、生活のためではあるけれど、地元の商店街の活性化も目的の一つにしています。だから、リアクションとして悪態をつくような感じになるなら、ちょっと依頼は受けかねます」
『あー、だから遠出の動画とかあんまないし、メシちゃんねるなのに商店街のおすすめスポットとかも取り上げるんすね』
「ごめんなさい。偉そうに思えるかもしれないけれど、ここは僕にとっても譲れない点なんです」
『いやいやいや! こういう名前でも、炎上系ではないんで! もちろん事前にチェックしてもらって、お蔵入りならそれはそれでもなんで!』
え、没ってもいいの?
いや、違うか。そうならない動画を撮ると最初から決めていたって感じかな。
「それなら……こちらこそ、お願いしてもいいですか? そちらに僕が出演する代わりに、炎情さんもこちらに登場してもらう形で」
『もちろんっすよ! 炎とブタで、チャーシュー企画なんてどうっすかね!?』
こうして乗りのいいVなお兄ちゃんと僕の新企画が始まったのである。