ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
……そうして僕は、目を覚ました。
高校三年生の三学期。卒業式を間近に控えた時期、一応大学への進学も決まり、春からは新しい環境に身を置くこととなる。
大学進学は、僕にとっては大きな意味がある。
だって高校生でなくなるのだ。だから、愛しい恋人の元へと走る。
返坂高校の空き教室。ここで、僕たちは何度も逢瀬を交わした。
最初は、うまくいかなかった。彼女の方が、僕を避けようとした時期もある。
それでも僕は彼女を想い続け、ついにこの時期までやってきた。
空き教室では、既に彼女が待っていた。
「薫先生っ!」
肩までかかる程度の黒髪、丸みを帯びた愛らしい顔立ち。
出会った時が二十六歳だから、今は二十七歳だっけ。でも相変わらず若々しいどころか幼い容姿をしている。
「直人くん、ずいぶん急いできたんですね」
「は、はやく、先生に会いたくて」
「あら、嬉しいです」
椎名薫。
ある偶然をきっかけに知り合った、教師にして退魔巫女。
高校二年生の頃、“僕のミスで、春乃宮姉妹よりも先に薫先生が淫魔の主の正体を知った”。
しかし“退魔巫女の役目のためにダーティな手段を選べる彼女は、僕を許す代わりに泳がせて上手く使うことを決めた”。
利用されているのだから、怒るところかも知れない。でも、配信者として多少は仕事の大変さを知っていた僕はそんなに気にしなかった。それどころか、いつの間にか“薫先生の助手のような立ち位置に収まった”。
また、“教師が一人辞めてしまったため、薫先生は非常勤から正式に勤務することになり”、顔を合わせる機会も増えた。
結果、春乃宮姉妹よりも、薫先生と仲良くなった。次第に惹かれ、男女の関係にまでなったのだ。
「先生、僕、もう卒業です」
「はい、知っています。高校生活はどうでしたか?」
「楽しかったです。そりゃあ、悪口とか言われたけど、友達もいて。春乃宮さん達とも仲良くなって。でも……なにより、薫先生に会えた」
見た目の幼さから時々からかわれていたし、計算高いところもあるけれど、間違いなく教師として生徒達を大切にしてくれた。
退魔巫女として僕たちを守ってくれた。
そんなお人を、慕わないはずがないのだ。
でも、薫先生はちょっと困ったような顔をした。
「直人くん。私は、こんな見た目でも、あなたとの年齢差は十歳近くあります。大学生になれば、視野も広まる。同年代にもっと魅力的な女性も現れるでしょう。大学を卒業する頃には、私は三十を超えています。未来あるあなたには、相応しくありません」
「そんな……!」
「確かに、私たちは恋人同士でした。でも、高校時代の密やかな恋の思い出として、終わらせた方が綺麗だと思いませんか?」
彼女は、そう言って視線を切った。
微かに手が震えている。だから、その言葉が本心ではないと分かった。
彼女はただ、僕のこれからを慮っただけ。
そんな薫先生を、僕は気付けば抱きしめていた。
「な、直人くん……?」
「いや、です。やっと、生徒と教師じゃなくなるんだ。この日をどれだけ心待ちにしていたか。お願いです、薫先生。そんな悲しいことを言わないでください」
「ですが」
「僕は、魅力的な女性が欲しいんじゃないです。薫先生が……薫さんと、過ごすこれからが欲しいんです」
「……今はこうでも、三十超えて一気に老いるかもしれませんよ。私は、そんな姿を直人くんに見られたくないですね」
「気になるなら、今この場で僕の眼球を抉り出します」
「いくら何でもそこまでの覚悟は求めてませんが!?」
腕の中でめっちゃツッコまれた。
でも、気が抜けたのか薫先生は僕にカラダを預けてくる。
「まったく、美桜さんに、咲綾さん。サーナーティオ達。可愛らしい女子がすぐ近くにいるでしょうに」
言いながら、背伸びをするように薫先生は唇を重ねる。
「でも、僕は、薫さんといたいです」
「本当にこの子は」
抱きしめ合いながら、啄むようにキスを重ねる。
次第に二人の興奮も高まり、どちらからともなく舌を絡め合う。ぴちゃり、粘ついた水音が鳴った。
溶けそうなくらいの熱さに酔いしれ、腕の力が強くなった辺りで、鍵を閉めたはずの扉が大きな音を立てて開いた。
そこには、春乃宮姉妹が立っていた。
「あのさ、直人」
初めに口火を切ったのは、美桜さんだった。
「まだ、納得いってないんだけど。なんで、薫せんせなの?」
「……そう、だよ。相手は、教師だよ? そんなの、おかしい」
咲綾さんも震えた声で僕を追求する。
肩が震えている。感情を抑え、それでも堪えられないと言った様子だ。
「だいたいさぁ。あの時、魔力の回復のために、その……私たちと、アレしたでしょ? なのに、責任も取らず、薫せんせとだけ恋人同士? 都合よすぎない?」
美桜さんがキッと睨み付ける。
以前、淫魔との戦いに際して、霊力を封じられて僕しか戦えないという状況があった。
なのに魔力もすっからかん。応急処置として、姉妹と“そういう行為”をした。
そこを責められると非常に弱い。
「だけど、僕は、薫先生が、好きで」
「なんで……?」
咲綾さんが俯いている。
髪の毛のせいで表情が見えない。
「嬉しかったのに……仲良くなれて……。いっしょにいられて、いっしょに笑って、本当に、嬉しかったのに。また、いなくなるの? いや、だよ。いや、もういや。一人で動画を見て笑うだけの日々は嫌なの!」
「咲綾さん、おちついて、僕は。別にどっかに行くわけでは」
「悪いけど、お姉ちゃんを止めらんないわ。ちょっとムカついているのは私も一緒だし」
「美桜さん、まで……」
姉妹は少しずつにじり寄ってくる。
薫先生は、一歩前に出て一喝する。
「二人とも、やめてください!」
「いいよねぇ、薫せんせは。選ばれたんだから」
「そうだよ……私が、私の方が、先に……」
そうして、咲綾さんは顔を上げたかと思うと。
一気に駆け出した。
「あっ、ああああ! 私が、私は、あああっ!?」
彼女は、僕に飛び掛かり─────
※ ※ ※
……そんな、夢を見た。
「うわあああああああああ!?」
僕は布団から飛び起きる。
当然のように潜り込んでいるひーちゃんが「ぬぉう……シード値666」と謎の呻きを上げるも、今はそれに構っている余裕がない。
脂汗が凄い。
あまりにもリアルな夢だった。
なんかあのまま春乃宮さんに刺されるんじゃないかと……。
って言うかなんで僕と椎名先生が恋人同士になってるんだよ。抱きしめた時の甘い匂いも、舌の熱さもすべてが現実のように感じられた。
一応、下半身を確認してみる。よかった、僕の息子は冷静です。
「平気かや? ほれ、水を飲むのじゃ」
「あ、ありがとう」
「なんのなんの。元々この家のやつなのじゃ」
にっこり笑顔で僕にペットボトルの水を渡してくれる、金髪ボブカットの女の子。
見た目は小学生くらい。つまり、つるぺたなロリっ娘である。
特徴的なのは頭に着いた白の猫耳。ぴこぴこ動いてるし、あれ、もしかして飾りじゃない?
釣り目がちな、サナちゃんとはまた違う感じの美幼女だった。
同時に、まごうことなき不法侵入者でもあった。
「って、誰!?」
「にひひ、知りたい? 知りたいのなら教えよう!」
謎の金髪ちゃんは、ばばーん! と決めポーズばっちり、高らかに名乗りを上げる。
「妾こそは淫らな夢で人を墜とす、夢幻の支配者! 五大淫魔において最恐と名高き夢魔! ラエティティア・ソムニウムとは妾のことなのじゃ!」
彼女もまた、五大淫魔だという。
なるほど、道理で……ロリっ娘なのに、退魔巫女よりさらにエグいレオタードだと思ったよ。
だってもう、腋も背中も丸出しだもん。どう考えても一般人に許された格好じゃないよ。
サキュバスボンデージのサナちゃんも大概だけど、ラエティティアちゃんも大概だった。
ひーちゃんの裸パーカーが一番マシな当たり淫魔界隈の服装は大変な問題を抱えている。
嬉しいか嬉しくないかで言ったら、えっちな格好は嬉しいし大好きです。
「なーにーをー、やってるんですか!?」
「ぬぉぉぉぉ!? び、びっくりした!?」
さっきまでビシッとポージングしてたのに、ぴょんと飛び上がる。
気付けばいつの間にか起きていたサナちゃんが、珍しくちょっとぷんぷん怒り顔だった。
「もー! なに勝手に入り込んでるんですか、らっちゃん!?」
「おー、さなさな。おひさ、なのじゃ」
「あ、ハイ。お久しぶりです……ではなく! さっきの悲鳴、もしかしてナオトくんに」
むーっとしたままサナちゃん。
つつっ、と視線を逸らすラエティティア……言いにくいから僕もらっちゃんでいいや。
「あの、いや、その、のう? 妾ちょっとお腹空いたので、魔力を、いただきまーす、的な? れれ、レベル的にはもう、なんかあのちゅちゅっ! みたいな。ううん、もう、すっごく手加減して、ちゅちゅぅ……くらいなのじゃ」
「やりました? 淫らな夢、やっちゃいました?」
「うむ。あ、妾は優しい系ぷらす空気の読める夢魔なのじゃ! ちゃんとネトラレ要素の一切ない、女の子に囲まれる“はーれむぅ”な淫夢で接待してあげた感じ、なーのじゃ?」
いえ、ハーレムって言うか、春乃宮さんに最後襲われてますよ? 性的じゃない方の意味で。
分類としてはむしろ悪夢寄りでしたが?
「……うるさい、らーちゃん」
「おお、ひーもおひさ。……え? ひーが、ぴったりくっついて寝てる? どういうことなの……?」
同じ五大淫魔の気の許しように、らっちゃんはかなり戸惑っている。
安心して、僕も時々戸惑うから。
「というか、らっちゃんはどうしてここに? あ、サナちゃん達に会いに来たの?」
「あれ、キモブタさんが妾に会いたいというから来たのじゃ……?」
「え?」
「ぬぅ? だから、チャーシュー企画を煮詰めに……」
チャーシュー企画って……それ、もしかして。
あれ、そう言えば。
確か、“炎情シュウさんも『のじゃ』口調で喋ってたな”。アバターが男性なだけで、もしかして中身は違った?
「その喋り方、もしかして……」
「おお! 名乗りだけでなく、ちゃんとした挨拶もするべきだったのう! キモブタさん、妾が今回のコラボ企画を依頼した【炎情シュウ】の中の人! なのじゃ!」
「嘘でしょ……」
やっぱり、改めて聞いたら、イントネーションが昨日のシュウさんと完全に一致している。
にしてもキャラが違い過ぎる。僕、淫魔っ子とコラボ企画進めようとしてたの?
「もー、そこら辺の事情は分からないですけど、とにかく一度部屋を出てもらっていいですか? ナオトくんも着替えないといけないですし。ほら、出てください出てください」
「ぬ、ぬぉぉ? さなさな、背中押さないで……!?」
サナちゃんはらっちゃんをムリヤリ部屋から追い出して溜息を一つ。
僕の方に来ると、ペタペタと頬を触ったり、目の中を覗き込んだりと僕の様子をしっかりと観察している。
「大丈夫ですか? なにか、変なところは?」
「だ、大丈夫。でも、サナちゃんこそ。いつもとちょっと感じ違わない?」
ひーちゃんが来た時は「わーい」みたいな感じですごく喜んでいたのに、らっちゃんに対してはちょっと雑というか、警戒しているというか。
「うぅ、そこは。ナオトくんを心配して、と思っていただければ」
言い過ぎたかな、ちょっと落ち込んでしまった。
「ご、ごめんね。……もしかして、らっちゃんって怖い子?」
「なんと言いましょう。悪い子ではないです、むしろユニークな子です。でも、怖い子ではない、とは言い切れないんです」
妙な言い回しに首を傾げると、サナちゃんは真剣な表情で口を開く。
「ナオトくん。らっちゃんが言った、五大淫魔最恐というのは、決して自称ではありません」
見た感じは騒がしいけど面白い、かわいい女の子、くらいの印象しかなかった。
そんな風に呼ばれるほど恐ろしい淫魔には思えないけれど。
普通は淫魔自体が恐ろしいものだという意見もあるそうです。
「らっちゃんの根幹たる能力は<夢幻世界>。夢に入り込み、自由自在に夢を見せるだけでなく、夢を媒介にした空間転移である夢渡りや、夢の世界のモノを一時的に現実で具象化も可能。なんなら二度と目覚めることのない夢にさえ誘える上級種です」
「超すごい夢魔ってこと?」
「いえ、超絶すごすぎる夢魔です。よく考えてください。ナオトくんは、私と魂で繋がっています。なのに、らっちゃんは当たり前のようにナオトくんの夢を勝手に弄っているんですよ?」
「あ……」
僕はサナちゃんとの契約の恩恵で、精神干渉を無効化できる。
なのに夢に侵入できたということは。
「触魔ブラキウムは肉体の頑強さでは五大淫魔で一番です。直接戦闘なら、私や奪魔デートラヘレが2トップでしょう。らっちゃんも高位の淫魔ですから、相応の戦闘力はありますが、私たちには二歩も三歩も劣ります」
「ひーは不動の最弱です」
悲しいこと言わないで、ひーちゃん……。
「でも、一度でも眠れば。それをらっちゃんに視認されたらもうおしまいです。彼女は、残る五大淫魔全員を、覚めない夢に誘えてしまうんです」
それは、確かに怖い。
あのロリっ娘は、やりようによっては五大淫魔を全滅させられるほどの能力の持ち主なのだ。