ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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夢を巡る

 

 小さな頃の僕は、今よりもっとダメなヤツだった。

 なんにもできないデブのブサイク。なのに太っていたのは、僕に与えられたご飯が冷凍食品とか菓子パンだったから。

 ガリガリに痩せてたら虐待を疑われる。父は高給取りでお金に余裕はあったし、とりあえず食べ物を与えておけというのが母なりの自己防衛だったのだろう。

 たくさん食べても補充はされる。だから僕は食べた。ストレスから食べて太って、嫌われてまたストレスの繰り返し。

 

『本当に、食べることばかり立派で。なんにもできない、情けない子』

 

 母の軽蔑の視線を今も覚えている。

 兄さんも『こんなブタが弟だなんて恥ずかしい』と僕を見下していた。

 そういえば、仲の良かった友達に嘘を吹き込んで奪われたこともある。

 “さあやちゃん”にもちょっかいかけてたっけ。

 あの頃は言い返せなかった。

 でも、ずっとムカムカしてた。

 中学になった頃には、もう早く家を出ることしか考えていなかった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 そうして、僕は目を覚ます。

 

「嫌な夢見たな……違う。今ここにいるのも、夢なのかな……」

 

 夢の中の眠りで、夢と夢の合間に、また夢を見る。

 もう今の自分の存在が信じられなくなってくる。

 

「ナオトくん、体調悪いですか?」

 

 一度起きたはいいものの、動く気になれなかった僕はそのまま布団の上でゴロゴロしていた。

 サナちゃんが心配そうに見ているけれど、顔を見ることはできなかった。

 

「大丈夫だよ。ただ、ごめん。ご飯の用意できそうにない。僕の分は、いいから。自分たちの、お願いしちゃっていいかな?」

「別に食事は抜いても。それより、ナオトくんの」

「最近ダイエットブームなんだ……」

「分かりました。あんまり、無理はしないでくださいね」

 

 茶化した物言いをすれば、深追いはせずに冗談として受け取ってくれた。

 ひーちゃんは何も言わずぴったりとくっついている。

 この優しさも、触れる肌のぬくもりも、夢なのかな。

 スマホには美桜さんや春乃宮さんからのメッセージも入っていた。読む気にはなれない。

 

 ……僕と美桜さん、ちゃんと友達かな? もしかしたら、それも夢なのかも。

 春乃宮さんとも疎遠なままだったらどうしよう。

 サナちゃんとの出会いが夢だったら……目が覚めた瞬間、僕の幸せは終わってしまう。

 最初は、夢から出られないのが怖かった。

 今は、夢から覚めるのが怖い。

 

「……でも、このまんまも、やだなぁ」

 

 この状況の元凶は間違いなく夢魔なのだから、解決の糸口はそこにしかないと思う。

 でも下手なことをして、夢が覚めてしまったら?

 僕の現実が、本当はサナちゃんと出会ってもいない、動画配信者ですらない、ただのいじめられっ子だったら?

 最近、調子に乗り過ぎていたのかもしれない。

 結局、色んなものをはぎ取られた僕なんて、こんな情けない奴で、なんにもできない。

 そう考えた時、自分で自分にムカッとした

 そのフレーズは、昔さんざんぶつけられた言葉だったからだ。

傷付いたし俯きもした。たけど、できないなら別の場所で勝負してやると僕は足搔いてきたんだ。

 

「……違う、違う……僕は」

 

 確かに、なんにも持っていなかった。

 だからこそ、キモブタ地元メシちゃんねるの“キモブタ”になろうとしたんじゃないか。

 なら失ったって、お前は今からだって積み上げられるはずだろ。

 僕は両の手で自分の頬を思いっ切り叩く。

 痛い。でも夢から覚めない。変な方向に行きそうな考えをムリヤリ引っ張って、自分が何者かを再確認する。

 

「僕はキモブタ、動画クリエイターだ。考えろ、順序立てて。導入からオチまでしっかり流れにしないと、再生数は稼げないぞ」

 

 現実ではそうじゃないかもしれないけど、別にいい。

 別にライセンス制じゃないんだから、自分でそう思い込めば今日から動画クリエイターを自称してもいいんだし。

 

「夢魔ラエティティア・ソムニウムは、夢を自在に操る。もっと、絶望的な夢を見せることだってできるはず。なのに、しない。じゃあ……これは明確な攻撃じゃない?」

 

 いや、真綿で首を絞めるのが趣味って可能性もある。

 でも、そうだったら抵抗自体が無意味。なら希望のある方を信じて行動する方がよっぽど建設的だ。

 

「攻撃じゃない、なのに夢魔は僕の前に姿を現した。こっちに不都合な予想は全部無視。だったら、コンタクトを取ろうとしている? 単純な快楽のエナジーの摂取? 分かんないなら“実際に会ってみた”が動画的な導入としては自然」

 

 じゃあ結局、夢魔に会わないと動画が始まらない。

 

「……でも、無理。怖い。怖いから……準備を調えよう」

 

 夢が覚めてしまうくらいなら、何もしないを選んでしまいそうになる。

 でもグダグダしててここが現実だったら、それこそ僕の全部が終わってしまう。

 動画は撮影の前の準備こそが大変なもの。

 始める前に、しっかり根回しをしないと。

 

「ごめん、サナちゃん、ひーちゃん。ちょっと出かけてくるから、お留守番よろしくね」

「分かりました。手乗りサナちゃんは、どうします?」

「ううん、今日はいいや。一人で立って歩いてみたくなったから」

 

 持って回った言い方にちょっと疑問顔だったけど、僕はそのまま家を出た。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 そうして僕が向かった先は相沢くんのところでも、お世話になっている商店街のお店でもなく。

 一人暮らしをしてから一度も訪ねていない実家だった。

 庭付きのそこそこいい家だけど、良い思い出はあまりない。

 帰る、という言葉を自然と避けてしまうくらいに親しみを持っていない。でも、この恐怖を拭うためには、一度立ち寄る必要があった。 

 インターホンを鳴らすと、母さんが出た。こうして会うのはもう一年以上ぶりなのに、母さんはどうでもよさそうな顔をしていた。

 

「あら、直人。どうしたの?」

「いや、ちょっと近くまで寄ったから、顔を出そうかと」

「別にいいのに」

 

 遠慮とかではなく面倒だから来るな、みたいな言い方だ。

 一応家に入れてもらえたけれど歓迎されてはいない。

 リビングに座った僕に、台所を片付けながら母さんは言う。

 

「商店街で、聞いたわよ。あなたの動画の話」

「そ、そう?」

「人様に顔を晒して、恥ずかしい。少しはお兄ちゃんを見習って、まじめに勉強すればいいのに」

 

 顔出しでやってる動画配信が気に入らないらしい。

 

「変な真似をして就職に差し障ったらどうするつもりなの。本当に、武尊はかわいいのに、どうしてあなたはこう……」

 

 ぐちぐちと小言が続く。

 可愛らしく優等生な兄と、デブでブサイクでなんにもできない僕。

 ああ、そうだ。昔から母さんは、兄さんと僕を比べて評価した。

 そもそも価値のない息子、今さら何をやったって認めようとは思わない。

 そう言う意味では、仕事ばかりで家庭を顧みない父さんの方がまだ平等だったかもしれない。

 

「ごめん。やっぱり、もう帰るよ」

「あらそう」

 

 引き止めの言葉はない。

 母さんの態度に、一人暮らしをしようと思った理由を再確認する。

 僕は、この家にいたくなかったんだ。

 

 

 

 家を出て、次は兄さんに電話をかける。

 ずいぶん長いコールの後、一応はとった。

 

『なんだ、直人か。珍しいな、そっちから電話なんて』

 

 母さんよりは幾分かマシな態度でも、好意的でないのは明白だ。

 でもそういう声をこそ聴きたかった。

 

「いや……兄さん、すごく頭のいい大学に行ってるよね」

『まあ、自慢じゃないけれど。それなりに勉強はしているからな』

「顔もいいし運動もできるし、なにより要領がいい」

『そこは違う。お前がなにもできなくて、要領も悪いだけじゃないかな』

 

 そう言って兄さんはせせら笑う。

 どんなに善人ぶっていても、学生の頃から変わっていない。

 この人は基本的に、相手を……僕に馬鹿にするのが楽しいのだ。

 母さんにとって僕は恥ずかしい、自慢できない息子。

 兄さんはそんな母の愛を一身に受けていた。その上要領もいいから、悪いことをしても罪を押し付けられて、僕はいつも母さんに怒られていた。

 佐間家では、僕は見下していいものだった。

 

『あんまり、電話はかけてこないでほしいな。お前と仲がいいなんて思われたら、俺の評判に傷がつくだろう?』

「うん、そうだね。それじゃあ」

 

 電話を切って、一度深呼吸。

 僕は道端で、感情のままにぽつりと呟く。

 

「やっぱり、あの人ら、超ムカつく……!」

 

 なんだ恥ずかしいって。僕はちゃんと自分で稼いで生活しているんだぞ。

 ああ、そうだよ。走るの遅いよ勉強も普通だよ。だからって、なんで兄さんにそこまで馬鹿にされなきゃいけないんだよ。

 本当にムカつく。

 だから僕は一人暮らしをしようと、動画配信でお金を稼ごうと決めた。

 認めさせたいとかじゃなくて、あの人たちと関わりのないところで頑張って、無関係のままウダウダ生きていたかった。

 

「中学生の頃も、クラスでは色々言われたなぁ。高校で相沢くんと会うまでは、それこそいじめっぽい感じもあったし」

 

 クラスメイトも似たようなもの。

 兄さんと比較されて「兄はああなのに」は僕の評価のテンプレだった。

 

「次は……って、夏雅城先輩の連絡先なんて知らないや」

 

 そもそも感度向上射精フェスティバルのせいで引き籠ってるし。

 でも、パイセンに抱いた感情ならしっかり覚えている。

 別に僕の悪評なんてどうでもよかった。ただ、僕を庇ってくれた美桜さんを貶めようとした。

 あの時、僕は心底思った。

 

『夏雅城俊哉がムカつく』

 

「僕の代わりに、ビンタしてくれたんだぞ。そんな彼女にひどいことしようなんて、ムカつくに決まってる」

 

 その苛立ちをしっかりと咀嚼する。

 確認したかったのは、僕の自認する僕が、どうやってここまでやってきたか。

 ……ああ、僕はいつだって周りへの、誰かへの不満を原動力にしてきた。

 陰キャで前に出る性格じゃないくせに、内心では文句ばっかり。

 一人暮らしも、動画配信も、反骨と呼べるほど気合いの入ったものではない。単に、ムカついたから好き勝手やってやる、程度の未熟な心構えで手を付けた。

 このムカつきに引っ張られて、どうにかこうにかやってきたんだ。

 

「なら、大丈夫だ。たとえ全部が夢だったとしても、周りに不満があってムカつけるなら、きっと僕はちゃんと前に進める。……我ながらカッコ悪いなぁこれ!?」

 

 ばっちり決まるようなイイ男ではありません。

 でも不満を違う形に昇華して僕はキモブタになった。

 それは、夢から覚めた現実が不都合なものでも、僕がまたムカつきながらどうにかこうにかやっていけるっていう何よりの証拠じゃないか。

 

「あとは……」

 

 もしもの時、失うであろうものを、見つめ直したい。

 僕は一呼吸置いてからマンションに戻った。

 

「おかえりなさーい、ナオトくん」

 

 さっきは雑な態度をとってしまったのに、サナちゃんは笑顔で迎えてくれる。

 淫魔だって知りながら、この子との生活を穏やかな心持で受け入れられたのは、おかえりなさいと言ってくれたから。

 家族からもらえなかった言葉を、まず初めにサナちゃんがくれた。

 ……やだなぁ。これが夢だなんて思うのは。

 

「夢魔ラエティティア・ソムニウムの〈夢幻世界〉ってさ、夢を自由自在に操れる、んだよね?」

「はい、そうで、すよ?」

「そして、夢の中の登場人物は、現実の完全再現が可能」

 

 いきなりの質問にサナちゃんは戸惑いながらも頷いた。

 この情報さえ夢で作られたまがい物なら、もうどうにもならないのでそこを考える必要はない。

 そう、夢幻世界で強く心を保つ方法は簡単だ。

 自分の信じたいモノ以外は全部バッドエンドなんで、他をガン無視すればいい。

 配信者なんてやってると見たくない意見を視界から外すのは必須スキルです。

 

「じゃあ、きっと。現実のサナちゃんもひーちゃんもいい子だ。たとえ、僕と出会わなかったとしても」

 

 もしも今が夢でも、淫魔っ子たちが変わるわけじゃない、そう信じる。 

 美桜さんや春乃宮さんは現実でも退魔巫女だろうから、土下座してでも退魔師修行してもらおうかな。

 お祖父ちゃん経由で封印された像が贈られてきたんだし、そっちを辿ればまた会えるかも。

 ……大丈夫だ、僕が失うものなんてなにもない。

 

「えーと、ナオトくん? どうしたんですか? じーっと見て?」

「サナちゃんの魅惑のつるぺたボディの虜になっていました」

「ほんとにどうしたんですか!?」

 

 いつも自分で言ってることなのに、いざ認めたら超驚いてた。

 その反応がなんだかおもしろくて、僕は素直に笑えた。

 

「あはは、ごめんごめん。……サナちゃん、僕と出会ってくれてありがとうね」

「もしかして心が疲れてます?」

「うん、きっと疲れてる。でもサナちゃんに元気を貰えた。もしこれが夢でも、僕はまた会いたいなって思うよ」

 

 口にした言葉は嘘じゃない。

 これなら、夢魔ラエティティア・ソムニウムに、立ち向かえる……。

 

「キモブタさん、大丈夫なのかや?」

 

 ……とか思ってたのに、おそらく今回の件の元凶であろう夢魔が当たり前のように僕に話しかけてきました。

 普通に部屋の中にいて緑茶すすってました。

 誰か、失われた僕のシリアスを返してください。

 

「なっ、なんでっ!?」

「ぬぉうっ!? がくぅがくぅ、頭が揺れるぅ!?」

 

 思わず両肩を掴み揺さぶると、彼女は気の抜けた声を出した。

 そして遅れて気付く。

 らっちゃんは……めっちゃミニな巫女装束を着ていた。

 ミニ過ぎてふんどし見えてるし、上衣なんて肌色が眩しすぎる仕様です。

 

「その恰好……は?」

「むむぅ? 何か変、かのう? のじゃロリ的にネコ巫女の方がスタンディングオベーションかと……」

「いや、どっちかというとのじゃロリはキツネ巫女では。というかレオタの時といい、頑なに横乳を限界まで晒すのはなにゆえなのか……」

 

 と、そこまで言うとらっちゃんは固まった。

 

「へ、なん、で? レオタのこと……えっ、あっ、ええっ!?」

 

 まるで覚えているのがおかしいとでも言うように、大きく目を見開く。

 あれ? もしかして僕の状況って、そっちにとっても予想外?

 

 

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