ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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君の悪夢

 

 彼女は誰よりも優れた夢魔でした。

 人間や淫魔どころか、同じく夢を操る夢魔ですら、彼女の世界からは逃れられません。

 うたた寝やお昼寝を見られるだけでもうおしまい。

 夢幻世界は無限の世界。

 どこまで行っても終わりがなく、永遠に目覚めることもない。彼女が気まぐれを起こさない限り、夢の虜囚になるしかないのです。

 

 わたしはひどいことはしません、みんなとなかよくしたいです。

 

 そんな言葉を誰が信じるというのでしょう。

 ちょっと喧嘩して、彼女が気まぐれを起こしたら、夢の地獄に堕ちてしまう。

 

 ほら、あなたが今本当に現実にいるかなんて、いったい誰が証明してくれる?

 楽しい時間は単なる夢で、現実のあなたの傍には誰もいませんよ。

 

 夢魔ラエティティア・ソムニウムの傍にいれば、常にそういう恐怖を突き付けられる。

 でも対策は簡単です。

 眠っているところを見られなければいい。無防備な姿を晒さなければいい。

 ラエティティアと距離を置くのが、たった一つの冴えたやり方なのです。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 ……そんな、夢を見た。

 僕は布団から飛び起きる。

 隣にいるひーちゃんも、ベッドのサナちゃんも変化はない。

 でも、らっちゃんがいない。

 気になるのはあの反応だ。僕がレオタードの話題を出したら、明らかに動揺した。

 それってつまり。

 

「っていうか、絶対……っ! これ攻撃じゃない!」

 

 僕はらっちゃんと二人きりで話をしたくて、大声で叫んだ。

 

「らっちゃん! 話を聞かせてもらうよ!? 出てきなさいっ!? そうだ、公園! 散歩に行った公園で待ってるから、ちゃんと来てよ!?」

 

 言うだけ言って、僕は速攻で玄関に駆け出す。

 

「あ、サナちゃんひーちゃん行ってくるね! 留守番しててね大好き!」

「え、えぇ……ナオトくんが変になっちゃいました……。好きって言われるのは嬉しいですけどぉ」

 

 サナちゃんがすっごい微妙な顔をしてたけど、もうそこは気にしないふりをした。

 そして僕が公園に辿り着いた時、近所のお母さんと子供達とかは一人もいなかった。不自然なくらい人の気配がない。

 

「ちょぅっ! ごめんなさいっ! なのじゃっ!」

 

 代わりに、土下座する透け透けレオタ金髪美ロリ淫魔がいらっしゃいました。

 自分の成り立ちを確認して、全てが夢でももう一度全部手に入れてやる並みの覚悟を決めたのに、これあれだ。

 

「ねえ、らっちゃん。まず一番に聞かせて?」

「のじゃ」

「……ミスった?」

「………………………のじゃ」

 

 やっぱりだよ、ちくしょう!?

 そうじゃなきゃ、レオタードからネコ巫女への変化に言及したことに驚く理由なんてないからね!

 この子の予定だと、僕は夢の中で夢を見ているという事実に気付かないはずだった。

 でもシンプルにミスって、僕はその自覚を持ってしまい、結果としてすごいストレスに襲われる羽目になったのである。

 

「ほんっ! とーにっ! ごめんなさいっ! なのじゃ! 妾的にもそんなつもりが一切なく! あのその、でも、さなさなとひーとデュアル魂霊契約をしてしまったがゆえに、人間とは思えないくらいの耐性が出来てしまい、結果として起こった不具合といいますかっ!?」

「え、僕が悪いってこと?」

「違うなのじゃますっ!?」

 

 どうでもいいけど女の子を土下座させてベンチにどっかり腰を下ろしている僕、傍から見たらかなりヤバい奴だよね。

 ひとまず顔を上げてもらって、ベンチに並んで座る。

 おどおどソワソワ、チラ見してくるらっちゃん。

 できるだけ怯えさせないよう、ゆっくり落ち着いて話かける。

 

「ええと、ここはらっちゃんの見せてる夢の世界で間違いないんだよね? 配信者のなりすましとか、お隣さんの妹みたいな子設定とか」

「他にも……飛び級で大学を出た学校のロリ先生とか、幼馴染みとかもやりました、なのじゃ。なおくーん、朝ごはん食べて学校に行こー、って」

 

 僕が認識できていないだけで、何度か夢を繰り返していたっぽい。

 しかもかなりベタなやつだ。

 ……ん? ってことは、デュアル魂霊契約でも、らっちゃんの<夢幻世界>は完璧には防げない?

 え、ヤバい。夢魔ラエティティア、本気で最恐だ。

 

 

「でも、適度なところで夢は切りやめるつもりで」

「うん、そこは信じる。だから教えて? なんで、こんなことをしたのか」

 

 その質問に、らっちゃんは俯いてしまう。

 肩を少し震わせ、怯えた声を絞り出す。

 

「その、男の人が好きそうのを選んでみました、のじゃ。ネコ巫女もそうで」

「じゃあ、そのレオタも?」

「これは伝統的淫魔装束なのじゃ」

 

 ギリギリ露出でもこの子にとっては普通なのね。

 やっぱり淫魔って超すごい。

 

「一番の理由は……サーナーティオや、ヒラルスと、仲が良かったから」

「だから僕に会いに来た?」

「う、ん。サーナーティオがいなくなって、ヒラルスもいなくなって。どこに行ったのかなって、夢をさ迷ってたら、キモブタさんを見つけたの。……皆でケーキ食べてた。あの子達が、仲良くできるなら。妾も、仲良くしてもらえるんじゃないかって、思ったのじゃ……」

 

 シンプルに僕と交友を持ちたかっただけ。

 それなのに彼女は初手から<夢幻世界>を使ってきた。

 

「でも不安で。どういう形なら、キモブタさんが、妾を受け入れてくれるのかなって。だから……」

 

 夢の僕で試した。

 同じ配信者なら仲良くなれるかな、妹みたいな子なら優しくしてくれるかも。

 出会い方を色々試して、失敗したから繰り返して。その途中で僕が、ここが夢だと気付いてしまった。

 

「そんなことしなくても、普通に会いに来てくれても良かったのに。サナちゃん達の友達なら、全然歓迎したよ」

「嘘、なのじゃ。きっと、普通に会いに行ったら、家に泊めたりはしてもらえない。だって、妾には<夢幻世界>が、ある、から。キモブタさんも、サーナーティオも、追い出そうとするのじゃ」

 

 目覚めても目覚めても出ることのできない夢の牢獄。次第に、現実の僕自身のことすら信じられなくなった。

 非常に危険な能力を持つ彼女に、初対面で眠っている姿を晒せるのか。その問いに、はっきりと答えることはできない。

 らっちゃんは顔を上げて、僕をじっと見る。

 その瞳は潤んでいた。

 

「うら、羨まし、かったぁ……! 淫魔なのに……あの子達だって、淫魔なのにぃ……。優しくされて、おしゃべりして、おいしいご飯食べて……頭だって撫でてもらってる! お膝の上で遊んでるっ! 妾は、同じ淫魔にさえ……」

 

 夢魔ラエティティア・ソムニウムは誰にも受け入れられない。

 敵にしても脅威ではないが、味方にすれば裏切られた時すべてを失う。

 その特性上、同じ種族でさえ彼女を仲間にしようとしない。

 五大淫魔のサナちゃんでさえ、らっちゃんには一定以上の警戒を見せていた。

 

「だから、夢のキモブタさんが、一番喜ぶシチュで、会いに行くつもりだったのっ! そしたら妾も……わたしも、現実でらっちゃんって呼んでもらえて。らっちゃんが好きなケーキだよっておみやげ買ってきてもらえて、夜は一緒のお布団で寝られるはずだもん!」

 

 大淫魔や蟲魔ですら受け入れられた人間なら、甘やかしてもらえるかも。

 そんな想像をしながらも、踏み出す勇気が持てなかった。

 仲間を作れなかった強すぎる夢魔は、なにも信じることができず、夢の世界に最善を求めた。

 僕にとっては繰り返すこの夢が悪夢だったけど、この子にとっては誰も傍にいてくれない現実こそが掛値のない悪夢だったのかもしれない。

 

「ねえ、もう一つ、聞かせてもらっていい?」

 

 だけど、これだけは確認しておかないと。

 

「こうやってさ、ミスが原因とはいえ、僕は気付いたわけで。なんかの拍子で僕が壊れたり、自分がやったことがバレた時に嫌われたりするんじゃないかなーとかは、考えなかったの?」

「……………のじゃっ!?」

 

 えっ、嘘でしょ?

 ある程度覚悟していたとかじゃなくて、単に想定してなかったってこと?

 あれですよ、らっちゃんってば能力の凶悪さに反して本人が可愛くユニークな娘さん。有り体に言うと、どんなに悲劇のヒロインぶっても致命的にアホの子だった。

 

「あのー、すみません。かんがえて、おりません、でした」

「うん、だろうね」

「あの、えとえと……嫌われた、のじゃ?」

「正直、けっこう辛かったな。すごく怖かったし」

「うう……」

 

 小さくなってしまうらっちゃんに苦笑しつつ、彼女の頭をぽんぽんと何度か撫でる。

 

「だから、ちゃんと謝りに来てね。夢じゃなくて、現実で。ごめんなさいができたなら、皆でお茶でもしよう」

 

 僕の言葉に呆気に取られていた彼女は、すーっと瞬きもせず涙をこぼす。

 

「いい、の?」

「そりゃあね。謝る時は、面と向かってが誠意だと僕は思うな」

「ほんとに、行っていい? 嘘じゃない?」

「待ってるよ」

 

 君と夢でなく、現実で会えるのを楽しみにしている。

 言葉にしなかった気持ちが少しは伝わったのか、らっちゃんは怯えは消せないまま、それでも精一杯の笑顔を見せてくれた。

 

「……うんっ」

 

 それがきっかけとなり、夢の世界が希薄になっていく。

 壊れるのではなく、境界があやふやに揺らぐ。

 もうすぐ僕は目を覚ますのだろう。

 最後に思うのは、小さな猫耳淫魔のこと。けっけうひどい目に合ったけれど、僕はそんなに嫌いじゃなかった。

 

 飛び抜けた力を持った夢魔なのに、明るくてユニークでノリがよくて。

 でも本当は一人が怖くて、誰かといっしょにいたいのに、踏み出す勇気を持てなかった。

 そのくせ都合の良い夢でさえ、誰かを押しのけてその場に収まろうなんて考えもしない。

 そういう、意地っ張りで臆病でうっかりで、だけど優しい女の子。

 

 深く浅い眠りに僕は。

 ……そんな、君の、夢を見た。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 僕は布団から飛び起きる。

 横に寝ているひーちゃん、ベッドで寝息を立てるサナちゃん。

 そして、夢の中と変わらない姿で、居心地悪そうにしている、らっちゃんがいた。

 

「ここが、現実、なのじゃ」

 

 か細い声だった。

 

「妾が入り込んだのは、【炎情シュウ】とお仕事のお話をした後の眠り。だからサーナーティオとは出会ってるし、だいたいのことはちゃんと現実。……それを、証明しろと言われても、むつかしい、のじゃ」

 

 僕の現実は何も変わらない。

 そう言われても、<夢幻世界>は彼女の自由。これまでの流れのすべてが、そういう夢だったとしてもおかしくない。

 改めて夢魔ラエティティア・ソムニウムの恐ろしさを思い知る。

 この子が存在している限り、僕の幸せな景色が単なる夢である可能性は否定されない。

 

「キモブタさん、ごめんなさいっ!」

 

 でも彼女は、しっかりと謝ってくれた。

 

「妾、ひどいことしました! あの子達を羨んで、自分も自分もってばかりで、キモブタさんが辛い目に合うなんて考えもしませんでした! 本当に、ごめんなさいっ! きっと今も、色んなことが変な風に見えちゃうのも、全部妾のせいですっ」

「……許してほしい?」

「ううん、ただ、妾が間違ってたって。ごめんなさいは、許されたいからするものじゃないのじゃ。もし、もう二度と顔を見せるなと、みせ、るな、というならぁ……」

 

 想像だけで泣いちゃってるよ。

 本当に、この子は。

 

「おいで、らっちゃん」

 

 僕は両手を広げてみせる。

 よく考えたらサナちゃんもひーちゃんも秒で僕を殺せるわけで、でもいい子だからそんなことはしないって信じられる。

 なら、らっちゃんだって同じ。危険な能力を持っていても、この子なら大丈夫と思えるまで傍にいよう。

 最初唖然としていたけど、彼女は爆発するような勢いで僕の胸に飛び込んできた。

 

「ゆるして、くれるの?」

「うん。でもね、僕は何でも受け入れたりはしないよ。ダメなことはダメって言うし、けっこうツッコミ気質だし、らっちゃんが変なことしたら……待って、今僕の寝間着で鼻拭かなかった? する? この流れでそういうことする?」

「にひひ、ごめんなさい」

 

 さっそくこれかい。

 僕はこつんと優しく頭を小突き、その後はなでなでをする。

 らっちゃんは本物の猫みたいに、気持ちよさそうにゴロゴロしていた。

 

「叱ってもらえたぁ。でも許してくれて、頭も撫でてもらえたぁ」

「もう、反省してるの?」

「うんっ! 幸せ過ぎて、夢みたい、なのじゃ!」

 

 おーい、噛み合ってませんぜお嬢ちゃん。

 だけど、まあいいか。

 喜びに満ちた涙声、縋りつくような抱擁。

 僕は金の髪を手櫛で梳く。滑らかな心地良さ。彼女にとっての現実も、こういう優しい手触りであってほしいと思う。

 

「ふぁ……って、な、なにごとー!? むっ、夢魔ラエティティア!?」

 

 起きたサナちゃんが、僕と抱き合うらっちゃんを見て驚愕の表情を浮かべる。

 あ、そこからもう夢だったんだ。

 現実では夢の中ほど仲良くはなれなかった。

 でも心の奥では「らっちゃん」「さなさな」と。そう呼び合えるような友達になりたいと、たぶんこの子はずっと願って……いや、夢見ていた、かな。

 

「んー……ラエティティアが、なんで?」

 

 ひーちゃんも遅れて体を起こし、僕たちを不思議そうな目で見る。

 よかった。彼女達が夢でなくて。

 

「おはよう、サナちゃん、ひーちゃん」

「おはようございます、ナオトくん。それで、何故、あの子が」

「今日も二人といっしょにいられて、すごく嬉しい」

「あの、え、ありがとうございます? えと、なにかありました? いえ、そう言ってくれるのは私も嬉しいんですが」

 

 腕の中のらっちゃんを警戒しつつも、そこはかとなく喜んでるサナちゃん。

 素直に「照れる……」なひーちゃん。

 猫猫にゃんにゃんゴロゴロらっちゃん。

 世にいうロリ三分の計である。僕はむしろ世間の刑を受けそう。

 

「それで、ですね。なぜラエティティアがここにいて、その懐きようなのかを教えていただけると。というか、離れてください。私の魂約者ですよ」

「ひーの魂約者でもある」

「ねえ、二人とも。その響きを常用するのやめてもろて?」

 

 絶対勘違いを引き起こすから。

 ただ、らっちゃんとの関係を問われても、現実には初対面なんだから表現のしようがない。

 なので僕は悪戯を成功させた悪ガキのように口の端を吊り上げた。

 

「実はね、僕たち、けっこう仲良しな予定なんだよ」

「なのじゃっ!」

「意味が分かりません!?」

 

 淫魔っ子たちは、思い切り呆気にとられている。

 腕の中のらっちゃんに目を落とす。鼻を赤くしながら、それでも明るい彼女の笑顔を、僕は確かに見ることができた。

 

 

 

 

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