ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
僕が昨日の夜から今朝までに起こったことを説明すると、サナちゃんが頭を抱えてしまった。
「……つまりナオトくんは、夢魔ラエティティア・ソムニウムによって<夢幻世界>に閉じ込められたけど、仲良くなって彼女を受け入れたと? あの、ですね? 自分で言ってて、なにか変だなーとか、思ったりしないです?」
「確かに、僕みたいなデブサイクの家に美少女ばっかり集まってる現状は変かなぁ、と」
「そういう話ではなく!? でもありがとうございましゅ! じゃなくて、<夢幻世界>の危険性はその身をもって知ったはずじゃないですか!?」
それはもちろん。
危険性を踏まえた上で、僕はらっちゃんを受け入れたのだ。
「でも寝てたら永遠に目を覚まさなくなるって、夢魔じゃなくてもナイフがあれば即座に可能なわけで。なら、らっちゃんいい子だし大丈夫じゃないかな?」
「にへー」
「なんでナオトくんのお膝の上で喉の下撫でられてゴロゴロしてるんです!? 猫っ!?」
猫耳淫魔なのでほぼ猫で間違いないと思います。
めちゃめちゃ荒れてるけど、サナちゃんがこうまで警戒している理由は、らっちゃんが嫌いなわけじゃないだろう。
ごく単純に、僕を案じてのことだ。
「ごめんね、嫌な役をやらせて……じゃない。ありがとう、心配してくれてるんだよね」
「当たり前じゃないですか。目覚めなくなったナオトくんの寿命が尽きるまでお世話するのは、やっぱり辛いですよ」
眠り続ける僕を見捨てるって発想に至らないのが、いかにもサナちゃんだった。
らっちゃんを受け入れるのは、この子にとって余計な負担を強いることになる。
「そもそもの話。“ナオトくんが夢魔ラエティティアと仲良くなった夢”を私が見せられている可能性は、否定できないんです」
「否定できる。ここは現実で、らっちゃんはいい子だよ。僕はそう信じた」
「だからそれが……ダメですね、なにを言っても水掛け論になります」
ここが現実か夢か、証明する手立てはない。
らっちゃんもそれは分かっているのだろう。決意に満ちた目で僕たちを見る。
「うぬぅ、さな、サーナーティオの、懸念も当然。しかし、妾は決してみんなに危害を加えぬ。その証をここに立てよう」
らっちゃんは僕の膝から降りて、床に正座した。
「キモブタさん、是非に妾とも魂霊契約をお願いしたいのじゃ」
「ら、らっちゃん?」
「ここにいる淫魔は二柱ともキモブタさんと契約しておる。妾も住まわせてもらう身として魂を繋げるのが筋というもの」
……当たり前のように住まわせてもらうことになってるけど、ここでツッコんだら絶対泣くよね?
くそう、なんて狡猾な罠だ。全然オッケーだよ。
この提案に賛同したのは、サナちゃんだった。
「……いろぉんなことを無視したなら、私は、まぁ賛成ですね。魂霊契約をすれば、ナオトくんも<夢幻世界>を使えるようになります。夢の世界に囚われても、自力で脱出ができますから。ひーちゃんは、どう思います?」
これまで話に入ってこなかったひーちゃんは、微かに目を伏せて抑揚なく答える。
「おにーさんが決めればいいと思う。ラエティティアの気持ちも、少しわかる。私は、嫌われる側だから」
不快害虫。
醜い淫蟲を使役して表に出ない蟲魔ヒラルス・ラールアの評価は、美しい姿を衆目に晒す大淫魔とは違う。
化け物として人間に敵視されるこの子には、らっちゃんの嘆きも、僕に懐く理由にも理解できたのだろう。
「ただ、おにーさんの膝を使う場合は私の許可が必要」
「おっ、横暴なのじゃっ!?」
僕の膝の占有権を主張しないでもろて?
「ともっ、ともかくっ! 妾と契約を結べば安心安全! ど、どう、か、のぅ……?」
自分から言い出したのに、途中で不安そうに小さくなってしまう。
そんならっちゃんが少しでも安心できるよう、僕は出来るだけ優しい声音を心がける。
「らっちゃんが、いいのなら」
「う、うむっ! では、契約の儀式を!」
そういえば、サナちゃんの時は覚えてないけど僕に傷をどうこう言ってた。ひーちゃんの時はキスだった。
もしかして契約の儀式って決まった形はないのだろうか? 気になって聞いたら、サナちゃんが答えてくれた。
「通常の主従契約にしろ魂霊契約にしろ、必要なのは“互いの体液を混ぜ合わせること”です。私の場合は、お互いの血液を使いました」
「ひーのは、唾液れろれろ」
「淫魔的には性行為の方が普通かの? しかし、ここはひー、ヒラルスに倣うこととするのじゃ」
流れるように契約方式が決定。
一度深呼吸した後、らっちゃんは一度深呼吸して、意を決して顔を上げると一度深呼吸をした。
そこまで緊張するんなら素直に血液方式にしませんかね?
「あのー、らっちゃん? 別に僕は」
「うぬぅ! 食らえいっ!」
「んぐむっ!?」
およそ口付けとは思えない勢いで繰り出される唇。なんだ繰り出される唇って、攻撃の時に使う表現じゃないか。
ともかくそのくらいのぶつかり方で、舌を口内に突っ込まれた。
お互い拙くも動かし合って、じわりと胸の奥に熱さが広がる。なんとか契約が完了したようだ。
「ぷっ、はぁ! ここ、これで妾とキモブタさんは、魂で繋がったのじゃ。う、うへへぇ……」
「らっちゃん、よだれよだれ」
「はっ!? でもでも、妾、もう一人じゃない……!」
長い孤独を過ごした夢魔にとっては、魂霊契約は絶対的な繋がり。心を震わせるほどの悦びがあるのかもしれない。
それはそれとして、女の子がしちゃダメな類のトロけた顔をしていたから気を付けてください。
「……あれ? もしや血液による儀式をしたのって、私だけです?」
サナちゃんがその事実に気付き、なんとなくすっきりしない顔をしている。
そんな彼女の肩にポンと手を置いたひーちゃんが、アメリカの通販番組みたいなジェスチャーで言う。
「ふぅ……さーちゃんは、まだまだ子供」
「すっごくマウントとってきました!?」
キスで大人ぶってるひーちゃんは、もしかすると自分がサキュバスだということを忘れているのかもしれない。
顔を真っ赤にしているらっちゃんも似たようなものです。
これで三柱の淫魔と契約を交わしたことになる。僕は目を閉じて自身のステータスを確認する。
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【ロリ淫魔ハーレミング・キモブタ】佐間直人
<魂霊契約>
・大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス
・蟲魔ヒラルス・ラールア
・夢魔ラエティティア・ソムニウム
<所有スキル>
・堕淫魔術:★★★☆☆
・淫蟲創造:★★★☆☆
・夢幻世界:★★★★☆
・手乗りサナちゃん:★★★★☆
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ハーレミングってなんだ。
スキルは、意外にも覚えたばかりの<夢幻世界>が熟練度トップだった。
「……たぶん、妾のミスのせいで夢の世界を認識したうえで、抗ってみせた影響なのじゃ」
「使用じゃなくて食らったことでの習熟って感じかぁ」
「のじゃ……」
ごめんなさいって言いそうになったから、指で唇を押さえておく。
些細なことだったけど、らっちゃんは柔らかく目を細めた。
僕たちの和やかなやりとりを尻目に、サナちゃんが腕を組んで難しい顔をしている。
「これで、ラエティティアとも契約が。……私の身体強化に精神耐性と魔術、ひーちゃんの淫蟲に加えて夢を操るチカラまで。ナオトくん、ちょっと常人の枠超え始めましたね」
「言わないで、僕も気にしてるから……」
外法術師の奥義の筈の魂霊契約を、三柱の上級美淫魔っ娘と結んじゃったよ。
「まあ、キモブタさんなら変なことにはならないのじゃ」
「僕も悪用をするつもりはないしね。さ、じゃあ僕も約束を守らないと」
「うぬぅ、そ、それは、もしや」
「らっちゃんは、謝りに来てくれた。なら、皆でお茶をしよう」
僕の言葉に、彼女は明るい笑顔を見せてくれた。
※ ※ ※
「おだんご! きなこ餅! お大福! が、食べたいのじゃ!」
らっちゃんが若干食い気味に手を上げる。腋。
うちでは珍しい和菓子派のようだ。
「ケーキじゃないの?」
「うむ。そっちも興味あるけど、キモブタさんの夢で出てきたヤツ、現実でも食べてみたい……」
夢の中でしかスイーツを食べたことがないという、若干のヤミ要素を見せつけてくるらっちゃんです。
リクエストされたので、商店街の和菓子屋・東雲堂本舗までひとっ走り。
シンプルなお団子にあんこ系、果物好きなひーちゃんのためにいちご大福も忘れない。ただこの店は、クリームを使った和スイーツはないのが残念だ。
お茶はやはり緑茶? いや、ここはぬるめのほうじ茶でいこう。
こうして、現実でのお茶会が始まった。
東雲堂本舗の和菓子に使われる求肥は、シンプルながらに品の良い甘さで僕のお気に入りだ。淫魔っ子たちにも好評なようで、笑顔で食べてくれている。
「んー、もちもち。和菓子も美味しいですね」
「おぉ、これが、お茶会……。皆で、お菓子と、お茶をぉぉぉ……。わた、妾、感激なのじゃ……」
「いちご大福、うまうま」
約一名、猫耳をぴこぴこさせて和菓子以外のものに感動してらっしゃいます。
「でも、豆なのにデザート。ちょっと不思議な感じがします」とサナちゃんが小首を傾げる。
「ああ、昨日は五目豆だったもんね」
豆の煮物でご飯を食べたから、同じ素材が甘いお菓子になっているのが今一つしっくりこないらしい。
ひーちゃんとらっちゃんはあんまり気にしていない様子。
「甘くておいしければ問題ないですのじゃ」
「そこはラエティティアと同意」
それもそうか、とサナちゃんも普通にお菓子を楽しむことに決めたようだ。
和やかにお茶の時間が進み、僕はふと気になってらっちゃんに質問をしてみる。
「そう言えば、らっちゃんって、本当の一人称“わたし”だよね」
「の、のじゃ?」
「時々、出てるよ。その喋り方、無理してない?」
ぶっちゃけ、のじゃ口調怪しい時あるし。
でも、にぱーっと満面の笑みで答えてくれた。
「してないのじゃ。これは、なにも持ってなくて、それでもどうにかこうにか頑張ってきた自分。あなたにとっての“キモブタ”に近いかのう? “妾”は妾の数少ない自負……そう、思えたのじゃ!」
無理をしているんじゃなくて、せいいっぱい我を張ってきた。
それが彼女にとっての誇り……って、うん?
今の表現、僕が夢の中で使ったやつでは?
「……あのー、もしかしてなんだけど、夢の中で起こったことって」
「妾の見せた夢だけど、行動はキモブタさんのもの。夢が崩れる前に、ざっとだけど確認したのじゃ。だーかーらぁ、キモブタさんが、嫌な家族さんに会いに行ったところとか、さなさな達が夢だと嫌だなぁしてたところも、閲覧済みー」
「なにそのすごい羞恥プレイ!?」
僕の情けないところ目白押しじゃないですか。
困ったことに、サナちゃんもひーちゃんも興味を持ってしまった。
「む、夢魔ラエティティア? 夢だと嫌だ、というのは、どういうことでしょう」
「ひーも聞きたい……」
僕は、改めて五大淫魔最恐の意味を思い知る。
淫魔っ子たちの視線を向けられたらっちゃんは、今まで友達がいなかっただけに、超テンションが上がっていた。
「うむ! キモブタさんはサーナーティオやヒラルスと出会ったことも夢なのでは? と考えてしまったのじゃ! 幸せな景色が夢かも知れないと思い悩み……しかしながら自分で立ち直り、こう考えた」
「“この夢は現実とほとんど変わらない。なら、サナちゃんやひーちゃんは、現実でもいい子だ。たとえ僕と出会わなくても。それなら大丈夫だ。夢が覚めて、この出会いが嘘に変わったとしても。また二人に会いに行く……。僕が失うものなんて、何一つない”と……! そうして、妾と! 対決しようと心に決めたのじゃぁ!」
なんかめっちゃ情感たっぷりに語ってくれてる……!?
ていうか言葉にしなかった僕の感情まで把握できてる!?
ヤバい、五大淫魔がヤバすぎる。サナちゃんの堕淫魔術が「意図したタイミングで相手に失態を演じさせる能力」なら、らっちゃんの夢幻世界は「限定された状況下でのシミュレートを夢で行える能力」だ。
どっちも、エロ目的以外の方が有用すぎて、本気で人間がもってちゃダメな類だよこれ。
「なな、ナオト、くん? すす、すっごく私たちのこと大好き過ぎません……!?」
「おー、おにーさんすごい。私も、会いに行く」
こっちもヤバい。
僕が大分サナちゃん達に執着してるのがバレてしまいました。
サナちゃんは顔を真っ赤にしてるし、ひーちゃんは普段よりも柔らかい表情。
恥ずかしがる僕を尻目に、らっちゃんは「妾、いいこと言った!」と胸を張っておられる。
「まだまだキモブタさんの夢の中での立ち回りは沢山あるのじゃ。たとえば、サナちゃん大好きと叫びながら走り抜けるシーンとか、仲の良い妹キャラにせがまれてもサーナーティオやヒラルスを優先したりも」
「くわしく。もっとくわしく」
ひーちゃんが僕の羞恥シーンにたいそう関心を持っている。「やめてもろてぇ!?」と叫ぶ僕の訴えは軽くスルーされました。
「もう、ナオトくんってば、いつも私に雑に突っ込んでばかりだと思ったら、とっくに虜になってるじゃないですか」
「いや、あの、虜になってるのは否定し切れませんが。できれば、サナちゃんに雑に突っ込むという表現は控えていただけると……」
コンプライアンス的なあれこれなので。
「ラエティティア。とても……とっても、面白い情報をありがとうございます」
「よ、喜んでくれてなによりなのじゃ。そ、それで、その。サーナーティオも、ヒラルスも。わ、わわわ、妾も、この家に住むことになったわけで。あまり、きょ、距離がある呼び名……う、うぅぅ……」
途中で言葉に詰まってしまったらっちゃんは、涙ぐみながら助けを求めるように僕を見上げる。
いくら恥ずかしい場面を暴露されても、僕はらっちゃんがけっこう好きだし。やっぱり助けてあげたいと思う。
「あー、ほら。サナちゃんも、ひーちゃんも。同じところで生活するのに、変に遠慮をしてたら疲れるでしょ? この子のことも、さ。あだ名で呼んだりとかって、できないかな?」
「そ、そう! 妾は、キモブタさんに救われた身。その彼と契約を結んだなか、なかっ……
そこまで言ったところで、サナちゃんがらっちゃんの手をふわりと優しく掴んだ。
「別に私は、貴女のことが嫌いじゃないです。ただ、もしもの時を考えると、ナオトくんが危ないから、反対はしていました」
当初の警戒が嘘みたいに、表情は柔らかい。
「わ、妾は危害を加えることなど、せぬっ! 彼がすくい上げてくれたこの心に誓って!」
「今はそれを信じましょう。ナオトくん経由とはいえ、私たちは魂を繋げあったのですから」
そこで一度言葉を区切り、サナちゃんは優しく微笑んだ。
「仲良くしましょう? 同じ魂約者を持つ身として……ね、らっちゃん」
「……う、うん! ささっ、さなさな!」
「じゃあ、私も。らーちゃん、でいい?」
「もちろんなのじゃ! ひーとも妾は仲良くなりたいっ」
三人の美少女が輪になって握手をして和解する。
心温まる麗しい景色だ。
「えへへ、不思議ですね。五大淫魔と呼ばれエクソシストに恐れられていた頃は、らっちゃんとほとんど喋らなかったのに」
「うぅ、わた、妾……うれしいのじゃ。まるで、夢みたい」
「らーちゃん、おおげさ」
違うんだよ。
らっちゃんは君達とずっと仲良くなりたいって思ってたんだ。
繋いだ手は彼女の願い。それが叶い、ここに夢の続きが始まろうとしていた。
「でも、ナオトくんが。へー、そうなんですねー。うふふ」
……なお、しばらく夢の僕のオモシロ行動ネタで盛り上がり続けたのは、言うまでもないことだろう。