ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
「それじゃあ、【炎情シュウ】さん。コラボ動画、よろしくお願いします」
『うっす、こちらこそ!』
あれから僕は改めてコラボ動画作成の打ち合わせを終えた。
本物の炎情シュウさんは普通に男性の配信者だった。
年齢は十九歳。なにか色々家庭の事情もあって大学進学はせず、高校卒業後はバイトと配信者活動がメイン。いずれは配信一本で食べていくつもりなのだという。
リアルと3Dを組み合わせた動画は、炎情さん側には僕が案内役として登場。僕のチャンネルでは、ちょうど手乗りサナちゃんとの掛け合いをイメージした、ミニ炎情さんに出演してもらう形になる。視聴者層を広げるためにお互い頑張っていくつもりだ。
「そうだ、3Dアバターをもう一つ依頼したいんですが。以前お願いしたちっちゃい女の子アバターを、姉妹から三姉妹に、みたいな」
『あー、素体にサヨちゃんヒナちゃんを使っていいならわりと短期間で仕上げられますよ? 細かい要望送ってくれると助かるっす』
「もちろんもちろん。よろしくお願いします」
あと、急遽アバターを追加。
こっちもちょっと楽しみにしている。
「ではキモブタさん、今後ともよろしゅう、なのじゃ」
私生活での変化といえばやはり、らっちゃんの同居が決定したこと。
1LDKのマンションで四人はかなり狭いけれど、引っ越しできるほど懐に余裕もないのでしばらくはこのままだろう。
問題は寝床。スペースが足りていないので、ベッドと布団に二人ずつ、ローテーションで眠る形となった。
……のだけど、サナちゃんは甘くていい匂いだし、ひーちゃんと寝た後は虫刺されが多いし、らっちゃんはスリスリ抱き着いてくるしで、僕のメンタルがそこそこヤバい。
お金に関しては結局、学費を打ち切られた。
動画作成は頑張るつもりだけど、同居人が増えた分、どうしても出費はかさむだろう。
今後を考えて、僕はお祖父ちゃんに連絡をとった。
「お祖父ちゃん、久しぶり」
『おお、直人。どうした?』
「実は……」
事情を説明すると、電話越しに大きな溜息を吐いていた。
『……あやつらは、本当に。すまんなぁ、儂の息子が。嫁も、どうしてこう兄弟で格差をつける真似を……』
母さんが頑なに反対したため、お祖父ちゃんとは同居していない。お婆ちゃんは早くに亡くなっている。
仕事柄海外に行く機会も多いので、高校進学時に僕が転がり込むこともなく、本人は「自由気ままな老後を楽しんでおるよ」と言っていたっけ。
ただでさえ動画の収益化の際に保護者として名前を貸してくれた。更に頼るのは申し訳ないけれど、お祖父ちゃんは二つ返事で了承をしてくれた。
『では、学費と生活費を振り込んでおこうか?』
「ううん、違うんだ。学費分だけ、貸してほしい。借金として、ちゃんと証文を整えた上で」
『ん?』
僕の発言に不思議そうにしている。
すべてを出してもらおうとは思っていない。かと言って、生活に追われた状況で拝金主義の動画制作になるのも好ましくない。
なので、あくまでこれまでの生活を維持するために、一時的にお金を貸してほしい。
その上で収入を増やしていき返済する。
「返済計画書も作るよ。でも動画の収益は水物だし、説得力は弱いかもしれない。だからキモブタちゃんねるが失敗した場合の、就職して給料から返済する旨も盛り込んでおきたいんだ」
『いや、儂の孫。孫じゃぞ? そこまで契約でガチガチにせんで、もう少し甘えても』
「十分すぎるくらい甘えてるよ、僕はお祖父ちゃんがいなかったらチャンネル開設自体できなかったし。これも、僕がしっかりお金を稼げるようにするためのワガママだって思ってもらえないかな?」
現時点ですらけっこうな負担になっているはず。
返済計画書はそういった心苦しさを緩和するためにも必要なのだと説明すれば、渋々ながら納得してくれた。
『分かった。直人が、そう言うのなら』
「ありがとう!」
『ただし、失敗しても儂は怒らんからの』
父さんの親だとは思えないくらいに優しい。
ただ、一つ気になる点もある。
僕にくれたあの女神像。サナちゃんを封印した「謎のお爺ちゃん退魔師」って、もしかして。
質問が口から出かかったけれど、すんでのところで止めた。
そこら辺を明らかにして、お祖父ちゃんを見る目が変わってしまうことが怖かったのかもしれない。
※ ※ ※
「……というのが、近況でございやす」
「えぇ……」
そう言った流れを、僕は美桜さんと春乃宮さんをマンションに呼んで説明した。
思いっ切り困惑された。
「春乃宮咲綾に、美桜……さーやさん、みおーさん、じゃな! 妾は五大淫魔が一柱にして夢幻の支配者、夢魔ラエティティア・ソムニウム! 言い難かったら、らっちゃんとか、ララとか好きによんでくりゃれ!」
「あ、はい。咲綾、です? どうしよう、五大淫魔の三柱目と知り合いになっちゃった。私、退魔巫女なんだけどなぁ……」
「私は美桜。名乗るけどさぁ……ダメだ、ちょっと眩暈がする」
上級淫魔の集まる外法術師の住処で和やかに会話する退魔巫女姉妹。
あれ、これ退魔協会にバレたら裏切り者認定からの処罰ものじゃない?
隠蔽は徹底的に行わないといけないと改めて思い知る。
「直人、あんたどうなってんの?」
「僕もよく分かってませんですハイ……」
「魂霊契約って、外法術師最大の奥義のはずでしょ。上級淫魔三体との契約なんて、これまでに類を見ない化物術師じゃない? どうやったらそんな真似を」
美桜さんは、ちらりと淫魔っ子たちを見る。
するとまずサナちゃんがしゅたりと手を挙げた。
「私は、ナオトくんが心臓の病気で倒れたので応急手段として契約をしただけですよ?」
「おにーさんが困ってそうだったから」とひーちゃん。
「キモブタさんがお茶しよって言ってくれたから! なのじゃ!」とらっちゃん。
美桜さんが、思いっ切り頭を抱えている。
「奥義の扱いが軽すぎる……!? とくにひーとララ! そんなんでいいの!?」
「あの、一応二人とも、相応の考えがあってなので……」
「言っとくけどサナも大概だからね? なんなのもー、この子ら」
サナちゃんがフォローをしてくれた。
害虫として嫌われたひーちゃんと、同じ淫魔からも疎外されたらっちゃん。
この子達にとっては、契約を受け入れてもらえること自体が嬉しかった。僕たちにとっては些細でも、この子達には魂を繋げるのに足る理由だったというだけの話だ。
「協会にバレたらホントにヤバいから、私らの責任もなし崩しですごいことなってる……」
「誠に申し訳なく……」
美桜さんにじとーっとした目で見られたけど、謝るしかないのが現状です。
一応、僕が夢に囚われていた時の話もすると、ものすごく心配された。
春乃宮さんなんてわたわたと僕のつま先から頭のてっぺんまでを確認している。
「だ、大丈夫? 調子悪いところない?」
「うん、平気だよ」
「そ、そう。よかった……」
ほっとして微笑む春乃宮さんに温かな気持ちになる。
誰かに心配してもらえるって、とても嬉しいことだ。
「私は……もちろん、美桜も。ちゃんと秘密にするから、そこは安心して」
「ありがとね、春乃宮さん」
「ただ、これまでの価値観とのせめぎ合いで困惑するのは許してね……」
やっぱり春乃宮さんにもメンタルダメージはあったらしい。
退魔巫女的に、淫魔は敵な教育が基本だろうし、仕方ないと言えばそうなのだろう。
「わ、妾は……ちょーっとミスはしたけど、キモブタさんを苦しめるつもりは一切ないのじゃ! むしろサービス精神旺盛! 女教師とらぁぶらぁぶかつハーレムぅな夢も見せてあげたくらいなのじゃ」
「……佐間くん、どういうこと?」
春乃宮さんの表情が一気に凍り付いてしまった。
らっちゃん、なにしてくれてんの?
しかも椎名先生と恋人同士になった淫夢について詳しく解説され、退魔巫女姉妹がものっそい怪訝な目をしておられる。
「薫せんせが恋人て。年齢差でアウト、外見でアウト、教師と生徒でアウトのスリーアウトチェンジじゃん」
「夢! あくまでも夢だから!」
唇の感触が残るくらいのリアルな夢だったけども。
「にしても、ララはヤバいね。そんな荒唐無稽な夢を、夢と気付かせないなんて」
「うぬぅ? 別に荒唐無稽ではなかろ?」
美桜さんの言葉を、だけどらっちゃんはきょとんとした顔で否定する。
「妾の夢幻世界は、対象の夢に入り込み、夢を好きに改変できる。でもキモブタさんに見せた夢は、過度に弄っておらぬ。記憶を基にした再現、その延長に過ぎぬのじゃ」
語り口は静か。
どこか神秘的な雰囲気に、美桜さん達は少し戸惑っている。
「夢幻の世界は、無限の可能性を内包する。弄らずにそういう夢が見られるのなら、そういう可能性があるということ。ほんの少しの掛け違えで、望んだはずの未来はそれこそ夢のように霧散してしまいます……のじゃ」
可能性の話だ。
僕は春乃宮姉妹と仲良くなったけど、もし出会うタイミングがずれていたなら、この二人とは縁ができなかったかも。
そうしたら何かの間違いで、椎名先生と恋人になることだってあったのかもしれない。
あの夢は、そういう“もしも”なのだと猫耳淫魔が語る。
いや、それってつまり疑似的な並行世界観測なんですけど。
らっちゃん、自分がとんでもないこと言ってる自覚ないのでは?
「……なら、椎名先生と、佐間くんが恋人になる可能性は、有り得た?」
春乃宮さんが聞くと、らっちゃんは力いっぱい頷いた。
「うむ! というか、キモブタさんと合法ロリ退魔教師巫女さんはけっこう相性がいいのじゃ! こういうのも夢占いかの?」
改めて椎名先生って属性過多だよね。
おまけに美人だし、どんな間違いがあれば僕と恋人同士になるというのか。
たぶん宝くじに当たるのと同レベルの幸運をモノにしただけだと思います。
「へぇ、なるほど、ねぇ?」
「……そっ、かぁ」
なのに何故美桜さんは、戦闘中に敵の策略を読み切ったような鋭い目をされていらっしゃるのでしょうか?
春乃宮さんもまるで迷子のような頼りない表情なのです?
「らっちゃんらっちゃん、なんでも素直に話せばいいっていうわけじゃないですよー。めっ、です」
「む、むう。そのような、ものかのう?」
「そうです。人間関係って、むつかしいんです」
サナちゃんが優しく窘めてくれる。人間関係について教えるサキュバスの図です。
だんだん三人の淫魔っ子のまとめ役みたいな立場になってきたな。
今度は姉妹に向き直り、一度咳払いをしてから口を開く。
「ま、まあ、淫魔と退魔巫女は敵同士。そこは疑いようのない事実です。でも、私たちにとって、咲綾さんや美桜さんは敵じゃありません。感覚的には、ええと、お兄ちゃんの友達で、遊んでくれるお姉さん? みたいな親しみは感じています」
「サーナーティオ……。そっか、退魔巫女にとって淫魔は敵。でも貴女達とは、良き隣人。そのくらいで、いいのかもね」
「ですです。私たちのことは、ナオトくんに懐いている義妹がわちゃわちゃやってるくらいに受け止めてもらえれば幸いです」
おお、サナちゃんと春乃宮さんイイ感じにまとめてくれた。
それが意外だったのか、美桜さんが目をぱちくりさせている。
「お、お姉ちゃんの方がこの状況に順応してる……?」
「なんで驚いてるの?」
「だって、マジメな優等生タイプでしょ。むしろ淫魔は討伐するべき、とか言う方じゃない?」
「うーん。私は、ヒラルスやラエティティアが契約した気持ち、分からないでもないから、かな?」
あれです、根本的に僕も春乃宮さんも、ぼっち歴が長い。なのでらっちゃん達の孤独感に一定の理解が示せるのです。
対して、明るくて友達が多い美桜さんだと微妙に理解し難いんだろうな。
「はぁ……まあ悪い子じゃなさそうだし、よろしく? ララ」
「うむ、よろしくなのじゃ、みおーさん! 初回サービス、ラブホテルでキモブタさんとイチャラブえっちする淫夢とか見せたげよか? なのじゃ」
「 絶 対 や め て 」
らっちゃんのとんでもない提案は即座に却下されました。
ひとまず自己紹介は終わった。少し休憩してから、今度は退魔協会側の情報も教えてもらう。
「追加の退魔師を派遣するつもりはないみたいだよ。秋英寺さん、椎名先生。私と美桜の四人がメインの戦力として動くことになりそう。各種宝珠も見つかってないしね」
「あれ?援軍の二人も引き上げないの?」
「うん。不思議なんだけど、蟲魔ヒラルスも大淫魔サーナーティオも表立った大きな事件は起こしていないのに、下級淫魔の発生率は確かに高いの」
つい最近も自然発生した触手を討伐したばかりだという。
春乃宮さんが「何か知ってる?」と問いかければ、サナちゃん達は首を横に振った。
「それってつまり、サナ達が知らない勢力がこの町に流れ込んでるってことでしょ? はぁ、まだまだ落ち着きそうにないなぁ」
「それを鎮静化するのが、私たち退魔巫女の役目だよ」
「分かってるって」
巫女としての責務を果たそうとする彼女達を、素直にすごいと思う。
もし何かあったら、僕のできる形で支えたいと思う。サナちゃん達に目配せすると、皆優しく頷いてくれた。
※ ※ ※
マジメな話はこの辺りで終了。あとは、普通に雑談なんかをした。
意外とひーちゃんは春乃宮さんに物おじせず話しかけるんだよね。
らっちゃんも美桜さんと頑張ってお喋りしようとしている。
「そう言えば、そろそろ学校は夏休みですよね?」
手乗りサナちゃんで登校しているため、この子も学校のスケジュールを把握している。
そう言えば、もう七月か。頷けば「学校がないなら、しばらくはのんびりできますねー」と嬉しそうだ。
「去年の夏休みは……キモブタ地元メシちゃんねる特別企画。お祭り屋台全制覇するまで帰れませんの撮影とか、この夏一推し喫茶店の冷たいデザートとかやったっけ。撮影と動画編集の毎日だった……」
「あ、その動画見たよ。私は、退魔巫女の修行と勉強、後は部屋で動画見るのがメインだったかな。それに、夏雅城さんに無理矢理連れ回されて……」
「直人もお姉ちゃんも悲しすぎるでしょ……」
美桜さんから同情的な視線を向けられました。
理由は違えど、どちらも友達がほとんどいないから、夏には悲しい思い出しかないのである。
落ち込む姿に淫魔っ子たちが慌て出す。
「な、なんかその、ごめんなさい……。わ、私、夏休みもずっとナオトくんといますよっ。咲綾さんも全然訪ねてきてください。もちろん美桜さんも」
「おにーさん、サアヤ。ゲームしよ。夏の思い出を作るゲームがある」
「わ、妾の<夢幻世界>で、は、ハワイの夢見るかや?」
「みんな、ありがとうね……」
心の古傷に優しさ染みます。
そこで春乃宮さんが顔を上げ、妙に真剣な表情で口を開く。
「せっかくだし、夏休み、みんなでどこかに遊び行かない?」
大学受験のことを考えたら、しっかり遊べるのは二年生の夏が最後かもしれない。
サナちゃん達も乗り気で、子供らしく喜んでいる。
美桜さんも何度も首を縦に振っていた。
「いいじゃん。楓や薫せんせがいるから、私たちにも任務のない日があるし」
「海とかどうかな?」
「あれ? お姉ちゃん、自分のスタイル武器にしようとしてる?」
「そ、そういうことでは……」
春乃宮さんの水着とか絶対すごい。
サナちゃん達もいるし、泊りの旅行もいいかもしれない。
そんな風に色々話し合っていたところでスマホが鳴った。
「ごめん、電話。ちょっと席を外すね」
お茶会の途中だけどスマホを確認する。
連絡はお祖父ちゃんからだった。
『おお、直人か』
「お祖父ちゃん、どうしたの?」
『うむ。学費の方は振り込んでおいた。で、だ。そろそろ夏休みだろう? 八月の中頃に、お前を訪ねようと思ってな』
「学費、ありがとう。来るのも大歓迎だよ。ただ、旅行の予定も立ててるから、前もって日にちを決めておいてくれると嬉しいな」
『分かった』
内容は簡潔だった。
お祖父ちゃんが遊びに来る時は、いつも珍しいアンティークを見せてくれるから結構楽しみだったりする。
『色々、話しておきたいこともある。サーナーティオも交えてな』
その発言にぎくりとした。
でも僕が何かを言う前に電話は切れてしまう。
正直想定はしていた。なのに事実として突き付けられると、ひどく動揺している自分がいる。
リビングに戻ると、女の子達が夏休みの予定で盛り上がっている。
僕に気付いたサナちゃんが、ちょっと心配そうに声をかける。
「ナオトくん、どうしました?」
「いや……もうすぐ、夏休みだな、って。改めて、思ったんだ」
「そうですね、私も楽しみです」
期待と不安が混ざったような落ち着かない心地で、サナちゃんの笑顔に応える。
見通しの立たない夏休みが、ゆっくりと近付いていた。
三部完
次はバトルなしの夏休みのあれこれ短話です