ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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夏のあれこれ
でびゅーします


 

 

夏休み前の放課後。

僕は商店街の喫茶店で、炎情シュウさんの中の人と顔を合わせた。

 

「うっす、キモブタさん」

「どうも、えーと」

「あ、シュウでいいっすよ」

「じゃあ、シュウさんで」

 

 お互い本名は名乗らず、ネット上の通称で呼び合う。

 ……しかし、イケメンだ。シュウさんは短髪の爽やか系の男性で、スポーツでもやっているのか体格も良い。

 これ、3Dアバター使わない方が人気出るんじゃないかな?

 それを素直に伝えると、シュウさんは軽く笑った。

 

「俺は……その、いいとこの坊ちゃんなもんで。歴史ある大家ってやつ? ただ、才能とかが欠片もなくて、家の方はアニキが継ぐんじゃないすかね? なもんで、顔出しがマズいというか」

「由緒正しい家柄だから、動画配信者で“あの彼がなんと!”みたいな形で顔が売れると良くない、みたいな?」

「そそ! まあ家を出たからって、後ろ足で砂かけたいわけでもないんで」

 

 未だに配信者に偏見を持っている勢はいるからね。うちの母親がそうだし。

 そういう歴史のある家なら、余計に体面を気にするのかもしれない。

 

「僕は、ちょっと事情は違うけど。いわゆる毒親で、生活費とかのために動画で稼がないといけない身なんですよ。兄もいるけど、そっちとも折り合いが悪くて」

「あらま、キモブタさんの家も大変っすね」

 

 趣は違えど妙な共通点を見つけて、多少緊張がほぐれた。

 おかげで打ち合わせもスムーズに進む。

 

「ど、どうせなら前編後編で繋げたいですよね」

「そっすね。まず、キモブタさんがお土産片手に俺のチャンネルに来て、後編はブタちゃんで実際に商店街巡り、みたいな感じでどうっすか?」

「ワイルド系なアバターですし、デブな僕とお互い似合いそうにないカワイイ系のお店巡りなんてのも」

「それ、いいすね」

 

 結果として、動画は前後編。

 まず前編は炎情シュウさんのチャンネルに、簡単なキモブタ3Dアバターで登場。おみやげの肉まんを食べつつトークし、僕が「一人じゃ恥ずかしくて入れない店が……」で引き。

 後編は僕のチャンネルに移って、ミニ炎情くんを肩に乗せ、ファンシー且つキュートなお店を巡る、という形に落ち着いた。

 打ち合わせがひと段落ついたので、 

 

「そう言えば、ロリっ娘アバターの納品ありがとうございました。めちゃくちゃ早くてびっくりですよ」

「あー、“ララ”のアバターは“サヨ”をちょっと弄って猫耳付けただけだからそんな手間でもないんすよね。なのに報酬は三体分で満額もらっちゃって、こっちが申し訳ないっすよ」

「いやいや、三姉妹なので問題なしなんです。おかげさまで近々、お披露目配信ができそうです」

「はー、ブタちゃん配信して親戚の子の面倒も見て。俺も見習わにゃいかんなー」

 

 シュウさんは妙な関心の仕方をしてくれているけど、僕としては趣味の延長みたいなものだ。

 サナちゃん達が素直に配信を楽しんでくれるといいな。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 そうしてあくる日、新しいデジタルインフルエンサーが活動を始めた。

 多くの配信者が埋もれていく中、初動でそこそこ視聴されたのは、キモブタ地元メシちゃんねるのサブ垢として投稿されたからだろう。

 銀髪赤目の清楚系、褐色紫髪のダウナー、金髪碧眼ボブカットの猫耳。三人の配信者はそれぞれ幼めの可愛らしいアバターであるが、視聴者の興味を惹いたのは声の方だ。

 作ったアニメ声ではなく、自然な高音。中の人も幼いのでは、と自然に思わせるような声質だった。

 

『あー、あー、これってもう始まってるんでしょうか?』

『た、たぶん? 妾、機械苦手なのじゃ』

『そのはず』

 

『で、では。皆様、初めまして! サキュティちゃんねる始まりました! 

 私は、サキュティのまとめ役をさせていただいてる“サヨ”です。まだまだ不慣れで戸惑うこともありますが、お付き合い願えればうれしいです』

『ヒナ、です』

『ララです! なのじゃ! これ本当に色んな人が見ておるの?』

『そうですよー。本日より私たち三人で、配信活動をさせていただきます。よろしくお願いしますね』

 

 

【コメント】:もしかしてサナちゃんさん?

 

 

『あ、さっそくコメントありがとうございます。声で気付いてくださったみたいです。たぶん、キモブタ地元メシちゃんねるから流れている方も多いでしょうし、その辺りのご説明を』

 

『私は現在キモブタ地元メシちゃんねるでナレーションを担当しています。その縁でキモブタさんに勧められ、お友達と配信活動を始めることになりました。ナレの時は本名のサナを使っていますが、このアバターで活動する時はサヨを名乗っています。向こうで明かしているのでご存じの方もいるかもしれませんが、私はキモブタさんの遠い親戚にあたるんです』

『ヒナも親戚』

『妾も! うへ、友達に、親戚……もう一人じゃないのじゃぁ』

『ララちゃん、よだれ出てますよー』

 

 

【コメント】:ああ、高頻度でキモブタを困惑させるロリ声ナレさんなw

【コメント】:リアル三姉妹?

 

 

『姉妹ではないですが、三人とも仲良しですよー。配信活動に興味がありまして、こうして活動をさせていただくことになりました』

 

『このチャンネルは、形式上“ブタちゃん”のサブ扱いとなります。でも基本はキモブタさんが出張ったりはしません。単に私たちは機械関連が苦手なので、準備を整えてもらっただけですね』

『私はゲームが得意……』

『ヒナの場合好きなだけで得意とは言えぬような……? あ、いつかキモブタさんがゲストに来て欲しいのじゃ!』

 

 

【コメント】:ぶっちゃけ年齢の問題で手続きが手間なんだろうな

【コメント】:たぶん中の人見たことある。アバターなしの方が可愛いという稀有な例

 

『……もしかして、地元の方ですか? 何か気付いたかもしれませんが、内緒でお願いします』

『サヨちゃんは商店街のアイドル……』

『ヒナちゃんも、しーっ、です』

 

『今回はお披露目配信ということで、まずはご挨拶。顔と名前を覚えて行って下さるとうれしいです。私、サヨは歌が好きなのと、家事を色々しているので、話題はそちらが多くなると思います』

『今後は色々する。ヒナはゲーム実況担当。あとスイーツレビューも』

『わ、妾は……なにをすれば? ララによる一人の時間をうまく過ごす方法……?』

『もし興味を持ってくださったなら、チャンネル登録を、せーの』

 

 

『よろしくお願いしますっ!』

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 こうしてキモブタ地元メシちゃんねるのサブ垢、サキュティちゃんねるが正式に始動した。

 ちなみに名称はサキュバス・キュート・キティ(子猫)の複合である。

 ブタちゃんの方でサナちゃんとそれとなく匂わせていたから、新人配信者の初動としては中々。登録者数も一気に五百までいった。日を跨げば千まではカタいかな。

 

「き、緊張しました……」

 

 はふぅ、とサナちゃんが大きく息を吐く。

 ひーちゃんは全然動じておらず、ぼっち歴の長かったらっちゃんは友達と何かをやれるというシチュだけで蕩けた表情になっていた。

 

「お披露目配信、お疲れ様。はい、飲み物」

「おー、ありがとなのじゃ。キモブタさん、妾達上手くできてた?」

「もちろん。掴みとしては良かったよ」

「にへぇ」

 

 ペットボトルのスポドリを受け取りつつ、とんとん、とステップを踏んでくるりと回る。

 喜ぶらっちゃんの動作は軽やかなダンスのようだった。

 ひーちゃんはくいくいと僕の袖を引っ張り、上目遣いで問う。

 

「これでおにーさんが楽になる?」

 

 表情はあんまり変わらないけど、この子もウチの経済状況を心配してくれている。

 ここら辺を適当に誤魔化すのはよくないし、きっちり説明はしておく。

 

「あー、と、動画の収益化って条件があってね。まずはチャンネル登録が五百人。もう一つ、動画の総再生時間が三千時間を超えること。投げ銭も収益化が最低条件だから、すぐにお金になるわけじゃないよ」

「そっか……」

「審査にも一か月以上かかるしね。だから、今はお金のことを考えずのんびりいこう。ひーちゃんたちなら人気は絶対出る。一年二年も続ければ、自然と結果が付いて来るよ」

 

 不安にならないようなるべく明るく言うと、なぜかひーちゃんがぎゅーっと抱き着いてきた。

 

「わーい、妾も妾も!」

 

 さらにらっちゃんも背後からおぶさってきた。

 サナちゃんはそんな僕たちを眺め、呆れたように肩を竦める。

 

「ナオトくんって、迂闊ですよね」

「えっ、なにが!?」

 

 でもそんな彼女もどこか嬉しそうに、僕に寄り添っている。

 いつの間にやら淫魔包囲網の完成である。

 ともかく、チャンネルは開設した。うまくいけばお金も魔力も手に入る。

 まずは総再生時間を稼ぐためにも、定期的に動画を配信していこう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 なお、一頻りじゃれ合った後も、夢魔ラエティティアのテンションは全く下がらなかった。

 直人がいないタイミングを見計らって、大淫魔サーナーティオにとびっきりの笑顔を見せる。

 

「さなさな、一年二年のんびりやるって! 妾、ずっとここにいて良いってことですよね!? のじゃ!」

「そうですねぇ。ナオトくん、そもそも私たちがいなくなることをまったく想定していませんよ、絶対。たぶんもう身内で家族」

「うんっ、うん!」

 

 先程のセリフは、一時的な居候ではなく既に家族みたいなものと宣言したに等しい。

 孤独を嘆いた強すぎる夢魔に特効の迂闊さである。

 当然それは不快害虫のように扱われた蟲魔ヒラルスにも効果が高い。

 彼女はふんすと鼻息荒く、両の手でガッツポーズを作る。

 

「動画頑張る」

「ふふ、はい。皆で頑張りましょうね」

「うむっ!」

 

 サーナーティオにとってもこの柔らかな空気が心地良かった。

 

 

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