ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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美桜さんとのちょっとしたお話

 

 

 夏休み前のどこかソワソワとした空気の中、春乃宮美桜はクラスの男子に校舎裏まで呼び出された。

 緊張した様子の彼は、少し間を置いた後、意を決したように手をこちらに差し出す。

 

「春乃宮美桜さん、俺と付き合ってください!」

「ごめん、今はそういうの考えてないのよね」

 

 もっとも美桜はそれをきっぱりと断り、軽く手を振ってその場を後にする。

 残された男子はしばらく呆然としていた。

 

 春乃宮姉妹は、学園の二年生の中でも有名な生徒である。

 姉の咲綾はグラビアアイドルも顔負けのスタイルと艶やかな長い黒髪を持つ、落ち着いた美人。妹の美桜も十分以上にキレイだし、スレンダーながら活発で明るく社交的。どちらもタイプの違う美少女だから、当然学内でも人気が高い。

 ただ、咲綾の方は夏雅城俊哉という婚約者がいたため、これまでお近づきになろうという男子はいなかった。

 逆に美桜の場合は、接しやすい雰囲気もあり、そういう意味での告白をされた経験もある。もっとも彼女の場合はクラスで遊びに行くくらいはするが、退魔巫女の修行を優先して個人的な関係に発展することはなかった。

 それが、ここにきて声をかけてくる男子がじりじりと増え始めている。

 

「なんで?」

 

 休み時間、クラスの女友達とお菓子を抓みつつ、美桜は首を傾げる。

 容姿には相応の自信を持っているが、クラスメイトから告白されたのは初めてだった。

 

「美桜だったら別に不思議じゃなくない?」

「そーそー、男子ともけっこー砕けて喋ってるしさぁ」

「時期もあるでしょ。夏休み用の恋人が欲しいんじゃなーい?」

 

 女友達はそれぞれの意見を述べてくるが、最後に思い切りぶっこんでくる。

 

「や、キモブタくんと仲いいからだって、どう考えても。アレでイケるんなら俺でもってシタゴコロ」

 

 変なところで名前が挙がってきて、美桜はアーモンドチョコレートを乱暴に口の中に放り込んだ。

 

「アレ呼ばわりはひどくない?」

「アタシじゃないって、男子の意見がそーだってこと。てゆーか、美桜って実際なんでキモブタと仲いいん? 動画とか全然興味ないでしょ?」

「動画の方はよく分かんないけど、直人はけっこー相性いいんだよね」

 

 佐間直人とは実際かなり仲がいい。

 もともと美桜は「ブサイクやワキガは許せるが、病気や相応の理由のないデブは怠慢だから嫌い」と公言憚らない。ただ、直人の場合は怠慢とは程遠い人物だし、性格も意外と気に入っている。

 

「そこ。デブでブサイクでも美桜と仲良くなれるってことは、俺なら恋人になれるだろって自惚れなわけよ」

「そんな基準で近付いてくるヤツ好きになるわけないでしょ」

「それに気付かないバカだから、バカな勘違いするんじゃん」

 

 結局は根拠のない自信で彼を見下しているだけらしい。

 呆れて溜息を吐くと、別の女友達が不思議そうに聞いてきた。

 

「ホンキの話さ、キモブタくんと付き合ってんの?」

「あはは、ないない。そりゃいいヤツだとは思ってるけどね」

「だよね、美桜ならもっとレベル高いオトコ狙えるし?」

 

 そう、カレシではない。まったくもってそういう間柄ではない。

 友達は美桜を高く評価し、直人程度では釣り合わないと言う。一応褒められているのだが、彼をレベルの低い男扱いするのも多少腹が立つ。

 

「えー、キモブタくんめちゃくちゃ面白いよ? 私は全然アリ」

「あんたのは視聴者目線やろがい」

「いいじゃん。美桜仲いいんでしょ? サブナレに私を売り込んどいてよ。ボケとツッコミ全然やれるしー。あ、出演でもおっけーよん」

 

 意外にも、直人擁護派も存在していた。

 動画配信者だけに人気もけっこうあるようだ。

 ……なぜか、それもちょっと気になった。

 

「美桜は動画に誘われたりしないの? 出れば再生数爆上げしそうなのに」

「そう言えば、ないわね」

「えー、キモブタくんも遠慮してるんかね?」

「それはあるかも。美桜はぐいぐいイクけど、あっちは陰キャっぽいしね。微妙に距離感取りづらい的な?」

 

 遠慮。距離感。

 そんなことはないと思うのだが、なんとなくモヤモヤもしてしまう。

 

「単に美桜じゃあんまり食えないからじゃね?」

「それだっ。ブタちゃん出演の最低基準はかつ丼五杯なんだってきっと。もー、美桜頑張らないと」

「そんな頑張りぜぇったいイヤ!?」

 

 じゃれ合うようなやりとり。

 ノリは軽いが悪い子達ではないのだ。

 

「てかさ、あんま直人を下げるようなこと言わないでよ。ふつーに失礼でしょ」

「……ほう? ほほう」

「なによ」

「べっつにー?」

 

 ものすごくニヤニヤと笑ってる。

 その後も多少のからかいはありつつも、全体的には楽しんで雑談に興じた。

 ただ、笑い合いながらも少し考える。

 やはり友達の目から見ても、美桜と直人の組み合わせは違和感があるようだ。

 それがなぜか、妙に引っ掛かってしまう。

 この感情を、いったい何と呼ぶのだろうか。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「今日もごちそうさまでした。とってもおいしかったです」

「いえいえ、お粗末様です」

 

 今日は美桜さんが自分のクラスで昼食をとったから、お昼休みは僕と相沢くんと春乃宮さんの三人で過ごした。

 僕の昼食は春乃宮さんの手作り弁当。チーズささみカツ、絶品でした。

 

「本当、お世話になりっぱなしだ」

「ううん。どうせ自分のや美桜のも作るから」

「でも、なにかお礼をしないとね」

 

 やはりここはロマン洋菓子店のケーキ、いや夏と言えば東雲堂本舗の冷やし夏みかん大福という手も。

 そんなことを考えていると、春乃宮さんは上目遣いにこちらの様子を伺い、おずおずと切り出す。

 

「……な、なら。名前で、呼んでもらえたら、なんて」

「なまえ、で?」

「うん。ほ、ほら、そろそろ、頃合いかなぁと」

 

 “さあやちゃん”と“なおとくん”にはもう戻れない。

 でもクラスメイトとしてなら、名前で呼び合えるくらいの親しさになれたはず。不安に瞳を揺らしながらも、期待するように彼女は僕を見つめている。

 

「じゃ、じゃじゃ、じゃあ……その、咲綾さん」

「は、はい、直人くん」

 

 ふり絞った勇気に報いるように名前を呼ぶ。

 咲綾さんも僕の名を呼ぶ。そのくすぐったさにお互いぎこちなく笑う。

 

「ほふぅ……まったく、ナオトくんも咲綾さんも初心(うぶ)で困りますねぇ」

 

 クラスメイトには見えないのをいいことに、僕の懐で手乗りサナちゃんがにやにやしながらも深く息を吐いた。

 僕はこの子のことをサキュバスの初心代表だと思っています。

 

「おう、俺は席外した方がいいか?」

「待って、相沢くん。僕を置いていかないで」

「そういうのは春乃宮姉に言った方がいいんじゃねえか? なあ?」

 

 相沢くんはニヒルに口角を吊り上げて、咲綾さんに話を振った。

 彼女は顔を真っ赤にして目を泳がせていた。

 

「は、はい。あのその、もう直人くんを置いて行ったりしません、です」

「だとよ。よかったな、キモブタ」

 

 完全に面白がっている。

 なお、僕と咲綾さんのやりとりを見ていた一部の男子が僕に嫉妬のレーザービームを向けていた。

 

「ぐぎぎ……」

「なんで、あそこにいるのが俺じゃねえんだ……!?」

「くそ、俺の春乃宮さんを……」

 

 ついでに言うと、ぐぎぎしているのは只野くんです。

 近藤くんに「やめとけよ」と諫められております。彼は三人組の苦労人ポジなんだろう。

 まあ周囲の反応は仕方ない。そんなものより、咲綾さんとの距離が近付いたことの方が嬉しかった。 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 今日のお昼はいい感じだった。

 でも放課後は危険だった。

 なにせいきなり教室に来た他のクラスの女子たちに、僕は半強制的に連れ出されてしまった。

 

「はーい、キモブタくん行こうねー。美桜が呼んでるからさー」

「えっ、あっ、なっ、直人くん?」

 

 よく分からない状況に困惑する咲綾さんがとても印象的でした。

 で、女子を力づくで振り払うわけにもいかず、そのまま美桜さんの教室まで直行便。

 

「え、直人? ってなにやってんのあんたらは!?」

 

 どうやら彼女にとっても予想外の出来事らしい。

 だけど女子たちは流れるように僕を椅子に座らせて取り囲む

 

「えー、だってさー色々聞きたかったし。あっ、アタシたちは美桜の友達ね」

「どもどもー。私はブタちゃんのファンですー。出演オファーいつでも待ってまーす」

「そいつは無視しといていいよ」

 

 僕も戸惑いながら「ど、どうも……」と挨拶をする。

 しかし美桜さんの友達の勢いに負けてしどろもどろになってしまう。

 

「あの、僕は何故にこういうことに……」

「今日のお昼さぁ、キモブタくんの話題が出たの。で、本人に聞いた方が早くね? ってなったんよ」

 

 女の子ってアグレッシブ。

 言葉の通り、彼女達は僕に遠慮なく質問をぶつけてくる。

 

「なぁ、キモブタくんさ、美桜と仲いいじゃん。付き合ってんの?」

「つっ、付き合っ!? ませんません! 僕なんかが恐れ多い!」

「なんだ、じゃあやっぱり普通の友達かぁ」

「だ、大事な友達です。ふ、普通って言葉で片付けて欲しく、その、ない、です」

 

 よく知らない女子相手なので声が上ずってしまった。

 

「おぉ、いい感じ。じゃあさじゃあさ、美桜のことどう思ってんの?」

「ええと、気風がいい、とか? 気に入らないを理由に夏雅城パイセンをぶっ叩く、後先考えなくて優しくて、すごく爽やかな女の子だと、思うです、はい」

「素直に答えなくていいから。というか、直人も私と同じタイプでしょ?」

 

 美桜さんがちょっと照れ臭そうにしてる。

 今度はさきほどブタちゃんのファンを名乗った女子が、興味津々と言った感じで聞いてきた。

 

「そういえばさー、お昼に話に出たんだけどー、美桜のこと動画に出したりしないの? 絶対再生数爆上がりだよー」

「あー、そういうのは考えてないかなぁ」

「えぇ、勿体なくない? バズろうよ」

 

 美少女の求心力は高いけど、リスクも相応にあるからね。

 仕事関係の話だとちょっと真面目な感じになってしまう。

 

「確かに美桜さんは男子のファンがっちり掴めそうだもんね。でも、ブタちゃんに出すには可愛すぎる(・・・・・)んだよ」

「はい!?」

 

 美桜さんが大きな反応を見せるも、構わず僕は話を続ける。

 

「キモブタ地元メシちゃんねるは、地域の活性化を目的に地元のお店を紹介する。ただ現在の視聴者さんって純粋なブタちゃんのファンや飲食店の情報を求める人以外に、ブサイクな僕が飯をがっつく姿にマウントとりつつ楽しんでる勢がけっこう多いんだ」

 

 女子の友達が「ふつーに嫌なお客さんじゃない?」と言うけど、そこはきっぱり否定する。

 

「ううん、僕を馬鹿にしてても視聴者には変わりません。で、美桜さんは同じ高校の同年代の美少女。はっきり言うと、そういう子と仲がいいのでは? と思わせること自体が、逆に人気を落とすことになるかもしれないんだよね。あ、プライベートじゃなく、あくまで動画の絵面の話ね」

 

 僕のチャンネルにおいて、キモチよく見下せるというのは非常に重要な要素だ。

 なのに下だと思っていたキモブタが実は……なんて映像は危険。下手したら視聴者がごっそりいなくなる可能性がある。

 

「正直、女性ナレーションもリスクはあった。美桜さんを出すのは、それを超える大博打になる。なので、現状考えてはおりません」

「お、おぉ……?」

 

 なんでそちらから聞いておいて若干引いてる感じなんですかね

 しかも「意外にメンタルつえー発言するな、コイツ」とか微妙に感心されてしまった。

 

「え、じゃあキモブタくん的に美桜って性格も外見もオッケーな感じ?」

「思ったよりイイじゃん。キモブタ、悪くないよこれ」

「あーもー、いい加減にしろ!? 解散っ、はい解散!」

 

 最終的には美桜さんが力づくで終わらせた。

 でもなんかこっちに向けて「じゃねー」「アタシもアリ寄りになったから美桜よろしくー」とか手を振ったりしてるので、女の子ってアグレッシブ。(本日二回目)

 

「なんだったんだ……」

「ごめん、直人。あいつら、いいヤツだけどちょっとバカで……」

 

 肩で息をする美桜さん。

 でも、仲いいんだなぁと思わせる関係で微笑ましくもある。

 

「とりあえず、帰ろっか」

「う、うん」

 

 美桜さんの言葉に頷く。

 そう言えば、咲綾さんとの交流が復活してからは姉妹いっしょに行動することが増えた。こうして二人きりになるのって、意外と久しぶりかもしれない。

 美桜さんも同じことを考えたのか、「ついでだし、どっか寄ってく?」と誘ってくれた。

 僕も同意して向かった先は、ボウリング場やカラオケが一つになった複合アミューズメント施設だ。

 案内されるがままに来たけれど、ビリヤードスペースは初めてでちょっと緊張している。

 レンタルのキューを借りて、二人でナインボールをプレイする。前かがみになった美桜さんが白いボールを突くと、勢いよく他のボールにぶつかっていく。

 その後彼女は、難なく一番と二番のボールを落としてみせた。

 

「うわぁ、上手いね美桜さん」

「まね。直人は初めて?」

「うん、未経験です」

「なら、教えてあげる」

 

 初歩の初歩、基本の突き方からレクチャーを受ける。

 これ、慣れないとボールの真ん中を突くのも一苦労だ。何とかやってみたけどちょっと力んだせいか、ボールはまっすぐ転がらなかった。

 

「む、難しい……」

「あはは、まだまだだねー」

 

 真剣勝負というわけではなく、ビリヤードをしながらの雑談を楽しむ方がメインだ。

 色々と話しているうちに、美桜さんの友達の話に移った。

 

「今日はホント迷惑かけてごめん」

「いえいえ、面白い友達さん達だね」

「まあ、いると楽しいよ。修行ない日はよく遊びに行くし。直人のファンとは思わなかったけどさぁ」

 

 咲綾さんは四季家の一員として人々を守るという正義感から退魔巫女の役目を強く意識していた。

 でも美桜さんにとって守りたいのは家や市民ではなく、ああいう騒がしい日常の風景なんだろう。

 鼻歌混じりに五番の球をポケットに入れる。彼女はずいぶん機嫌が良さそうだ。

 

「ビリヤード、得意なんだね」

「まね。戦力的にはお姉ちゃんには敵わないけど」

「え、咲綾さんも上手いの?」

「そういう話じゃなくてね」

 

 言いながら美桜さんは身を乗り出し、ビリヤード台にかぶさる形で前屈みになって、六番の球をよく狙う。

 もしこの体勢を咲綾さんがやったら……あ、いけない。これ考えちゃダメなやつだ。

 

「……あれ? お姉ちゃんのこと、名前呼びになってる!?」

「あ、今日のお昼間に色々ありまして」

 

 経緯を説明すると、美桜さんは軽く笑った。

 

「まあ、幼馴染みって言うんなら、そっちの方がいいのかもね」

 

 けっこう簡単に認めてくれた。

 そのまま九番目の球がポケットに吸い込まれていく。決着がついたというか、はっきり言って勝負にもならなかった。 

 

「はい、私の勝ちー」

 

 言いながら手の甲で僕の胸をポンと叩き、にっと笑って見せる。

 カワイイ系なのにわりとボディタッチ多めなのでちょっと照れてしまう。

 

「負けました……」

 

 負けたのはビリヤードか彼女の笑顔か、僕自身にも分からないけれども。

 

「なんか、今日はずっとご機嫌だね?」

「え、そう? ……まあ、すっきりした感はあるかな。わりと評価高いのは分かったしねー?」

 

 ……あ、友達さんの質問、今思い返したらけっこうとんでもないこと言ってる?

 美桜さんは大事な友達で、容姿も性格も良くて、動画に出せないくらい可愛すぎる。

 ヤバい、僕の発言がたいそう危険です。事実なので否定する気はありませんが。

 

「あ、はは。なんか申し訳なく……」

「なんで謝ってんのよ。ついでだし、夏休み用の買い物してく? 水着選ばせてあげよっか」

「か、勘弁してください!」

 

 完全にからかいモードに入った美桜さんに思いっ切り頭を下げる。

 顔を上げた時に瞳に移り込んだ笑顔は、びっくりするくらい晴れやかだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 後日。

 

「陰キャかと思ったら、わりとはっきり言うタイプじゃん。勘違いバカよりはよっぽどアリだね、アタシ的には」

「私は最初からキモブタくん擁護派だよー」

 

 美桜は友達の発言に、また少し機嫌がよくなった。

 

 

 

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