ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

4 / 76
退魔巫女との出会い

 

 

 はまかぜ食堂は商店街にある海鮮メインの定食屋で、焼き魚や煮魚、からあげなんかも美味しいけどなんと言っても僕のオススメは海鮮丼系。

 どれもだいたい800円から1300円の間で食べられて、その値段に反して盛りがすんごい。

 八百円のマグロ丼でさえたっぷりのマグロが堪能できる。

 イチオシは何と言ってもまぐろとホタテの二色丼だ。

 

「手乗りサナちゃんて、物運べたりする? 僕が作っておいたお昼残していいからさ、ここの海鮮丼を家にサナちゃんに届けたりとか」

「運べはしますけど、本体(わたし)の場合食事はあくまで娯楽の範疇ですからね。一人で食べるより、ナオトくんと一緒にお店に来たいです」

「じゃあ今晩は改めて店に来よう」

「昼にも食べるのに……?」

 

 相沢くんに聞こえないよう、顔を背けてヒソヒソ相談。

 手乗りサナちゃんは若干微妙な表情をしているけど、美味しいモノはいくら食べても美味しいのです。

 あ、いくらも食べたい。くそう、まぐろとホタテで決まりかけていたのに、急にサーモンいくら丼が入り込んできた……!

 しかたない、ここは昼にマグロ、夜にサーモンの二段構えで行こう。

 

「僕は決まったけど相沢くんは?」

「九分九厘刺身系で決まってたのに、今日のランチの、アジのから揚げが入り込んじまった……!」

「それは、苦悩するよね。ショウガでしっかり匂いをとったアジ、ご飯に合う醬油ベースの味付け。かりっ! さくっ! な歯触りの威力」

「やめろぉっ!? あ、スイマセン店員さん。俺、アジのから揚げ定食で」

「僕もアジのから揚げ定食、お願いします」

 

 自分の言葉でダメージを食らって、僕もすっかりから揚げの口になってしまった。

 まあ、マグロとホタテはまた食べられるしね。

 運ばれてきた定食は、メインのから揚げにお味噌汁、ひじきの煮物とお漬物。更にご飯はおかわり自由の素敵仕様だ。 

 二人でいただきますを言ってから箸をつける。

 

「やべ、から揚げで正解だわ」

「だね。小鉢のひじきも美味しい。前より味が上がってるんじゃないかな。これだけでご飯が軽く二杯はいけちゃうよ」

「まったくだ」

 

 あぐあぐとランチを堪能する僕たち。

 二人してご飯をお替りして少し休憩していると、相沢くんがちらっと視線を動かした。

 

「おう。俺ら以外にもガッコから抜け出してるヤツがいるみたいだぜ」

 

 その先には、女子の二人組がいた。

 一人は僕らと同じ年代の、長いツインテールの女子。というか同じ高校の同級生だ。

 春乃宮さんと一緒にいるのを見たことがある。

 もう一人は中学生になったばかりだろうか。若いというか幼めの顔立ちをしている。

二人とも美味しそうに食事をしつつ、時折大将に声をかけていた。

 補導対策なのか、二人とも私服姿。ってことは抜け出したっていうよりサボリかな。

 って、いけない。事情はそれぞれ、勘繰りは野暮の藪蛇というものだろう

 

「やめよう、年齢に関わらず、ここのご飯は美味しい。食べてるだけで注目するなんてよくない。むしろ老若男女問わずお客様を虜にする大将の腕を注視するべきだよ」

「そりゃそうだ」

「だから僕がメルヘンなお店でパフェ食べてても変な目で見ないでください……。キモブタだって可愛いスゥイィーツッが食べたいんですよ……」

「ただの実体験かよ」

 

 ぎゃはは、と笑い飛ばしてもらえて幸いです。

 そして僕らは本当に大将の方に目を向ける。

 ここは調理場が見えるように設計されてるからね。向こうもこちらに気付いたようで、ニカッと男くさい笑みで返してくれた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「ああ、食った食った。このままゲーセンでも行くか?」

「いやあ、一応授業に戻らないと」

 

 たらふくお昼ご飯を食べて店を出た。

ちょっと気落ちしてたのもだいぶ回復したし。

 教室に戻ると、春乃宮さんも戻っていた。夏雅城先輩とお昼の時間をのんびり過ごしたんだろう。

 それを思うと胸がちくりとしたけど、気が付かないふりをした。

 そして午後の授業をしっかり受けて放課後帰宅後に改めてサナちゃんとはまかぜ食堂に向かう。

 

「お、佐間くんか? 昼にも来てたが」

 

 実は以前ここで撮影させてもらったことがあり、大将とも顔見知りだ。

 ちょっと店が落ち着いていることもあり、向こうから声をかけてくれた。

 

「アジのから揚げの誘惑にやられて、マグロとホタテの二色丼が食べられませんでした。なのでリベンジです」

「ま、来てくれるのは嬉しいがね。と、そっちは」

 

 僕の傍にいるサナちゃんに目を向ける。

 デブサイクな僕とはかけ離れた、超が付く美少女の姿に大将はかなり驚いていた。

 

「ええと、親戚の子です。従妹よりさらに遠いんで、説明が難しいんですけど」

「サナです。家庭の事情でナオトくんのお家でお世話になっています」

「ほぉ、そうか。……和食の魚、大丈夫かい?」

 

 外国人にしか見えないからか、大将は苦手なものを確認する。

 ちらりとサナちゃんを見れば、柔らかな笑顔で頷く。

 

「はい。好き嫌いなく何でも食べます」

「そらよかった。じゃあ、カウンターに座ってくれるか」

 

 案内されるままカウンター席に座った。

 僕は何を頼むか決まっているので、サナちゃんのを一緒に選ぶ。

 

「むむ。どれがいいんでしょう」

「ここはどれも美味しいけど、この辺りは生魚。ワサビと醤油でいただく。丼はちょっと甘めの調味液になってるから味が違うよ。こっちが揚げ物、焼き魚は塩味で素材の風味を活かした感じで。煮魚は甘辛しょうゆ味、みたいな」

「では煮魚。かれいの煮付け、を。あ、タコって触手プレイですよね?」

「いや、あの、プレイではないね。お刺身もイケるし、タコのから揚げもサクサクでおいしいよ。僕が頼むから、分け合おうか」

「いいんですか? なら、お刺身の方を」

 

 ということで僕はマグロとホタテの二色丼大盛りに、いくら(小盛り)とタコの刺身。

 サナちゃんはかれいの煮付け定食。容姿とは裏腹の渋いチョイスだ。

 

「では、いただきます」

「いただきます」

 

 二人で手を合わせてから食べ始める。

 昼に食べ逃した丼、やはり美味い。

 

「サナちゃんも、はいホタテ。食べてみて」

「ありがとうございます。おお、甘くておいしいです」

「でしょう? ここのホタテは産地直送。新鮮だから臭みがなく、蕩ける甘さがたまらない。まさしく、滑らかな海の白絹。でもね、食材だけじゃない。この甘さを引き立てるのは大将の巧みなる塩加減。塩水に晒す時間を正確に測る長年の経験、培った勘こそがこのホタテの美味の妙よ……」

 

 長々語る僕にサナちゃんは感心してくれるけど、肝心の大将は「おーい、恥ずかしいから止めてくれー」と訴えかけてきた。

 でも近くのお客さんが「やべえ、これキモブタセレクションだぞ」とホタテを注文してた。

 

「にしても、サナちゃんお箸使うの上手だよね」

「そうですか? 見れば真似るくらいは。んー、かれいも美味しいです。タコは……吸盤の感触がキモチいいです」

 

 慣れてるとかじゃなくて、単にすごく器用ってことか。

 あと、タコって外国の人は苦手って聞くけど大丈夫っぽい。

 ん? サナちゃんって外国の人? 淫魔だから、異界の人?

 よく分かんないからサナちゃんの人ってことしとこう。

 僕も昼に食べ逃した丼を頬張る。一日に二度来ても、はまかぜ食堂はやっぱり美味しい。

 ただ、味付けは変わっていないのに、以前よりもおいしくなったような気がする。

 不思議な感覚に首を傾げていると、タコの刺身をはむはむしつつサナちゃんが答えてくれた。

 

「たぶん、私とアレを結んだからですよ。契約すると基礎能力や自然治癒力も向上しますが、それは内臓にも作用します。暴飲暴食で荒れていた胃や、血液の状態が改善された結果、健康だからご飯も美味しく感じる、という論法だと思います」

「撮影でけっこう食べてたからなぁ」

 

 副次的な効果だけど、淫魔の力よりこっちの方がありがたいかも。

 体調や病気を気にせず大食い動画を撮れるということじゃないか。

 いえ、それを除いてもはまかぜ食堂のお魚は絶品です。

 夜はお酒を飲む方も多く、けっこう騒がしい。でも食事だけのお客様も全然歓迎してくれるとのことなので、どうぞ気軽にご来店ください。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 青白い月の下、サナちゃんと夜道を歩く。

 月の光に染まるとかは文学だとよくあるヤツだけど、商店街には飲み屋もちらほらあるから、あんまり風情があるって感じはしない。

 

「うぅん、満足です。ちょっと回復もしました」

 

 サナちゃんはお腹をさすさすしつつ微笑む。

 美味しいごはんはうっすらとした快楽だから、魔力の回復に繋がったようだ。

 

「よかった」

「微々たるものですが、これで少しずつ進めて、ナオトくんからもちょっともらって。ある程度になったらあっち(スキル)で集めて、ですね」

 

 どこに耳があるか分からない。

 代名詞ばかりだけど内容は伝わったので僕も頷きで返す。

 

「じゃあもう一つ。“夜道を歩きながら食べるアイスクリーム”を教えないといけないね、これは」

「きゃー、ナオトくんにイケナイ快楽を教え込まれちゃいますー」

「あ、ダメです。今のご時世に危険な発言です」

 

 じゃれ合いながら笑い合う。

 楽しい帰り道の途中、いきなり僕の頭に変な感覚が過った。きゅいん、というか、ぽーん、というか。

 おでこを押さえながら、ちょっとふらつく。

 

「あ、れ? なんだ、これ」

 

 するとサナちゃんが僕をしゃがませ、周りを見渡してから耳打ちする。

 

「魔力です。私以外の、淫魔の」

「え、それって」

「ナオトくんは私と契約をしました。結果、身体能力の向上だけでなく、魔力の感知もできるようになっています。そのセンサーに、おそらく下級の淫魔が、引っ掛かったのでしょう」

 

 じゃあ僕が感じたのは、この辺りにいる淫魔ってこと?

 なんでいきなり。ああ、違うか。僕が気付かなかっただけで、野良淫魔のような存在は以前からいたのだろう。

 

「それって、誰かが襲われてるってこと?」

「いえ、違います。これ、狙われてるの、誰かじゃなくて、私です……!」

 

 気付くと不自然なくらい辺りには人がいなくなっている。

 混乱している僕を余所に、サナちゃんは周囲を警戒する。

 

「淫魔には、私たちみたいに知性のある上級種と、本能のままにエロいことをする下級種がいます。下級種は、生態として“なわばり”を形成する力があるんです。対象を、邪魔されずに食べるための」

 

 その食べるは、性的って意味なのだろう。

 商店街を抜けた暗がりの道路で。不思議な感覚は、かなりの速度でこちらに近付いている。

 

「それって、サナちゃんを、ってこと? え、なんで? 淫魔でしょ、サナちゃんの同族……」

「人間だって同族で喧嘩するじゃないですか。ただ、今回の場合は、私は正体がバレないよう全力で隠蔽と認識阻害をしています。エクソシストでも同族でも分からないレベルで」

「つまり、向こうには、サナちゃんがただの女の子に見えてるってこと?」

「おそらくは。まあ? 下級の淫魔にも好みはあります。魅力的な女の子に寄ってきてしまうのは、仕方のないことでしょう」

 

 こんな状況なのに、ほふぅと色っぽく溜息を吐く。

 そのタイミングで向こうは姿を現した。

 暗がりから出てきたのは、羽根のないインキュバスを思わせる。

 それが四体も。

 人型で、大きさは小学生くらい。濁ったピンク色の、涎をだらだら垂らした、見るからに好色そうな顔つきだ。

 あれが下級淫魔。

 こちらの言葉を喋ることはできないようで、「あうあう」「あぁ」と意味の分からない呻きを漏らしていた。

 

「サナちゃん、逃げるよっ」

「えっ、あっ」

 

 見た瞬間、元イジメられっ子の勘が囁いた。

 あ、無理。ダメだ、なにもできず転がされる。

 あんなに小さくても僕じゃどうにもできない。だからサナちゃんの手を握り、すぐさま逃げた。

 でも、それも無意味に終わった。

 走っても追いつかれ、跳躍で僕らの先を断ち切るように立ち塞がる。

 にたぁ、といやらしい笑みが深くなった。

 

「く、くそう、や、やるなら僕を! 僕はいいモノいっぱい食べてるから美味しいぞ!」

 

 性的に、という意味なのによく分からないことを叫んでしまった。

 でも目の前でサナちゃんがどうにかなるなんて考えたくもない。

 僕はがくがく震えながらも前に出て、この子を背にかばって淫魔たちを睨み付ける。

 

「ふ、服脱いだ方が、お、囮になるかなぁ?」

「まあ淫魔にも性嗜好は色々ありますが、私を狙う以上女性でしょうからナオトくんのセクシーショットはあんまり効果がないかもです」

 

 だとしても、時間稼ぎくらいなら僕だって。

 ビビりまくってるし足もがっくがくだけど気合いと見栄でどうにか立つ。

 だけど、下級淫魔が何かをしてくるより早く、僕は人魂を見た。

 

「巫術、“焔華《ほむらばな》”」

 

 夜に良く通る涼やかな声だった。

 人魂だと思ったものは、下級淫魔のうち一体にぶち当たり、それこそ花のように炎が咲く。

 一瞬で炎に包まれたかと思えば、もがくこともできずに燃え尽きていく。

 下級淫魔たちは仲間がやられたと気付き、臨戦態勢をとる。が、それも遅い。

 

「はい、こちらですよ」

 

 別の声が聞こえたと思ったら、もうおしまい。

 あれは、昼に見た女子中学生? 特に刃物とかを持っているわけでもないのに、手を振ったら淫魔の首がポトリと落ちた。

 残りも二人の少女が容易く片付けて、危機はあっという間に霧散した。

 

「大丈夫ですか?」

「え、あ、はい」

 

 中学生の方がこちらを心配そうにのぞき込んでいる。

 肩までの髪を編み込んだ、可愛らしい女の子。幼くて愛らしい顔立ちなのに、淫魔相手に怯えもせず立ち向かい、倒してみせた。

 でもとりあえずはサナちゃんが犠牲にならずに済んだ。それをまず感謝しよう。

 

「よく、分かってないけど、助けてくれた、んですよね? ありがとうございます、この子を守ってくれて!」

「ふふ。いいえ、これが私たちの退魔巫女の役目ですから」

 

 柔らかい微笑みでそう言ってくれる。

 もう一人の、炎を使ってた方の女の子もこっちに来た。

 長いツインテールの、確か校内で見たことがある同級生だ。名前は出てこないけど。

 

「せんせ、もういなさそうだよ」

「ありがとうございます」

 

 年下っぽいのに、先生?

 ちょっと疑問に思ったけど、はたと同級生の彼女と目が合った。

 その子は“にっ”と笑って見せる。

 

「デブのわりに、けっこうやるじゃん」

「こら、美桜さん。いきなりそういう言い方はいけませんよ。ごめんなさいね、お二人とも」

「あ、いえ、太ってるのは事実ですし、これが僕のキャラみたいなもんですから」

 

 キモブタ地元メシちゃんねるは、僕の容姿いじりコメントも多いしもうあんまり気にしてない。

 弄られる度にお金入ってるってことだからね。

 

「う、確かに。ごめん。ただ、そっちの子を守るためにカラダ張ったの、頑張ってるじゃんって伝えたかっただけで」

「いえ、気にしていないので」

 

 ちゃんと謝れる辺り、言葉選びがマズいだけで基本的にはいい子なんだろう。

 しかし今さらだけど、冷静になって改めてみ見たら、彼女たち露出度すごくない?

 変形の巫女装束というか、巫女レオタード。生地うっすいし切れ込みエグイし、とっても扇情的。

 中学生さんの方も装飾に多少の違いはあれど、基本的には似たような感じ。

 見るのが申し訳なくて顔を背けてしまうレベルだ。

 視線の置き場を探していると、はたとサナちゃんと目が合った。 

 僕にぴったりと抱き着いて、ちらちら二人の女子の様子を伺っている。

 それを怯えていると感じたのか、中学生さんが優しく話しかけた。

 

「お嬢ちゃん、もう大丈夫ですからね」

「は、い。ありがとう、ござい、ます」

 

 おお、ほんとに怯えた子供みたい。

 すごいな、サナちゃん。

 

「ええと、貴女たちは。って、聞いて、いいんですか?」

 

 僕が遠慮がちにそう聞くと、同級生の子が不敵に笑って答えてくれた。

 

「私は退魔巫女。ああいう淫魔を、討伐するのがお役目なの」

 

 やっばい。

 淫魔の天敵じゃないですか。

 隠蔽と認識阻害が完璧だから気付いてないっぽいけど。もしかしてサナちゃん、演技とかじゃなくて普通に警戒してた?

 

 こうして僕は退魔巫女……同級生の春乃宮美桜(はるのみや・みおう)さんと、椎名薫(しいな・かおる)さんの二人と知り合うことになった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。