ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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むかしのこと・後編

 

「儂が大淫魔サーナーティオを封じようと決めたのは、住民を禁忌の領域に引き摺り込んだ悪しき化け物。町に致命的な終焉をもたらした、恐るべき存在だからじゃ」

 

 サナちゃんがそんな酷い子だなんて思えない。

 でも実際にこの子は淫魔として魔力を食んでいた。

 なら、僕の知らない一面があったのだろうか。

 緊張に少し口が渇く。

 そうして、お祖父ちゃんはかつての事件について語り始めた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 十年前。

 欧州のとある田舎町に佐間泰造(さま・たいぞう)は足を踏み入れた。

 アンティークショップを経営している彼は、面白そうな品を仕入れるために海外を飛び回る。

 その途中、現地の教会で話を聞いた。

 

 大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。

 

 教会のエクソシストが束になっても敵わないほど強力な淫魔が、田舎町を餌場にしているのだという。

 老いた退魔師である泰造が戦いに臨んだのは、世話になった協会の面々への義理であり、町の住人への同情でもあった。

 はっきりと言おう。彼が到着した時点で、その田舎町は終わっていた。

 

「ああ、夫が……夫が、なぜこんなことに」

 

 住まう男性は既に手遅れ。大淫魔はその根幹たる能力<堕淫魔術>によって、快楽のエナジーを吸い上げていた。

 長年連れ添った妻は、変わり果てた姿となった夫に涙する。

 若い恋人たちでも似たようなものだ。大淫魔の力に囚われた者の末路は無残としか言いようがない。

 性行為に寄らない魔力吸収は、効果範囲が広すぎる。

 もしもこれが大都市を餌場に選んだなら? 想像するだけでも恐ろしい。

 被害がこの町で留まっているうちに、サーナーティオを封じなければならなかった。

 

 泰造は戦いを挑んだ。

 足りない霊力を呪具で補い、培った巫術を最大限行使し、幾つもの罠を張り巡らせ……それでもなお、届かなかった。

 淫らな魔術だけではない。雷撃や熱、激しい攻撃を繰り出すサーナーティオを前に、彼は敗れ去った。

 しかし年老いてもダンディかつ知的な美男である泰造は、咄嗟の機転により大淫魔を出し抜く。

 

 封印術【呪霊緊縛】。

 

 魔力量で上回る対象さえも拘束し、特殊な処置を施した呪具に封じる佐間泰造の切り札である。

 僅かな油断を突いた、聡明で機智に富んだ老練の退魔師ならではの一撃により、諸悪の根源は女神像に封印され、町に平穏が戻った。

 

 ……しかし全てが元に戻るわけではない。

 大淫魔サーナーティオに蝕まれた田舎町はこれから緩やかに衰退していくだろう。

 死者は、いなかった。それは事実だ。

 ただ、死よりも悲しい結末が待っていただけ。

 

 例えば、ある夫婦の話だ。

 変わり果てた夫の姿に嘆く妻。脅威が去った後も、夫が正気に戻ることはなかった。

 

 

 

「ああ、つるぺたさいこー……なのに、うちのかかぁは……はぁ……」

 

 

 

 これは珍しい例ではない。

 田舎町に住まう多くの男は、禁忌の領域(ロリコンさんの側)に引きずり込まれてしまったのである。

 

 よくよく考えて欲しい。

 煌めくような長い銀髪、ルビーを思わせる深い赤の瞳、瑞々しいく艶めかしい白磁の肌、とぅるっとぅるの綺麗な腋。

 幼くも麗しい容姿をした非現実的な美ロリっ娘が、破廉恥な衣装でえっちな誘惑をしてくる。

 しかも、ロリビッチではない。恰好自体はエロいのに処女、そんな娘さんが堕淫魔術によって快感を与えてくる。

 そりゃあ性癖も歪むわ。

 

 サーナーティオが去った後、ロリ以外に興奮しなくなった男が続出した。

 断っておくが、洗脳や魅了に類する力ではない。

 単にエロ可愛い娘っ子の誘惑にやられて、自分のパートナーに「あれ、こいつあんまり……?」みたいな感想を抱いてしまっただけである。

 だから、しこりを残しつつも離婚まではいかなかった夫婦もそれなりにはいた。

 一番の被害は若い世代だ。ロリコンになった彼氏に愛想が尽き、別れる女性が後を絶たなかった。

 男性に至っては「拙者、ロリロリぃな娘さん以外と結婚する気はないでござる」でまだ普通。中には「田舎町では出会いがない。都市部に出て理想のロリを探す」と故郷を捨てる者まで現れた。

 住人の流出と成婚率の急激な低下により今後、町は子供が生まれず過疎化していくのは間違いなかった。

 これにより、封印されてなお五大淫魔が一柱の悪名は轟く。

 大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィスはそのロリロリしさによって多くの愛をぶち壊し、確かに町を一つ滅ぼしたのだ。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「長年連れ添った夫が幼い娘っ子にしか興奮できなくなる……妻の苦悩は、儂では想像もつかん。こやつの堕淫魔術は確かに命を奪わない。が、生き残った者は美幼女の幻影に囚われる。社会的にはもはや死んだも同然なのだ……」

 

 なんかお祖父ちゃん、物凄いシリアスフェイスしてるけど、今一つ乗り切れません。

 サナちゃん全然ひどい子じゃなかったよ。 

 

「分かるか、直人よ。大淫魔サーナーティオによって、壊された夫婦の絆がある。決別した恋人たちがいる。全ての元凶は、この恐るべき淫魔なのだ」

「アイドルを推し過ぎて破綻したカップルがアイドルに責任を求めるくらいの無理筋では……?」

 

 だって洗脳でも魅了でもないんだよね?

 シンプルにサナちゃんが可愛すぎての破局は、ちょっと男側の有責度合いが高い。

 

「だが、堕淫魔術による快感のエナジーの吸収は、単純にキモチいい(・・・・・)。そこにサーナーティオの容姿が、雰囲気が加われば、儂は一概に男だけが悪いとも言えん……」

 

 そこは、はい。微妙に同意せざるをえません。

 ただロリっ娘に現を抜かして妻をないがしろってなんやねん。

 

「全ては……この魅惑のつるぺたボディがあまりにえっちなせいで起こった悲劇ですね……」

 

 サナちゃんが「ほふぅ……」とせくすぃーに溜息をついていらっしゃる。

 この子的にはご飯食べただけだしあんまり罪悪感はないっぽい。

 まあ、触手とかで精気を奪い取る淫魔に比べたら、全然気遣っている方だし。

 

「当事者になって考えてみるがいい。例えば直人や。恋人はいるか?」

「ええと、おりませんです、はい」

「ならば心から惚れている恋人がいると想像するのだ。その彼女が、いきなり現れた美形ショタにドハマリしてお前をないがしろにするようになったとしたら?」

 

 想像する。

 カノジョと仲良くしている僕……。

 急に現れた美形ショタ……。

 お姉ちゃんたち大好きと甘えられて「もう、仕方ないですね。○○くんは」とデレデレになるカノジョ……。

 離れていく距離……。

 そうしていつの間にかカノジョは、ショタに快楽を与えられ、心を傾け、裸体を晒し……。

 

「ぐわああああああああ!?」

「じゃろ!? そうなるじゃろ!? 儂が策を使ってでも大淫魔を封じたのは全然正義じゃろ!?」

 

 男女を逆にすることで、僕は一瞬で陥落した。

 ダメージが、思った以上にダメージが大きい……! 

 

「なっ、ナオトくん。しっかりしてください!?」

「気を確かにっ!? なのじゃっ!」

「だいじょぶ? ひーはここにいるよ……」

「あ、ありがと……これはひどい。ひどすぎた。うっぷぅ」

「そ、想像だけで吐き気を覚えてます……」

 

 淫魔っ子たちが背中をさすさすしてくれる。

 ちょっと楽になった。

 

「おにーさん。ちなみに、今想像した恋人はサアヤ? ミオウ?」

「ひーちゃんは何を言ってるんですかね……?」

「ん……?」

「え、なんできょとんとするの? 友達で恋人妄想とか僕そこまでレベル高くないよ?」

 

 うん、ないよ?

 それはともかく、さっきは卑怯と思ったけど、僕はお祖父ちゃんなりの正義を感じた。

 

「ごぉ、ごめんねお祖父ちゃん……僕は、対岸の火事みたいに考えていたよ……」

「上級種には人の心を弄び愉悦に浸る悪辣なものがいくらでもおるぞ」

「さ、サナちゃんは、そんな子じゃない……」

「だとしても、放置は出来ん」

 

 改めてサナちゃんを見たお祖父ちゃんは、警戒を解かないまま告げる。

 

「サーナーティオ。おぬしが淫魔としては比較的善良なのは、知っておる。ヒラルスにラエティティアも、直人が同居を認めている以上は殺戮を是とする性質ではないんじゃろう」

「もちろんです。ナオトくんに迷惑をかけたりはしませんよ。どこかの誰かさんにぃ? 暗いところに閉じ込められてぇ? すっごく怖かったのを助けてもらった恩もありますしぃ?」

 

 ひーちゃんもらっちゃんもこくこく頷いている。

 お祖父ちゃんは嫌味っぽい言い方にも一切動じず、僕に向けて滾々と説教をするように語る。

 

「だが、善良な淫魔は、それはそれで危険なのだ。なにせ、ほとんど金のかからない、永遠に美しい存在だぞ? そんなものが傍にいては、現実が色褪せるではないか」

「お祖父ちゃん、もうちょっと言い方なかったのかな……?」

「む、茶化しはしたがな。人よりも強く永久に美しく、人と同じように優しく寄り添うのなら、人と魔物の価値が逆転する。耐えがたい魅力を以て日常を蝕むのもまた、怪異の業だとは思わんか?」

 

 お金がかからない的なこと言うけど、みんな普通にケーキ好きだし、ひーちゃんは普通に「ゲーム買って」っておねだりするよ?最近は僕の懐具合を心配して遠慮してくれてるけどさ。 

 でも、言いたいことは分かる。

 現実の人間よりも魅力的に見える魔物にのめり込むのが危険だというのは真っ当な感性だと思う。

 下手をすると「人間なんてくだらない」みたいな結論に行き着くかもしれない。

 

「褒められてるのか、貶されてるのか、微妙なところですね……」

 

 サナちゃんは困ったような反応だった。

 かわいいは正義ならぬかわいいは悪という主張だから、どういう顔をすればいいのか分からないらしい。

 

「それでも、僕はサナちゃん達が大事だよ」

「そう思う時点で、危険だと言うておる。そこな淫魔たちを討伐する流れになれば、お前は間違いなく退魔協会と敵対する。取りも直さず、人間の敵になるということじゃ」

 

 今の時点でも外法術師だ。その懸念は間違っていないのかもしれない。

 そこでピンとくるものがあった。

 

 

「あ、なんか分かったかも。もしかして今回の話し合いって、僕とサナちゃんの見極めが目的?」

「まあ、の。それも理由の一つじゃ」

 

 お祖父ちゃんは退魔協会にはまだ伝手があるらしく、大淫魔サーナーティオの出現と裏にいる主の存在を知ったそうだ。

 で、状況から僕が契約を交わしたのではと考え電話で確認。これは間違いないと踏んで行動に移した、という流れらしい。

 

「ち、ちなみに、評価はいかほどに……?」

「親しすぎるのは多少危ういが、大淫魔たちに悪意はなく、直人も言いなりになっていない。ひとまずは安心、といったところか」

 

 よかった、とりあえずサナちゃん達はいい子判定を貰えた。

 でもお祖父ちゃんの警戒はまだ解けない。

 

「そ、そもそも、なんで僕に女神像を? 実は、契約させるのが目的なのかなぁ、って思ってたんだけど」

「めちゃくちゃ嫌な理由じゃよ? お前の母親はな、儂が買い付けに出ている間に店に来て、高値で売れそうなものを物色していくんじゃ。勝手に合鍵を作ってな。息子も信用できんしのぉ」

「母さん…父さん……」

 

 あの人たち、本当に最低だな。

 つまり勝手に売られないように僕の家に避難させたかっただけか。

 

「女神像は、落とそうが殴ろうが壊れない(・・・・・)。本来なら“これほど早く”封印が解けることはないはずだった。そこは儂の思慮が足らんかった。すまなかったなぁ、直人よ」

「あ、謝らないでよ。おかげでサナちゃんと、ひーちゃんと、らっちゃんと出会えた。友達も増えた。僕は確かに、願いを叶えてもらったよ」

 

 叶えてくれたのは悪魔じゃなくて淫魔だけど。

 どれほど懸念があろうと、僕にとっては大切な子達だ。

 ただ、それはお祖父ちゃんにとっては複雑なものだったのだろう。「そうか」と一言呟くだけだった。

 

「もう一つの理由としては、儂も歳だ。サーナーティオの管理を任せたかったのもある。そら、こいつも土産じゃ」

 

 テーブルの上に置かれたのは、五つの宝玉が埋め込まれた右腕用の籠手と、古い書物だ。

 

「これは?」

「儂の封印術をまとめた書と、霊力がなくても術を行使するための呪具じゃ。五つの宝玉にはそれぞれ霊力が溜まっており、全てを使い切らん限り自然と回復する。首輪は、いくつあってもいい」

 

 サナちゃん達を再封印するためのもの。

 そう考えると、あんまり嬉しくはない。

 

「今さら契約についてはどうこう言わん。だが、いざという時に五大淫魔を封じる手段は、持っておかねばならん」

「こんなの、いらないよ。僕はサナちゃん達を信じているし」

「いえ、貰っておきましょう」

 

 拒否しようとするも、肝心のサナちゃんがそれを受け入れた。

 

「私たちが暴走した時に封じる術があるのは、ナオトくんにとってはいいことだと思います」

 

 有無を言わせない、でも優しい笑顔だった。

 

「お爺ちゃん退魔師の懸念も分かります。ナオトくんの負担を減らすためなら、甘んじてそれを受け入れましょう。力が戻っても、魅了は使用しないと約束もします」

 

 サナちゃんは凛とした態度でそう言い切った。

 続いてひーちゃんが、ずいと前に出た。

 

「ひーも負担はかけたくない。でも携帯ゲーム機は欲しい。これはセーフ?」

 

 ひーちゃん?

 

「わ、妾も、<夢幻世界>は使わない。そ、それでも、キモブタさんが嫌がるなら、ここを。ここを、離れる、覚悟はぁ……できておる、のじゃぁ……」

 

 らっちゃん、想像で涙ぐまないで?

 そんなこと絶対言わないから。

 

「私だって、ナオトくんのお墓を掃除する覚悟はできています」

 

 サナちゃんも重いよ。

 嬉しいんだけど素直に喜びきれないよ。

 

「……え、なにこれ。懸念は間違っていないはずなのに、なんか儂が悪者みたいになっておるぞ? 何かの拍子に裏切られる可能性も、と危惧していたが……ないわ、これ。絶対ないわー」

 

 ほら、お祖父ちゃんもめっちゃ困惑してるじゃないか。

 たぶん三人の性格は完全に想定外だったんだろうな。

 

「まあ、なんていうか……心配しなくても大丈夫だよ。皆いい子だから」

「儂もそんな気がする……」

 

 お祖父ちゃんは呆れたような安心したような、乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

『サーナーティオ達の危険性は低い、ということは認めよう。今後も、大きな騒ぎを起こさんでいてくれるなら有難い』

 

 

 こうしてお祖父ちゃんはある程度納得して帰った。

 と言ってもしばらくは日本にいるみたいなので、ご飯に誘ってみるのもいいかな。

 今回の昔話で、ちょっとだけこの子達にも怖い部分があるんだな、って言うのは認識した。

 命が助かったんだし夫婦の破局くらい問題ないよね、とは思っている訳だから、やっぱり微妙な感性のズレはある。

 それでも、今の暮らしを楽しんでくれているのもまた事実なのだ。

 

「ナオトくん、私のこと怖いですか?」

「まさかでしょ。でも、お祖父ちゃんの心配も分かったかな。たぶん僕は、いざとなったら……」

 

 退魔協会と、明確に敵対する。

 ……やだなぁ。美桜さんや咲綾さんとも、戦うことになるかもしれない。

 過った不安を拭うように、サナちゃんがぐりぐりと僕の胸板に頭を押し付けてくる。

 くすぐったくて、温かい。じゃれつく猫にするように、サナちゃんの頭を撫でた。

 なおらっちゃんも「次! 次、妾も!」と順番待ちしていた。

 一頻り撫で終えて僕はお爺ちゃんに貰った書物を手に取る。

 

「にしても、封印術かぁ」

 

 ぺらぺらともらった本をめくってみる。

 当然ながらほとんどが捕縛・拘束・封印系の術だ。

 

「これ、僕にも使えるのかな? 退魔巫女の巫術と原理は一緒だよね」

「籠手が補助の役割も果たすようですし、練習次第ではできないこともない、くらいでしょうか」

 

 サナちゃんがいうには、籠手には封印術を使うための補助として最初から呪文のようなものが刻まれているらしい。

 

「美桜さんはこの手の術が得意そうですね」

「ミオウの炎はこわい……」

 

 ひーちゃんはけっこうな数の淫蟲を焼かれてるから、ちょっと暗い表情をしていた。

 

「なんなら夢の中で練習してみるかの? カラダを鍛えたりは無理だけど、いめーじとれーにんぐなら出来るのじゃ」

「そういうのもアリなんだ……」

 

 らっちゃんがさらっとすごい提案してくれる。

 <夢幻世界>、本当にエロ以外の用途が多い。

 

「うーん、どうせ使わない術だし、僕的には優先度は低いんだよね」

「でも、大淫魔サナちゃんを封じた術ですよ。覚えておけば、大抵の淫魔に効果が見込めます」

「あ、なるほど」

 

 以前、野良の下級種に襲われたこともある。

 魂霊契約モードにならずとも使える、魔力も消費しない手札と考えれば意外といいのかもしれない。

 僕は本の表紙を眺めながら、ぼんやりと考える。

 話し合いで、とりあえずサナちゃん達が怖い淫魔じゃないってことは分かってもらえた。

 でも逆に、引っ掛かるところが出来てしまった。

 

「ねえ、サナちゃん。お祖父ちゃんは、”まだ早い”って論調だったよね? 僕が外法術師になったことも、特に深及はしなかった」

「つまり彼の中では、”いずれ”封印が解けることは確定事項だったのかと。封印術も、維持ではなく解放後に再度封印、と考えているようなフシがありました」

「だよね……。首輪は、僕かな」

 

 封印が解けるのを想定していたとすれば、僕に預けたのは「サナちゃんと良好な関係を築けるかも、そうすれば暴れないのでは」程度の打算はあったのかもしれない。

 お祖父ちゃんを疑うのは嫌だけど、なにか隠し事はありそうだった。

 

 

 あとついでに帰り際、僕はお祖父ちゃんに気になっていた質問をぶつけた。

 その答えが、正直かなり重かった。

 

『お祖父ちゃん。どうして女神像を僕にくれたの? さっきの話の内容なら、別に武尊(たける)兄さんでもよかったよね?』

『ん? そりゃあ、血縁に渡したいと……うぉほっん! やはり、直人が一番信用できるからのう!』

 

 誤魔化すの遅いよ……。

 ええと、僕と兄さんは、兄弟です。

 お父さんとお母さんの、子供です。

 お祖父ちゃんは、僕のお父さんのお父さんです。

 なのに、お祖父ちゃんにとって、僕は血縁だけど、お兄ちゃんは血縁でないそうです。

 

 ??????????

 

 僕は封印術の書を置いて、ぼんやりと窓の外を眺める。

 

「五大淫魔より、僕の家庭の方がよっぽど厄ネタって、なんだろなぁ……」

 

 なんか母さんに疎まれてた理由がはっきりしそうなので、僕は考えるのを止めた。

 

 

 

 

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