ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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夏の海・前編

 

 

 

 電車に揺られて流れる景色を眺める。

 べったりと重たい青空。冷房の利いた車内では感じられないけれど、外はきっと息苦しいほどの夏に満ち満ちているのだろう。

 炎天の下、煌めき揺らぐ陽炎の街並み。去来する郷愁に似た朧げな感情に、僕はそっと目を細めた。

 

「ここでサナちゃんクイズです」

 

 そういうのを全部無視してサナちゃんクイズの時間です。

 みんなで海に向かって電車でガタゴトしてる途中、唐突にサナちゃんクイズが始まった。

 サナちゃんクイズって何だろう。

 

「退魔巫女の霊力の扱い方は、俗になんというでしょう?」

「ええと、内と外、だったっけ?」

「正解。賞品は私からの頭なでなでです」

 

 やったー。

 というかこれ、前にサナちゃんに教えてもらったヤツである。

 クイズっていうか、素人外法術師の僕のための授業みたいなもののようだ。 

 

 退魔巫女は同じ家系でも“とくいタイプ”がわりと個々人で違う。

 たとえば咲綾さんは霊力をカラダにまとわせて強化したり、武器に集中して威力を高め、踏み込む瞬間に霊力を流動・爆発させて速度を上げるのが得意。こういうのを俗に“内側向き”という。

 逆に、炎や氷といった属性を与えて遠距離攻撃したり、回復・結界なんかを作り出すのは“外側向き”と呼ぶ。

 こちらは、美桜さん……ではない。

 

「私、どっちも実戦レベルでできるよ?」

「うおぉ、さらっと天才発言なのじゃ……」

 

 美桜さんの軽い発言にらっちゃんが驚いている。

 外・内は霊力操作の妙ではなく、短距離向き長距離向きの筋肉の付き方が近い。一方を極めていくと、もう一方がぎこちなくなっていくのは仕方がないのだそうだ。

 つまり、どっちもできる美桜さんは、本当に限られた才能の持ち主ってことになる。

 咲綾さんがコンプレックスを抱くのも正直分かる。

 四季家みたいな代々すごい退魔を輩出する家系だと、家伝の技に内・外両方あり、自分のとくいタイプに合わせて習得する、というのが普通らしい。 

 

「サーナ……サナちゃん。人がいないからって、そういう話題は止めておこうね」

「はーい」

 

 咲綾さんが優しく窘める。

 普段は正式名称で呼んでいるけれど、外では僕に合わせた愛称を使う。魔力の隠蔽や認識阻害はしてあるものの用心は必要だ。

 

「では第二問。ナオトくんの好きなコスプレは?」

 

 それもうクイズじゃないよね、ただの質問ですよね。

 いの一番に答えたのは美桜さんだ。

 

「退魔巫女装束とか?」

「にやにや笑うのやめてもろて? あとそれってコスプレでいいの?」

 

 というか、露出度高いレオタ衣装を好きとか言ったら僕の評価がフリーフォールな気がする。

 でも咲綾さんもチラチラとこちらを見ているし、ひーちゃんらっちゃんも僕の答え待ちをしている。

 その時ちょうど電車が目的の駅に着いた。

 

「さあ、みんな! 行こうか!」

 

 電車を降りれば、潮の香りを含んだ風が頬を撫でて通り過ぎる。

 微かに波の音が聞こえたような気がした。

 太陽の光に一瞬目が眩む。手で遮りながら遠くを見渡せば、広がる深い海の色彩。

 心ごと攫って行きそうなその青さに、僕は背中に突き刺さる女の子達の視線をガン無視した。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「海ー!」

「なのじゃー!」

 

 美桜さんとらっちゃんは、海が見えると駆け出して二人してバンザイをした。

 なんだろう、コミュ強とぼっちなのにわりと相性がいいのかもしれない。 

姉妹の退魔巫女休みに合わせて、僕たちは海水浴に来た。

今回の旅行は一泊二日の予定で、先に旅館に荷物を置いてから浜辺に向かう。

 夏休みだけに人がごった返しており、デブい僕が一人でいるとちょっと肩身が狭い。まだサナちゃん達は来ていないので、先にビニールシートを敷き、パラソルを立てる。

 海なんていつぶりだろう。学校行事の潮干狩りで一応来たことがある、程度だ。 

 純粋な意味で楽しむのってたぶん初めてじゃないかな。

 

「ナオトくん、お待たせしました」

 

 しばらく待っていると、四人が遅れて浜辺にやってきた。

 振り返り、僕は大きく目を見開く。

 ここは海なので、夏だから、女の子って当然水着なのだ(語彙力)。

 

「直人、お待たせー」

「パラソル、準備してくれたんだね。ありがとう、直人くん」

「いっ、いやっ、そんな」

 

 太陽の下、それ以上に眩しい美桜さんと咲綾さんの姿に声が上ずってしまう。

 姉のスタイルの良さにコンプレックスを持っていると聞いたけど、美桜さんだって十二分以上に魅力的だ

 黒のビキニで、すらっとしてて、アスリートみたいな綺麗さがある。

 

「美桜さん、その、きれいです、すごく。あっ、勿論普段からカワイイだけども!」

「どういう褒め方よ」

「水着姿はきれいなのはもちろんなんですが、そこだけ褒めるとじゃあ普段は違うのかって話になりまして。だから美桜さんは普段からかわいく、海でも新鮮さが加わって綺麗に映るという事実が誤解なく視聴者さんに伝わるよう配慮が必要なわけで」

「いや、視聴者いないから。でも、ありがと。つまりぃ? 普段から私のこと可愛いって思ってる訳だ?」

「あ、そのあの…………はい」

「よろしい」

 

 照れつつも朗らかに美桜さんは笑う。

 ただ、ちらりと視線を横に滑らせた。

 

「ま、素直に喜んでおくわ。……お姉ちゃんと並ぶと、あれなんだけどさぁ」

 

 彼女は肩を竦めて咲綾さんを見る。

 青を基調としたグラディエーションカラーのビキニ。長い黒髪はポニーテールにまとめている。

 もう、スタイルがすごい。高校二年生のレベルを超えている。周囲の男性もちらちらと彼女のことを見ていた。

 

「直人くん、どう、かな?」

「咲綾さんも……いつもかわいくて、すごいきれいです。それって、あの時買った、水着、だよね?」

「うん。こっちの色の方がいいって、言ってたのだよ」

 

 僕が選んだ色の水着。その事実だけで鼓動が高鳴ってしまう。

 でも、物凄い勢いで美桜さんがツッコミをいれた。

 

「ちょっと待ったぁ! え、なに、二人一緒に水着買いに行ったの!?」

「う、うん……」

「お姉ちゃんズルくない? そこは誘ってよ、私だけ仲間外れみたいになってるじゃん!」

 

 決して、仲間はずれにしたわけではない。

 美桜さんだけが参加しなかったのはちゃんと理由があるのだ。

 

「ごめんね、直人くんの動画撮影の予定に合わせてたから、日にちがずらせなかったの。美桜は、その、友達と……遊ぶ約束がいっぱいあって。私は、夏休みでも、修行か動画くらいしか予定がないし……」

「あっ、それはごめん。そんなつもりじゃなくて」

「でも、クラスで集まる時はちゃんと声がかかるよ」

「もういい、もういいから!」

 

 咲綾さんはイジメられてる訳ではありません。

 むしろ美少女だし優等生だしで人気はある方だ。だから、クラスでの集まりには当然声がかかる。

 でも個人的な友人となると途端に少なくなるので、夏休みのお誘いはあんまりないらしい。

 つまりなんで僕と二人になったかと言うと、美桜さんの予定がみっちりで、咲綾さんの予定がガラガラだったというだけである。

 

「咲綾さん、安心して。僕もね、相沢くん以外から誘いが来たことはないよ。一年生の頃なんて、キモブタアンチ勢の男子が幹事のイベントには一切呼ばれなかった」

「直人くんも…辛かったんだね……」

「おーいそこの二人ー、妙なシンパシーで気分盛り上げんのやめてくれなーい?」

 

 見つめ合う僕たちに呆れてツッコむ美桜さんです。

 ついでのように僕に質問を投げかける。

 

「ちなみにだけどさ、その男子の幹事って」

「バスケ部員だったから、部が贔屓にしてる食堂で動画撮影して、店主さんと仲良くなってから彼がやったことを全部ばらしたよ? バスケ部でご飯食べに行くたびに店主さんからも店員さんからも白い目で見られてたそうだよ?」

「うん、直人だわ」

 

 僕はムカついたら基本陰湿にやり返すタイプの気弱な陰キャです。

 お喋りをしていると、淫魔っ子たちもアピールしてきた。

 

「お邪魔するのはごめんなさいですけど、私たちも水着ですよ」

 

 サナちゃんは白の花柄フリルワンピース。

 いつもとは違い長い銀髪を一まとめにして編みこんでいる。

 かわいい。普段の淫魔装束はともかく、私服は基本的に清楚系でまとめる彼女の水着姿は非常に安心感がある。

 ……あれ? ちょっとドキッとした。いや、僕はあくまでサナちゃんの可愛らしさに見惚れただけである。

 

「サナちゃんも、すっごくかわいい。フリルでお姫さまっぽい」

「ほめ過ぎですよ。でも、ありがとうございます」

 

 続いて、らっちゃん。

 上目遣いで、わくわくと僕の言葉を待っている。

 いや、この子もかわいいよ? だけども。

 

「キモブタさん、妾は妾はっ?」

「らっちゃんも、その、似合うね。すごく、かわいいと思う」

「ふふん、せくしーじゃろ?」

 

 自信満々で腰に手を当て、胸を張るらっちゃん。

 いけない、超危険だ。なにせこの子の水着は、ジュニアアイドルでも着ないだろというレベルのセクシーなブラジル紐水着だった。

 私服から露出多めだけど、これはヤバい。

 ある意味で咲綾さんより視線を集めている。

 

「えと……うん。すごい。びっくりした」

「よかったぁ。喜んでくれたのじゃ」

 

 ほふぅ、と安堵の息を吐く。

 ああ、これ。自分の趣味じゃなくて、僕を喜ばせたくての露出過多水着なのか。

 なら、もっとちゃんと褒めないと。 

 

「嬉しいよ、らっちゃんの気持ちが」

「うむ、うむうむっ」

 

 夏に負けないくらい元気いっぱいの笑顔。

 寂しがりな女の子の頭をしっかりと撫でる。

 そして、最後のひーちゃんは。

 

「ぴーす」

 

 眠そうな表情のままアピール中。

 囚人水着です。白黒横縞の例のアレです

 しかも膝、肘辺りまですっぽり隠しているので肌の露出がほとんどない。

 さらには白黒の帽子も被った完全防備で、らっちゃんとは逆の意味で浮いていた。

 

「ひーちゃんは、珍しい水着だね? いや、そういうのもかわいいけども」

「日差しは想像以上に体力を奪う」

「なるほど、ちゃんと考えてるんだ」

 

 日差しに負ける淫魔。いや、吸血鬼だって日に弱いしそんなものなのかも。

 頭と肌を防備した結果が囚人水着らしい。事前に対策するのは偉いと思う。

 その辺りの事情を理解しているらっちゃんだが、少し残念そうな顔をしていた。

 

「むぅ。でも、ひーも、もっとせくすぃーなの着れたらよかったのに」

「そんなことない」

 

 ひーちゃんは僕の方をまっすぐに見る。

 

「この水着、けっこう楽。それに、おにーさん以外に肌見せるの、なんとなくしんどい」

 

 前々から思ってたけど、ひーちゃんって基本ドストレート叩き込んできますよね。

 

「なっ、き、キモブタさん? 妾は別に周りに見せたいのでなく、キモブタさんに悦んでもらおうと」

「わ、分かってるよ。大丈夫だから」

 

 慌てるらっちゃん。

 そこにサナちゃんも優雅に参戦。

 

「ちなみに私は、ちゃんと自分の好みで水着を選んでいますよ。奇抜過ぎるとナオトくんを邪推する人が出てくるから無難なものを、とは考えてますけど」

 

 自分も楽しい、僕も安心がサナちゃんのコンセプトらしい。

 この子は本当に普段から良くフォローしてくれる。だからこそ時々見せる幼い対抗心や、甘える仕種が嬉しかったりする。

 

「愛されてるね」と咲綾さんが小さく笑う。

「いや、あはは」

 

 それを愛と呼ぶのかは分からないけれど、この子達の心ではあると思う。

 照れながら僕はぽりぽりと頬を掻いた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 海に入ろうとしたらっちゃんが寄せる波に驚いて「ひゃおうっ!?」みたいな声を上げていた。

 ちょっと怯えてたみたいだけど、サナちゃんとひーちゃんに手を引かれて三人仲良く駆けていく。

 僕も続こうとしたが、それにしても周囲の視線がすっごい。

 しゃーない。だって僕の隣にいるのは美桜さんと咲綾さんだもの。

 まるで両手に花だけど、気分的には美少女に挟まれてダブル・プレッシャー・ブレイク。たぶん両側から鉄塊で挟み込むタイプのスーパーロボットな必殺技名だと思います。

 

「さて、美桜さん。僕はまず聞かないといけないことがある」

「へ? なに?」

「……海って、何をすればいいんでしょう?」

「あ、それ私も聞きたかった。美桜、教えてもらっていい?」

「お姉ちゃんまで!?」

 

 今更ながら気付く。

 僕たち、こういう旅行で海に来たことがないから、海水浴って何をすればいいのか分からないのだ。

 

「好きに楽しめばいいでしょ? 泳いでもいいし砂浜で遊んでも。肌を焼くのは、ダメージもあるからちゃんと考えて。あとは、レンタルでボートとか水鉄砲もあるんじゃない?」

「おぉ……僕のイメージだと浜辺で追いかっけこしてあははーうふふーしかなかった……!」

「直人のイメージだいぶ昔で止まってんね」

 

 ちょっと呆れられてしまった。

 美桜さんはちょっとからかうように笑う。

 

「あとー、お姉ちゃんは、あんまり一人で動かないようにね。押しに弱いから普通にナンパに負けそう」

「そんなことありません」

 

 咲綾さんがぴしゃりと言う。

 あくまで冗談だったみたいで、雰囲気は和やかだ。

 

「それじゃ、時間がもったいないしさっそく遊ぼーよ。まずは、泳ぎで対決ね」

 

 美桜さんの提案が意外と体育会系だった。

 いや、退魔巫女って日常的に修業をするし、ノリはそっち側なんだろうか。

 

「泳ぎなら私も自信あるよ」

 

 既に咲綾さんが準備体操をしている。あ、ガチバトルだ。

 確実に僕が最下位のヤツだよ、これ。

 

「……敗色濃厚の戦いだけど、ワンチャン賭けるのがキモブタです」

「おっ、逃げないのは評価するよ。でも、手加減はしないから」

「ごめんね、直人くん」

 

 そうして僕たちは、海でびっくりするくらい真剣に水泳勝負をした。

 当たり前のように僕は負け、ギリギリで咲綾さんが一位をとった。

 意外にも、霊力を使わない純粋な身体能力だと、咲綾さんの方が上らしい。

 

「い、いきなり疲れた……」

「あはは、まあ頑張った方じゃない? ビニールボートを借りてきたし、今度はゆっくりしようよ」

 

 美桜さんは一日遊び倒すつもりのようで、既にボートを準備していた。

ぷかぷか海に浮かぶだけ。でも、疲れた僕にはちょうどいい。僕はボートに寝転がって、青い空を見上げながら、波の心地良さを感じていた。

 

「では、お邪魔しますねー」

 

 +サナちゃん。

 銀髪赤目のサキュバスは、当たり前のように僕の上に乗っかってきた。

 

「ひーも」

 

 +ひーちゃん。

 僕のカラダの上に、二人目の女の子。

 ちょっとボートが沈んだ気がした。

 

「友達と……夏の海……夢のようなのじゃぁ……」

 

 +らっちゃん。

 ぼっち歴の長いらっちゃんが比喩でなく感涙しておりました。

 淫魔っ子三人で遊べるだけで心揺さぶられちゃっています。

 サナちゃん達は慌てて「大丈夫ですからね」「ひーもいる……」と慰めています。三人とも僕の上です。

 

「あの、三人とも。ちょっとバランスが。あ、あんまり動かないで?」

「え、でも……」

 

 サナちゃんが言い切る前に、いつの間にかボートの傍まで泳いできていた、美桜さん&咲綾さん。

 無理がある。ここからさらに女子二人+はどう考えても無理がある。

 

「いくよ、お姉ちゃん」

「う、うん」

「せーの!」

「ぬおあああああ!?」

 

 勢いよく二人が乗ったことで、僕が寝転がっていたビニールボートは思いっ切り転覆した。

 当たり前ですよ。一つの船に六人は乗れないなんて、考えるまでもないですよね?

 

 その後も僕たちは、波打ち際で戯れたり水遊びをしたりと動き回った。

 一頻り遊んだ後は昼食。海の家に行くと、キモブタちゃんねるを知っている店員さんがおり、「撮影ですか?」と聞かれた。

 最初はついでに海の家メニューで動画を撮ろうかとも思ったけど、せっかくの海水浴なんだから仕事を忘れたかった。違いますよー、と答えると残念がりながらもサービスに焼きそばをつけてもらえた。

 

「うんっ。……微妙ですね、このカレー」

 

 サナちゃんはカレーライスを食べてたけど、あんまり美味しくなかったらしい。

 まあ海の家の簡単な食事だから仕方ない。淫魔の食事はあくまで嗜好品に過ぎないので、汗をかいたから塩分がカラダに染みるとかの感覚はない。そのため純粋な味の評価になってしまう。

 でもひーちゃんはかき氷に結構満足しているようだ。

 

「おにーさん、舌、青い?」

「はは、青くなってるよ」

 

 ブルーハワイ味を食べて、小さな舌をちろりと見せてくれる。

 美桜さんはナポリタン、咲綾さんはうどん。僕はサービスの焼きそばとたこ焼きとらーめんにイカ焼きとフランクフルトとカレーライス。らっちゃんは僕のをちょこちょこ摘まんでいる。

 

「ララ、ナポリタンもちょっと食べる?」

「いいの、みおーさん?」

「いいよ、はいあーん」

「わーい、なのじゃ」

 

 意外と美桜さん、淫魔っ子たちと馴染んでる。

 イイ感じにお腹も膨れ、午後からは、じっくりまったりと遊ぶ。

 海で体力を消耗したひーちゃんとらっちゃんは、浜辺で砂のお城を作っている。

 

「……違う、らーちゃん。ここの柱は、もっと形を整えて」

「こ、こうかの?」

「うん。あとは、屋根の部分は海水で濡らした砂に貝殻を埋めて」

「ひーの情熱がものすごいのじゃ……」

 

 めちゃめちゃ凝ってる。

 ゲームでも冒険よりクラフトの方が好きだし、ああいう細かいのが好きなんだろう。

 僕はその近くで砂に埋められていたりする。咲綾さんとサナちゃんによって。

 

「よいしょ、よいしょ」

「おお、重くて動けない……ねえ、待って、サナちゃん? 多くない? 砂が多くないでしょうか?」

「大丈夫です、これでナオトくんは逃げられません。すみません、美桜さんも手伝ってもらえませんかー?」

「おっけー」

 

 うおぉぉぉ、指一本動かせないレベルの砂の重圧っ。

 やめて、笑顔で手伝わないで美桜さん咲綾さん。

 というか逃げられないって、最初から逃げる気ないんですけど、どういうことでしょうサナちゃんさん。

 

「楽しいですね、皆で海。長い間暗い場所で一人だったから、私今がすっごく幸せです」

「私も、こんなに楽しい気持ちになれるなんて思わなかったな」

 

 長らく封印されていたサナちゃん。

 家のアレコレで余計な重荷を背負っていた咲綾さん。

 自由がなかった二人には、今この瞬間が尊く見えているのだろう。

 

「あの、たった今僕の自由が奪われているんですが……」

「……………えーい」

「さらに追加!?」

「ジャイアントナオトくんを撮影したらちゃんと掘り起こすので、もう少しだけ我慢してくださいね」

 

 どうやら砂で僕のカラダを巨大化させたものを作っていたらしい。

 美桜さんも咲綾さんもスマホのカメラを起動させている。

 

「はいはーい、直人、笑ってー」

「ま、待ち受けにするからね」

「待ち受けは許してもらえませんかねぇ……」

 

 抵抗できず僕はしばらく撮影され続けた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 その後はレンタルのビーチボールで、ビーチバレーもした。

 チーム分けは僕・咲綾さん・ひーちゃんの三人と、美桜さん・らっちゃん・サナちゃんの三人だ。

 メンバーを決めたのはひーちゃんである。

 

「貧乳チームVS巨乳チームでの戦い。負けない」

「ひーちゃん? 君の認識だと僕は巨乳なのかな?」

 

 わりとアレな選出理由だった。

 僕のはただのデブの脂肪です。咲綾さんやひーちゃんのソレとは尊さが違います。

 

「なんかメチャクチャ失礼なことを言われてるんだけど?」

「美桜さん、あちらに私たちの力を見せつけてあげましょう」

「だね」

 

 そうして試合開始。

 まず、咲綾さんがサーブ。ふよふよとしたボールを美桜さんが受ける。

 

「サナっ、いったよ!」

「了解ですっ」

 

 流れるように素早くトスを上げるサナちゃん。

 

「らっちゃん、決めてください!」

「おまかせなのじゃ!」

 

 そのタイミングを見逃さず、らっちゃんが駆け出した。

 砂地だというのに一切速力が落ちない踏み込み。

 技術じゃない。ごくごく単純な身体能力である。

 軽やかに跳躍し、らっちゃんは猛烈なアタックを決める。ねえ、あの勢いでボールが破れないの、たぶん魔力的な何かで強化してるよね?

 ビーチボールはひーちゃんの足元に落ちた。っていうか、強すぎて砂が陥没した。

 いえーい! とハイタッチする女の子たち。かわいい。

 でも、強襲するボールを見送ったひーちゃんは、錆び付いた機械みたいに鈍い動きで首だけ僕の方に向けた。

 

「反応できる気がしない……」

 

 でしょうね。僕だって魂霊契約モードにならないと無理だよ。

 見た目女子小学生でも純正淫魔の身体能力はちょっと凄すぎる。

 試合になるはずもなく、皆でボールをトスし合うくらいの遊びに切り替えた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 日が暮れるまで海で遊ぶ。

 楽しかったけれど多少のトラブルはあった。

 ベタなところでナンパ。美桜さんと咲綾さんにチャラ男二人組が声をかけてきたのだ。

 

「なあなあ、俺らと一緒に遊ぼうぜ」

「うっさい。どっか行ってよ」

 

 背が高い細マッチョ。大学生くらいかな。

 美桜さんは、咲綾さんを庇うように立つ。サナちゃん達と遊んでいた僕も遅れて気付き、 止めに入った。

けれど、鼻で哂われてしまった。

 

「やめてくださいよ」

「うっせえよ、デブ」

「え、なに? 君ら、このデブと来たの? いやいやないわ。こんなブサイクよりオレらの方が楽しませてあげられるよー?」

 

 完全に僕を舐め切っている。

 でも怯えたりはしない。

 ……ぶっちゃけビジュアル的にはひーちゃんの淫蟲巨人の方が怖いからね!

 あれです、超リアルなホラゲをやった後に昔のドット絵ホラーをプレイした気分。演出はともかく、見た目のインパクトに欠けている。

 

「は? 舐めてんの? オツムが足りないなら海の家で焼きそばでも買ってきて詰めとけば?」

「おい、ちょっと調子乗り過ぎじゃね?」

 

 さすがにイラっと来たのか、男は美桜さんを選んだ。

 

 でも咲綾さんに触るなんて許せない。何なら張り手をかましてやろうかと踏み込んだ時、らっちゃんの可愛らしい声が響いた。

 

「待つのじゃ! キモブタさんのお楽しみを邪魔しようなど妾が許さぬ!」

「待って、らっちゃん。色々誤解されそうな言い回しやめてもろて?」

 

 ばばーん、と現れるロリっ娘に思わずツッコんでしまう。

 ブラジル紐水着の、大事なところさえ隠れていれば問題なしの精神を見せつける、仁王立ちするらっちゃん。

 あまりの肌色率にチャラ男がドン引きしている。

 

「やべえ、このデブ……ド変態だ!?」

「小学生になんて水着を着せてやがる……!?」

 

 え、違いますよ?

 僕の趣味じゃありませんよ?

 

「違うのじゃ! これはキモブタさんを悦ばせるために自ら着用したもの!」

「調教済みだと……!」

 

 それも間違ってます。

 でも彼らは僕を近づいちゃいけないレベルのドスケベ野郎と認識したようだ。

 

「……あ、そうそう。私らもぉ、彼のぉ、言いなりだからぁ。ねっ、お姉ちゃん?」

「え、あ……そう。そうですっ」

 

 なんか春乃宮姉妹も乗っかってきた。

 おかしい。ものすごい勢いで僕の株が下がってる。

 下がってるどころか、ナンパ男たちからもアンタッチャブルな存在と認識されている。

 これ大丈夫? キモブタのアンチスレとか立たない?

ナンパ男たちは恐れおののき、「やべえよ、こいつら……」なんて捨て台詞を残し、すごすごと逃げ帰った。

 

「ありがとう、直人くん助けてくれて」

「無事でよかった、咲綾さん。でもこれ、僕なにもしてないよね?」

 

 女の子を囲っているド変態と勘違いされただけですよね。

 余計な争いが起こらず助かったけど色々と納得いかなかった。

 

 

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