ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
僕たちの泊まる宿は、海沿いにある和風の旅館だ。
残念ながら温泉旅館ではないけれど、大浴場が存在しているから実質温泉旅館である。
少し古いけれどその分お値段はお安め。二間の大部屋を一つ借りた。障子で仕切れるから、寝る時は姉妹と外法術師チームに分かれることになっている。
サナちゃん・らっちゃん・ひーちゃんとなら一緒に寝ても大丈夫かぁ……と思うようになった自分はもしかしたら引き返せない深淵に足を踏み入れたのではないかと考えてしまいます。
遊び疲れた僕たちは、僕たちはゆっくりとお風呂で疲れを癒すことにした。
当然ながら男女別です。だってこの宿、混浴ないからね。
※ ※ ※
「おっきなお風呂、初めてだけどいいですねぇ……」
大淫魔サーナーティオは自宅とは比べ物にならないほど大きな浴槽に浸かりご満悦だ。既に直人のマンションを自宅と考えている淫魔である。
「偶にはこういうのもいいよねー」
機嫌よさそうにぐっと伸びをする美桜。対して蟲魔ヒラルスはすでに顔を真っ赤にしている。
「ゆだる……」
「大丈夫、ヒラルス?」
「んー、サアヤ……ちょっと、外で休んでる」
「ついて行こうか?」
「だーいじょーぶ……」
小学生並みの体力しかないヒラルスはのぼせかけている。
多少ふらふらした足取りで脱衣場へと向かった。
「なんかお姉ちゃんがお姉ちゃんしてる……」
「そういうつもりじゃないんだけどね」
ただ咲綾からすると、手のかかる妹のような感覚らしい。脱衣場までの道のりを心配そうに見つめていた。
「ひーちゃん、もともとお風呂そんなに好きじゃないですからんぇぁぁ」
「さなさな、言えてないのじゃ」
「ふへぇ、キモチよすぎて蕩けそうです。ナオトくんも一緒に入ればよかったのに」
サーナーティオがとんでもないことを言う。
咲綾も美桜も、お湯の温度ではない要因で顔が熱くなるのを感じた。
「や、いやいや、さ、さすがに同級生と混浴はちょっと。ね、ねぇ、お姉ちゃん?」
「う、うん。色々気まずい、かな」
いくら気を許しているといっても、いっしょにお風呂と言うのはやはり恥ずかしい。
けれど淫魔っ子たちはあっけらかんとしている。
「別にお風呂くらいなら気になりませんよね」
「妾はむしろキモブタさんといっしょのほうがいい! のじゃ!」
「そういうとこ、ちゃんと淫魔なのね」
美桜が呆れたような声を漏らす。
やはり根本的な感性が違うようだ。
「次の機会には、皆でお風呂もいいと思います。ナオトくんだけ仲間外れはかわいそうですし」
「う、うーん」
「まぁ、次の機会にね」
淫魔の純粋な提案に、姉妹は曖昧な笑顔で返した。
※ ※ ※
「はぁ、キモチよかったぁ」
男湯でゆっくりと疲れをとった僕は、サナちゃん達と合流しようと売店に向かった。
僕が女湯の前で待っているのも問題ありそうだしちょっと離れたところを集合場所にしたのだ。
やっぱり僕が一番みたいだ。お風呂上がりのコーヒー牛乳を飲みつつ待つことにした。
「直人、おまたせー」
しばらくすると、浴衣姿の美桜さん達がやってきた。
お風呂上がりだからいつものツインテールではなく髪をほどいたロングの状態になっている。浴衣も良く似合うし、新鮮な姿にドキドキしてしまう。
にやっと笑って「お、いい反応」という美桜さん。どうにも見透かされているようです。
隣にいる咲綾さんも上気して色っぽい雰囲気だ。
「ごめんね、遅くなって」
「いやいや、僕も来たとこだし。大きいお風呂、いいよね、やっぱり」
「本当。気持ちよかったね」
「う、うん」
僕はちょっとどもってしまう。
だって、浴衣を押し上げる驚異の脅威な胸囲だ。僕を信頼してくれているのか、無防備な振る舞いについ視線が下がってしまう。
「そんなに見ないの」
「はひっ、すみまへん」
美桜さんにほっぺをぐにってつねられた。
肝心の本人は少し照れながらはにかむ。
「……気にしない、よ?」
「お姉ちゃん? サナ達に影響されてる?」
「そ、そんなことは?」
微妙に疑いの目を向ける美桜さんと、つつっと目を逸らす咲綾さん。
そんな彼女達を余所に、淫魔っ子たちは売店でお風呂上がりの牛乳を購入する。
サナちゃんは牛乳瓶に頬ずりしそうな勢いでテンションを上げていた。
「ふふ、動画でしっかり学びました。お風呂上りは瓶入り牛乳、飲むときは腰に手を当てて、です」
「実はサナちゃん、和風な旅館をかなり楽しみにしてた?」
「はいっ」
めっちゃ笑顔だ。
浴衣に着替えたロリっ娘三人は、横並びになって牛乳瓶を手にごくごくぷはーしていた。
「コーヒー牛乳おいしいです」
「さーちゃんは分かってない。コーヒー牛乳よりフルーツ牛乳の方がおいしい」
「甘いですね、ひーちゃん。フルーツ牛乳よりあまあまです。統計的にはコーヒー牛乳派の方が多いんですよ」
「どっちもおいしいからどっちでもいいのでわ? なのじゃ」
何故か風呂上りに何を飲むべきか論争にまで発展しかけたけど、咲綾さんの「ここ、お風呂上りの無料アイスのサービスあるよ」の一言でみんな走り出す。
てこてこ駆け抜ける堕淫魔術の使い手、大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。
一緒になって走る夢魔ラエティティア・ソムニウム。
二柱が速度を抑えているので何とかついてく蟲魔ヒラルス・ラールア。
それを眺める退魔の名跡・四季家の巫女姉妹。
「ねえ、もしかして今ドッキリ企画とかやってる?」
「気持ちは分かるけど全然やってません」
美桜さんは若干現実逃避をしていた。
その後は軽く卓球やゲームをしてから夕食。海の幸メインの豪華な料理に舌鼓を打つ。
サナちゃん達はこういった食事は初めてだし、特に和食の生魚系を好むらっちゃんは大喜びだった。
「やっぱりお刺身なのじゃ。鯛ー、まぐろー、大根ー」
らっちゃんのナカではツマの細切り大根は刺身に分類されるようだ。
サナちゃんは一人用の小鍋が気に入ったみたい。そんな中、「これきらい……」と漬物を咲綾さんに押し付けるひーちゃん。「はいはい」と笑顔で受け入れる咲綾さんは、甘やかしすぎだと思います。僕が断れるとは言ってない。
「んーっ、おいしいっ! 海の近くの魚はやっぱりなんか違う気がする!」
美桜さんも海鮮をしっかり堪能している。
実際この旅館の料理はおいしい。僕のお気に入りは小鉢のアジの南蛮漬け。程よい酸味が実に食欲をそそる。
「こういう騒がしいのもいいね」
「咲綾さんのところは神社だし、もっと静かな感じ?」
「うん、厳しい訳じゃないけど、なんとなく食卓は静かかな」
「お父さんもお母さんも、ごはん中のテレビ反対派だしねー。淫魔と旅行とか知られたら卒倒しそう」
けらけらと美桜さんは笑ってるけど、わりと問題があるのは間違いない。
「真面目な話、お家にバレたら美桜さん達って処断?」
「ま、たぶん罰はあるんだろうけど、微妙?」
美桜さんの答えはあいまいだった。
代わりに咲綾さんが軽く説明をしてくれる
「うーん。そもそも退魔協会は公的機関じゃないから、淫魔はともかく“外法術師だから”を理由に裁く権限はないの」
咲綾さん曰く、この前の教祖も別に退魔協会で殺害されたわけではないそうだ。
代わりに略取・誘拐罪とか不同意性交等罪、詐欺罪諸々の合わせ技で実刑判決。魔力や霊力を封じる処置もあるそうで、力を失ったまま普通の犯罪者として余生を過ごすことになる。
つまり外法術師が魔術で犯罪をやらかしても、裁きは法に照らし合わせて下される。
外法術師だからより、淫魔の力でどれだけの悪行をなしたかで判断される、って感じかな。
「直人くんが犯罪をして、それに協力していたら退魔巫女でも処罰対象。関与の度合いで罪の重さも変わる、かな」
「意外と理性的な組織なんだ……」
もっと淫魔殺! 外法術師殺! 裏切りの退魔巫女殺! ぐらいのバーバリアン協会かと。
僕が戸惑っていると、美桜さんが肩を竦めた。
「そこは夏雅城会長がわりと正義の人だからね。甥っ子はさいってーなボンボンだったけど。まぁバレたら立場的にマズいはマズいから、変なことしないでよ?」
「わ、分かった。気を付ける」
美桜さんの念押しに深く頷いて答える。
でも咲綾さんがぽそりと呟いた。
「……黒衣の外法術師、既にとんでもない悪人になってるよ?」
「うげっ、そうだった。薫せんせぇ……」
退魔協会では、僕は赤き天上の宝珠などを使い、街一つを丸ごと使って謎の儀式をしようと画策していることになってるらしいです。
頭を悩ませていると、サナちゃんがお鍋の牛肉を食べながら微笑む。
「まあまあ。幸い魔力回収は安定してきていますし、大きな騒ぎを起こすこともないでしょう。このまま“ふぇーどあうと”していけば問題ありません」
「サキュティちゃんねる、好調だからね」
「次の更新は私の“うたってみた”です!」
最初は乗り気でなかったけど、意外と楽しんでくれているようで嬉しい。
動画配信+淫魔っ子の細々とした吸収のおかげで魔力収支はここのところギリとはいえ黒字続き。
あとは他の退魔巫女に見つからないようひっそり暮らせばいいだけなのだ。
※ ※ ※
深夜。ふと僕は目を覚ました。
窓の外を見ればくっきりと夜に映える月。青白く染まる室内には、ぐっすり眠るロリサキュバス。これぞ日本の風情というモノだろう。……そうか? 本当にそうなのかな?
「あれ、サナちゃん……?」
寝息をたてているのはひーちゃんと、らっちゃんだけ。
サナちゃんの姿がない。
散歩にでも出かけたのだろうか。少し気になった僕は、二人を起こさないように布団から抜け出した。
暗がりの廊下を歩き、フロントへ。外に出ると、潮騒の声が耳をくすぐった。
旅館の前の通りからは海が一望できる。
寄せて返す波に月の光が乱反射して、星空に負けないくらいに輝く。潮風が頬を撫ぜる感覚も相まって、月夜の海はどこか非現実なものと感じられる。
だから、それを眺める少女もまた、非現実的なくらい美しかった。
サナちゃんの……大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィスの赤い瞳が遠い月を映し出す。
潮風になびく銀の髪をそっとかき上げる仕種に、僕は一瞬見惚れてしまった。
まるで切り取られた絵画のような静謐さ。
けれど声をかけるのを躊躇わなかった。
青白い月の光に照らされた彼女の横顔は、寂しさではなく静かな笑みを滲ませていたからだ。
「あ、ナオトくんもお散歩ですか?」
まあ僕が声をかけるより早くサナちゃんの方が気付いたのだけども。
基本的に恰好のつかない僕です。
「うん。サナちゃんも?」
「海も月もキレイで、このまま寝てしまうのがもったいなくて」
「はは、ちょっと分かる」
「これが
「それは分からないし違います」
冗談を言いながらも優しい表情で、また海に映る月を見つめる。
僕も並んで夜の景色を眺めていると、不意にサナちゃんが口を開いた。
「封印されていた時は、時々音が聞こえるくらいだったんですよね」
「え?」
「ずーっと意識があるわけじゃなくて、ふと目が覚めると壺にムリヤリ入れられて蓋も閉められて。暗いし狭いし身じろぎできないみたいな感じです。でも時々音だけは聞こえる。けっこう怖かったですね」
「僕のお祖父ちゃんがごめんなさい」
「いえいえー」
おどけて返してくれるけど、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
きっと、すごく辛かったろうに、孫である僕を責めないのはサナちゃんの優しさだ。
「夜の海は、暗くて深くて、ちょっとあの頃を思い出します。なのに、長く触れなかったからでしょうか。潮の香りも、触れる風の心地良さも。月の光の綺麗さも、前よりも鮮やかに感じるんです」
久しぶりの感覚だから、何もかもが新鮮なのだという。
でも、それは少し違うんじゃないかな、とも思う。
「もちろん久しぶりだからってのもあると思う。でもさ、きっと楽しいから、じゃないかなぁ……なんて」
サナちゃんは虚を突かれたような顔をした。
「楽しい、から?」
「うん。僕もさ、今回の旅行すごい楽しかったから。やっぱり感じ方が変わるよ」
「そう、かもしれません。夜の海をこんなにも綺麗だと思えるのは……きっと、今の私が満たされているからですね」
堕淫魔術で吸収した快楽のエナジーではない。
皆で遊んではしゃぎまわって、そうしないと得られない活力だってきっとある。
いや、僕もあんまり友達いないので偉そうに語れる立場ではないんですが。
「ナオトくん。もうちょっと、海を見ていたいです。お付き合いお願いできますか?」
「うん。飽きるまで見て、それでも足りなかったら来年また来ようね」
「あ……来、年。そう。ふふ、そうですよね、また来年に」
何気ない言葉に何故かサナちゃんは強く反応し、喜びに満ちた笑みを見せてくれた。
僕たちはいつの間にか会話を忘れて、静かな月を眺める。
言葉はなくても重苦しさは感じない。夜に溶けるような、穏やかな時間を過ごした。
※ ※ ※
こうして僕たちの一泊二日の旅行は終わった。
午前中はちょっと海で遊んだけど、昼過ぎには旅館を出た。美桜さんも咲綾さんも満足してくれたようで、帰りの電車は盛り上がりだ。
「あー、楽しかったぁ」
「戻ったらまたお役目だね」
「分かってるけど今は考えない方向で」
マジメな咲綾さんの言葉を美桜さんはさらっと流す。
オンオフがはっきりしていて、遊ぶ時はガッツリ遊ぶタイプらしい。
「というかさ、ララ。その荷物はなに?」
「貝殻なのじゃ。思い出のおみやげを部屋に飾るの」
「ごめん、そうでなく。その量、なに?」
にっこーと眩しい笑顔のらっちゃんである。
友達との海旅行がたいそうお気に召したようで、彼女はおみやげに貝殻をしこたま拾ってきた。具体的に言うと15リットルのビニール袋がパンパンになるくらいに。
……あれ? もしかしてあの量が僕たちの部屋に飾られるの?
「私が魔力を付与してビニールが破れないようにしています」
「なので途中で袋が破れてどちゃぁ! って貝殻が散らばることはないのじゃ」
「ここまで無駄な淫魔の力の使い道なくない? ……あれ、人間の精気を吸うよりは有用? だめだ、分かんなくなってきた……」
退魔巫女としての知識と目の前の現実の板挟みに美桜さんは苦悩してらっしゃる。
話に参加しないひーちゃんの方を見ると、疲れたのかうつらうつらしていた。
「大丈夫、ひーちゃん?」
「ん……ねむい」
「着いたら起こすから、寝てていいよ」
すると僕の方に寄りかかり、すぐに寝息をたて始める。
こう見ると本当に子供みたいでなんだか微笑ましい。
「ん、ああ。な、なんだか私も、眠くなってきたなー……」
どうやら咲綾さんも少し眠くなってきたようで、頭がふらふらし始めた。
けれどそれを見る美桜さんはとても冷たい目だった。
「ねえ、駄姉ちゃん。露骨にアピールしに行くの止めない?」
「駄姉ちゃん!?」
「もしくは堕姉ちゃん」
「なにか発音はいっしょなのにいかがわしい響きになってない……?」
うん、姉妹が仲良くなってよかったなぁ。
僕は心からそう思った。
「旅行、楽しかったですね」
サナちゃんが微笑む。
昨夜の神秘的な雰囲気は鳴りを潜めて、今は無邪気ないつもの彼女だ。
「本当に。僕ももう少しいたいくらい」
「おっきいお風呂、名残惜しいです……。戻ったら、時々銭湯にいきましょう」
「海よりそっちかぁ。いいね、スーパー銭湯だってなかなか楽しいよ」
「興味ありますね。皆でまた行きたいです」
僕にとって夏休みは単なる学校行事に過ぎなかった。
何なら小学校の頃なんて、家にいる時間が長くなるから嫌いでさえあった。
でもこの夏は、例年とは比べ物にならないくらい楽しい。
サナちゃんとの出会いが紡いでくれた縁のおかげだと素直に思う。
旅行から帰れば、もう夏休みもあとわずか。
少し寂しいとは感じるけれど、落ち込むほどでもない。だって、これからも一緒にいるのだ。次の機会だって得られるだろう。
「ん、どうしたの? 直人くん」
「ううん。咲綾さんも、楽しんでくれたかなって」
「もちろんだよ。こんなに楽しいの、初めてってくらいに」
不意に咲綾さんを見てしまった。
一緒にいられると思って何もしなかった結果、離れてしまった女の子だ。
来年、また来年というけれど。何もせずに縁を維持できるような美味い話はきっとない。
本当は、当たり前のように傍にいたいなら、当たり前のような努力が必要なのだ。
「美桜さんも咲綾さんも、また時間ができそうな時は教えてもらっていい? なにか企画たてたいからさ」
「おっけ。こういうのなら、いくらでも」
「私も、またどこかに行きたいな」
だから、願望ではなく現実的な案として口にする。
その意味が少しは伝わったのか、サナちゃんが優しい微笑みを浮かべる。
この夏を特別なものにはしたくないから、できることをしたいと思うのだ。