ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
文化祭の企画として、只野くんは巫女喫茶を提案した。
メイド喫茶よろしく巫女姿の店員が接客をするお店なんだろう。
あんなきわどいレオタードを着た女子高生が出てくるとか色んな規則に引っかかりそうでかなりマズい。
「ナオトくんナオトくん。たぶんですけど退魔巫女の装束で想像してません?」
手乗りサナちゃんのツッコミに僕は気付かされる。
そう言えば巫女装束って、赤い袴のアレの方がスタンダードだっけ。美桜さんや咲綾さんのレオタに慣れ過ぎて感覚がズレてたや。
……あれ? 普通の巫女装束でも文化祭でやるにはいかがわしくない?
案の定、クラスの女子から不満が出るわ出るわ。
「只野、おめーふざけんなっての。女子に巫女のカッコさせたいだけやろ」
「これだから男子はさぁ」
正確に言えば咲綾さんに、なんだろうけどね。
思った以上に周りから文句を言われ、友達であるはずの近藤くんからも特にフォローはなかった。
「巫女はともかく、和装での和カフェ、くらいならできるかもしれません」
荒れそうになったところで実行委員の登則さんが形を変えて黒板に記す。
和カフェという表現になると途端に健全そうに聞こえるから不思議だ。
「定番のお化け屋敷だろここは!」
「展示の方が楽にならね?」
「……牛丼屋とかいいんじゃねえかな。高級牛丼、すげえぞ」
「どうせなら売り上げ出せて打ち上げ資金稼げる方がいいよ」
「巫女はともかくカフェは悪くないね」
「メイド喫茶とか?」
最初に馬鹿な意見が出たおかけで、「あれよりはマシだろ」と次々手が上がる。
喫茶店という方向性自体は皆それほど嫌じゃなかったようで、それに沿う形で話は進んでいく。
「では、うちのクラスの出し物は和カフェに決定となりました」
いつの間にやらメイン司会が登則さんになってはる。
意外とスムーズに決まった理由は「着物くらいならいいんじゃね?」と女子の上位陣が納得して頷いたこと。
もう一つは、浮動票な生徒がそこに流れたこと。着物でも十分嬉しいようで、そわそわしている男子がちらほらいた。
僕? ちらほら側ですがなにか?
「なぁ、佐間。和カフェの食べ物って、どんな感じでやればいいと思う?」
近藤くんが食べ物関係ならと僕に話を振った。
キモブタに仕事押し付けりゃいいやのマインドならともかく、普通に聞かれるならちゃんと答える。
「え、えと、その。長くなるけど、いい?」
普段クラスの皆の前で発言する機会がないから、声がちょっと裏返ってしまった。
周りに失笑されたけど気にしない。一度咳払いして、佐間直人からキモブタに意識を切り替える。
「まじめな話、どういう形態でするかによる。文化祭という場でカフェを行うのなら、基本的には火を使わない方向で行くべき。だから電気ポットや電気ケトルを用意して、飲み物はインスタントコーヒーや抹茶の粉末。お菓子はカステラや羊羹、どら焼き。あとは白玉ぜんざいならレンジで温めるか、IHによる加熱で提供できるかな。既製品を出すにしても手作りするにしても、仕入れ先はだいたい業務スーパーで済む。値段は手作りの方がかさむんじゃないかな」
近藤くんが「お、おう」と微妙な反応をしていた。
でも続けます。
「文化祭って言うことを考えたら、多少高くついても地元の商店街や駅前のお店に協力を頼んで宣伝代わりにお菓子を出す、っていう形もありだと思う。地元と協力して作り上げた企画は、教師側の受けもよさそう。ただ、うちの文化祭は外からの来場者も認めているよね? 大福や団子は子供が喉を詰まらせる可能性もあるし極力排除するべき。さっき白玉ぜんざいを上げたのは、張り付かないから。手作りするならお豆腐を混ぜて噛み切りやすくする方法もあるよ。決めるべきは既製品か手作りか。業務スーパーか商店街との協力か。予算との兼ね合いもあるけど、この辺りは明確にしないといけない。あ、焼きそばみたいな軽食メニューを出すならホットプレートを早めに確保したいね。これなら火は使ってないって言い訳できるし、たこ焼きも焼ける機能もあるよ。それからもう一つ」
「ま、まだあるのか?」
「うん。うちには茶道部があるでしょ? 他のクラスと被るのは仕方ないけど、茶道部が似たコンセプトでカフェを行うかは確認を取っておきたい。後で拗れても嫌だしね。もしも向こうも和カフェ的なのを行うのなら、抹茶はラテにしたり着物も洋風アレンジをして被らないように早めに煮詰め直す……のが、いいんではないかと、はは、は」
しまった、調子に乗り過ぎた。
出る杭は打たれるもの。またキモブタアンチが騒ぎ出すのではないか。
い、いや、まだやれることはある。
「衣装は可愛らしいのを準備できたら、SNS映えするので。そっちにも予算を割きたいよね。学校のお金で、コスプレできるって考えたら、すごくお得なんじゃ、な、ないかなぁ」
「へー、いいじゃん。キモブタくん」
それに反応したのは
彼女はクラスカースト上位の、派手な女子のリーダー格の子。わりとSNSに自撮りとか乗せてる系なので、自己顕示欲を満たせそうな案を提供したら食いついてくれた。
「衣装関係、うちらが担当すんよ。ね」
「分かった。まだ予算が出てない状況なので、めちゃくちゃな買い方すんなよ?」
「バイトしてるし、それくらい分かってるっての」
近藤くんが軽く折原さんに注意するも、そこからの流れは女子側がメインになる。
いい具合に逸れたので僕としては一安心だ。
けれど登則さんがメガネをくいっとした。
「では、佐間くんは実行委員のアドバイザーということで」
「あ、はい」
なんかなし崩しでそういうことになりました。
※ ※ ※
その後、文化祭実行委員の全体会議で僕たちの和カフェの企画は通った。
何度目かのLHRで進行具合の確認を行う。茶道部には登則さんが確認を取ってくれたそうだ。
「あちらは茶道体験で内容は被らないみたいです」
「それならよかった」
「佐野君の助言は、動画作りの経験からですか?」
「まあ、そんな感じ。僕の場合、地元の紹介を兼ねているから、特に根回しは考えているよ」
「へぇー」
妙に感心してくれてちょっと照れてしまう。
和カフェでは、改造着物の従業員がコーヒーや抹茶、ラテを提供する。
お菓子は主に業務スーパーの既製品だが、一部は商店街の和菓子店と交渉して商品を並べさせていただく。
負担がない程度に教師へのアピールを、というのが登則さんの考えらしい。
アドバイザーと言っても休み時間に話は終わるので、拘束時間はそれほど長くない。
近藤くんも登則さんもそこら辺はちゃんと考えてくれていた。
「女子たちが暴走しないように、もう金額の分配は終わらせたよ」
「その方がいいですよね。幸い折原さんはその辺りも考えているので問題はないと思いますが」
女子上位陣が協力的になったはいいが、衣装に金をかけ過ぎそうな空気が漂っている。
その辺りは折原さんの手腕に期待だ。
「ご、ごめん。僕のせい、だよね」
「いや、どっちにしろだよ、折原たちの場合」
近藤くんが溜息を吐く。
ともかく文化祭に向けてクラスは動いている。
まだ一か月期間はあるとはいえ、やることは結構多いのだ。
僕の役割としては菓子類の仕入れ、和菓子店との交渉。顔的に店員は無理なので当日の裏方だ。
折原さんらが衣装類、他は店内の装飾とか、調理器具の調達諸々。
咲綾さんは大方の予想通り、改造着物のウェイトレスさんに確定した。
「私は、店員さんだって」
ぎこちなく笑うのは、男子の意見に押し切られたところがあるからだろう。
「おぉ、咲綾さんならぴったりだよ」
「そう、かな? 微妙に緊張するなぁ。私バイトしたことないから」
退魔巫女業が忙しかったろうしそこは仕方ない。
でもあくまで文化祭。「お祭りの延長と思って楽しめばいいよ」と伝えれば、くすりと微笑んでくれた。
※ ※ ※
そうして早、半月が経った。
僕は菓子類の仕入れと地元商店との交渉を早々に終わらせたのだが、他でちょっと進行の遅れが見えてきた。
店内の装飾等、あまり意欲がなく適当に割り振られてしまった生徒達の担当している部分が今一つうまくいってないのだ。
実行委員の近藤くん達が調整をかけてはいるものの、やる気を出せと言われて出るものでもなく、手の空いた生徒がフォローに入っているのが現状だった。
「美桜のクラスは何をするの?」
「展示。何かよく分からないけど、ルーブ・ゴールドバーグ・マシン、だっけ……?」
お昼休みは、春乃宮姉妹・相沢くん・僕の四人での昼食だ。
もう別のクラスの美桜さんがいることに何の違和感も持たれないくらいこの組み合わせが日常になっている。
「なんじゃそりゃ」と相沢くんが疑問顔だったから、僕はシンプルに「ピタ〇ラ装置のことだよ」と補足しておく。
たぶん幾つもの仕掛けが連動して動く装置を幾つも作って、それを見せるんだろう。
費用があまりかからないし案外面白そうだ。
「ああ、ドミノが倒れてビー玉が転がってのやつか。面倒そうだな」
「ドミノは極力使わない方向だけどね。一回成功で終わりー、じゃ展示として成り立たないから何度も使い回せる装置を作ってんの。そのせいで余計に難度上がっちゃってさぁ」
ただ連動装置を作るのではなく制限ありか。それは確かに難しそうだ。
「そっちは何やるの?」
「和カフェだよ」
咲綾さんが答えると、「料理上手のお姉ちゃんだもんね」と妙な納得の仕方をしていた。
「ううん、私は店員をするんだ」
「そうなの? んー、まあそっちでも人気は出そう。直人と相沢は?」
「俺もウェイター役だ」
「僕は、裏方でお茶の準備です」
それらの情報を総合した美桜さんは小さく頷く。
言葉にしなかったけど「イケメンと美少女を表に立たせたんだ」的なこと考えてるのが手を取るように分かった。
「でも僕らのクラス、準備が今一つ進んでなくて」
「あー、実は私らも。図面引いてそれの通りやってるのにビー玉が転がらなかったりするのよね」
まあ、連動装置は頭も使うし大変だろう。
「はぁ、どっかで居残りしないとダメそう」
「俺らんとこもだよ。ケツに火が付かねえと動かねえ奴らがいるからな」
面倒くさそうに吐き捨てる相沢くんを見て、美桜さんが肩を竦める。
「どこも事情は似たようなもんね」
「美桜さんところも?」
「いるいる、できる人に丸投げしてサボるのが。お互い大変ね。ま、頑張りましょ」
ぽん、と僕の胸を手の甲で軽く叩く。
こういう気軽なボディタッチは、美桜さんの癖なんだろう。
「美桜さんも頑張ってね、当日展示観に行くよ」
「おっけ、待ってる。私も和カフェいくからさ、サービスしてよね」
悪戯っぽい笑顔。
そういう仕種も可愛らしく決まるものだから、二割引くらいならいっかぁと思わされてしまった。
僕、超弱いです。
※ ※ ※
忙しくも楽しい準備期間。
しかし十月が近付き、近藤くんが皆の前で頭を下げた。
「すまん、準備が思ったより進んでない。特に内装関係が。悪いけど、居残って手伝ってくれないか」
「お願いします」
本来は内装担当の怠慢。
でも実行委員である以上自分たちにも責任があると近藤くんと登則さんは言う。
中には不満を口にする生徒もいたが、大方はその願いを受け入れた。「学校に残ってなんかするの楽しそうじゃん」みたいなノリもあったようだ。
その代表格が女子リーダーの折原さんで「コンビニでメシ買ってきて、皆で居残り作業しよーぜ!」とこの状況を楽しむ気満々だった。
「飯はキモブタが買ってこいや。なんかうめぇやつ」
そう言ったのは相沢くん。
パシリに使おうというより、キモブタアンチ勢が僕に体よく作業を押し付ける前に逃がそうという感じだ。
「わ、わかったよ」
「じゃあ、私も荷物持ち手伝うよ」
咲綾さんがすぐに反応し、僕は買い出し班となった。
なら俺も、と数人の男子が反応するのを「あ?」の不機嫌相沢フェイスで黙らせる。
食料を買い込み、皆で騒ぎつつ、文化祭の準備。
ここまでは、楽しい青春の一ページ的なサムシングだった。
※ ※ ※
けれど、サボるやつはどこにでもいる。
クラスの一部は適当に理由をつけて教室を出て、ぐだぐだ時間を潰していた。
「あー、めんど」
「なに真面目にやってんだか。バカみたいだよな」
別の階に移って、愚痴をこぼしながら缶ジュースで一服。
あまり時間をかけると疑われるが、その生徒達はすぐに動く気にはなれなかった。
それでもやはり戻らない訳には行けない、憂鬱そうに男子の一人が腰を上げると、廊下の端に光る何かを見つける。
硬貨、か?
しかし近付いて拾い上げてみれば、お金ではなかった。
紫色の、小さな結晶のようなもの。見た目はアメジストが近かった。
奇妙な輝きを放つそれは、男子の手の中でいきなりパキンッと割れ、そのまま霧状になって消え去った。
「うわっ、なんだこれっ!?」
そこでなにかが変わった。