ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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堕淫魔術の訓練をしよう

 

 

 帰宅した僕たちは神妙な面持ちで向かい合う。

 お互いの懸念は、当然ながら退魔巫女を名乗った少女たちだ。

 

「ええと、サナちゃん。あの二人って」

「私は元々、欧州で活動していた淫魔です。向こうにはエクソシスト、シスターなどの魔祓いがいます。同じように、日本にも古来より、退魔巫女と呼ばれる者たちがいます。また、徒党を組み、退魔協会なる組織を作っているとも」

「そっ、かぁ。ちっちゃい子、中学生くらいなのに」

「霊力の量は一般的に女性の方が多く、加齢で衰えます。だから歴戦の男性退魔師より、若い退魔巫女の方が出力では勝る、というのはままあるんです。もっとも、年をとれば老獪にもなります。私を封印したのもお爺ちゃん退魔師ですよ」

 

 パワーがあれば強いとは限らないって話だ。

 だとしても、同じ街に退魔巫女がいる。しかも一人は同じ高校。サナちゃんとの生活に暗雲が立ち込めたような気がする。

 ……いけない、二人について考えていたせいで巫女レオタード姿を思い出してしまった。

 なんであんなに肌色部分が多いのさ。

 

「でも、一つ良いこともありました。目の前にいた私が淫魔だと、一切気付いていません。しかも戦闘をして、鋭敏になっている状況でも」

「あ。じゃあ隠蔽と認識阻害を維持すれば正体はバレない……?」

「です。疑ってかかって入念に探れば分かりませんが、普段通り過ごすなら安全、ということです」

 

 なるほど、それは確かにいいことだ。

 

「じゃあ手乗りサナちゃんは?」

「分体もその手の魔術は使えます。問題は、ナオトくんですね。契約者の方から看破される可能性は否めません。だから、対策が必要になります」

 

 サナちゃんはにっこり笑顔で僕の手を取る。

 

「淫魔との契約は魂の繋がり。両者の間には霊的な(えにし)があり、ナオトくんは身体強化や自己治癒力の向上だけでなく、淫魔の力の一端……私の堕淫魔術を行使できるようになります。そこは、前に説明しましたね」

「う、うん」

「この能力は、女の子を発情させたり、気持ちよくさせたりする、シンプルに快楽で墜とすためのものです。それ以外にも隠蔽や認識阻害、嘘を暴く魔術などもあります。ただし、“使える”と“使いこなせる”は同じ意味ではありません。特に退魔巫女の感知をすり抜けるなら、堕淫魔術のランクアップは必須です」

 

 だから、と真剣に僕の目を見る。

 

「堕淫魔術の訓練をしましょう。今夜中に、隠蔽と認識阻害を完璧にマスターするんです」

 

 優しい表情なのに握りしめる力が強い。

 これ絶対逃がさない気だ。でも、その二つのスキルが必要なのは間違いない。

 

「わ、分かった。やるよ、僕だってサナちゃんがあの子達に退治されるの嫌だから」

「ありがとうございます、ナオトくん」

「それで訓練って……どんなことをすればいいの?」

 

 ……返ってきた答えは、筆舌しがたいモノでありました。

 あまりに僕が情けなさ過ぎて詳細を説明できないほどに。

 サナちゃんの訓練に翻弄され「もうやめてくださいお願いします」と涙目で懇願するレベル。それでも彼女は「ダメですよー♡」と手を止めない。

 最終的に甲高い悲鳴を上げてぐったりと倒れ込んでしまう始末。

 まあ無事に習得は出来たんだけど、僕はダメな男だと認識させられただけのような気もします。

 

 

 

 *

 

 

 

 サーナーティオは佐間直人に感謝している。

 身近にいる退魔巫女。確かに厄介だが、直人にとっては大きな問題ではない。

 なにせ簡単な解決法がある。

 もうカラダは治ったのだから、契約を切ってサーナーティオを追い出せばそれで終わり。

 大淫魔とはいえ弱体化している。退魔巫女に対抗する術がないのだから、この街から逃げるしかない。

 だというのに、一番楽な方法を選ばず彼女を守るために苦難を買って出て、努力をしてくれる。

 お人好しだが、契約したのは間違いなかったと思わせてくれた。

 

「……うん、すこーし、嫌な気分じゃなくなりました」

 

 淫魔でありながら男性との過度の接触を好まないサーナーティオだが、多少ながら直人に気を許した。

 なお、佐間直人は葛藤の上でサーナーティオを受け入れた訳ではなく、単に追い出すなんてことを最初から考えてもいなかっただけである。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 翌日、若干寝不足ながらも僕は登校した。

 傍には手乗りサナちゃんもいる。

 隠蔽も認識阻害も、解かない限りは追加の魔力消費はないらしい。

 代わりに魔力を使った戦闘をしたら自然に途切れてしまうし、違和感を持って感知に専心されたら高レベルの術師なら看破できる可能性はごく僅かなら無きにしも非ず、くらい。

 つまり余計なことをしなければ正体は隠せる。

 なので僕たちの基本は「目立たずひっそり教室の片隅にいよう」。

 もともと教室の端っこにいる陰キャのキモブタにはぴったりだ。

 そう思っていたのに、お昼休み。うちの教室に昨日のツインテール退魔巫女さんがやってきた。

 

「美桜?」

「あ、お姉ちゃん。」

 

 反応したのは春乃宮さん。

 って、お姉ちゃん? そう言えば小学生の頃、「さあやちゃん」に妹がいるって聞いたことがあったような。

 

「どうしたの、何か用?」

「ううん。お姉ちゃんにじゃなくて」

 

 教室を見回していた退魔巫女さんは、僕を見つけると大きく手を振った。

 

「あ、いた。おーい、お昼一緒に食べない?」

 

 ちょっと勝気そうなスレンダー美少女が、デブサイクを食事に誘う。

 何事かと、教室がにわかに騒がしくなる。

 春乃宮さんも目を見開き口もぱくぱく、驚きと困惑が混じり合ったような表情をしていた。

 

「み、みおう。なん、なんで」

「ちょっと縁があって」

 

 人差し指でくいっと「おいでおいで」される。

 クラスメイトから注視されているし、いたたまれなくなった僕は小さくなりながらも彼女のもとに向かう。

 

「あ、はは。さ、昨夜はありがとう」

「そんなに恐縮しないで良いって。妹さんは、平気だった?」

「妹って言うか、親戚の子で。そりゃあもう、感謝してます。ただね、あの子、人見知りで。ちゃんとお礼言えなくってごめんなさい」

「そう言えば、あんたにべったり張り付いてたっけ」

 

 ええ、天敵の退魔巫女が目の前にいましたもんで。

 なんて言えるわけもなく、ぎこちなく笑うのが精いっぱいだった。

 

「てことでさ、いっしょにご飯ね。お弁当ある?」

「あ、いや、僕はいつも、学食か外か購買なんで」

「じゃあ購買でいいよね」

 

 スパッと決めた彼女に僕は慌てながらもついて行く。

 背中に突き刺さる視線が超痛かった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 空き教室に鍵をかけて、僕たちは購買で買ったパンを食べる。

 僕はメンチカツパンとメロンパンとトマトサンドとあんパン・カレーパン・クリームパンと野菜ジュースを購入した。

 退魔巫女さんはサンドイッチとカフェオレ。量少ないけど大丈夫かな。

 

「いつも買ったもの?」

「あー、僕一人暮らしだから。今は親戚の子もいるけど。お弁当はそんなに作らないんだ」

「あ、そうなんだ。……ごめん、ヤなこと聞いた?」

「両親がいないとかでなく、進学を機に、なだけです。いや、うちは毒親気味なんで逃げ出す意味合いはありましたが」

「そっかぁ、大変なんだね」

 

 食べながら少し話してはいたけど、食事がひと段落を突いてから退魔巫女さんは居ずまいを直す。

 

「改めて、自己紹介しておくね。春乃宮美桜(はるのみや・みおう)。この街の、桜がある神社分かる? あそこの娘で、退魔巫女」

「ご、ご丁寧に。僕は佐間直人、です。ええと、春乃宮ってもしかして」

「うん。そっちのクラスの、春乃宮咲綾の双子の妹。二卵性だからあんまり似てないけど」

 

 やっぱり姉妹だったのか。

 小学校の頃はさあやちゃんの家に行ったことがなかったから、話には聞いていたけど、実際に顔を合わせたことはなかった。

 

「後になってさ、佐間が同じ学校だって気付いたの。なら下手に隠しても意味ないし、もうある程度話しておこうかなって」

「そうなんだ、ありがとう、わざわざ」

「ううん、盛大にばらす気はないけど、事情知ってる人が一人くらいいるとこっちも楽だしね」

 

 軽い感じで手をひらひら。

 この感じなら答えてもらえるかな、と僕はおずおずと聞いてみる。

 

「あのー、ですね。お姉さんも、退魔巫女だったり、する?」

「うん、そうだよ。春乃宮は元々退魔の家系だから」

「そっか、全然知らなかったや」

 

 昔言ってた「お家のお手伝い」ってこれのことなんだろうな。

 教えてもらえなかった、とは考えない。こういうのは基本隠すのが普通だ。

 ただ小学生の頃から退魔巫女修業的なのをしていたってことだから、大変だったんだなとは思う。

 

「普段は、お姉ちゃんと一緒にお役目してる」

「あれ。じゃあ、もう一人の子は?」

「あ、せんせ? 昨日はさ、お姉ちゃんが夏雅城んとこから帰ってなかったから、せんせに手伝ってもらっただけ」

 

 えぇ……そっちの方がダメージくるぅ。

 あの時間まで夏雅城パイセンのところにいたのかぁ。

 

「春乃宮さんも凄いけど、あの子もすごいよね。まだ中学生くらい?」

「やっぱり勘違いしてた。確かに中学だけど、せんせは先生側だからね」

「え?」

「だから、中学校教師、兼退魔巫女。椎名薫(しいな・かおる)、二十六歳」

「にじゅうろく!?」

 

 うっそでしょ!?

 どう見ても小学生寄りの中学生なのに。

 

「子供扱いされるの嫌がるから、気を付けておいてね」

「は、はい。前情報感謝です……」

 

 人体の神秘……いや、霊力の効果?

 なんか極めたら老化とかも抑えられるのかもしれない。

 

「まず、せんせは別の市で働いてる。そっちから逃げた上級淫魔が、この街に入り込んでさ。それで、追ってきたせんせと私で任務に当たった。昨日の夜、親玉は倒せたけど、配下を何匹か取り逃したの」

 

 そこで春乃宮さんは僕に正対し、深く頭を下げた。

 

「だから、ごめん。昨日の淫魔は、私たちの討ち漏らし。速やかに倒せていれば佐間たちは危険な目に合わなかった」

 

 ああ、正体を明かしたのはこういうことか。

 退魔巫女としてのスジを通し、謝罪するための。

 可愛らしい女の子なのにわりと古風。というか、きっちりした性格なのだろう。

 

「いや、でも、淫魔自体は別に普通に……普通にって言ったら変だけど、いるんだよね? で、退魔巫女は、僕たちが知らないうちに、そういうのを討伐してくれてる」

「そりゃあね」

「だったら、タイミングの問題でしかなくて。やっぱり感謝しかないよ」

 

 僕も深く頭を下げる。

 

「ありがとう、春乃宮さん。いつも僕たちを助けてくれて」

 

 お礼を言うなら昨夜のことじゃなくて、これまで人知れず平穏を守ってくれたこと。

 お互いにぺこぺこする変な恰好になってしまった。

 頭を上げて、顔を合わせて、恥ずかしくなって僕たちは笑う。妙にくすぐったい感覚だった。

 

「と、ところでさ。淫魔って、人間に危害を加えるヤツばっかりなの? なにか、心穏やかで優しく、人間側に立ってるのとかは」

「んー、下級淫魔は本能で性行為をしようとするから、まあほぼ獣かな。ただ、上級淫魔には知性があって、趣味嗜好があるから、そもそも人間を襲わないヤツがいないでもない、って感じ。だから一応退魔巫女の敵は“人に危害を加えようとする淫魔・外法術師”になってるよ」

 

 だから、喋れない淫魔を見たらそいつはものすごい危険だと思ってほしい。

 春乃宮さんはそう注意してくれたけど、僕にとって重要なのは「淫魔であることより、その力でどれだけの罪を犯したかが問題」という点だ。

 よっしゃっ!

 もしバレてもサナちゃんならお目こぼしを受けられる可能性がある!

 

「って、外法術師?」

「退魔巫女みたく力を持ってるけど、それで淫魔のえっちな術を使ったりするやつ。ヤバいのになると、淫魔と魂を繋げる契約をして能力を貰った奴までいる」

 

 あ、それ僕ですね。

 退魔巫女視点だと、僕って淫魔と契約をしたヤバい奴だったみたい。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その夜のこと。

 春乃宮美桜は、佐間直人との会話を思い出していた。

 人知れず淫魔を討つのが退魔巫女。しかし、ああやって感謝されるのは悪くない。

 機嫌よく鼻歌を歌っていると、姉である咲綾が部屋を訪ねてきた。

 

「美桜、お父さんがお堂にって」

「はーい、分かった」

 

 姉とは仲が悪い訳ではないが、少し苦手意識がある。

 マジメで落ち着いた咲綾と、わりとノリを重視する美桜では微妙に噛み合わなかった。

 ただ、昨夜は退魔協会の会長である夏雅城幸太郎(こうたろう)のところに一人で報告に行ってくれた。そういうのを率先してやってくれるのは感謝している。

 それはそれとして、姉のオトコの趣味が最悪。会長の甥っ子である俊哉という顔だけのオレサマの婚約者に自ら名乗り出たというのだから、正直信じられない。

 

「なお……佐間くんと、知り合いだったの?」

 

 咲綾がこちらの反応を窺うように聞いて来る。

 

「まあね、ちょっとした縁で」

「太ってる人、嫌いじゃなかった?」

「そこは別に変ってないよ。ブサイクとワキガは許せるけど、病気とかの事情アリ以外のデブは怠慢の証だから、あんまり好きじゃない。でも佐間は、なかなかやる男だよ、うん」

 

 なにせ四体の淫魔を相手に妹を庇い、「食うなら僕の方がうまい」と言ってのけたのだ。

 力はなくてもああいう根性はけっこう気に入っている。

 

「ふぅん」

 

 意味ありげに咲綾は部屋を出る。

 なんだったんだろう。疑問に思いながらも、美桜は共に神社のお堂にむかった。

 そこで父は、顔をしかめて重々しく告げる。

 

「二人とも、退魔協会から指令が届いた」

 

 淫魔を滅する退魔師によって構成された『退魔協会』。

 その中核には、俗に言う四季家の存在があった。

 

 春乃宮・夏雅城・秋英寺・冬護院。

 

 それぞれが古くから続く退魔の家系であり、春乃宮はこれまでも有能な退魔巫女を輩出してきた。

 美桜も協会に所属する、“十年に一人の逸材”と呼ばれ、将来を嘱望される退魔巫女である。

 同年代で彼女を超える巫女はほとんどいないだろう。

 

「今回は、この地域に強大な淫魔が紛れ込んだらしい。調査を頼みたい、とのことだ」

「えぇ、また淫魔? あいつらホント懲りないなぁ」

 

 昨夜も椎名薫と上級淫魔を葬ったばかりだ。

 美桜は思わずぼやいてしまう。

 

「ていうか、調査なの? 倒せーじゃなくて?」

「指令としては、この街に侵入したと予測されるため、痕跡を探す程度に留め情報をよこせ、となっている。以前から退魔協会で追っていた、“五大淫魔”に数えられる厄介な敵らしい。万全を期したいのだろう」

「ふーん、じゃあお姉ちゃんは気をつけないとねー?」

 

 けらけらと笑う美桜に、父も賛同する。

 

「そうだな。夏雅城の長男との婚約のこともある」

「うん……」

「すまんな。断り切れなくて」

「大丈夫だよ、お父さん。これも、必要なことだって分かってるから」

 

 昔は同格だった四季家も今は違う。

 退魔協会という組織を運営するにあたって、表の事業でも成功した夏雅城と冬護院は莫大な資金を提供している。そもそも現退魔協会・会長は夏雅城の人間だ。その影響力は計り知れない。

 

 ただし夏雅城の場合は、退魔としての力は代を経るごとに低下している。

 そこで能力のある退魔巫女を嫁に迎え、子を産ませようと考えた。

 選ばれたのが咲綾だった。

 退魔の家柄として、血を繋いでいくことも重要な役割だ。

 三年の夏雅城俊哉との婚約の申し出があった時、咲綾は自ら名乗り出たそうだ。

 ほんと、趣味の悪い話である。美桜は普通に俊哉が嫌いだった。

 

「でさ、お父さん。その淫魔ってどんなのなん?」

「淫蟲で構成された醜悪な淫魔だそうだ。最近の行方不明の女性が増えていることにも、なんらかの関与をしている可能性がある」

 

 姉妹の表情が固くなる。

 

「調査対象は五大淫魔が一柱……蟲魔ヒラルス・ラールアという」

 

 

 

 

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