ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
「き、キモブタ、くん?」
肥満体に庇われたことが信じられないのか、折原さんがきょとんしている。
その間にも触手は蠢く。
一本を叩き落としても、更に触手が一本、二本、三本、四本五本六本数えるのも馬鹿らしい。
醜悪な怪物を目にした折原さんと近藤くんが、そのおぞましさに各々叫んだ。
「いやああっ!?」
「ば、ばけもんだっ!?」
完全にパニック状態だ。
鞭のようにしなる触手が襲い掛かる。
「だっ、しゃぁっ!」
ファットチャージ。
魔力強化のぶちかましでそれをはじき返すけど、たわんだだけで
「ナオトくん。今の魔力なら電流での遠距離攻撃も、ふちょっ祖みたいに魔力弾を連続で放つことも可能でしょう。ですが」
分かってる。
相沢くんだけなら口止めは出来るだろうけど、近藤くんや折原さん。あと彼氏さんはどうか分からない。だから美桜さんも炎の巫術を使わなかった。
なので僕も肉弾戦の得意な学生スモウレスラーぶって触手に対応しなくてはならない。
だけど折原さんがまだ動いてない。
触手は執拗に彼女を狙う。美人だから? それともおっぱい大きいから?
なんにせよ伸びるそれを寸前で止める。
「え、あ、え」
「ふんがっ!」
硬い触手を力づくで引き千切る。
でも数が多い。
もう自分から触手に突っ込んで両手で掴んで脇で挟んで踏みつけて、とにかく動きを止める。
「キモブタっ!」
「ご、ごめん、相沢くん! 折原さんら連れて逃げて!」
「なにを」
「はやくっ!」
もう教室が近い。後は逃げ込むだけ。
何か言いたそうだったけど、それでも相沢くんは舌打ちしながらも従ってくれた。
ああ、なら、もう大丈夫だ。
遠慮なくやれる。
「いくよ、新必殺ぅ……」
電流の魔術を掌に集中。夏雅城パイセンの時のスタンガンもどきよりもさらに威力を高める。
殴るでも叩きつけるでもなく、電撃を帯びた掌で“掴む”。
予備動作ナシの超近距離からでも効果を発揮する攻撃魔術だ。
「パラライズ・パウ!」
日本語訳、麻痺する前足。
パウは犬とか猫の前足を意味する言葉。ブタにも適応されるかは分かりません。
振動で脳を揺さぶるピッグスラップとは別タイプの属性。電流を掌に限定しているから制御はしやすいが、シンプルなダメージではこっちの方が上だ。掴むだけで触手を焦がし、握りつぶせてしまう。
「本当は全身から電流を発するぐらいの勢いでやりたかったんだけどなぁ。魔力節約は大事です」
「堕淫魔術の訓練も、あんまり出来ていませんしねぇ。こうなる前に治癒魔術くらいは習得すべきだったかもです。堕淫魔術の基礎ですし」
「サキュバスの術なのに治癒が基礎なの? 回復系ってどっちかというと神聖魔法なイメージなんだけど」
「淫魔にとっては傷を治すのも痛みを和らげるのも基本スキルなんです。ほらだって、えっちの時は状況によっては痛かったり血が出たりも」
「おっけー、それ以上はやめてもろて?」
初体験でも痛みなく快感を得るためってことなのね。
見た目ロリっ娘なのに話題が明け透けすぎる。
手乗りサナちゃんと軽口を叩きながらも、触手の相手をしていく。
パラライズパウなら一掴みで触手を落とせる。それに、僕は一人じゃない。
「巫術、
美桜さんが手をかざせば、幾つものツララが放たれる。着弾すれば、触手は一気に凍り付いた。
こちらまで涼しく感じるくらいの冷気。威力は言うまでもないだろう。
「み、美桜さん、炎以外もすごいね」
「薫せんせの真似だけどねー」
習ったんじゃなくて見て覚えただけっぽい。
僕もパイセンの霊力運用を真似したけど、そんなレベルじゃないよこれ。
最後のあがきとばかりに触手は同時に襲い掛かってくる。
「直人、ちょっと怯ませて」
「おっけー。ファットチャージ、だっしゃおらぁ!」
僕はそれを迎え撃ち、全力でとっし。
ぶち当たったもの、避けたもの。対応は色々あるが、触手は散開し廊下にぶわっと広がった。
「イイ感じ。巫術、
それを包み込むように、広範囲を炎が覆う。
威力は多分、巫術・焔華の方が上。でも、MAP兵器みたく触手をまとめて葬り去った。
最後の触手が消し炭になり、ようやく辺りは静かになった。
もう死骸も残っておらず、追撃も来ない。
「倒、した……?」と僕が呟くと、手乗りサナちゃんが首を横に振る。
「いえ。あれは触魔ブラキウム・インヴィディアの枝葉、本体は傷も負ってません」
「そっか」
「まあでも、淫魔の主もけっこうやるし、これなら何とかなりそうじゃない?」
美桜さんが軽い調子でそう言うと、手乗りサナちゃんは真剣な表情で諫める。
「いいえ、美桜さん。ブラキウムもまた五大淫魔に数えられる存在。その力は尋常ではありません」
確かに、五大淫魔というなら相応の力があるのだろう。
らっちゃんの時を考えたら、ちょっと怖くなる。
「サナちゃん。相手の能力とか、聞いてもいい?」
「大丈夫ですよ。触魔ブラキウムは私たちとは違い、触手型モンスターで、言葉も喋れず知能も低い。ただし、無軌道に女性を襲う危険性とその強さから五大淫魔に数えられました」
「この閉じ込め結界も、ブラキウムの仕業なんだよね?」
「はい。ただし、結界自体は苗床をつくるタイプの上級種が当たり前のように備えた性質に過ぎません」
そこで一呼吸間をおいて、手乗りサナちゃんは告げる。
「ブラキウムの根幹たる能力は<適応繁殖>。シンプルに言えば、弱点を突く力です。これに関しては、美桜さんや咲綾さんこそしっかり注意してもらわないといけません」
弱点を突く。
戦闘に特化した淫魔ということだろうか。
美桜さんも今一つ理解できず小首を傾げている。
「退魔巫女の弱点を見抜ける、観察眼とか看破の上位系能力、ってこと?」
「あ、いえ、“戦闘”ではなくですね。ブラキウムはすっごく淫魔な淫魔なんです。ほら、よくあるじゃないですか。女の子の弱いところを突かれてー、みたいな」
美桜さんはピンと来なかったみたいだけど、僕はエロ漫画的な発想で気付いてしまった。
「<適応繁殖>は、ひーちゃんの<淫蟲創造>と同系統の、魔力で触手を繁殖させる力です。形状はブラシ型とか触手服型とか、搾乳機型にベッド型や椅子型とそれはもう多種多様。媚薬で無理矢理感じさせて“ああん、イッちゃうぅ♡”なんてレベルじゃありません。女の子の
「思ったより最悪の能力なんですけど!?」
美桜さんの叫びも仕方ない。
つまり、その女の子にとって最も
ぶっちゃけ色んなところで問題を引き起こす完璧にアウトな淫魔である。
「五大淫魔ヤバい……。ララも相当ヤバいけど退魔巫女からしたらこっちの方がヤバイ……。下手に捕まったら……ダメ、想像したくない……」
思い切り冷や汗を垂らしている。
触魔ブラキウムは本気で退魔巫女の天敵だった。まあぶっちゃけるとサナちゃんだって堕淫魔術でオホ声フェスティバルとかやっちゃえるんだけど。
あの時は夏雅城パイセンだったからよかったけど、アレを女の子相手にやったらそれはもう大変な状況です。
いやパイセンだからいいって理由もないな。
「○○を×ったり△△したり、密着して×△をまとめて○○する。○○○○○を×△×まくって□□みした上に×穴××△□。最高に相性のいいオーダーメイド触手。各々の弱点に合わせた変化こそが<適応繁殖>の真骨頂です」
「やめて! それ以上はもうやめて!?」
ド直球のエロ話をぶつけてくるサナちゃん。
顔を真っ赤する美桜さんは既にけっこうなダメージを受けている。
「だ、大丈夫とは言えないけど。ほら、僕近接タイプだし。前に出るのは僕だから、ね?」
「うぅ……あんがと。直人、めっちゃいいヤツ……」
なんか制服の裾をきゅっって掴まれた。
普段の強気な一面とは別の顔にドキドキ……とか言ってる場合じゃないや。これ美桜さんちょっとマジで目が潤んでるよ。
正直かわいかったです。
※ ※ ※
春乃宮咲綾のクラスにおける立ち位置は決して高くない。
長い黒髪と抜群のスタイルを持ち性格も穏やか美少女なので人気はある。しかし社交能力に難があるため、折原潤のように中心的な人物というわけではなかった。
「春乃宮さん、すみません。私だと、うまくまとめられなくて」
「う、ううん。しかたないよ」
実行委員の登則恵子は、メガネをかけた三つ編みの女の子だ。
マジメな優等生の彼女は、外見の華やかさとは裏腹に地味な性格の咲綾からすると、とても接しやすい。
しかし今は申し訳なさそうに肩を落としている。
直人たちといっしょに相沢や折原が教室を出ると、作業をサボっていた男子達は途端に威勢がよくなった。
やれ「相沢なんかワンパンだ」だの「キモブタが調子にやりやがって」だの周りに聞こえるように文句を言い続けている。
「あいつら本当にタチ悪いよな……。それに、佐間も春乃宮さんを放って好き勝手してさ。なんかあったら、俺を頼ってくれていいからな」
時々、只野栄吉が話しかけてくるのもちょっと困る。
問題は意識の統一ができていないことだ。
閉じ込められているだけで朝にはどうにかなると考えている者、危険があるのではと警戒する者。中には実行委員のせいでこうなったと苛立つ者も。
曲がりなりにもクラスがまとまっていたのは、相沢竜太の外見が怖く、ケンカも強いからでしかない。
彼がいないとすぐにバラバラ。咲綾や登則では強いリーダーシップを発揮できず、教室の雰囲気はかなり悪くなっている。
しばらく沈黙は続いた。しかし、けたたましい音を立てて相沢たちが戻ってきた。
教室に入った途端に折原が苦い顔をする。
「触手の化け物が出た……。やばいよ、ここ」
普段、クラスの女子のリーダーみたいな立ち位置である折原潤の真剣な表情。
生徒達は理解できないながらも、異常事態だと察したようだ。
折原は何度か深呼吸して息を整えてから改めて説明をする。
「マジで。うねうね動く触手が、廊下にいて。あたしらを、襲ってきた」
こんな冗談を言うタイプでもないだけに真実では、という空気になる。
しかし例のサボリ男子達が微かに震えた声で問う。
「じょ、冗談言うなよ。それがほんとなら、折原さんらが無事なのおかしいだろ」
「……キモブタくんが、あたしを庇って」
折原たちは俯き、それ以上言葉を続けられなかった。
その中で、相沢は咲綾の前に来て、勢いよく頭を下げた。
「すまねえ、春乃宮姉。俺は、お前の妹を、幼馴染を。置いて逃げちまった」
「あ、いえ、う、うん」
「ちく、しょう……」
肩を震わせ、心底悔しそうに声を絞り出す。
外見は怖いけど相沢くんいい人だなぁ。
ただ、美桜と直人がおり、加えて手乗りサナちゃんというアドバイザーがいるのに並みの淫魔相手に後れを取るとは思えない。咲綾はあまり心配していなかった。
っていうか、遅れて手乗りサナちゃんが教室にやってきた。咲綾にだけ見えるよう認識阻害を調整しているらしく、他は誰も反応していない。
「あ、咲綾さん。こちら淫魔に襲われましたけど無事撃退しましたよー。ナオトくんたちもすぐに戻ってきます」
「俺は、情けねえ、ダチや女の壁にもなってやれねえなんて……!」
そのせいでThe・コント。
悔恨の表情で呻く相沢と、そのすぐ近くでふよふよ浮いてる手乗りサナちゃん。
すごく苦しんでるしみんな無事だよって言ってあげたいけど、知っていたらおかしい情報なのでどうしようもない。
「あれ、りゅーちゃんがすごく苦しそう……? ナオトくんが皆を連れて逃げてって言って、それを守っただけなのに……?」
何故かりゅーちゃん呼び。
そんなユルイ空気には気付かず、近藤も折原も完全に仲間を見捨てて生き残ってしまったみたいなテンションで悔やんでいる。
「くそ、ほんとは、俺がああやらないと、いけなかったのに」
「キモブタくん。美桜さんも、なんで……」
教室に重苦しい空気が満ち過ぎて、軽い咲綾だけ浮かび上がりそうな時、がらりと教室の引き戸が開いた。
「も、戻りました。ごはんいっぱい持ってきたよ」
「た、ただいまー」
直人と美桜が戻ってきたのだ。
悲嘆にくれていた相沢たちは、普通に生きて帰った直人を見てあんぐりと大口を開けていた。
咲綾からすれば、淫魔の主(笑)と十年に一人の天才退魔巫女だ。心配なんてまったくしていない。
ただし、呆けたように口を開けてしまったのは彼女も同じだった。
「え。……え?」
美桜は、なぜか迷子の子供のように直人の制服の裾を掴んだ状態だった。
それどころか、わりとぴったりと寄り添っていた。
※ ※ ※
「キモブタ妹ぉ!?」
「はっ、はい! ごめんなさいっ!?」
「いや、合わさって私が直人の妹みたいになってるから」
僕が教室に戻ると、なぜかいきなり相沢くんに怒鳴られた。
咄嗟に謝っちゃったけど、彼はがっしり僕の肩を掴んで項垂れている。
「二人とも、よく、無事でいてくれた……。すまねえ、俺は、お前らを見捨てた」
「まずこっちが逃げろって言ったのに……。相沢、義理堅すぎない?」
「だ、だよね……?」
なにこのテンション。
って思ったけど、そうか。相沢くん的には「ここは俺に任せて先に行け」をかました仲間キャラが何食わぬ顔で戻ってきた、くらいの感覚なのかも。
よく考えればあんな触手の群れに突っ込んでいったら普通死ぬよね。
謎の外法術師活動が馴染み過ぎてそういう常識を忘れていた。
「キモブタくぅんっ!」
「うっ、わわっ!?」
さらに追加の突進。
何故か折原さんが泣きそうな顔で僕にしがみついてくる。
僕みたいな学内評価低空飛行民とは、ほぼほぼ縁のない煌びやか女子がなにゆえ?
「ばかやろぉ。あたしを、庇って、あんな無茶して……」
どうしよう、それは本気で記憶がない。
え、庇ったっけ?
「おい、ジュン。離れろよ」
「でもさ、あたしのせいで」
「そりゃ、そうだけどよ。ちゃんとさ、咲綾の妹さんにも気遣ってやれよ」
「あ……」
彼氏くん、折原さんを引き剥がしてくれてありがとう。
でも今の発言、どう考えても「佐間直人に他の女が抱き着いたら春乃宮美桜が気にするだろ」という意味にしか聞こえませんでしたが?
「そ、だね。美桜さんも、キモブタくんも、ごめん」
「そういう謝り方されても困るんだけど、私」
「でもキモブタくんの服ずっと掴んでるじゃん」
「う、それは」
単にブラキウムに対する警戒の性です。じゃなかった、せいです。
「悪いな、キモブタ。じゃない、佐間。あと助かった」
「あ、いえ」
軽くとは言え彼氏くんに感謝されてしまった。
折原さんに近付く男は警戒してるけど、美桜さんが傍にいるせいでこいつは大丈夫枠に入れられたのかもしれない。
「なんと言いましょう。化物っぽいのはいたけど、美桜さんといっしょに必死で暴れたら逃げてった感じで、そこまで大仰に感謝されても困っちゃう、なぁ。は、はは……」
「そうそう。ま、運が良かった、って感じかな?」
とりあえずそう言うことにしておく。
お前ら素手で触手を引き千切ってたやんけ、とか余計なツッコミはしないでと心の中でお願いしておく。
近藤くんや折原さんはメッチャ感動して「春乃宮さん、すげえ優しい……」「なんて献身的な……!」みたいなノリだし、現場を見てない人はなにがなんだか分からないしで、状況がグチャグチャです。
そんな時、咲綾さんが一歩前に出る。
「それで、美桜はなんで直人くんに引っ付いてるの?」
「え? ……あっ!?」
ウッソでしょ? 美桜さん、途中から忘れてたの?
咲綾さん、すごいじとーっとした目で見てる。そのせいでクラスから何やら不穏な声が上がる。
『そう言えば、前に佐間くんの悪い噂の時、妹さん思いっ切り春乃宮さんをビンタしてたよね』
『あれ、マジで佐間くん巡った三角関係?』
『俺は椎名薫先生が学内一の美女だと思ってる』
『意外なのかそうでもないのか……』
『今ならキモブタを嫉妬だけで角煮に出来そう』
などなど、非情に肩身の狭い想いでした。
※ ※ ※
「触魔ブラキウム……危険すぎるね」
「でしょ? それでちょーっと、メンタルがゆらゆらだったからつい直人の近くにいただけでね?」
「美桜がそこまで気を許す時点で、ちょっとの話じゃないけど……そういうことを言ってる状況じゃないのは分かった。ごめんね、美桜」
「お姉ちゃんがお役目にマジメでよかったって心から思う」
教室の隅っこで手乗りサナちゃんの説明を受けた後、春乃宮姉妹はヒソヒソ話。その全容は教えてもらえなかったけど、とりあえず咲綾さんの納得は得られたようだ。
教室には結界が張られているし、なんだかんだで安全なスペースが確保できた。
折原さんや近藤くんも触手が逃げたというのを飲み込んでくれて、僕や美桜さんの立ち回りについては吹聴していない。
一応、あんまり騒がれるのが嫌だから色々内緒にしてください、とお願いして一安心。
……のはずだったのに、教室がどうも落ち着かない。
折原さんの発言でクラスメイトは化物の存在をある程度は信じるようになった。
が、それによってパニックホラーよろしく、触手の徘徊する校舎からの脱出というミッションが追加されてしまったのだ。
「化け物って嘘だろ?」
「いたとしてもキモブタ風情が足止めできたんなら弱いんじゃねえか? 俺らなら普通に倒せるかも」
ただ、折原さんが過度に僕への感謝を示したせいで、キモブタアンチ勢に火が付いた。
対抗心から勇気を示そうとする男子がけっこういる。
「あのさぁ、あれほんとにヤバいから。私たちは運良く逃げられただけ。はっきり言うけど、死んでてもおかしくなかったんだから」
そういう人たちに、ちょくちょく苦言を呈するのが美桜さんだ。
同じく足止めをした立場で、妙な暴走をしないようにちゃんと気を遣ってくれている。
そんな彼女を、登則さんがじっと見ている。
「手作り弁当の件もあるしお姉さんと“いい仲”なのかと思えば、妹さんの方もかなり親しいですね。なるほどなるほど」
ぽつりと呟くメガネっ娘な登則さん。
余計なこと言わんでもろて? 全然そういうのではないから。
あと近藤くんが僕のことをじっと見ていた。なにゆえ?
※ ※ ※
「とにかくさ。校舎内には触手の化け物がいる。これは、本当なんだ」
気を取り直して、近藤くんが皆の前で自分の見たすべてを重々しく伝える。
「だから皆、できる限り迂闊な行動はとらないでくれ。なにするにも、一人で行くのはナシだ」
折原さんや美桜さんも補足するように触手の脅威を語った。
怯えている生徒もいるけど舐めて下手を打つよりそのくらいの方がいい。
相変わらず一部、というかサボリくん達は不満そう。それでも余計なことを言わないだけまだマシかも。
「どうするんですか? 扉はどこも開かなくて、化け物がいて。こんなの……」
怯えた登則さんが自分の腕をぎゅっと抑える。
震えそうになるのを精一杯堪えているんだろう。
「やっぱりさ、朝になるまで待つべきなんじゃないかなぁ」
「だよな、朝になったら化物が動かなくなるのは定番だし」
百地・只野コンビの発言に「確かに……」と同調する人がちらほら。
「ゆっても、この教室に触手が来ないとは限らなくない?」
折原さんがそう言うと、また教室に暗い雰囲気が漂う。
でも妹さんが軽い調子で返した。
「それを言ったらどこにいても同じでしょ。なら無理に夜通し調査するよりは、ここで休む方がいいんじゃない?」
「だよな。俺もそう思う」
近藤くんがすぐさま同意する。
まあ退魔巫女二人+結界だから、ここより安全な場所は校内にはない。
「籠城なら、キモブタの食い意地が功を奏したな」
「まあ、そこは確かに。佐間のおかげで飲み物と食べ物は確保できたわけだし」
相沢くんの皮肉に合わせて近藤くんが軽く笑う。
その後も一つ二つ意見は出たが、今夜は教室で待機することに決定した。
基本の方針としては、ローテーションで番をしつつ朝まで休む。明るくなってから改めて行動を開始だ。
夜の方が淫魔は活発なものだし、退魔巫女的にも賛同の様子。
まあ布団とかないから雑魚寝なのがアレだけど。
「直人くん。寝ずの番の時三人がいっしょになるよう調整してもらって、その間に調査に出よう?」
「分かった、それでいこうか」
まあ僕らはみんなが眠ってるうちに動きましょう、の方針だ。
そのためにも先に仮眠をさせてもらえるよう近藤くんにお願いした。
「キモブタくーん、アタシの隣で寝ていいよー」
「ウチもウチも」
女子グループからあんまり嬉しくないお誘い。いざという時の盾案件です。
「はい、直人はこっちねー」
「うんうん」
なお美桜さんと咲綾さんが僕の腕を取って引っ張られる。
あれ、どうしよう。なんか流れで姉妹サンド仮眠することになったんですが。
※ ※ ※
多分疲れていたんだろう。姉妹に挟まれた状態でも僕はすぐ眠りに落ちる。
触魔ブラキウム・インヴィディア。
恐ろしい触手の化け物と敵対しなくてはいけない。
果たして、無事に脱出できるのか、不安は尽きなかった。
「おー、キモブタさん。大丈夫なのかや?」
それはそれとして、当たり前のようにらっちゃんが夢に現れました。
「……ねえ、これさ。めちゃくちゃ意識はっきりしてるけど、夢の中だよね? 僕、ちゃんと寝てるよね?」
「うむ! 魂霊契約は魂の繋がり。なら、ひーの夢からキモブタさんの夢に出るのも容易い。妾の<夢幻世界>は、どんな結界でも阻むことはできぬ! ささ、眠ってる間に色々情報共有しちゃうのじゃ」
えぇ……五大淫魔最恐ってば無法すぎない?