ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

53 / 76
MVP:手乗りサナちゃん

 

 

 美桜さんと手乗りサナちゃんは教室で待機してくれている。

 サナちゃん本体とはまだ合流できていない。

 咲綾さんと二人きり、廊下でいるタイミングで襲われた!

 さあ、どうする?

 

 

 →A.二人で協力して倒すんだ!

 B.みんなが心配だ! 咲綾さんここはお願い、僕は教室に戻るよ!

 

 

 まあ、ここはAだよね。

 僕と咲綾さんは背中合わせになって触手を警戒する。

 ここが森や洞窟ならアレだけど、学校の廊下は狭い。自然と触手の行動が制限されるから、戦闘経験の浅い僕でも十分対処ができる。

 僕の使える堕淫魔術はまず基本の隠蔽。

あとは振動、電流、感度向上、嘘を見抜く真実、くらいか。

 ピッグスラップは振動を、パラライズパウは電流を併用した張り手。

ファットチャージや魔力弾は、魔力そのものの操作技術。

 一応電撃による遠距離攻撃もできるんだけど練度が足りてない感じだ。 

 ただ、魔力の節約を考えるとどうしても近接寄りになってしまう。

 

「ふんがっ!」

 

 パラライズパウで触手を掴むと同時に肉を焦がし、そのまま力づくに引き千切る。

 スタイリッシュとは言い難いけど、着実に触手を撃退していく。

 

「はっ」

 

 対して咲綾さんは刀で一閃、短い掛け声と共に触手を切断する。

 こういうタイプが相手だと、退魔巫女な彼女の方に一日の長がある。もうレベル的には五日六日はあるんじゃないかな。

 うねうねとする触手を霊力の宿った刃が捉える。すぱーんと斬る度に大きく後ろに退いていた。

 

「触手の体液は媚薬であることが多いの。返り血を浴びないのも大事だよ」

「なるほど、プロ退魔巫女ならでは、だね」

 

 電撃の魔術を放ちながら軽く言葉を交わす。

 瞬間、床をしゅるりと這い、咲綾さんの足を絡めとろうとする触手が。

 

「ふんっ!」

 

 それを、熱の魔術を込めた足の裏で踏みつぶす。

 あ、これはいい感じ。ちょうど上から焼きゴテを押し付けるような形になる。

 踏んで動きを止めちゃうから痺れ効果も必要ないし、シンプルにダメージが大きい方がいい。

 熱の踏み付け。ヒートスタンプなんてどうだろう。

 日本語訳、高熱の四股。なんか僕、外法のスモウレスラーになってきたな。

 

「にしても、僕でも簡単に倒せる辺り、この触手そこまで強くないね?」

「直人くんは十分実力者だよ。ただ、五大淫魔というわりには、ヒラルスの淫蟲と比べると」

 

 全体的にパゥワー不足。

 ただ、数だけは多い。

 群がってくる触手。ぬめついた表皮といい特有のうねり具合といい、海洋生物と爬虫類を合わせてより醜悪にしたような、嫌な不気味さがある。

 もうどれくらい倒したか、気付くと触手の群れに微妙な変化があった。

 これまでのシンプル触手とは違う個体が混じっていた。

 

「……うわぁ」 

 

 咲綾さんが思いっ切り嫌そうな顔をしている。

 なんだろう、さきっぽが羽根みたいになった奴が多いような? バラエティで見る、腋とかをこちょちょくすぐる用の。

 あと小さな口と舌みたいな……ん?

 サナちゃん曰く、触魔ブラキウムは相手の弱点を看破し、最適な責めを行える形に適応する……ダメだ! これ以上考えちゃいけない! 主に年齢制限的な意味で!

 

「ぐぉらぁっ!?」

「直人くん!?」

 

 速攻で羽根触手と口触手を片付ける。

 あともう描写したらそれだけでアウトな触手もいたので、パラライズパウで引き千切る。

 

「ダメだよ、無茶な突進をしたら!」

「ご、ごめん、咲綾さん。つい……」

 

 咲綾さんは僕の援護をしつつ刀を振るって、太いのを切り落とす。

 けれどさらに押し寄せる触手。 そのタイミングで稲光が走った。

 

「お待たせしました」

 

 サナちゃんだ。

 電撃の魔術。やっぱり本家本元だ。すごく、洗練されてる感じがする。

 

「ここからは私も」

 

 サキュバススタイルのサナちゃんは、魔力を爪に集中して軽く周囲を引っ掻いた。

 簡単に触手が切断される。刀並みの切れ味があるらしい。

 

「あれ、柔らかいですね? 触魔は五大淫魔の中でも、硬度に優れた存在の筈なんですが」

「サーナーティオ、今は」

「そうでした。早めに片付けちゃいましょう」

 

 サナちゃんは怪訝な顔をしていたが、協力して全ての触手を討つ。

 咲綾さんの純正統派な剣術に対して、サナちゃんは縦横無尽なフリースタイル。流麗な刀と踊るように軽やかな爪撃。まったく違うけど、二人とも強い。

 

「さすがだね」

「いえいえー、咲綾さんこそその若さでお見事です」

 

 触手を葬りながら笑い合う余裕まである。

 僕だって、負けない。この触手たち相手に少しでも戦闘経験を積む。

 魔力弾や電撃の魔術の狙いの付け方、ファットチャージの隙のない運用法。実力を高めるのではなく、無駄をなくして精度を上げるんだ。

 

「はい、オシマイでーす」

 

 最後の一本をサナちゃんが切り刻む。

 戦果的には咲綾さん、サナちゃん、僕の順番です。張り手だとこういうタイプの敵は難しい。後続はなく、廊下はまた静けさを取り戻した。

 

「はぁ、よかった……」

「片付きましたね。でも……やっぱり、手応えがないというか」

 

 サナちゃんは腕を組んで悩んでいる。

 紫の水晶は魔力の塊で、それを餌に触魔をここに呼び込んだ。わりに、弱い。

 溶けるように消えていく死骸を見ながら僕も思う。確かに、なんか根本的なところを見逃しているような気がする。

 

「なにか、触魔ブラキウムも全力を発揮できない状況にあるのかもしれませんね」

「例えば?」と咲綾さんが聞く。

「私と同じ状況。シンプルな魔力不足でしょうか」

 

 ああ、その可能性はあるか。

 だからこそ、僕たちを捕らえて魔力を調達しようとしている。

 それを聞いた咲綾さんは、視線を鋭く変えた。 

 

「なら、チャンスではあるね」

「……一応、私は同族への情くらいはあるんですよね」

 

 対して、困ったような顔をしたのがサナちゃんだ。

 この子からしたら同じ五大淫魔。僕たちとは違う親しみもあるだろう。

 それが分かるから、僕は少しだけ妥協案を出した。

 

「まあ、一度“ゲンコツ”して、説得ができるなら……でどうかな?」

「ありがとうございます、ナオトくん」

 

 まず最優先は僕たちの脱出。

 それが叶うのなら、条件次第で見逃せる場合も出てくるかもしれない。

 ひゃはー! 人間なんて餌だぜぇ! みたいなら問題だけど、変な話サナちゃんが情を向けるならそこまでヤバいのじゃないと思うんだよね。

 

「ところで、初めて戦ってるところ見たけどサナちゃんって強いよね」

「当然です。直接戦闘能力なら五大淫魔トップクラスですよ、私。魔力が戻ればですけど」

 

えっへんと胸を張るサナちゃん。

これでも本調子じゃないんだからとんでもない。

ちっちゃくてかわいくて頼もしい。略してサナちゃんだ。

 

「ここからはどうするの?」

 

 咲綾さんの質問に、僕は<淫蟲創造>で応える。

 ちょっとビクってされた。

 

「この子達で校舎を探索して、怪しい場所に向かおうと思うんだ」

「そ、そっか。外見が完全に敵だからちょっと驚いちゃった。……この言い方は、ダメだね。ヒラルスが傷付く」

「だね」

 

 自分で反省して咲綾さんは頭を下げる。

 僕はそれを受け取って、改めて触魔本体を探し始める。目玉羽虫索敵にも慣れたもの。一階から順に、隅々まで探していく。

 するとしばらくして、サナちゃんが声を上げた。 

 

「ナオトくん、ちょっとよくないことになりました」 

「どうしたの?」

「分体の方。美桜さんの方にも、触手が現れました。しかも、結界内にです」

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 春乃宮美桜は直人の椅子を借りて、教室の様子を見守る。

 

「やっぱり私が行くべきだったかなぁ」

 

 退魔巫女としての能力の高さを理由に教室の守りを任されたが、直人と連携して探索の方が良かったかもしれない。

 なお実行委員の登則恵子に今の呟きを聞かれ「やっぱり……」みたいな目をされたがスルーしておく。

 なんにせよ、今の自分の役目は教室に残る生徒を守ること。

 

 ……なのだが、教室の雰囲気がどうにも良くない。

 待つだけという状況に不安そうな生徒、逆に苛立ちを見せる生徒など反応はそれぞれ。中には明確に悪態をつく者もいる。

 

「おっせえな」

「キモブタなんかに任せるからだっての」

 

 先程からぐちぐち文句を言っているのは、文化祭の準備をサボっていた奴ららしい。

 ふつーにヤなヤツ。

 

「お前らいい加減にしろよ……!」

 

 今までの積み重ねもあるのだろう。

 実行委員の近藤の頭が完全に沸騰している。喧嘩になりそうな勢いだったが、相沢が呆れたように溜息を吐き立ち上がる。

 また一喝しようというのだろう。

 

「ったくよぉ」

「相沢ってさ、面倒見いいよね。たぶん、あいつらぐちぐち言ってるだけで実際に行動する度胸ないよ?」

「わりと辛辣だな、春乃宮妹」

「今までは病気以外のデブはイヤ、だったけど。口だけで動かないのがもっとイヤだわ」

「気付くの遅えよ」

 

 デブでもやる奴いるだろうが、とでも言わんばかりの挑発的な笑み。

 美桜は本気で相沢が不良やってる意味が分からなかった。

 

「おい、近藤。もう、別行動とらねえか? こいつらの面倒は見切れねえわ」

 

 相沢が乱雑に言葉をぶつける。

 態度の悪い男子たちを鋭く見据え、血が冷えそうなくらいに静かな声を突き付けた。 

 

「気に入らねえならとっとと消えろ。キモブタより強いお前らは、バケモンでも倒せんだろ。俺の視界の外で好き勝手やれや」

「っ! ビビッて逃げたくせに……! だいたい化け物なんてどこまで本当なんだか」

「あぁ!?」

 

 淫魔を知らない者には、触手の化け物なんて現実感がないのだろう。

 どんどんヒートアップする彼らに、折原が茶々を入れる。

 

「別行動ならあたしは、キモブタくん派でよろー」

「あ、ウチもウチもー。文句ばっかのヤツよりカラダ張るヤツっしょ。美桜さんもそうやんね?」

 

 女子グループもそれに乗って、せせら笑う。

 聞かれたし、美桜も普通に答えてしまう。 

 

「え? そりゃもちろん」

 

 なんだかんだ見目麗しい少女だ。

 美桜の返答が癪に障ったのか、サボリ男子達は無理矢理話を終わらせた。

 

「こんなこと、やってられるか!」

「どこ行くんだよ!」

「俺らは俺らで出る方法探すんだよ! 分かってもお前らには教えねえけどな!」

 

 サボリ組は癇癪を起して、本当に教室を出ようとする。

 彼らは今まで特に行動を起こしてない上に、佐間が助かったことから、触手の脅威を軽んじている。

 たぶん別の教室を根城にするつもりなのだろう。

 さすがにそれは認められない。

 

「ちょっと待って! だから危ないって!」

 

 この部屋には淫魔が近付けないよう結界を張っている。

 どうにか引き留めようとするも、何を勘違いしたのか、にたりと口を歪めた。

 

「なんだよ、じゃあ春乃宮もこっちに来ないか? 姉さんといっしょに」

「そうそう。こんな頼りにならない奴ら放っておいてさ」

「ああもう、そんな話してるんじゃない!」

 

 美桜は怒るが、中には男子達に同調している者もいた。

 朝まで待てば、という話だったのに夜が終わらない。近藤達の判断が間違っているのでは、と疑いが差し込んでしまったせいだ。

 

「なあ、行こうぜ」

「はぁ。どうしてこう、男子は」

 

 彼らは気安くカラダに触ろうと、手を伸ばしてくる。

 容姿に優れた美桜だけに、こういうタイプは今まで何度も遭遇してきた。軽く躱し、位置を入れ替えて、邪魔するように扉の前に立つ。

 

「正直、あんたらみたいなのは、あんまり好きじゃない。だからって、ひどい目に合ってもいい、なんて思わない。だから今は……」

 

 今は、ここにいて。

 そう願うよりも前に、状況は一変する。

 じゅるり。粘ついた音が聞こえた。

 

「っ!?」

 

 美桜はすぐに臨戦態勢を取り、音の方に向き直る。

 瞬間、教室の中央に複数の触手が現れた。

大規模な巫術を使うには周囲に人が多すぎる。

 だが彼女は内側・外側、どちらも扱える天才。うねる触手を躱し、霊力をまとわせた手刀で触手を容易く切り裂く。

 しかも、ほんの一瞬だけ炎を行使し、体液を焼き尽くす。

 

「くそがっ!」

 

 触手の強襲に激昂し、相沢が椅子で近くの触手を殴りつけていた。

 醜悪な化物を前にしても恐れないのは素直に評価する。ただし、霊力のない攻撃は淫魔には効かない。

 あれでは怒らせるだけ。彼に狙いが変わる前にすぐさま処理していく。

 

「み、みなさん、逃げましょう!」

 

 もう一人の実行委員である登則恵子が、驚愕で動けない生徒達に声をかける。

 下手に勇気をもって挑まれるよりそっちの方がありがたい。

 恐れの叫びをあげながら教室から生徒が次々に

 最後まで残っていたのは相沢と、近藤だった。

 

「相沢も、いいから逃げて!」

「お前見捨てたら、キモブタに申し訳が立たねえだろうかっ!」

「あれ? それって直人が私を大事に……じゃなく。ほんと、そういう漢気今はいいから!?」

 

 美桜を残してはいけないと相沢は必死に無意味な攻撃を繰り返す。

直人の気持ちがちょっと分かる。この状況だと、いいヤツの方が扱いに困る。

 

「あのさ、気付いてるでしょ。ガンガン殴っても効いてないって。私一人の方が楽なの」

 

 取りも直さず「足手まといはいらない」ということ。

 ひどい物言いだと自分でも思うが、突き放した方がいい。

 

「私を助けたいんなら、さっさと行ってよ」

 

 悔しそうに近藤が歯を食いしばる。

 近藤も申し訳なさと自己嫌悪が混じり合った表情でこちらを見た。

 

「春乃宮さん、ごめん。俺は」

「いいのいいの、こういうのは私の役目、ってね。実はね、私神社の娘だから。軽いお祓いができるの。だから、だーいじょぶ」

 

 もともと退魔巫女の責務どうこうを重く考える性質ではなく、狭い範囲を守れたら十分、が美桜の考えだ。自己犠牲ではなく自分がやりたくてやっているのだから、過度な感謝も罪悪感も必要ない。

 気にするな、と軽く手をひらひらとさせてから、常人には見えないくらい薄く鋭い炎で触手を落とす。

 たぶん二人の目には、単なる手刀にしか見えなかっただろう。

 

「……ごめん」

 

 もう一度謝罪した近藤は、悔しそうに顔を歪めて走り去った。

 

「こういう状況じゃなきゃ、いいヤツらだよねぇ。さ、やろっか。……なんで、結界の中に湧いたかは、気になるんだけどね……っ!」

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 教室に手乗りサナちゃんを残しておいたため、僕たちの行動は速かった。

 教室から逃げ出したクラスメイトのことも把握している。散り散り逃げる中に、いくらか学生食堂に向かった生徒がいる。

 現在は彼らと合流するべく走っている最中だ。

 

 なにせ、食堂はヤバい。

 目玉羽虫で先回りして、校舎内を監視する。その内に見つけてしまったのだ。食堂の奥、厨房で蠢く肉塊を。

 

「触魔、ではありません。力が弱いです。たぶん、この結界を維持する中核的な存在。結界の起点でしょう」

 

 サナちゃんは画像越しでも、それの危険性を察知した。

 だからこそ不思議そうにもしている。

 

「触魔ブラキウムが<適応繁殖>で作った触手ではある、と思います。ひーちゃんと同じく、触手が犯した分の魔力は本体が得られますから、意味がないとも言えません。でも……」

「触魔本体ではなく、分体が中心になっていた。餌場としても、策略としても、中途半端な気はするね」

 

 咲綾さんの言葉に、サナちゃんがこくりと頷く。

 

「それです」

 

 回りくどくないか? ということだ。

 咲綾さんの考え通り、この状況を招いた“誰か”がいるとして、その狙いが分からない。

 

「いや、逆に考えよう。あれが中核なら、倒せば結界自体は壊せる。なら、やることが明確になったんだし」

 

 今はそこだけを考えよう。

 僕の言葉に咲綾さんもサナちゃんも頷く。

 目指すは食堂。さあ、ボスバトルだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。