ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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健全版だと咲綾さんと触手のアレはないです

 

 

 

 全力で階段を駆け下り、廊下を走り抜けた僕たちは学食の前で足を止めた。

 うちの高校の学食は一階にあり、窓を大きくとっているので光が差し込んで心地良いし、そこそこ美味しく結構安い。

 学生にとってはありがたい憩いの場所なのだけど、今は出来る限りお近づきになりたくない匂いがしている。

 ぎこちない甘さ、とでも言おうか。人工の果物が良く熟して強いにおいを発したような、奇妙な甘ったるさだ。

 

「……媚香、だね」

 

 咲綾さんが顔をしかめる。

 これまで相手にしていた触手たちとは違い、近付くだけでも女性を発情させる匂いを出しているようだ。

 淫魔であるサナちゃんは当然平気。僕は男だし契約の加護で大丈夫。でも退魔巫女からしたら結構危険なのでは。

 

「これ、咲綾さんはまずい?」

「ヒラルスの媚毒バチよりも薄い、かな。淫魔の媚薬は魔力で精製されたものだから、霊力があればある程度防げる。それに一応、対策もあるよ」

 

 液体の入った小指くらいの金属製の小瓶を取り出した咲綾さんは、それをくいっと飲み干した。

 

「それは?」

「中和剤。前もって飲んでおけば、媚薬の効果を和らげてくれるの。強すぎると軽減しきれないけれど」

 

 実際、前に淫蟲巨人と戦った時も使ってはいたが、気化した媚薬を中和し切れなかったそうだ。

 ん? そうなると、明確にひーちゃんの淫蟲>ブラキウムの触手にならない?

 僕の疑問を先回りするように、サナちゃんが答えてくれた。

 

「そこは性質の違いであって、五大淫魔にびっくりするほどの力量差はないはずです。単に触魔は、媚薬漬けで前後不覚になった女の子を墜とすのが趣味じゃないだけですね」

 

 はず、と付けたのは仲間じゃないので詳細は分からないから、というのが一つ。もう一つは触手のパゥワーが予想を下回っていたからだろう。

 どうにもすっきりしないまま、僕は黒衣を纏う。

 ボス相手に誤魔化しながら戦うのは難しいし、最初っから正体を隠しておいた方がいい。

 

「では、初手はお二人にお任せしますね。代わりに、私は隠蔽と認識阻害で守ります」

 

 隠蔽と認識阻害は戦闘で他の魔術を使うと切れてしまう。

 でもサナちゃんが、僕と咲綾さんにかければ、僕たちは正体を隠したまま動けるというわけだ。

 

「大淫魔の隠蔽、すごく助かるよ」

「いえいえー」

 

 和やかな咲綾さんサナちゃん。

 そう言えば、美桜さんも椎名先生も簡単に正体を明かしてくれた。実は、退魔協会としては“正体を隠すべし”みたいな決め事はないらしい。隠すのは単に平穏な日常を守るための個々の判断だ。つまり教えてもらえたのは僕なら大丈夫って思われたってことだから、ちょっと嬉しい。

 それはともかく、準備は整った。

 

「じゃあ、皆行くよ!」

 

 僕の号令で全員食堂に突っ込む。

 扉の向こう側では、多くの触手がうねっていた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 折原潤はもともと容姿がいい上にメイクもばっちり決めて、身だしなみにも気を遣う。かわいいより美人がぴったりくる、派手な女子だ。

 強気な性格も相まって、自然とクラスの中心に収まった。自慢できるイケメンな彼氏もおり、順風満帆な高校生活を送っていた。

 だから、こんなところで化物に襲われるようなことなど想像すらしていなかった。

 

「はっ、はっ……!」

 

 教室に触手が現れた時、彼女は恐怖から動けずにいた。しかし実行委員の登則恵子(とのり・けいこ)の言葉に我を取り戻し、一目散に逃げ出した

 どこかを目指している訳ではなく、ただあの場所から離れたかった。

 

「こ、こっちに逃げましょう!」

 

 先導する登則は「大人しくマジメなメガネ女子」くらいの認識しかなかった。

 なのに、この異常な状況でも慌ててこそいるが怯えは見せない。キモブタくんといい、普段の教室では目立たない生徒の方が余程動けている。

 とにかく逃げることだけを考えて、折原たちは学食に駆け込む。

 

 しかしそれが失敗だった。

 

 ここまで離れたら、大丈夫だろうか。安堵の息を吐こうとしたが、ねちゃりと粘ついた水音を聞いて、そのまま飲み込んだ。

 逃げるところを間違えた、気付いた時にはもう遅い。

 食堂の厨房から這いずる、二メートルはある緑と紫のまだら模様の肉塊。そいつから何本も触手が生えてきて、折原たちは拘束された。

 

「させっかよっ! 俺だって!」

 

 折原の恋人は絡めとられながらも必死にもがく。

 佐間や相沢。あの時自分のカノジョを守ったのは他の男だった。

 デブに不良、どちらも自分よりも下と思っていた生徒達だ。

 なら俺も負けられないと、意地だけで暴れる。それでも一般人の腕力では断ち切れるわけがなく。

 

「いやっ、放せって、いってんでしょーがぁ! ……あれ、あ、う?」

 

 愛しい恋人、折原潤の制服に触手が潜り込む。

 

「やめっ……ぅあ」

 

 手を伸ばすことさえ叶わない。

 なんだ? ガス……? 頭がくらくらする。なのに体が熱い。

 意識が、保てない。 

 このままでは……というところで、黒い塊が物凄い勢いで食堂に飛び込んできた。

 続いて、少女が二人。

 くらくらと揺れる頭を無理矢理動かす。

 朦朧とした意識で彼が見たのは、触手を切断する巫女の。

 

 

 ────超すごいおっぱいだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 幸運が重なった。

 美桜さんと仲良くなれたから教室の守りを任せることができ、手乗りサナちゃんを連絡役に置けた。

 おかげで僕たちはノータイムで触手の襲撃を察知し、限りなく初動が早かった。

 結果、逃げた折原さん達が食堂に入ってすぐ、僕たちも到着できた。

 折原さん達が触手に拘束されている。僕たちの顔を不特定多数に見られるのは好ましくない。なので早着替え、黒衣の外法術師モードでファットチャージ。入り口付近の触手を吹き飛ばす。

 

「だっしゃおらぁぁぁぁ!?」

 

 食堂の中は触手まみれだった。

 厨房の側には、2メートルはある肉塊が鎮座している。ぬめついた表皮が気色悪い。

 まずは一撃入れてやる。そのまま突進して、ピッグスラップ。

 でも、効果はまるでない。なんかタイヤを殴ったような硬く柔らかい変な感触だった。

 

 

「ぜ、全然効いてない!?」

「あの肉塊が、結界の起点……。厄介そうだね」

 

 わりと全力寄りの一撃だったのに。しかも、距離を取られ、触手の奥に行ってしまった。

 咲綾さんが警戒し刀を構えた。

 数人の生徒が触手に絡めとられている。

 みんな意識はあるようだが、頬を赤く染めて身悶えていた。

 

「媚香の影響です。幸い効果は強くありませんが、放置はできませんよ」

 

 こういう言い方はあれだけど、意識がもうろうとしているのは幸いだ。怖い想いをしないで済む。

 だけど五大淫魔の媚薬に浸されて、どのような影響があるかは分からない。

 

「とにかく、折原さん達を助けないと……! お巫女さんお願い!」

「分かった! でもその呼び方はどうなのかな……!?」

 

 いや、だって認識阻害使ってるし、一応ね?

 隠蔽中はサナちゃんが魔術を使えない。なので先手は僕たち二人。

 魔力弾をバラまいて牽制しつつ、咲綾さんが触手を狙う。でも、触手が刀を避けた(・・・)

 

「くっ」

 

 けれど咲綾さんも歴戦の巫女。

 少しカラダをずらし、返す刀で再度触手を斬る。バランスを崩したことで乗り切らない体重の代わりに、余分に霊力を込めて威力を高めた形だ。

 でも、触手の方も生まれた隙を見逃さず、攻撃を仕掛けてくる。

 っていうか腋をめがけて羽根触手が。 

 

「させるかぁっ!?」

 

 ファットチャージ。

 色んなものを守らねば。僕が肉の弾丸となって咲綾さんを襲う触手を蹴散らす。

 たわんだ瞬間を見逃さず、閃く刃がことごとくを切り伏せる。

 更に流れるように跳躍。折原さんの彼氏くんを拘束する触手を切断した。

 

「あ……」

 

 胡乱とした目で、彼氏くんは咲綾さんを見た。

 おそらく自分を助けた格好いい巫女の姿に見惚れているんだろう。

 立て続けに僕も動く。突進、からの。

 

「パラライズ、パウっ!」

 

 電流の前足で触手を焼き切る。

 これで折原さんをも確保。その間に咲綾さんが他の生徒も救出してくれている。

 

「退くよ、黒衣っ!」

「うん!」

 

 折原さんを連れて一度サナちゃんのところまで戻る。

 これで一息、付く暇もない。触手はすぐさま追撃を仕掛けてきた。

 

「こ、のぉ!」

 

 電撃張り手一発で仕留める。

 でも、周囲を見れば触手だらけ。囲まれてるどころか埋め尽くされるレベルの繁殖っぷりだった。

 足元に這い寄る影。

 咲綾さんの足を狙っている。

 

「ヒート、スタンプぅ!」

 

 熱の四股でそれを踏み潰す。そんな僕の背後から迫る触手を、位置を入れ替えた咲綾さんが斬る。

 まだ波は引かない。

 さらなる触手が押し寄せる。

 ……ただし、助けたクラスメイトに向かって。

 

「ちょっ、これ!?」と慌てる僕を、咲綾さんが静かに窘める。

「落ち着いて。一体ずつ対処しよう」

 

 霊力の籠った刃が敵を祓う。なのに、すぐ埋まる。

 パラライズパウで触手を叩き落として、咲綾さんと身体の位置を入れ替え、襲ってくるウネウネ触手を引き千切る。

 咲綾さんの乱撃が、死骸を幾つも積み上げる。でもわんこそばなみにすぐさま追加が来る。

 劣勢じゃない。一本一本は決して脅威じゃないんだ。

 単純に、僕たちでなく折原さんや彼氏くんを狙っているから、一歩も動けない。

   

「おかしい。淫魔はえっちでかわいい女の子を優先して狙うはず。巫女レオタードの汗ばんだ黒髪美少女がいるのに、なんで他の男子生徒を……!?」

「ご、ごめん。あ、あんまり口に出してそういうこと言わないでもらっていいかなぁ……!?」

 

 咲綾さんもこの状況に困惑している。

 そう、退魔巫女装束が過激なのは、淫魔の攻撃を自身に誘導するため。

 なのに、触手たちは本能に従って襲うのではなく、戦術的に動いている。

 それが、まずい。

 目の前に結界の起点がいるのに、そちらに向かう余裕がない。

 その間に。

 

「いけない。肉塊が、逃げる……!」

 

 咲綾さんの口が焦燥に歪んだ。

 ダメだ。ここで逃げられて、ゲリラ的な襲われ方をしたら僕や春乃宮姉妹はともかく、他の生徒が犠牲になる。

 そうやってチマチマ魔力を集められたら、触魔ブラキウムはどんどん強力になる。

 逃がすわけにはいかないのに。

 

「背中っ!」

 

 咲綾さんの叫びに反応し、背後にピッグスラップ。

 動けない。勝てない訳じゃないのに、単純に手が足りない。

 どうする? 魔力大盤振る舞いで、淫蟲創造で味方を増やすか?

 でも、それで勝てるか?

 迷っている僕。その間にも肉塊はこの場から離れようとする。 

 

「ナオトくん、一端らっちゃんから魔力をありったけ引っ張ってください!」

「え、あ、うっ、うん!」

 

 よく分かんないけど「魂霊契約、ラエティティア・ソムニウム」。可能な限りの魔力を借り受ける。

 カラダに満ちるエネルギー。これで力押しを?

 そう考えたけど違った。疑問はすぐに解消される。

 

「以前も言いましたが、魂霊契約は対等です。だから……」

 

 

 

魂霊契約(・・・・)サマ(・・)ナオト(・・・)

 

 

 

 魂霊契約モードは、サナちゃんとの繋がりを一時的に強くすることで魔力を借り受け、覚えた魔術に限りその精度を上げる。

 だけど繋がりは対等。

 だから僕ができるように、サナちゃんもまた僕から魔力を借り受けられる。

 らっちゃんから融通してもらった魔力+僕の持っていた魔力が、サナちゃんに流れていく。

 

「えい」

 

 ものすごく軽い言い方で放たれる電撃。

 その一撃で、肉塊の動きが止まった。

 

「ちょっと大変そうなので、ここからは私が。同族意識がないとは言いませんが、今はそんな場合でもなさそうですし」

 

 見た目は幼く可愛らしいままなのに、存在感が違う。

 濃密な魔力を纏う、大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィスがそこにいた。

 彼女が魔力を放出すると、倒れたクラスメイト達がかくんと意識を完全に失う。

 

「な、なにが」

「認識阻害が解けるので、ちょっと眠っていてもらおうと。咲綾さん、ナオトくんや他の子達を、お願いしますね。私があれを、片付けちゃいますから」

 

 煌めく銀の髪と、赤い宝玉の瞳を持った、幼くも美しい淫魔。

 よくよく考えてみれば、出会った時は弱体化していたし、今だって本調子というわけでもないから、この子の戦いって見たことなかった。

 

「熱と雷を支配する大淫魔サーナーティオ、その力とくとご覧あれ」

 

 ふふーん、と胸を張る。

 こういうところはいつものサナちゃんだ。でも決定的に、気配が違う。

 僕も咲綾さんも、ごくりと唾液を呑んだ。

 

 群がる触手。

 振りかざした手から雷撃が放たれる。

 女の子をビクビクさせる電流を突き詰め、ダメージを与えられるレベルまで高める。

 僕も同じことができる、そう思っていた。

 だけど差が、歴然過ぎる。蠢く触手がまとめて消し炭になるほどの雷を、弱パンチくらいのノリでサナちゃんは繰り出したのだ。

 

「なに、これ」

 

 触手を相手取りながら、咲綾さんが若干引いてる。

 以前、五大淫魔の実力は、サナちゃんと奪魔がツートップ、次が触魔ブラキウムで、らっちゃん。最後に不動の最弱ひーちゃんが来ると聞いた。

 つまりこの子が、純粋な戦闘力では上位なのだということは知っていた。

 なのに、実際に目の当たりにするとこんなにも強いのか。

 

「もう、踊り子さんには触れちゃダメですよー」

 

 普段と変わらない口調で空を踊り、鋭い爪で触手を切り裂く。

 魔力を込めて威力を増してるだけじゃない。雷で形作った巨大な爪で、まとめて薙ぎ払う。僕のピッグスラップとは規模がまるで違う。

 僕たちがあれだけ手間取ったのに、ほとんどの触手を斬り落とし、肉塊との距離をゼロにする。

 

「ぐぉぉ……」と肉塊が妙な音を発した。

 

 脅威を前に抗おうというのか、触手の先端から汁が発射された。

 見た感じぶっかけだけど媚薬? いや、淫魔には効かないから、なにか戦闘を優位にさせるような効果がある液体なのだろうか。

 でも届かない。熱を帯びた魔力が、それらを速攻で蒸発させる。

 

 いや、汁は目くらましだった。

 空気ごと抉り、触手がサナちゃんを背後から狙う。

 完全に隙を突いたはずだった。なのに、すり抜ける。

 一瞬だけ消えたサナちゃんは、気付けば肉塊のすぐ近くにいた。

 短距離の、空間転移的な、なにか? 

 結界に阻まれていただけで、そういうこともできるの?

 僕の疑問を尻目に、彼女の爪が肉塊に突き立てられる。

 

「触魔ブラキウムの触手は硬度に優れる。うーん、でも。この子も、やわらかい(・・・・・)ですね?」

 

 柔らかいと言っても、僕たちだって察知能力はある。

 あれが強力な個体であるのは理解している。なのに、サナちゃんは歯牙にもかけない。

 

「やぁ」

 

 またも軽い叫び。

 動作も、ただ爪を上から下に振るっただけ。

 それだけで、肉塊がざしゅぅ、と切り刻まれた。

 僕の張り手じゃびくともしなかったのに。

 

 サナちゃんの爪は、僕らが近付くことも許してもらえなかった肉塊を、切り裂き燃やしてしまう。

 あの小さな手が。

 

 

 ぎぃ、ぎぃ、と口もないのに鳴き声のようなものを発する。もしかしたら断末魔だったのかもしれない。

 肉塊は程なくして、炎に全てを焼かれ、一片たりとも残さずこの世から消えていく。

 苦戦どころか息も乱さず、最後までサナちゃんは、戦うというよりも日常の延長といった雰囲気のままだった。

 生徒を守るように言ったけど、結局雑魚もサナちゃんが片付けてしまった。

 しばらく待ってもやはり増援はなかった。

 

「終わりましたね」

 

 手をフリフリと、いつものサナちゃん。

 大金星は間違いなく彼女だ。

 

「ナオトくん、大丈夫ですか?」

 

 ほっそりとした手が、僕に向けられる。

 でも一瞬、思ってしまった。

 今まで何気なく触れてきたこの手は、化物を軽く葬ってしまう凶器なのだ。

 そっか。今まで普通に一緒に暮らしていたけれど。

 本当は僕が知らなかっただけで。大淫魔というのは、人とは種族からしてまるで違う、規格外の恐ろし───

 

 

「ぬおおおおおおおおっ!」

 

 

 ───なんて馬鹿なことを考える僕の頭に全力張り手しました。

 

「ええええええ!? な、なにがどうなってそうなってるんですか!?」

「ふんっ! ふんっ! 張り手ぇ! 張り手ぇ!」

「やめ、やめましょ! 頭ダメになっちゃいますから!?」

 

 いやいやとっくにダメになってるよ、僕たちを助けてくれたサナちゃんに対してあんなことを考えるなんて。

 強かろうが、人よりも遥かに格上だろうが、サナちゃんはサナちゃんだろうが。

 

「生クリーム系のケーキ大好き! 洋食も大好き! オムライスはケチャップ派で、消耗品は早めに早めに買ってくるタイプぅ!」

「何の儀式ですかそれ!?」

 

 張り手しながらサナちゃんのことを考え、怖くないんだぞと自分の頭に叩き込む大切な行いです。

 一頻りやり終えて、僕は全力の笑顔をサナちゃんに向ける。

 

「やあ、大丈夫かい、サナちゃん?」

「どう考えてもナオトくんの方が大丈夫じゃないですよね……?」

「直人くん。ほんとに、どうしたの……?」

 

 あれ、なぜかサナちゃんも咲綾さんもぎこちない表情をしていた。

 ともかくぎゅっと小さな手を握る。

 

「ありがとう、サナちゃん。おかげで、みんなを助けられたよ」

 

 柔らかな手をしっかり握りしめる。

 恐くない。この手は、優しくて温かい。

 

「いえいえ、魂約者として当然の振る舞いです。それはそれとして頭、痛くないです?」

「ちょっと痛い……」

「もう」

 

 頭をナデナデしてくれる

 よし、かわいい。大切な家族のサナちゃんが、ちゃんとここにいた。

 

「そうだ、咲綾さん。あの中和剤って、折原さん達にも効くかな?」

「うん。後から飲んでも媚香の影響が薄れるはず」

「もらっても、いいかな? あっ、お金なら。なんとか」

「退魔協会から支給されるから気にしないでいいよ。手分けして飲ませよう」

「ありがとう」

 

 折原さん達に中和剤を飲ませていく。

 そういえば、結界もちゃんと消えたようだ。魔力の気配が亡くなったし、窓が普通に開くようになっていた。

 

「なわばりも消えたみたいです。早く帰って、お風呂に入りましょう」

 

結界が消えても外は夜のまま。

 長くいたようで、実際にはそれほど時間は経っていなかったのだろう。

 閉じられた学校は元に戻る。

 サナちゃんの言葉に、ようやく長い夜が終わるのだと実感できた。

 

 

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