ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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学校を守る謎の英雄

 

 

 

 

 

 春乃宮美桜は、迫る触手を炎の巫術で焼き払う。

 霊力の操作は精緻。教室の物品にはほんの僅かな焦げ付きさえない。

 申し訳ないが、周りに誰もいない方が自由に戦えるのだ。

 

「お……魔力が、消えた?」

 

 校舎を覆っていた結界の消失を感知する。

 それがきっかけなのか、触手の増援もなくなった。

 

「ナオトくんたちが、結界の起点をやったようです」

「そっか。ありがとね、手乗りサナ」

「美桜さん。実は(分体)、手乗りサナちゃんまでが名前なんです」

「そこ重要? じゃ、手乗りサナちゃん」

 

 満足そうに頷くちっこい淫魔。

 まあ咲綾は内側向きの退魔巫女としては普通に実力がある。直人だってかなり戦える。特に心配はしていなかった。

 それよりも問題なのは。

 

「私の魔除けを掻い潜られた、ことのほうよね……」

 

 自惚れでなく美桜の結界は一流。

 それを気付かれずに出し抜くのは至難の業だ。

 だとすれば、最初から仕込んでいたと考えた方が自然。

 

「あぁ、やだやだ。めんどくさそう……」

 

 淫魔を倒すのはいい、外法術師だって上等だ。

 しかし疑いたくない部分を疑うのは苦手だった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 

 淫魔っ子たちの協力によって、僕たちは学校から脱出を果たした。 

 向こうで何度かご飯食べて睡眠だってとってるのに、実際には三時間も経っていないんだから驚きだ。

 中には触手をスマホで撮影した生徒もいたけど、結界内にはジャミングのようなものが働いていたのか、ちゃんとした画像は残っていない。

 

「今回は、私たちは全く関われませんでしたね。申し訳ないです。佐間くんは大丈夫でしたか?」

「いやー、あはは。美桜さん達が色々解決してくれたんで」

 

 脱出後、退魔協会の対応は早かった。

 より正確に言うと、らっちゃんが蛍火神社に「学校、大変」の手紙を投げ込んでくれたおかげで、椎名先生が率先して動いてくれたのだ。

 椎名先生は「ガス漏れで生徒達が倒れていると警察から連絡があった」ということになっている。つまり朦朧としているうちに幻覚でも見た、で通そうというのだろう。

 

 ひとまず先生が連れて来た「看護師」が改めて媚薬の中和剤を飲ませ、健康チェック(という名の淫魔の卵がないかの確認)を行う。

 事件に関しては退魔協会には偶然巻き込まれた春乃宮姉妹が全てを解決した、という感じで報告済みである。

 

「ありがとねー、薫せんせ」

「お手間をかけてしまいました」

 

 咲綾さんが申し訳なさそうに頭を下げる。

 現状、椎名先生は主に謎に包まれた淫魔の主・黒衣の外法術師を追って美桜さん達とは別のチームを組んでいるらしい。

 つまり今は余計な仕事をしている状態。なのに、面倒くさそうなところは見せずに対応してくれる。

 

「いえ、私の任務と重なってもいますから。黒衣が、現れたのでしょう?」

 

 はい、今あなたの前にいます。

 共闘して触魔ブラキウムの眷属と戦った咲綾さんが、物凄く真剣な顔で言う。

 

「はい。あくまでも、流れで一緒に戦っただけですが。えと、おそらく、触魔は奪魔と同じく黒衣とは敵対関係にあるのかと」

「あまり、嬉しい状況ではないですね。となると、奪魔デートラヘレは触魔ブラキウムと手を組んでいる可能性が出てきます」

 

 そこは、僕らとしても懸念だ。

 そもそも日本を活動範囲としていなかった触魔がここにいたのなら、手引きはあったと考えるべきだろう。

 デートラヘレの狙いが読めないだけに、嫌な予感がする。 

 

「では、詳しい話し合いはまた後日。今日は戻って休んでください」

 

 僕ら三人は「ありがとうございます」と元気に返事をして帰宅する。

 あとはもう退魔協会に丸投げするとしよう。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「今回…わらわ……っ! たくさん活躍した……のじゃ……っ!」

 

 自宅のマンションに戻ると、らっちゃんがビシッとポーズを決めていました。

 実際、触魔のなわばりを飛び越えるという無法に色々な助言、魔力を貸してくれたし、本当に助けられた。

 感謝の意を示せとばかりにらっちゃんは頭をこちらに差し出すので、思いっ切りナデナデする。

 

「ありがとう、らっちゃん。おかげで皆、無事だったよ」

「むふー。ひーもさなさなも頑張ったからそっちも褒めるがよいのじゃぁ」

 

 蕩けつつも二人のことも忘れないいい子です。

 

「そうだね。二人ともありがとう。淫蟲のおかげで攻略できたようなものだし、最後はサナちゃんが決めてくれた」

「いちいちお礼なんていい。みんな、頑張った」

「そうですよ。ただ……」

 

 サナちゃんの言葉に、へにょりとらっちゃんが座り込む。

 

「妾、すっごく魔力使ったぁ……」

「私もです。久々の戦闘で大盤振る舞いし過ぎました……しばらくはまた、魔力集めを頑張らないといけませんね」

 

 ふんす、と両手を握るサナちゃん。

 あの時の戦闘は物凄かったけど、魔力消費も激しかったようで、ちょっとお疲れモードだ。

 

「でも、おかげでサアヤもミオウも無事だった。ひーたちは、いいことをした」

 

 ちょっと意外だった。ひーちゃんがそういうまとめ方をするなんて。

 それに二人も笑顔で頷く。

 人間との暮らしの中で、この子達もきっと良い風に変わっているのだろう。

 

 

 

 

 そうして僕たちは日常生活に戻った。

 退魔協会が改めて調査をするそうだが、彼らは国家権力というわけではないので、警察やらマスコミを使っての隠蔽、というのは難しい。

 ただ、今回の件が大きな騒ぎになることはなかった。

 もともとクラス全員が巻き込まれたわけではない。起こった出来事だけを上げれば、「文化祭で居残りしていた一部の生徒が、時間をオーバーしても残り続けた」で終わってしまう。

 そこでガス漏れの話が出たので、基本は幻覚扱い、まともに取り扱っても貰えないのが現状だ。

 加えて折原さんのナイスアシストもあった。

 

「お前らだって見たろ、あの触手!?」

「は? なんの話よ。どうせサボって寝てる時に夢でも見てただけっしょ」

 

 みたいな感じでサボリくんらの主張を、クラストップ級女子が否定する。

 

「俺も知らねえなぁ。だよな、春乃宮姉?」

「う、うん」

 

 咲綾さんや相沢くん、文化祭実行委員の二人も同意したから居残りしなかったクラスメイトは触手の話なんて誰も信じなかった。

 悪あがきみたいにSNSに投稿した人もいたけど、証拠がなくこっちも嘘扱い。

 結局は当事者以外には、この高校には奇妙な怪談がある、という決着になった。

 

 

 ただし、解決じゃない。

 触魔とその裏側にいる誰かが、今も何かを画策していてもおかしくはないのだ。

 そう言う意味では協会の調査はありがたい。向こうが警戒して動かずにいてくれればいいのだけど。

 そんな感じで学校は落ち着き、でもあの経験のせいで変わってしまったこともある。

 その日の休み時間、僕は女子グループに声をかけられた。

 

「キモブタくーん、トイレ行くから付き合ってー」

「なんならナカまで入ってええよん? あ、春乃宮さん。そう言う意味じゃないかんね」

「それセクハラじゃね?」

「なに言ってんだ。俺らと連れションだろ? なー、佐間」

 

 ぎゃはは、と笑う派手な女の子達と男子グループ。

 まあ、触手を「なかったことにした」だけなので、みんな普通に覚えてる。僕はボディーガード的な価値くらいは認めてもらえたらしい。

 結果、いざという時のためにキモブタを配置してトイレをするという流行りが出来てしまったのだ!

 なんでやねん。

 

「大変だな、佐間」

「あ、はは。まぁ」

 

 近藤くんが苦笑いしている。

 今回の件で、ちょっと気安く話しかけてくれるようになった。

 文化祭の準備は順調に進んでいる。サボりくん達が、居残りにならないよう動き始めたからだ。これなら当日までにムリなく整えられると思う。

 

「でも実際なんだったんだろうな、あれ」

「あっ、と。食べ物の中には、幻覚を引き起こすキノコとかあるよ? そういうクスリとかも……なんて、あは、あはは」

「そう言うのを気付かないうちに摂取してたって?」

 

 納得できないのか、近藤くんはガシガシと頭をかいている。

 けど登則さんは興味深そうに頷いていた。

 

「実際、あんなのが実在するよりも、皆おクスリでぼんやりしてました、の方がまだ理解できますよね」

「うーん……」

「そう言うことにしておいた方がいい、という話です。解決したんですから」

 

 当事者にとっては、あの事件は既に終わったこと。

 だが一部の人間にとっては鮮烈な記憶として焼き付いてしまった。

 その一人が、折原さんのカレシだった。

 

「たぶん、騒ぎにしたら問題だろうから吹聴はしねーよ。だが、俺は確かに見た」

 

 そう、朦朧とする中で彼は、僕たちの姿をしっかりと記憶していた。

 もっとも、特に問題はない。認識阻害とか関係なく。

 

 

「俺達を助けてくれた剣士は……超すごいおっぱいだった」

 

 

 それに同意する一部の生徒達。

 ビクビクゥッ、てなる咲綾さん。

 あの時、食堂で触手に囚われていた生徒は、みんな媚香の影響下にあった。

 性的興奮状態にあり、そんな時に露出過多な巫女レオタードで咲綾さんが助けに来た。

 すると、どうなるか?

 そう……認識阻害とか関係なく、おっぱいのインパクトに負けた。

 助けてくれた人について、ぶっちゃけ胸が大きい以外になんも覚えていなかった。

 そんな事態に誰も違和感を持たないくらい、咲綾さんがすごかったのだ。

 

「うん、私も超すごいおっぱいの人に助けられたのは覚えてる」

「ウチも……」

「俺もだよ。ほんとに、すごかった。あ、いや、戦いがな?」

 

 はい、誰も咲綾さんの顔どころか黒衣の存在すら目に入っちゃいません。

 胸元に視線釘付けです。男子も女子もサナちゃんに眠らされるまで、朦朧とした意識で揺れる咲綾さんを見ていたようです。

 

「あうっ、あ、あ……」

 

 咲綾さん、顔が超真っ赤です。

 でもこれに関して何も口を挟めません。変な話、こっちの方が僕らとしては有難いから。

 

「さ、咲綾さん大丈夫……?」

「う、うん。なん、とか」

 

 慰めにギリギリ返してくれる。

 でも折原さんがすごく優しい目で呟く。 

 

「きっと、あの超すごいおっぱいの人は、ああやって悪を倒す正義の味方なんだろうねー」

「だな。ありがとう、超すごいおっぱいの人……」

 

 彼氏くんも応じる。あっ、その名前はもう固定なんだ?

 彼女らの中では、咲綾さんというか退魔巫女レオタードの少女に助けられたことが、鮮烈な記憶として焼き付いている。

 あれだね、性的な興奮状態で見たから余計に印象が強くて、変更が不可能になっちゃったんだろうな。

 名称はともかくやってることはだいたい正解なのがひどい。

 かくして、返坂高校に夜な夜な悪を打ち倒す超すごいおっぱいの人の噂が生まれたのだった……。

 最悪だよ。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 お昼休みになり、教室を抜け出して安住の地を求める咲綾さんと僕。

 せっかくの手作り弁当は落ち着いて食べたかった。

 

「う、う……」

「あ、あの、気にしない方がいいよ?」

「でもあの名前は、あんまりにも……」

 

 わりと咲綾さんがダメージを引きずってる。

 ただ、そのおかげで僕らの正体がバレることなく、平穏な日常が守られた。……は、慰めにならないんだろうなぁ。

 

「そ、そうだ。今度さ、僕に稽古をつけてくれないかな?」

「えと……稽古?」

「うん。僕はやっぱり力不足だって分かったから、もっと鍛えないと」

 

 わざとらしく拳を握ってみせる。

 まだちょっと暗い表情だけど、咲綾さんは小さく笑ってくれた。

 軽く雑談を交わしながら校舎裏に向かう途中、廊下でばったり美桜さんwithクラスメイトに出くわす。

 

「お、直人。お姉ちゃんも、ごはん?」

「おー、キモブタくーん。デカ盛りご飯ー?」

 

 お友達さん、別に僕は毎回デカ盛りを食べてる訳じゃありませんよ?

 

「うん。美桜も?」

「学食はアレだから中庭かなー。あ、みんな先に行っといてー」

 

 おけー、と手を振り振り移動する女子たち。ノリノリです。

 彼女は友達が多い分、毎回僕たちといっしょに昼食をとるわけじゃない。

 咲綾さんはだいたい一緒です。

 

「面倒ごとは……一応? 片付いたし、後は文化祭だね。そういやお姉ちゃんのとこって、和カフェだっけ」

「そうだよ」

「へぇ、直人はウェイター?」

(ブサイク)は安定の裏方です。容姿レベルがアンダースローからのシンカーです」

「そう? そんなに、アレな顔してると思わないんだけどな……」

 

 美桜さんがまじまじと僕の顔を見る。

 距離が近いし可愛いし、身長の関係で見上げる形になるしでちょっとドキドキする。

 すると咲綾さんにそっと優しく後ろに引っ張られた。

 なんか微妙な空気が流れる。そのタイミングで、また別の方向から声をかけられた。

 

「あら。青春していますね。……私の青春は、いつのことだったでしょう」

 

 容姿は幼くても立派な大人な椎名先生は、少し遠い目をしている。

 

「せ、先生。青春は時代でなく踏み出す一歩を指す言葉だと僕は思いますっ!」

「たぶんフォローだと思うのでありがとうございます、佐間くん」

 

 しまった、微妙に通じてなかった。

 

「どしたの、薫せんせ」

「いえ、ちょっと報告を。“上”の方から正式に調査が入ると決定しました。今回のガス漏れの件、おそらく校舎の老朽化が原因だと思われます。配水管に変な生き物でも湧いていたら困るし、時間をかけて調査するようです」

「なるほど……わざわざ、ありがとうございます」

 

 意図に一番早く気付いた咲綾さんがお礼を言う。

 ああ、そうか。そういうことにして、退魔協会から淫魔が巣を作ってないか本格的に調べる、ということか。

 

「それじゃあ、誰が来るの?」と美桜さんが問う。

「秋英寺楓さんです」

「えぇ、楓かぁ……」

 

 バットを振るうミニスカオレっ娘退魔巫女、だったっけ。

 どっちかって言うと「調査? わっかんねー! ぶん殴りゃいいだろ!」なノリの女性に見えたので、不安なのはちょっと分かる。

 顔をしかめる美桜さんに、くすりと椎名先生が微笑む。

 

「彼女も、相応の経験を積んだ方なので大丈夫ですよ。楓さんだと安心ですしね」

 

 目にちょっと剣呑な光が宿った。

 椎名先生も、触魔や奪魔をかなり警戒しているようだ。

 とりあえず触手の事件は一応の決着を見た。

 しかし、まだスッキリ平和を取り戻しました、とはいかないようだった。

 

 

 

 

 

「あと、超すご……謎の女剣士の噂を、聞いたのですが」

「あ、私の方も。これってお姉……」

「うあああああ直人くん、ご飯いこう! 今すぐに!」

 

 咲綾さんに手を引かれて廊下を走る。

 どうやら二人の耳にも例の噂は届いているようです。

 

 

 

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