ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
おや、サナちゃんの様子が……?
触魔ブラキウム・インヴィディアを退けた後、一人の女性がうちの高校にやってきた。
なんでも建築関係の職員で、校舎の劣化具合の調査するため、しばらく学校に通い各所をチェックするらしい。
その職員さんが年若くスタイルのいいキレイ系お姉さんだから、わりと男子の間では話題になっている。
「おー、美桜に咲綾」
ある日のお昼休み、件のお姉さんが教室にやってきた。
ジーンズにシャツ、黒のジャケットを羽織っただけの簡素な服装。なのにピシッと決まって見える。
年齢は二つ三つ上、大学生くらいかな。
茶色の髪を乱雑に背中くらいまで伸ばした、態度と胸の大きい気風のいい女性といった感じだ。
「うわー、ほんとに楓が調査に来たんだ……」
「そら、オレくらいしかいないだろ」
美桜さんが微妙な顔だった
いきなり部外者が現れ、生徒達はちらちら様子を伺っている。
もっとも当人はまったく気にしていない。
彼女のことを僕は一方的に知っている。
バットで戦うオレっ娘ミニスカート退魔巫女さんで、名前は
秋英寺さんはしばらく美桜さん達と雑談をしていたけど、遅れて僕に気付いたようで、しげしげとこちらを眺めている。
「あんたは……」
「あ、さ、佐間です、佐間直人」
「ああ、前に聞いたわ。美桜との友達だっけか」
僕のことどう話してるんだろう、ちょっと気になる。
「薫先生からも聞いてる。こっちの事情、知ってんだろ?」
「ある程度は。もともと、美桜さんや椎名先生に助けてもらった身でして」
「そりゃ気を遣わなくていいや。……って、佐間で、直人? もしかして泰造さんの息子、じゃない。お孫さんか?」
「は、はい、一応」
「おー、そっかそっか! 言われてみると面影……はねえな?」
「すみませんキモブタで」
そういやお祖父ちゃんって退魔師側なんだっけ。
どうやら四季家とも繋がりが合ったみたいだ。
「どゆこと?」と美桜さんは不思議そうにしている。
「ああ、オレはこの子のお祖父さんと知り合いなんだよ。マジかー、妙な偶然ってあるもんだな」
嬉しそうにバンバンと背中を叩かれる。
力つっよ。
「おっと、挨拶が遅れたな。オレは、秋英寺楓。ここには、何度も顔を出すつもりだからよろしく頼むわ」
こうして建物の調査員がちょくちょく学校に顔を見せることとなった。
もちろん校舎の調査なんて真っ赤な嘘。彼女、実際には二十歳の大学生だそうだ。
校舎の調査という名目で、トイレや倉庫などに触魔の痕跡がないか調べてくれている。
で、その日の放課後。
僕は彼女が住む1Rマンションにお呼ばれされた。
色っぽい話じゃない。美桜さん姉妹もいっしょに、色々お話をしたいらしい。
部屋は意外ときれいに片付いている。というか、冷蔵庫とか電子レンジとかの生活必需品以外の物が少ない。他にあるのは、せいぜい本棚とノートパソコン、コーヒーメーカーくらい。全体的に飾りっ気がなかった。
「どうした、直人? きょろきょろして」
「あ、いや、ごめんなさい。そ、その、女の人の部屋に入る機会、なくて……」
「仮拠点みたいなもんだから、そんな面白いもんでもないだろ?」
でもやっぱり、美人なお姉さんの部屋というのは特別なんです。
秋英寺さんは軽く笑って流してくれたけど、美桜さんはちょっと驚いていた。
「うっそ、お姉ちゃんとこも?」
「う、うん」
小学校の頃、会うのはずっと外だった。
たぶん“さあやちゃん”は、退魔巫女の事情とは関係ない、普通の友達関係にしておきたかったのかも。
ちょっとノスタルジックになってると、なんでか美桜さんはこくこく頷き、からかうような流し目を僕に向ける。
「やっぱり、女の子の部屋は匂いが違うー、とか思っちゃうの?」
「そ、そこまで変態じゃないです、はい。ただ、その、やっぱり男の部屋とは違うから。照れるというか、緊張するというか」
「ふーん。なら、私の部屋に遊びに来る?」
なんてことを言うんだ。
思わず変な声が出てしまい、美桜さんはニヤニヤしていた。
「み、美桜?」
「ほらー、友達ならふつーでしょ?」
ちょっと慌てる咲綾さんの視線に、美桜さんは肩をすくめる。
呼吸を落ち着けて、僕はふと本棚を見た。
並ぶのは古めの少年漫画たち。『鎌倉純恋暴走族』、『激闘神話ツッパリのマサ』、『アウターズ』。全て往年のヤンキー漫画だった
大変だ、秋英寺さんの一人称オレが何か退魔師の家系的に育まれたものではなく不良系主人公に憧れただけという事実が隠れているかもしれない。
一人おののいていると、秋英寺さんがコーヒーを入れてくれた。
「砂糖とミルクは適当にやってくれな」
「あ、ありがとうございます」
「そんな緊張すんなって。泰造さんのお孫さんと話したいだけなんだから」
にかっ、と気持ちよく笑う
お祖父ちゃんの知り合いの退魔巫女ってなんか不思議だ。
「お祖父ちゃんとは、どういう?」
「オレが駆け出し退魔巫女だった頃に面倒を見てもらったんだよ」
「そう言えば、直人のお祖父さんって封印術の使い手なんだっけ?」
「うん。僕には霊力は受け継がれなかったけどね」
秋英寺さんはそれを聞くと何かを思い出したようで、納得顔で頷いた。
「あー、息子さんには才能がないってのは聞いたわ」
「一応、補助用のアイテムがあるから術が使えないこともないんですが、なかなか難しく」
「なるほどなぁ。とりあえず、直人は協会と関わりのない初心者野良術師ってことでいいのか?」
「そうなる、のかな? 戦力には数えられない。でも護身はできるから、ちょっとした調べ物のお手伝いくらいは何とか、な塩梅です」
「戦ってもらおうなんて考えちゃいねえよ。こっちとしては事情を知ってるヤツがいるってだけでも気分的に楽になるさ。てか呼んだのはホントに泰造さんの話したかっただけなんだよな」
前のめりになる秋英寺さん。
圧が強い、主に胸部の。
「泰造さんは爺さんな年齢になってからも呪具を装備して退魔協会に協力してた正義の人でさ。オレが、十三の頃だったかな。初めての淫魔討伐の時にも付き合ってくれたんだよ。いい具合に肩の力が抜けてて、決めるべき時にはびしっと決める。オレもああいう風になりたいと思ったもんだ」
でもお祖父ちゃん、サナちゃんを超卑怯な騙し討ちしてますよ、とはもちろん言いません。
「そ、そうなんですか。いやー、僕はお祖父ちゃんの現役の頃を良く知らなくて」
「なに? それはいけない、ほんといけない。だったらオレがいろいろと教えてやるよ」
あ、しまった。
秋英寺さんがオタク特有の早口モードに切り替わった。
「うわー。楓ってば、こういう一面あったんだ」
美桜さんも若干引いてる。
一頻り話し終えた後、秋英寺さんはある提案をした。
「そうだ、術がうまくいかないんなら美桜に面倒見てもらったらどうだ? オレや咲綾は内側向きだけど、こいつは外側の方が得意だぞ」
※ ※ ※
「えーと、美桜さん。お願いしてもいいモノかな?」
「おっけおっけ。全然だいじょーぶ!」
ひとまず秋英寺さんと顔つなぎが終わり、僕は美桜さんに術を教われないかお願いした。
快く了承してくれて、美桜師匠の弟子キモブタの誕生だ。
さすがに神社にお邪魔するわけにもいかないし、姉妹ともどもウチのマンションに来てくれた。
「じゃあまず、前提として。多くの場合巫術は専用の護符を使って放つ。でもね、霊力の操作は自分なの」
「というと?」
「例えば、薫せんせは氷の巫術を使う。でも氷塊をぶつける符、吹雪を起こす符があるわけじゃない。氷塊にするには霊力を自分で収束させるし、吹雪を起こすには広範囲に調整する。符の役割は霊力という水に色を付ける着色料でしかない、って感じかなー」
霊力さえあれば護符の補助でなんでもおっけーってわけじゃないのか。
「じゃあ、符を変えれば色んな属性が使えるってこと?」
「それが、そうもいかないのよね。例えば赤色の水に青色を足しても真っ青にはならないでしょ? 個人の資質によって“染まりやすさ”があって、同じ符を使っても同じ氷の量になるとは限らない。人によっては全く使えないケースもあるのよね」
「はー、なるほど。じゃあ美桜さんが火の巫術を符なしで使えるのは、霊力が火寄りだから、みたいな?」
「ううん。さっきの例えなら私は無色透明。符があればだいたいの術は使えるし、なくても着色料を自分で調合できる。火は性に合ってるってだけ。あ、結界とか人払いは逆に色じゃなくて形状を符に刻み込んであるから、こっちは霊力の操作が上手ければ使える。楓は全然ダメだけど」
咲綾さんも符があればその手のヤツは使えるんだっけか。
結界も美桜さんは触媒なしで使ってたけど。
「だから、術が上手くいかないのなら。霊力が足りていない、霊力操作が未熟、
理路整然と僕の問題点を指摘してくれる。
ありがたいけれど、その光景を見ていた淫魔っ子たちがひそひそ話。
「てっきり、みおーさんは“霊力をギュッと固めてバッとしてシュピピピーンするのよ!”みたいなタイプだと思ってたのじゃ……」
「私も、天才特有の感覚優先型かと……」
「ミオウのスキルはアグレッシブにチャージするプロセスよ的な……」
ごめん正直、分かる。
「自分の時はそれでいいけど、人に教えるなら言い方は考えるに決まってるでしょ。ていうかひー、後で話そうか?」
「サアヤ。ミオウがいじめる……」
「いちいちお姉ちゃんとこに逃げないっ!?」
でも咲綾さんはひーちゃんを抱きとめて頭をヨシヨシしてる。
なんだか仲いいね、この二人。
「ヒラルスってば。み、美桜も落ち着いて?」
「あのさぁ、あんまり甘やかさないでよ」
「……ひーとサアヤとおにーさんは巨乳チームだから」
「こ、この子、安全になったと思って……!」
あ、やっぱり僕はカウントされるんだ。
「ああもう、とにかく! 霊力操作は私が面倒見てあげるから、直人は封印術のイメージを固く持つこと!」
「それなら妾お手伝いできるよー。夢の中でドリームトレーニングなのじゃ!」
「お願いね、ララっ!」
もう最後の方投げやりになってるよ美桜さん。
でも、ちゃんとこれからも継続して教えてくれることになった。
よし、少しでも強くなれるように頑張ろう。
※ ※ ※
夜になって食事を終えた後はカラダも鍛える。
封印術の練習は必要だけど、やっぱり基盤は肉体だ。
ついでに秋英寺さんについても色々話しておく。まあ学校に新しい退魔巫女が増えたから注意しようね、くらいのものだ。
「秋英寺楓さんの目的は触魔の調査だけでなく、黒衣の外法術師にもあるようですね」
「み、みたい。ただ、優先順位としては下っぽいから、ちゅ、注意が必要かなぁ、ぐっふぅ、ひゃくはちじゅうっ!」
夜の筋トレは今や日課となっていた。
最近の僕のトレンドは淫魔式自重トレーニングだ。
サナちゃんに背中に乗ってもらっての腕立て伏せ以外にも種類を増やしている。
まず、肩幅くらいに足を開きます。
次に右手をらっちゃん、左手をひーちゃんに掴んでもらい、ダンベル運動のように腕をゆっくり折り曲げたり上下させたりしましょう。
ちょうど親の腕にぶら下がる子供の図を手でやってるみたいな感じだ。
「ぬぐおっ、ふぐぐ……! 百九十、八っ! ひゃく、きゅうじゅう、きゅうっ!」
「わー……たのしー」
「きゃー、なのじゃ! キモブタさん、ふぁいてぃーんぐ!」
片手で淫魔っ子の身体を持ち上げるのだから、かなりの負荷がある。
だけど無表情ながらひーちゃんは喜び、らっちゃんはちょっとしたアトラクション気分できゃっきゃとハシャいでいる。なので途中で止めることはできず、まかり間違っても女の子に重いなんて言えない。淫魔式自重トレーニングは、諦めたりサボったりできないよう自らを追い込む鍛え方なのだ。
「に、にひゃ、くっ! ぶひぃっ……!」
「お疲れ様です。次はスクワットですよー」
少しのインターバルの後、サナちゃワットに移行。ん、はリズム的に省きました。
これはサナちゃんをお姫様抱っこした状態でのスクワット。時折、首元にふーっと息をかけてくるので集中力を乱さないようにしないといけない。
「くっ、ほうぅ……!?」
「ふふ、耐えましたね。ほらほら」
今度は鎖骨辺りに刺激がきた。
段々と気分がノッてくるとサナちゃんが指でツンツンしてくるので注意が必要だ。
「ずるい。私も」
「妾も妾もっ」
また、後半になるとひーちゃん&らっちゃんがタックル並みの勢いで飛び掛かってくるので、それに耐えるため体幹がとても重要になる。
あとシンプルに重量が三人分になる。
「重く、ない。一切重くないっ。なぜなら、女の子は、綿菓子で出来て、いるからぁ……!」
「妾が言うのもなんだけど。キモブタさん、女の子に夢見過ぎじゃないかのう……?」
夢幻の支配者にそんなツッコミをされてしまった。
三人抱えて、ペースを乱さず筋肉に負荷をかける。既定の回数を終えて、皆を驚かせないよう静かに下ろしてからから、僕は床に倒れ込んだ。
「きょ、今日の分、終了ぉ……」
「お疲れ様でした」
サナちゃんがタオルを持ってきてくれた。
なおここまでやっても痩せてはいません。
有酸素運動じゃないし、鍛える度に食事量も増え、サナちゃんとの契約効果で内臓の調子もよく食べ過ぎて病気にもならない。
なので将来的にはスモウレスラーみたいに脂肪の下に鍛えられた筋肉がある、みたいな身体になるだろう。なるといいな。
「みんな、手伝ってくれてありがとね。ええと、お風呂は」
「妾はもう済ませたのじゃ」
「私もです。あとはひーちゃんと直人君だけですね」
「おにーさん、先でいいよ」
なら有難く。
お風呂で体力を回復してこよう。
汗を流し、水分を補給して、皆で歯磨きをしてから就寝の時間だ。
布団の数は増やしてないから、相変わらず眠るときは2:2で。
今日は僕とひーちゃん、サナちゃんとらっちゃんの組み合わせである。
いい感じに疲れているせいか、すぐに眠気がやってきた……のだけど、つんつんってひーちゃんに起こされた。
「ん、どうしたの、ひーちゃん……」
「おにーさん、最近頑張り過ぎてる」
「そう?」
「動画撮影以外に筋トレに術の練習。サアヤとも稽古するって言ってた。ちょっと心配」
「でも皆も家事してくれてるし、マッサージとかも、そんなに負担じゃないよ」
説明してもあんまり納得してもらえなかったのか、じーっと僕の瞳を覗き込んでいる。
「なんで、そんなに鍛え始めたの? 無理は良くない」
「無理してないって。強くなるに越したことはないからね」
「なんで?」
「触魔の件といい、解決したとは言い難いし」
「なんで?」
あ、これちゃんと答えるまで話が終わらないし、離しても貰えないヤツだ。
僕はそっとサナちゃん達の方を覗き見る。すーっ、て寝息をたてている。なら、大丈夫か。
それでも一応声を潜めて、「内緒ね」と前置きをする。
「あのさ、サナちゃんって、すっごい、強いよね」
「ん。五大淫魔トップクラス」
「この前さ、戦いを見て、それで思ったんだ。普段は優しい女の子だけど、やっぱり淫魔って人間とはレベルが違うんだなぁ、って」
「……怖く、なった?」
そう聞くひーちゃんの方にこそ、微かな怯えが見えた。
僕は出来る限り優しく彼女の頭を撫でる。
「えっとね、そう思わなかったと言えば、嘘になるよね。でもね、無い頭で考えたんだよ。格差があるから怖いと感じた。なら、埋まれば恐くないって」
「ん……?」
「だからね、今はサナちゃんがレベル100、僕がレベル7くらいなの。差があり過ぎてビビっちゃう状態。でもね、差が縮まれば、そんな怖くないと思うんだ」
あ、ピンときてない顔してる。
でも僕はぐっと握り拳を作って語る。
「僕は強くなる。そうすれば、サナちゃんの、ひーちゃんの、らっちゃんの。今とは違う一面を見たって、怖いなんて思わず、疑うこともせず。どんな時だって、ちゃんと向き合える自分になれる。だからね、全然苦じゃないんだ」
「おー……ちなみにひーのぼでぃはレベル1固定です」
「うん、怖くないよ。でも強くなったら、全力全開の淫蟲を見たって平気になれるんじゃないかな」
「がんばれ、がんばれ、おにーさん」
はしゃぐひーちゃんがぎゅーっと抱き着いてくる。
当たり前のことだけど、人間関係って不変じゃない。些細なきっかけでヒビが入ったり疎遠になったりする。
だから本当にいっしょにいたいなら、それを維持する努力が必要なんだと思う。
今の僕にとっては、鍛錬がそれにあたると言うだけの話だ。
「がんばれだけど無理はダメ。適度にがんばる」
「うん、そうだよね。ありがと、ひーちゃん」
こういうことを言ってくれる彼女達だから、強くなりたい。
布団の中での決意って言うのが閉まらないなぁ、と僕は笑ってしまった。
※ ※ ※
……という話を、サーナーティオはしっかり聞いていた。
寝息は普通に演技。それでも盗み聞きに気付かれないよう必死に寝たふりをする。
この身は五大淫魔が一柱、大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィス。
快楽によって人を蕩けさせる堕淫魔術を有し、エクソシスト達に恐れられた存在。
戦いなど無縁だった一般人がその力に怯えるのは当然と言えば当然なのだ。
だから直人の感想は、ちょっと寂しいけれど、仕方のないことだとも思った。
しかしそれで距離を置こうとしたりはしなかった。
佐間直人は、奪魔デートラヘレたち敵対者への対策ではなく。
人間を容易く切り裂けてしまう“サナちゃん”の手を恐れることなく、迷いなく掴むために強くなると言ったのだ。
それをばっちり聞いてしまった。
結局サーナーティオは、朝になるまで一睡もできなかった。