ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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サナちゃんと

 

 

「じゃあ皆、行って来るね」

 

 朝、登校しようと皆に声をかける。「いってらっしゃいなのじゃー」「いってら……」と送り出してくれる淫魔っ子たち。

その中で、サナちゃんだけ妙にモジモジしていた。

 

「イ、イテラサイマセ……」

 

 なんか片言の外国人みたいになってる……。

 

「え、と、もしかして体調悪い? 学校休もうか?」

「いぇっ!? だい、大丈夫ですっ! ちょっとサキュバニック・マジシャンなだけですから!」

 

 今度は魔法使い族になった。

 もう一回念押しするけれど、「ちょ、ちょっと寝不足なだけです」と強く言われた。

 やっぱり気になるから、目配せでひーちゃんとらっちゃんに合図をする。そしたら何故かグラビアポーズが返ってきた。

 よし、絶対伝わってない。

 

「ごめん、サナちゃんのことよろしくね」

「任せて……」

「うむっ、なのじゃ」

 

 多少心配だけど、サナちゃん自身が大丈夫と言うからにはもうツッコめない。

 僕は後ろ髪を引かれつつも学校に向かうことにした。

  

 

 

 

 で、普通に学校生活を送って帰宅。

 

「オ、オカエリナサマセ……」

 

 あ、変わってない。カタコトサナちゃんのままだった。

 

「た、ただいま……今日はおみやげに甘栗を買ってきたんだけど」

「アリガトウゴジャマス……」

 

 変わってないどころかひどくなってない?

 

「さ、サナちゃん。僕、嫌なことしちゃった? だとしたら、教えて欲しい」

「そっ、そんなことなくっ! きょっ、今日はサキュバスの日なのでっ!?」

 

 サキュバスの日ってなんだろう。

 女の子の日とかと同タイプのアレなんだろうか。

 助けを求めるようにひーちゃんを見る。

 

「ふぅ……さーちゃんは、まだまだ子供……」

 

 訳知り顔で肩を竦めるだけだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 翌日もサーナーティオはぎこちなく佐間直人を見送った。

さて、直人が学校に行っている間、淫魔っ子たちはマンション部屋でお留守番をしている。

と言っても外出は制限されていない。

 普段ならサナちゃんは家事や買い物、歌ってみた動画の鑑賞など。

 ひーちゃんはゲーム三昧。

 らっちゃんは二人の趣味に付き合ったり、外に出かけて運動をしたり、サキュティちゃんねるのコメントチェックなどをしている。

 しかし今日は揃っての話し合いを行う。

 

「これより第七回サキュバス会議を始めたいと思います」

 

 説明しよう。

 サキュバス会議とは、らっちゃんが加わってから開かれるようになった、直人には聞かせられない話を皆でする時間である。

 栄えある第一回は「最高のかき氷とはいったいなにか?」。

 サナちゃんのいちご練乳、ひーちゃんのマンゴー、らっちゃんの宇治金時で激論を繰り広げた。

 その際は、「つまり抹茶シロップといちごシロップを混ぜて上からマンゴーソースをかけ、アイスクリームとあんこと白玉とマンゴーといちごと練乳を全部乗せればパーフェクトかき氷が完成するのでは? なのじゃ?」という答えに辿り着いた。

 

 最終的には「シンプルな方がおいしいですね……」「うん……」という真理にも至った。

 もっともサキュバス会議においては明確な答えが出ることは少ない。

 ぶっちゃけると人間の社会にまだ不慣れな淫魔っ子たちが感じたことをぶちまける場なのだ。

 時々、「おにーさんの負担を減らすためのライフハック」という議題もあったりするが。

 

「では、今回は私、大淫魔サーナーティオ・ドゥルケ・スアーウィスが議長を務めます」

 

 ちょこんと座った三人がテーブルを囲む。

 サナちゃんが切り出したのは先日のことだ。

 

「……ナオトくんと、上手く話せません」

 

 わりと切羽詰まっていた。

 

「いえ、原因は分かっているんです。ナオトくんが、私を大好き過ぎるんです。だから、ど、どのように対応をすればいいのか分からなくて」

 

 本キュバスはめっちゃマジメです。

 

「む、むむぅ? どういうことなのじゃ?」

「実は、偶然にも聞いてしまったのです。どうやら、最近鍛錬を頑張っているのは、前に私の戦いを見たせいらしく……」

 

 直人が強さを求めたのは敵に勝ちたいからではなく、一瞬でも大淫魔の力に怯えてしまった自分を恥じたため。

 サナちゃんと肩を並べるくらい強くなれば、もう二度と怯えなくて済む。

 怯えて、サナちゃんを傷つけることはない。

 つまり鍛錬自体が親愛の証。これからもずっと傍にいるための努力だと言ってもいい。

 

「種族の違いを目の当たりにして、それを乗り越えるために強くなる……。薄々感じてはいたんですよ? 言葉にしてないだけで、ナオトくんってばすっごく私のこと大好き過ぎるじゃないですか? それを彼自身の口から聞いてしまってですね、なんでか分からないけど緊張してしまって、今まで通りの接し方でいいのか、まで考えてしまってですね」

 

 頬を染め、手を当てて、ふりふり首を横に振る。

 

「わ、私これ普通の顔してお喋りしてて問題ないでしょうか?」

「逆になんでダメなのか分からない……」

「え、だって。え、えと、なんで、でしょう……? でも、何故かナオトくんと向かい合うのが妙にむずむずして、気恥ずかしさがあって」

 

 言ってるサナちゃん自身がよく分かっていないようだ。

 そんな彼女を見て、らっちゃんは腰に手を当てて、ぐっと胸を張る。

 

「ふふふ……妾は、さなさなのいる場所を既に通過しているっ! のじゃっ!」

「なっ、ど、どういうことですからっちゃん……!?」

 

 自信に満ち溢れたらっちゃん。

 驚愕の表情のサナちゃん。

 冷凍庫からカット白桃をとってくるひーちゃん。

 

「むぐ……ひんやりおいひぃ。コンビニってすごひ……」

「妾もちょーだい」

「なんで二人とも余裕な感じなんですか……」

「ひーも経験してるし……さーちゃんも、どうぞ」

「ありがとうごじゃます……冷凍した桃、美味しいです……」

 

 サナちゃんの議題は今一つ共感が得られなかった。

 というよりも、二人にとっては取り立てて騒ぎ立てることでもないというか。

 

「おにーさん、きっとさーちゃんがつれないから寂しがってる」

「うむ、間違いないのじゃ」

「え、あ、そ、そうですよね……ナオトくん私の事大好きですから」

「そこから揺らがないのはすごいのぅ……ま、まあともかく。ひとまずどーんとぶつかっていくべき! 後のことは後で考えるのが一番なのじゃ!」

 

 らっちゃんが背中をポンと押して、サキュバス会議は終了した。

 サナちゃんはしばらく何度も深呼吸をしていた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「サナちゃんの機嫌を損ねたかも知れない」

 

 僕はお昼休み、皆の前でそうぶちまけた。

 すると相沢くんはガブリとハンバーグにかぶりついた。

 

「最近のコンビニ弁当ってうめぇよなぁ」

 

 美桜さんも咲綾さんも、お弁当を食べながら答える。

 

「うちはお姉ちゃんもお母さんも手作りの人だから、あんまりコンビニ弁当って食べないのよね」

「お母さんも私も趣味な部分があるもの」

「当たり前のようにスルーされたっ!?」

 

 嘘でしょ、咲綾さんにもスルーされるとか想像もしていなかった。

 相沢くんの顔は完全に呆れかえっている。

 

「お前なぁ、サバがバイク乗って暴走族してるって言われてもよぉ」

「そんな話してないんですが……」

「だろ? 有り得ねえ話いきなりぶち込まれても反応しようがねえだろうが」

 

 姉妹もうんうん頷いてる。 

 

「そこで“嫌われた”って言わないあたりが直人だよね」

「そりゃあ、サナちゃんは理不尽に誰かを嫌う子じゃないし。でも僕が気付かないうちにちょっとムカっとさせてしまったけど、優しいから僕を気遣って言い出せないがゆえの現状は否定できず……」

 

 おろおろしていると、咲綾さんが優しく窘めてくれる。

 

「絶対に行き違いがあるから、落ち着いて話し合った方がいいと思うよ」

「そ、そうかな」

「うん。信じてもらって大丈夫」

 

 珍しく自信に満ち溢れた言い方だった。

 不安はぬぐい切れないが少し楽にはなったように思う。 

 そうして迎えた放課後、僕は重い足取りで昇降口へ。夏が過ぎて少しずつ夕暮れの時間は早くなった。

 夕陽の眩しさに目を細める。

 その先、校門の辺りには小さな女の子がソワソワとし様子で待っていた。

 

「サナちゃん……?」

「ア、ナオトクン、オ、オ帰リナサイ……」

 

 カタコトサナちゃんだった。

 自分でも今の喋り方がアレだと思ったのか、二度三度両手で頬を叩き、深呼吸してから改めて僕に話しかける。

 

「そ、そのですね。偶には、いっしょに帰りませんか?」

「あ、うん」

 

 なんか妙に照れる。

 僕たちはぎこちないまま通学路を並んで歩く。

 少し寄り道を、と僕が言いだして商店街まで足を延ばすことにした。

 

 秋の夕暮れはゆらりと滲み、ちょっとおしゃれなオレンジゼリーを思わせる。

 きれいな景色を見て食べ物を想像するんだから、僕にはロマンティック系の才能はないんだろう。

 サナちゃんは右手と右足がいっしょに出ており、ロボットみたいな歩き方だ。

 固い空気。もしそれを打開する力があるとすれば……そう、コロッケだね。

 

「サナちゃん、コロッケ食べよ。ひーちゃん達には内緒で。下校時の買い食いコロッケの美味しさを教えてしんぜよう」

「えっ、え?」

 

 ということでお肉屋さんに。

 最近はスーパーのお惣菜コロッケやコンビニのホットスナックもレベルが高い。

 しかしお肉屋さんのコロッケはやはり美味さがちょっと違う。

 道端で熱々の揚げたてを頬張る。この味わいがたまらないんですよ。

 

「ということで店長、こちらのサナちゃんに揚げたてを」

「任せとけぇ!」

 

 商店街のアイドル・サナちゃんなのでこれくらいの無理は普通に聞いてもらえます。

 カラッと揚がったコロッケを店先でハフハフいただく。

 

「あふっ。でもっ、美味しいです……」

「でしょ。コンビニでの買い食いも楽しいけど、商店街も楽しいよ」

「ブタちゃんで見ました。商店街買い食いスポット」

「全部回ろうと思ったら一日じゃ足りないなぁ」

 

 コロッケ効果で先程よりも和やかに会話ができている。

 サナちゃんも小さく笑ってくれていた。

 少し空気が柔らかい。だから、思い切って切り出してみた。

 

「ええと、さ。僕、知らないうちにサナちゃんを怒らせちゃったかな? でも、分からないまま謝るのはすごく失礼だと思うから、話を聞かせて欲しいんだ。もし話したくないくらい怒ってるんなら」

「いえ! ぜんぜんぜんぜん、そういうのじゃないですっ!」

「……ほんと?」

「ほんともほんと! 怒るどころか喜んでっ……あ」

 

 そこでサナちゃんはぴたりと止まった。

 おずおず、夕暮れの中で彼女はゆっくりと語り始める。

 

「そうです。普通に、喜んでたんです。ナオトくんのキモチが、心遣いが嬉しくて、だから照れて。なんか“きゅっ”てなったから、上手く喋れなかった……のだと、思います、はい」

 

 自分の発言に納得し、何度も何度も頷いている。

 

「今さらなんですが、ナオトくんは人間、なんですよね」

「うん、そりゃあ」

「私はですね。ああ、ですから」

 

 言葉を濁したけど「淫魔だから、人とは違う」的なことを言いたかったんだと思う。

 僕もそれをこの前改めて思い知った。

 

「それで、ごめんなさい。ひーちゃんとのお話、聞いてしまって」

「えっ」

 

 嘘、寝てたんじゃなかったの?

 ヤバい、超恥ずかしい。

 

「あのー、それは、その」

「ナオトくんの心遣いを知ると、途端に緊張して……いえ、違いますね」

 

 周りに聞かれないように、サナちゃんは僕にしゃがませ、耳元でひっそりと差囁く。

 

「“サナちゃんをモンスターだなんて思わない”でなく。“サナちゃんがモンスターであっても同レベルに強くなれば問題ない”と言ってくれたことが想像以上に嬉しくて。だけど照れてしまって、上手く喋れませんでした。ごめんなさい」

「い、いや、僕の方こそ。あ、はは」

 

 サキュバスであることを否定せず、今のサナちゃんのまま傍にいたいと願ったことが、心の琴線に触れたらしい。

 

 

 

「ナオトくん。怖い私でも、あの家に居ていいですか?」

 

 

 そう言った彼女の目には少しの怯えもなく、穏やかな湖面を思わせた。 

 

「いてもらわなきゃ困るよ。ああと、その。……本心だから。サナちゃんをサナちゃんとして受け入れられるくらい、僕はレベルアップしてみせるよ」

「……はいっ。らっちゃんとひーちゃんの言葉の意味が分かりました。受け入れられるって、キモチいいですね」

 

 ひーちゃんは不快害虫、らっちゃんは五大淫魔最凶。

 どちらも好まれない属性を持っていたからこそ、受け入れてもらえることを喜んだ。

 似た感覚をサナちゃんも覚えたのかもしれない。

 マジメな話の途中で恐縮ですが、最後のキモチいいの言い方だけ妙にいろっぽくてドキッとしました。

 

「さ、他のお店も寄りませんか?」

 

 差し出される手。

 一瞬の躊躇いもなく、サナちゃんの手を取る。

 小さく柔らかい、優しいこの手が離れて行かないように。

 

「うん、いいよ。おみやげは……今日はナシってことで」

「バレたら困りますもんね」

 

 お手々繋いで夕暮れの商店街を二人歩く。

伝わる温度のくすぐったさに思わず笑みがこぼれた。

 僕たちは商店街のお店の人たちにからかわれながら、それでも手を離すことはしなかった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 翌日、サナちゃんは完全に元気を取り戻していた。

 

「ふふんふっふんふーんふーん。あ、おはようございます、ナオトくん」

「おはよ、サナちゃん」

「朝ごはんの準備、手伝いますね」

 

 エプロンをつけながら、鼻歌混じりで台所に。選曲はやはり公式テーマソングです

 今日は軽めにトーストとハムエッグ。付け合わせのコールスローは昨晩のうちに作ってある。

 簡単なメニューだし、用意も食べ終えるのも早く済んだ。

 

「ここ最近はご迷惑をおかけしまして」

「そんな、ぜんぜん。今日はイベントなんだし、気にせず楽しもうよ」

「はい」

 

 サナちゃんは心底嬉しそうに笑ってくれた。

 

「キモブタさん、まだ? 学校まだかのう?」

 

 朝食後、サナちゃんに負けず劣らずご機嫌ならっちゃんが小躍りしていた。

 なぜかひーちゃんも無表情なままそれに合わせているので、ちょっとしたアイドルダンスみたいになってる。

 

「ひーも、けっこうたのしみ……」

「妾も!」

 

 この子達がソワソワしているのにはもちろん理由がある。

 というのも、色々な問題を乗り越えて、今日は文化祭の当日。

 僕たちのクラスの和カフェのお披露目だった。

 うちの高校は外部からの来場者も受け入れているので、サナちゃん達は僕の家族枠で学校に遊びに来るのだ。

 

「美桜さん情報で、椎名先生は今日一日別件で来ないって」

「つまりチャンスは今日のみ。さらに隠蔽の魔術、認識阻害マックスで挑みます。私も、一度ちゃんと学校に行ってみたかったんですよね」

 

 手乗りサナちゃんで校内の様子を知っているだろうに、結構楽しみにしているらしい。

 

「らっちゃん、ひーちゃん。二人とも、分かっていますね?」

「うむ! ひとつ、余計な騒ぎを起こさない!」

「ふたつ、おにーさんに迷惑をかけない……」

「みっつ! 妾たちはキモブタさんの妹分! 魂約者って言わない!」

「よっつ、バレの可能性があるなら早急に離脱……」

「そして五つ、学生の出店の食べ物にケチをつけない、です。お約束は随時追加するのであしからず」

 

 三人で「いぇーい」とハイタッチし合う。

 いつの間にか学校でのルールまで取り決めていたようだ。

 まあ楽しみなのは僕も同じ。これまでは通り過ぎるだけのイベントだったけど、今年はしっかりと見て回ろう。

 

 

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