ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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蟲魔ひーちゃん

 

 

 

 

 

「そう言えば、交番勤務のお巡りさんって出前とかよく使うんだよね。おすすめ出前料理なんてのもアリかな……? 動画にして頼む人が増えると困る場合もあるから、ある程度規模の大きなお店を取り扱う方が……」

 

 その夜、僕は次の動画の企画書を作っていた。

 サナちゃんはベッドで寝転がって漫画を読んでいる。お仕事の最中は邪魔をしない良い子だった。

 

「えっ、そのタイミングで裏切るんですかっ? 今まさに主人公と友情を育むところだったじゃないですか。おかしいおかしいです」

 

 僕の趣味で本棚の漫画は王道バトルもの、冒険ものが多い。

 グルメものは敢えて読まない。リアクションが被ると困るからだ。

 出前、そうだなぁ。王道は中華だけど、せっかくだし変わり種を探してみるのもいいかも、なんて考えているとチャイムが鳴った。

 こんな時間に誰だろう。不思議に思いつつも玄関に向かう。

 

「はーい」

「こんばんは……」

 

 扉を開けると、薄紫の髪をした褐色の少女がいた。

 年齢はサナちゃんと同じく小学校高学年くらいに見える。

 髪型は肩にかかる程度の長さで、それほど整えられていない。だぼっとした長いパーカーをワンピースみたいに着ており、下半身まですっぽり隠れているので“ハイテナイ”現象が起こっている。

 とろんと瞼が落ちた眠たそうな表情をしているけど、こちらからしたら目が覚めるほどに可愛らしかった。

 

「えっ、ひーちゃん!? どうしてここに?」

「さーちゃん……」

 

 僕の背後から玄関を覗き込んだサナちゃんが驚きに声を上げる。

 ひーちゃんと呼ばれた女の子はとてとて近寄り、「わー、久しぶりです」「うん……」と二人の少女がぎゅーっと抱きしめ合っている。

 

「えーっと、知り合い?」

「はい。私のお友達で、五大淫魔の一柱、ひーちゃんです」

 

 抱き合ったまま、ひーちゃんがピースサインでアピールしている。

 物静かだけどわりと愉快な性格のようだ。

 気怠そうな雰囲気の、褐色肌の美ロリっ娘。とりあえず淫魔スタイル・サナちゃんみたいにあからさまな露出衣装でなくてよかった。ウチに来るところを見られたら確実に僕が逮捕される。

 

「……もしかして、五大淫魔って皆ちっちゃくてカワイイ女の子だったりする?」

「いえ、ちっちゃい女の子が三・男性が一・触手が一です」

「それでもロリ率多いなぁ……」

 

 あと一人、あと一柱? いるのか。

 ともかくサナちゃんのお客様だ。玄関で騒いで人に見られても困るし、まずは室内に案内する。

 淫魔なら嗜好品を味わうくらいはできるだろうし、紅茶と冷凍のアップルパイを用意した。

 

「おお……」

 

 最近の冷凍スイーツは味がよく、僕も普段から五つくらいストックしている。

 ひーちゃんも意外と気に入ってくれたようで、美味しそうにぱくぱく食べていた。

 

「おにーさん、ありがと……」

「いえいえ」

 

 アップルパイ効果で多少空気が和らぎ、雑談がてらに今日の来訪について問うてみる。

 どうやら彼女はサナちゃんを封じた女神像が日本に流れたことを知って、追いかけてきたらしい。

 そして封印が解かれたことで漏れた僅かな魔力を察知して、居場所を探り当てたのだとか。「淫魔の隠蔽でもひーちゃんの目はかいくぐれません。なにせ数が違いますから」とサナちゃんが自慢げに話してくれた。

 

「さーちゃんが契約してるとは思わなかった……」

「ナオトくんは封印を解いてくれました。恩義には恩義で返す、当然のことじゃないですか?」

「うん。お礼はするべき」

 

 淫魔めっちゃ義理堅い。

 でも封印を解いたのは意識してのことじゃないのに命を救われた。むしろこっちが貰い過ぎた感がある。

 

「おにーさん、ありがと。友達を、助けてくれて」

「た、単なる偶然だよ。それに僕も助けられたし」

「それでも。お礼に、見逃してあげる……」

 

 淫魔めっちゃヤバい。

 そうだよね、どんなに可愛くてもこの子達は人間から快楽のエナジーを摂取するのが基本。僕だってその対象になり得る。

 というか、この子はえっちなことするの? ちょっといけない想像をしてしまった。

 

「ま、まあ、とりあえず積もる話もあるだろうし、今日は泊ってく?」

「……いいの?」

「うん。二人でベッド使って。一応、ワンセット替えの布団があるから僕はそっちで寝るよ」

 

 わーいとサナちゃんひーちゃんがはしゃいでいる。

 こう見ると普通のかわいい子供達で、ほっこりする。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「おい、キモブタ。起きろや」

「ふごっ!?」

 

 急に机が揺れ出して、僕は飛び起きた。

 辺りを見回せば教室。既に四時間目が終わり、既に昼休み。やばい。授業を受けた記憶が一切ない。

 ひーちゃんがウチに来てから三日が経った。

 僕は毎日寝不足がひどく、授業中に睡眠をとる羽目になっている。

 

「最近ずっと寝てんなぁ。仕事忙しいのか?」

「そんなとこ。あと、ちょっと親戚の子が泊りに来てて」

 

 そう、ひーちゃんはあれからずっとうちに泊っている。

 僕のマンションはもはや淫魔の拠点になってしまった。これ、春乃宮さんや椎名さんにバレたら絶対まずいヤツである。

 

「お前の場合生活かかってるから、ちゃんと寝ろも言いにくいんだよな」

「気遣いどうもです。でも大丈夫、休む時は休むから」

 

 相沢くんはウチの事情をうっすらだけど知っている。

 毒親で、生活費は自分持ち。休んだはいいけど、お金が……になる可能性は無きにしも非ずだ。

 

「んでよ、お客さん、また来てんぜ」

 

 親指で示した先には春乃宮さん。

 同じクラスのじゃなくて、美桜さんの方だ。

 最近は毎日のように僕らの教室に来て、いっしょにお昼をとるようになった。 

 

「おーい、佐間、相沢。お昼しよ」

「いらっしゃーい」

「いらっしゃいましたー」

 

 僕がふざけた感じで迎えると、それにちゃんと乗っかってくれる。

 家が神社で退魔巫女、わりと特別な育ちなのに結構ノリがいいのだ。

 

「今さらだがなんでお前らそんな仲良くなってんだ?」

 

 相沢くんの質問にクラスメイトが聞き耳を立てている。

 あ、興味がなさそうに見せてお姉さんもだ。

 

「ええと、僕が道端で絡まれてたのを助けてくれたのが春乃宮さんなんだ」

「キモブタぁ、それ情けなさ過ぎんだろ」

 

 ほんまや。

 でも端的に言ったらそういうことになるのでは、と思ったけど、春乃宮さんがけらけら笑いながら否定する。

 

「違う違う。佐間の、親戚の子? に虫がついてたから、払ってあげただけ」

「全然違うじゃねえか」

「それがきっかけで話すようになったって感じ。ところでさぁ、言おう言おうとは思ってたんだけど、いくら佐間が許してるからって、キモブタ呼ばわりはひどくない?」

「あん? だがよ、普通にキモブタだぞ?」

 

 春乃宮さんがマジメな顔で指摘するけど、相沢くんは顔をしかめている。

 動画を見てくれてる彼的には単なるあだ名程度の感覚だろうからね。

 

「あの、単に僕が動画配信でそう名乗ってるだけで」

「……どうが、はいしん?」

 

 あっ、これそもそも動画投稿サイトとあんまり縁がない人の反応だ。

 春乃宮さんはこてんと首を傾げ、ちょっと遅れて思い当ったのか、何度も頷く。

 

「あー、ちゅーばーだ。私は見ないけど、こういうのって身近にいるもんなのね」

「そうそう。そこで使ってる名前がキモブタだからで、別に悪口とかじゃないんだ」

「へぇ。じゃあ私も見てみようかな」

「ありがと。キモブタ地元メシちゃんねる、気に入ったらちゃんねる登録・高評価よろしくお願いします」

 

 いつもの締めを付け加えたら、相沢くんから「しっかり宣伝してんじゃねえよ」と軽いツッコミが入った。

 それを見て春乃宮さんもけらけら笑っている。なんだか、この子のいる昼食が当たり前になってきたなぁ。

 僕も思わず小さく笑う。

 気付くとお姉さんの方は教室からいなくなっていた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 ほんの少し変わった僕の日常は、以前よりも楽しい。

 学校でしっかり眠り、放課後には動画撮影。前もって約束していた“ロマン洋菓子店”に向かう。

 淫魔との契約で胃の調子が完璧な僕は、お店のケーキを全種類食べてそれぞれをレビューするという企画を敢行する。

 店長さんに頼んでイートインスペースの一角を撮影のために使わせてもらうことにした。

 お店側の協力もあり動画はスムーズに撮り終えて、後は編集するだけだ。

 

「すみません。撮影協力ありがとうございます」

「いえいえ、こっちこそ! タダで宣伝どころか撮影で食べる分もしっかり購入してくれて、むしろありがとうね佐間くん!」

 

 機嫌よさそうに何度も頷く、このスキンヘッドのおじさんがロマン洋菓子店の店長さんだ。

 全部のケーキを美味しそうに食べた僕を妙に気に入ってくれたっぽい。

 

「ほんとに、全部美味しかったです。それでですね、特にこの桃のフロマージュタルトと、イチゴのダブルクリームエクレア。シュークリームに、ベイクドチーズケーキの四種が特に気に入っちゃったんで、全部三つずつお土産に欲しいんですけど」

「あ、あれだけ食べてまだ十個以上お土産にするのかい……?」

「いや、美味しすぎて、親戚の子が来てるんでその子達にも食べてほしいなって。あ、お金はもちろん払いますから」

 

 それなら、と店長さんは喜んでお土産を準備してくれた。

 サナちゃんもひーちゃんも甘いものはけっこう好きみたいだし、いい買い物ができた。

 ちょっと浮かれ気分で自宅のマンションに戻る。

 

「ただいまー」

「あ、ナオトくんおかえりなさーい」

 

 僕が帰るとサナちゃんが玄関まで、とてとてお出迎えに来てくれる。

 一人暮らしをする前から「お帰りなさい」を言ってくれる人なんていなかったから、こういう些細なことが凄く嬉しい。

 

「ケーキ買ってきたよ、みんなで食べよ」

「わーい! ひーちゃん、甘いものですよ」

「わーい……ありがと」

 

 両手を上げて喜ぶサナちゃん、それに合わせるバンザイひーちゃん。

 淫魔の定義が時々揺らぎそうになる。

 

「ナオトくん、先にお風呂入りますか?」

「じゃあそうしようかな」

「分かりました。なら、その間にお茶の準備しておきますね」

 

 サナちゃんは僕がいない間、部屋の掃除をしたり、帰宅のタイミングを見計らってお風呂を用意してくれる。

 ただ、そもそも食べる必要がない種族だから料理だけはできないようだ。

 汗を流してさっぱりした後、皆でケーキタイム。

 

「おいし……」

「ですねぇ、甘くて濃厚。これもまた快楽です」

 

 淫魔っ子たちには栄養にならない嗜好品でしかないのだけど、喜んで食べてくれている。

 だから僕もついお土産を買ってきてしまう。

 紅茶を飲みつつ笑顔の二人を眺め、時折雑談を振ったりもする。

 

「ひーちゃん、ゲーム進んだ?」

「うん。おにーさんもやろ」

 

 彼女がウチに泊まっている理由はゲーム機だ。

 サンドボックス系の世界探索やフリーな建築を楽しむクラフト・ゲームが面白かったらしく、三日間ずっとそれをやっている。協力プレイもできるので、二人でメチャクチャ村を作った。最近の寝不足の理由です。

 

「洗い物は私がするのでナオトくんはひーちゃんと遊んでいてください」

「いいの?」

「はい。お昼間は、ずーっと“おにーさんはまだか”状態でしたから」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうね」

 

 片付けはサナちゃんに任せて、僕はひーちゃんとテレビの前に座った。

 ひーちゃんは何故か僕の膝の上にすっぽり収まってプレイするのが基本スタイルだ。どうも冒険よりもコツコツ建築をするのが好きみたいだから、僕は素材集めをメインで行う。

 

「ひーにー村、かなり大きくなってきた……」

「だね。出入り口の罠強化する?」

「うん。あと、畑の拡張も」

 

“ひーちゃんとおにーさんの作る村”からの名称らしい。

 洗い物を終わらせたサナちゃんも僕の隣に座ってテレビ画面を眺める。

 

「サナちゃんキャッスルは作れないんですか?」

「分かった。村のあとはお城みたいな建物……」

「僕ね、“お城”と“お城みたいな建物”にはかなりの差異があると思うんだ」

 

 後者はエロティックな意味で使われるかと思います。

 それから小一時間プレイした後、ひーちゃんはいつもより早くゲームを中断した。

 

「どうしたの?」

「そろそろ、ご飯を食べないと」

 

 言いながらひーちゃんはベッドに寝転がった。

 

「それって、もしかして僕を……」

「ちがう」

「あ、はい」

 

 速攻で否定されてしまった。

 彼女はそのままベッドごろごろしている。

 意味が分からず戸惑っていると、サナちゃんが説明をしてくれた。

 

「ひーちゃん自身は、“ふふふ、奴は五大淫魔の中でも最弱……”です。なんなら弱体化した今の私よりも下、小学生並みの運動能力しかありません。でも、使役する淫蟲は別。この子は最高レベルの蟲使いなんです。あ、ひーちゃんは本物のロリっ娘なんで安心してください。蟲が擬態してるわけではないので」

 

 なお当の本人、うにゃーと猫みたいなあくびをしている。

 

「五大淫魔が一柱、蟲魔ひーちゃん。その根幹たる能力は“淫蟲創造”。媚毒バチ、乳吸いヒル、ち〇こ蟲、目玉羽虫(めだまはねむし)、ア〇ルねぶり芋虫。ありとあらゆる淫らな蟲たちを魔力が続く限り生み出し、その子達が犯した者の快楽を貪る蟲使いの淫魔。甘いものが大好きで電子ゲームにずっと興味を持っていた、マンガでは筋肉のあるデカいキャラが一番強いと信じる女の子です」

 

 後半の情報一切いらない。

 でも、なんとなく理解できた。

 

「そっか、魔力とかを隠蔽してたサナちゃんを見つけられたのって」

「はい。目玉羽虫……視ることに特化した淫蟲を町に放ち、実際に私を確認したんだと思います。淫蟲が女の子にえっちなことをしたら魔力が得られるので、ひーちゃんが現場に行く意味もありません。淫蟲がいくら潰されても、本体にはダメージが行きませんしね」

 

 だからベッドでゴロゴロしながら淫蟲が適当に女の子を犯すのを放置すればいい、ということらしい。

 すごいとは思うけれど、人間視点だととんでもなく恐ろしい敵である。

 この子は可愛いけど、言ってみればレイプ魔だ。なのに受け入れてしまっている時点で、僕はすごくひどい奴だ。 

 

「……ひーちゃんの食事って、女の子を、その襲う、んだよね?」

「うん。淫蟲で絶頂させれば、私に還元される。退魔巫女だって、私の淫蟲コンボには勝てない」

 

 それは例えば、春乃宮さんや椎名さんでも?

 嫌な想像が過ってしまい、僕はひどく狼狽えてしまった。

 不思議そうにこてんと首を傾げるひーちゃん。僕とゲームをしたり甘いものを食べたりするけど、この子たちの本質は人間を食いものにする上位存在だ。

 分かっているのに、僕はつい言ってしまった。

 

「じ、実はさ。退魔巫女には、僕のともだ……知り合いが、いるんだ。その子を見逃して、もらえたり、なんて」

「いいよ」

「ごめん! 無茶を言ってるのは分かって……あれ?」

 

 ものっそい簡単に了承してもらえた。

 僕が言ったことは、つまり「貴女を殺そうとする人と仲がいいから見逃して」という要求だ。

 それをすることによって、ひーちゃんの危険度は高まるのに。

 

「おにーさんは、さーちゃんを助けた。代わりに私は、おにーさんの知り合いを見逃す。なにもおかしくない」

「そ、そうなの、かな?」

「それに、同居人のお願いを聞く度量くらいある」

 

 あれ? ひーちゃん今後も同居するの?

 たぶんそのツッコみはしちゃいけないんだろうな、というのは理解できた。

 

「でも、淫蟲は私のご飯集め係だから止めるのは無理。おにーさんの友達にはしない、他の人間も殺したり廃人にもしない。代わりに、おにーさんは私に甘いものを提供し、欲しいゲームを買って。これくらいが、私の限界」

「ありがとうっ、ひーちゃんっ! 明日さっそくパティスリー・ミスジのフルーツタルトを買ってくるね! あそこのは一個千三百円もするだけあってすごいよ、シロップにコーティングされた苺はまさしく赤き天上の宝珠……」

「退魔巫女について詳しく教えて。手を出さないよう淫蟲にがっつり命令しておくから」

 

 やっぱり淫魔、超義理堅い。

 僕はひーちゃんに感謝し、その小さな手をギューッと握った。

 

 

 

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