ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
廊下には客引きの生徒達や外部のお客様で混雑している。
それぞれのクラスが趣向を凝らした看板もあり、見るだけでもにぎやかだ。
外部の参加はチケット制。生徒が招待したい人に「これがあったら入れるよ」券を渡す形なので、大体が家族か親戚、親しい友達になる。
僕も家族を招待する、という形でサナちゃん達にチケットを渡した。
「うへへ……わたし、キモブタさんの家族……。家族です。あ、妾」
「らーちゃん、よだれ」
「おおぅ、ありがとなのじゃ」
結果として、現時点でらっちゃんが口調も定まらないほどトロけている。
しかもひーちゃんにハンカチでお口をふきふきされていた。
「あ、ここ美桜のクラスだよ」
「せっかくだし、寄っていこうか」
このクラスの展示は、オリジナル・ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの披露だ。
僕たちが行くと、ちょうど美桜さんが教室にいた。
「お、直人にお姉ちゃん。いらっしゃーい。って、ララたちも?」
「いらっしゃいましたのじゃ、みおーさん」
展示だからか、接客要員はそれほど多くない。
紹介よりも悪戯で壊されないように、という意図なのだろう。
「店員さーん、これってどういうやつなのー?」
「はいはーい。店員じゃないでーす」
なのに微妙に美桜さんは忙しそう。
男子生徒に声をかけられることが多い。まあしゃーない。可愛いから。
「……ピタ〇ラ、ス〇ッチ♪ むぐぅ……」
「はーい、ひーちゃん。色々問題が出てくるからダメですよー」
たいへん危険な歌を歌うひーちゃんの口を、サナちゃんの両手が覆う。
ナイスです。
「おぉ……びーだまが、かこんかこん進んですごいことになっておる。ぬぉっ!? 飛んだ」
「あー、ララくらい素直に反応してくれると嬉しいわー」
戻ってきた美桜さんは、らっちゃんの驚き用にご満悦だ。
木枠を転がるビー玉、それが倒したドミノがまた別の装置が起動して、ピンボールみたいなのを経由していく。
なんでこんなに上手く噛み合うのか分からないし、途中で飛んだピンが新たなスイッチを押したり、めちゃめちゃ計算されてる。
最後の装置が動くと、ぱたりと旗が上がって、『文化祭楽しんでください』というメッセージが。
「美桜さん、これすごいね。一から考えたの?」
「うん。特に飛んだピンが狙ったところに行くように調節するのが難しくて、何度もそこだけ繰り返して居残りまでしたんだから」
ぐっと胸を張って、ふふーんと勝ち誇った表情を見せつける。
いや、これは自慢したくなるのも分かる。たぶん僕だったら最初のビー玉部分さえ作れない。
「お姉ちゃんの和カフェは、明日行くね。サービスしてよ?」
「うーん、じゃあ、お菓子くらいは……かな?」
「あ、店員は指名式? なら、直人で」
ごめんなさい、そのネタは既にひーちゃんたちがやりました。
「てか今日はお姉ちゃんなら明日は私に付き合えー」
「分かった、分かったから頬をぐりぐりやめてもろて? 待って? なんでらっちゃんも一緒になってやってるの? 膝の裏はほんとにやめて?」
「のじゃー」
「のじゃではなく」
美桜さんとらっちゃんに一頻り弄られた後、明日の午前中の約束をしてから僕は他のクラスも回ることになった。
……改めて考えると、超目立つ。
咲綾さんは校内でも有名な美少女だし、サナちゃん達もいっしょにいる上に僕の容姿がアレだから、ただ文化祭を回っているだけでちらちらこっちを見てくる人たちがいる。
まあ右手にらっちゃん、左手にひーちゃん、お手々を繋ぎながら廊下を歩いてるからしゃーない。
でも全力で無視の精神で行きます。せっかくのイベントごと、周囲の反応を気にして楽しめないのは勿体ない。
ということでまず初めは、サナちゃんのご要望。三年生が出店するたこ焼き屋にやってきた。
「たこ焼き、一つくださいな。青のり抜きで」
「いっ、いらしゃい……?」
銀髪美少女のわくわく笑顔を間近で食らった男子先輩が困惑している。
六つ入りのたこ焼きは、作り置きではなく焼き立ての方が提供された。これもサナちゃんパゥワーだろうか。
「サナちゃん、たこ焼き好きだっけ?」
「いいえ、そう言うわけでは。ただ、お祭りではたこ焼きは欠かせないと。お腹いっぱいになったら勿体ないですし、皆でわけわけしましょう」
そう言って小さなお口に放り込む。
焼き立てなのでかなり熱く、ホフホフしている。
「あひゅっ、あひゅひれふ」
「この熱さもたこ焼きの醍醐味だよ」
僕も一つ。うん、手作り感のあるたこ焼きだけどちゃんと美味しい。
「美味しいね」
「だね」
咲綾さんからも合格点をいただけた。
天かすや紅ショウガ、ネギが入った大阪たこ焼き。なかなかのお味だ。
「んく。ふあぁ、熱かったけど、美味しいです」
海の家のメニューには微妙な顔をしていたけど、こっちは気に入ったようだ。
六個を皆で分けて残りは一個。サナちゃんの希望なので権利は彼女にある。
「ナオトくんナオトくん、しゃがんでください」
「うん?」
「はい、あーん」
それを僕に食べさせようとする。
ごく自然に受け入れて、後から人目のあるところではちょっと恥ずかしかったかな、と気付く。
でもいいや、サナちゃんが嬉しそうだし。
「美味しいですか?」
「うん、すっごく」
えへへー、と無邪気な笑顔。
それをじーっと見る咲綾さん、ひーちゃん、らっちゃん。
流れるようにらっちゃんは再度たこ焼き屋に。
「たこ焼き追加を、なのじゃ」
「ダメだよらっちゃんここだけでお腹いっぱいになっちゃう!?」
当然それは止めました。
だってあれ全員であーんしようとする流れですよゼッタイ。
※ ※ ※
ひーちゃんのご要望は輪投げだった。
教室の床には小さなぬいぐるみや駄菓子などの景品がいくつか置かれている。
「投げ輪は一人三つ。このラインから欲しい景品に投げてもらって、すぽっと見事入れることができたら成功。最大三つの景品の中から、一つ欲しいものを選べまーす」
案内担当の生徒が明るくルールを説明してくれた。
全部成功させても一つしかもらえないのは、費用的に仕方ないんだろう。
「この輪っかの穴に入ったら、もらえる?」
「そうですよー」
ひーちゃんは投げ輪を受け取り、それを投げずに、僕の頭の上に乗っけた。
そしてグイグイ押し込んで、ムリヤリ僕の頭を通そうとしてくる。サイズが合ってない上に力がないので頭に輪っかを乗せてグッと押しているだけである。
「景品ゲット、景品ゲット」
「ひーちゃんひーちゃん、どう頑張っても僕の頭には入らないよ」
「でも一番欲しい景品……」
「はーいお客様ー、イチャついてないでさっさと投げやがれくださーい」
案内の生徒さんに小さく舌打ちされた。ひどい。
閑話休題。ひーちゃんは投げ輪を手に僕たちに向き直る。
「サアヤ。勝負。パズルゲームの借りを輪投げで返す……」
「う、うん。でも、大丈夫? ヒラ、ひーちゃん」
実はひーちゃん、配信の時にサナちゃんに負けて以来パズルゲームを練習している。
そのお相手に咲綾さんが選ばれたけど、そこでも敗北を喫するという悲しい結末を迎えていた。
無表情ながらにめらめらと闘志を燃やす。
集中し、狙いを定め……今、彼女の手から投げ輪が放たれた!
一投目、届かなかった。二投目、隙間にぽてり。三投目、景品にかすりもしない。
しゅーりょー。
「…………ムリだった」
めっちゃ悲しそうな目でじーっとこっちを見てる。
なぜ体を使うゲームで勝負を挑んでしまったのか。
次は咲綾さんの番だ。もともとそれほど難度は高くないゲーム。項垂れるひーちゃんを尻目に、当然のように三投全部成功させた。
「あの、ごめん、ね?」
「ふ、ふふ。確かにひーは敗北した……だがいずれ第二、第三のひーが」
「のう、さなさな。第二第三のひーって何者?」
「たぶん私たちのことじゃないでしょうか」
いずれも何もちゃんと順番待ちしています。
咲綾さんは賞品の小さなおやつドーナツ(三個入り)を受け取る。
続くらっちゃんとサナちゃんも普通に賞品をゲット。ただ、なにを選ぶかは迷っているようだ。
「うーん、ぬいぐるみ。でも……やっぱり、おかし、の方がいい、かのぉ……?」
らっちゃんは小さなぬいぐるみと駄菓子を天秤にかけている。
あ、違うや。ぬいぐるみの方に傾いているけど、一個も賞品をとれなかったひーちゃんを気にしている感じだ。
「よし」
僕の番になって、一回ミスってしまったけど狙った小さな犬のぬいぐるみをゲット。
それをそっとひーちゃんに手渡す。
「これ、もらってくれる?」
「……いいの?」
「うん。というか、もらってほしい」
ひーちゃんは満面のといった感じではないけれど、普段の無表情ではなく、もにょもにょと口を緩ませていた。
「おにーさん、ありがと」
正直、景品は安物なのに宝物のようにギュッと胸に抱きしめる。
そうなればサナちゃん達も気兼ねなく景品を選び、三人とも別のミニぬいぐるみを選んだ。
「サナちゃんは、ペンギン?」
「はい、かわいいですよね」
「妾はやっぱり猫さん!」
ネコミミ淫魔だからか、らっちゃんは猫のぬいぐるみを顔の横に持ってきて「にゃー」なポーズを決めていた。三人お揃い、という状況にかなりのテンションが上がっている。
そのままの流れで、らっちゃんのご要望にである三年生の教室に来た。
「仲良しクイズ……?」
説明を見ると、数名のグループで参加するクイズゲームのこと。
企画側の生徒が出題者となり、参加者Aに関する問題を出す。たとえば「趣味は?」とか「好きな食べ物は?」みたいな。それに参加者B以下数名が答え、Aが正解かどうかを確認。
……これ、クイズ○○さん100の事みたいなやつだ。
「らっちゃん……? これ、やりたかったの?」
「うむ、妾達がいかにキモブタさんと仲良しかを知ら、しら、しるるるるのじゃ」
「知らしめる、ですよー」
「さなさな、ありがとっ」
複数のお客様をさばくために、教室内で五か所くらいに分かれて同時進行しているらしい。
担当になった男子生徒がブ男1、美少女1、美ロリっ娘3の組み合わせに少し驚いていた。
教室の一角に案内され、お決まりのルール説明が入ってから、クイズキモブタのことが開始される。
「第一問、佐間直人くんの趣味は」
「妾とっ、じゃれ合うっ!」
「ひーとゲーム」
らっちゃん、ひーちゃん、問題当てにいくよりアピールの方がメインになってません?
「えーと、動画はお仕事ですし、ゲームや漫画も嗜むけど、趣味と言うならやっぱり食べ歩きでしょうか?」
「食べ歩き、かな?」
こっちの二人はあからさまにニコニコしてはる。サナちゃんと咲綾さんはもう立ち位置が完全に保護者だ。
司会役の男子生徒は顔を引きつらせながらもどうにか進行を続ける。
「せ、正解は?」
「……全部です」
そうとしか答えられないよ。
ひーちゃんとらっちゃん否定したら絶対へこむし、だからってサナちゃんや咲綾さんを不正解にするのもしのびないし。
続く問題は好きな食べ物や、旅行に行くなら、みたいな無難なものだった。これならイケる、と思った矢先に司会役がぶっこんできた。
「第五問、好きな女性のタイプは」
「透け透けレオタで猫耳金髪、なのじゃ」
「褐色ロリ巨乳」
「銀髪、魅惑のつるぺたボディです」
「……どど、同級生で、その、幼馴染みな、巫女……なんて」
あっ、駄目だこれ。
どう答えても僕のクソ野郎度がどんどん上がる。
「……正解は?」
「…………………全部です」
女の子達は「正解だー」と無邪気に喜んでるけど、僕の方の空気は冷えっ冷え。
しばらく針の筵どころかつららの剣山に座るような状況でクイズは続けられたのだった。
※ ※ ※
「あー、おもしろかったのじゃ!」
らっちゃんが満足そうにしているのなら、僕の負ったダメージも報われるというものです。
淫魔っ子たちはそれぞれ見たいところに行けたので、一度仕切り直して咲綾さんに話を振る。
「咲綾さんは、どこか行きたいところある?」
「そうだなぁ、占いの館は興味あるかな」
「あの、これ、変な意味じゃなく。本当に魔を祓えちゃう系の巫女さんでも、占いとかするの? 本職の、すごい人とか知り合いにいそうだけど」
「ええと、いるって聞いたことはあるよ。でも、こういう占いは別。当たるか当たらないか、くらいの方がいいの。朝の星座占いも見てるよ」
その手の巫術の使い手はいるっぽいが、正確な占いって言われてみたら確かに微妙だ。
エンタメとしては精度が低い方が楽しめるのかもしれない。
「ならそこに行ってみようか」
「うんっ」
廊下を歩きながら、咲綾さんは鼻歌混じりだ。
去年は夏雅城パイセンの後ろに控えて、仲を喧伝するように校内を歩いていた。
あの時は辛くて目を逸らしていたから、どんな表情をしていたのか分からない。でもたぶん、内心を押し殺して、表面では笑っていたんだろうな。
でも今は自由に文化祭を楽しめる。それだけでもよかったと思う。
「あ、ここだよ」
咲綾さんの声は浮かれている。
占いの館は一年生の教室で、紫色のカーテンを出入り口にかけていた。
教室内は暗く、ロウソク型のランプを使って雰囲気を出している。
占いは、タロットカード……じゃなさそう。
「ジェイミーカードですね」とサナちゃんがさらりと説明してくれる。
「じぇいみー?」
「十八世紀頃、イギリスの占い師ジェイミー・ハリスが作製したとされる、猫や騎士、天使や悪魔などが描かれた四十枚の絵カードです。日本ではあまり使われませんが」
「へえ、よく知ってるね」
「そろそろ忘れられてますけど、私はもともと欧州で活動していた身ですからね?」
そう言えばそうだった。
もうずっとウチにいたような気がしてた。
「一番スタンダードなのは五芒星を描くようにカードを置き、それを引くというもの。ここもその形式のようです」
ほー、と感心していたら、店員さんは「全部説明された……」とちょっと悲しそうでした。
占う内容は本来なら五芒星に対応して健康運、恋愛運、金運、仕事運、全体運の五つ。でも多くのお客様を捌くため、全体運と恋愛運の学生が気になりそうなものに絞って言うらしい。
ここでは咲綾さんがメインなのでまず彼女から。
五芒星の頂点と左上、猫と人魚のカード。
「人魚の逆位置カード。全体運は、普通です。ボタンの掛け違いで上手くいかないこともあるので、なにかを選ぶ際には周りの意見を聞くことが大切です。
猫の正位置カード。恋愛運は好調です。アクシデントがあっても、それを受け流せるしたたかさとしなやかさがあります」
結果としては微妙なところだった。
「もう一回やる? 出るまでガチャを回すのがピックアップを当てるコツだよ」
「そ、そういうのはコツと言わない気が……。でも、全体運はともかく、恋愛運はそんなに悪くないから」
恋愛関係で「したたかさがある」は高評価なのか僕にはちょっと判断ができません。
でも咲綾さんはふんわりと微笑んだ。
「別に結果が欲しい訳じゃないの。ただ、文化祭を皆で回って、ちょっとした占いで雑談に花を咲かせる時間がすごく楽しい」
「そっか、ならよかった。何かを選択する時の周りの意見に僕も数えておいてもらえれば幸いです」
「もちろん、直人くんのこと、頼りにしてるよ」
ぎこちなかった僕たち。
疎遠だったけれど、今は触れ合うくらいの距離にいられる。
そんな和やかな僕たちの会話を見てボッチ歴の長いらっちゃんが「分かるのじゃ……」してるし、他の二人は思いっ切りナデナデしてる。
「よし、じゃあ僕も占ってもらおう」
なお結果、全体運はガイコツの逆位置。
僕はデブです。
恋愛運は痩せこけた男の正位置。
言うまでもなくデブです
「咲綾さん、たぶんだけどこの占い信用ならないよ?」
「ひふっ、そんなこと、ないよ?」
「僕にガイコツと痩せこけた男が出る時点でもう無理だよ?」
「おっ、追い打ちやめて……!?」
笑うのを必死にこらえる咲綾さん。
なお、その隙にサナちゃんもちょっと占ってもらった模様。
「天使のカード……あっ、占えてないですねこれ。大天使サナちゃんです」
淫魔です。淫魔なのに天使が出ました。
いやサナちゃんは天使だから淫魔でも天使で問題ないけど種族的には淫魔なので、ついに咲綾さんが限界を迎えました。
物静かな美少女のガチ笑いにちょっと店員さんが困惑していました。
※ ※ ※
咲綾さんの占いが終わり、僕たちは再び文化祭巡りに戻った。
過去はどうあれ、一緒に和やかな時間を過ごせることが純粋に嬉しい。
「そういえば、さっきのクイズ。直人くんの趣味って食べ歩きで合ってた?」
「うん、仕事兼趣味だね。新しい店の開拓も好きだし。漫画とゲームも好きで、最近は皆で遊ぶのも好き。動画編集も好きでやってる部分があるから、僕けっこう多趣味なのかも。咲綾さんは?」
「やっぱり、料理になるのかなぁ。誰かに喜んでもらえるのが嬉しい、っていうのがあさましい気もするけど」
美桜さんと比較されていた期間が長いから、彼女は自分の価値を今一つ信じ切れていない。
趣味の料理は「自分だけの何か」を探した結果であり、聞こえは悪いが承認欲求の延長のように感じられるのだろう。
「僕の動画は毒親から抜け出したかったが理由だけど、今じゃ“キモブタ”が心の支えだよ。スタートがどうでも、咲綾さんのお弁当はすっごく美味しいから、それでいいんじゃないかな? ということで今後もお弁当よろしくお願いします。材料費ももちろん負担します。ハンバーグはチーズがジャスティスです」
「……ふふ、お金はいいって。じゃあ、今後は直人くんに美味しいって褒められるのが趣味、に変えようかな」
「どんどん変えたってください」
お互い茶化した物言いで笑い合う。
暗くなりそうな話題はここでおしまい。
「お、ちょうど軽音部のライブの時間だ。体育館行く?」
「そうだね、楽しみ」
咲綾さんは子供のように無邪気な笑顔だった。
※ ※ ※
ぶっちゃけると、僕も咲綾さんも学校にあんまり友達がいない。
軽音部に知り合いがいるということもないのに、なぜライブに拘ったのか、理由を聞いてみた。
「そもそもライブって行ったことがないから……」
そうでした。
咲綾さん、退魔巫女修業やら料理の勉強やらで全然遊んだことがない。
すごく強いのに友達とカラオケやらダーツやらビリヤードを楽しんでいる美桜さんのバイタリティの方が例外なのだ。
つまり特別軽音部に思い入れがあるのではなく、“ライブ初体験”というだけだったらしい。
体育館に入ると、すぐ大音量の波に押し流されて、僕たちは目をぱちくりとさせた。
舞台の上ではちょうどギターの人がソロでの演奏を披露しているところ。遠目でも分かるくらい指の動きが激しい。
それが終わるとボーカルがマイクにかぶりつくような勢いでサビの部分を歌い上げる。
この歌、コピーじゃなくて自分たちで作詞作曲したものらしい。
「すごい盛り上がってるね」
「うん! ライブだけじゃない。なんだか、こういうのって、嬉しいね!」
楽しいでも凄いでもなく、彼女はそう言った。
もしかしたら、学生が作った大きなイベントに気兼ねなく参加することで、退魔巫女として頑張ってきた結果を改めて認識したのかもしれない。
自分が淫魔を倒したから、こうやって皆が舞台に立てる。それを喜べる時点で咲綾さんが優しいってことなんだけど、自分では気付いていないのだろう。
曲が終わり、割れるような拍手が響く。
僕も咲綾さんも熱に浮かされたように喝采を送っていた。
※ ※ ※
二日目、午後。
昨日はガッツリと遊んだけど、その分今日はしっかり働く。
本日の店員のエースは、ひいき目抜きで間違いなく咲綾さん。やっぱりフリル付きのオレンジのミニ着物が良く似合っている。
お客の男子生徒には見惚れている人もちらほら見える。
昨日に引き続き近藤くんと、登則さんも店員として頑張っている。なかなか盛況で、僕も何度目か分からない抹茶ラテを用意していた。
近藤くんに注文の品を渡し、何の気なしに教室の様子を見る。
そうして、僕は固まった。知っている顔を見つけたからだ。
「は……なん、で?」
文化祭は、外部の参加はチケット制。
だいたいの生徒は家族に渡してあるけど、没交渉な僕はそんなことしていない。
なのに、何故か。
教室にはお客様として僕の兄……