ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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文化祭後の教室でえっちなことしないから美桜さんは清楚

 

 ちょっと時間を遡り、文化祭二日目。

 今日はサナちゃん達が来れず、午後は和カフェでの作業が入ってる。

 なので空いている午前中に、美桜さんと二人で回ることになった。

 

「ほら、直人」

 

 彼女は自然に僕の手を引く。

 あんな物凄い炎を産み出すのに、小さくて柔らかい手。だけど、少しカタくなってる部分もある。僕の股間の話じゃありません。

 

「あ、気になる? 仕事柄、どうしても、ね」

 

 ちょっと気まずそうな表情。

 刀を持たない美桜さんも相応の鍛錬を積んでいる。その結果が現れた手なんだろう。

 

「ありがとうございます。僕たちを、守ってきてくれた優しい手だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどさぁ、廊下で拝むのやめてくんない?」

 

 ケラケラと笑ってくれたので、暗い雰囲気は吹き飛んだ。

 

「とりあえずさ、三年のスムージーショップが気になってるんだよね」

「おー、行ってみようか」

 

 スムージーショップは様々な種類の野菜や果物を入れるのではなく、一種類に絞ってコストダウンをはかったお店だった。

 僕が選んだのはオレンジスムージー、美桜さんはキウイスムージー。二人で飲みながら校内を回る。

 

「意外とイケるじゃん」

「うん、美味しいね。こうやって見ると、どこのクラスも色々考えてるよね」

「私らみたいに展示で当日遊ぶことをメインにしてるところもあるけどねー」

「それも文化祭の楽しみ方の一つということで」

「あ、占いの館だってちょっと寄ってみよ」

 

 指さした先は、昨日も行った教室だった。

 しかも入ると運悪く、見たことがある店員にぶち当たってしまった。

 

「あなたの運勢はゴミカスです」

「待って店員さん? まだカード並べてないよ?」

「あなたの運勢は遊園地のフリーフォール並みの勢いで急降下してほしい」

「もうただの願望だよね?」

 

 いや、言いたくなる気持ちも分からないけどさ。

 ちなみに美桜さんの方は普通にイイ感じの結果だった。

 

「全体運は金貨の正位置。安定した生活を得られるでしょう。恋愛運は要塞の逆位置、無防備さが逆に功を奏します」

「無防備ねぇ。むずかしそ」

 

 いや、わりと無防備なタイミングありますよ?

 僕の手を何の気なしに引いたり。

 

「そういや、直人は午後から和カフェの方だっけ?」

「うん、裏方だけどね」

「んー、じゃあもうあんまり時間ないかー」

 

 美桜さんが残念そうな顔をする。

 それが嬉しい。僕との時間を惜しんでくれてるって証拠だから。

 

「ぎりぎりまで見て回ろ。長い時間かかるヤツはナシで」

「じゃあ、近いとこだとお化け屋敷とかは?」

「私、お化け屋敷の楽しみよく分かんないのよね。本物知ってるから」

「あぁ……。なら射的はどう? 賞品も貰えるよ」

「よしっ、勝負ね」

 

 にぱっと笑ってまた二人で歩く。

 途中で美桜さんのお友達勢から「あー、二人でデートぉ?」なんて声をかけられるなんて一幕も。まあ彼女の方が手をひらひらして適当にあしらったけど。

 

「まったくあいつらは」

「いいじゃない、仲良さそうで。僕と咲綾さんなんて昨日誰にも声をかけられなかったよ」

「相変わらず悲しくなるわね、二人して。……っていうか、いくらお姉ちゃんとは言えこのタイミングで名前を出すのは、ちょっとマナー違反じゃない?」

「はひ、ふひはへん」

 

 頬を両手でグッとつままれてうまく喋れなかった。

 というかそういうことされると、美桜さんの美フェイスが目の前に来るので緊張してしまう。

 

「なんて、じょーだん。ま、直人のおかげでお姉ちゃんも明るくなってきたしね」

「……実は美桜さんって、けっこう咲綾さんのこと好きだよね?」

「あー、どうだろ? ほら、お姉ちゃんってヤなことあっても我慢するタイプでしょ。私はこんにゃろって殴り返す方だから、今一つ相性は良くないのよね」

 

 実は僕もこんにゃろ勢です。

 

「ボンボンの婚約のこととか、引っ掛かるところは沢山あって。正直、前は微妙だった。今はけっこう仲良くやってるよ。なにせ、姉妹でヤバイ秘密を共有してるから」

「うぐ」

「あはは、気まずそうな顔しないの。おかげで話す機会も増えて、うまく姉妹やれるようになったんだから。そういう意味でも感謝してる」

 

 一歩前に出た美桜さんはくるっと振り返って、照れくさそうに笑った。

 その表情の優しさに思わずドキッとしてしまう。

 

「直人のおかげだよ」

「う、あ。なんか、照れるなぁ」

「うん、照れさせるつもりで言ってるから」

「なんという小悪魔ムーブ……!?」

 

 巫女に淫魔に小悪魔に僕の周りが大変です。

 

「さあ、時間いっぱいまで遊ぶよ」

「わ、待って美桜さん」

 

 また手を引かれ廊下を走る。

 頬が緩んでしまうのは、仕方がないことだろう。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 文化祭二日目の午後。

 咲綾は和カフェのウェイトレスとして働いていた。

 見目麗しい彼女目当ての客は多い。注文以外にも呼び止められるが、どうにか受け流しつつ接客を続ける。

 

「わ、お姉ちゃん。その衣装、すっごいかわいいじゃん」

「はー、すっげーな。オレ、高校の頃こんなんできなかった」

 

 美桜と、チケットを渡した秋英寺楓も様子を見に来てくれた。

 ちらちら店内を見回してる妹の方は、他の目当てがあるのではと思わなくもないが。

 

「いらっしゃいませ、美桜。楓さんも。売上貢献ありがとうございます」

「はいはーい。えーと、抹茶ラテと、豆大福ね」

「オレはコーヒーで。菓子は……いいや。焼きそば食い過ぎた」

「お姉ちゃん、直人は?」

「今は裏で頑張ってくれてるよ」

 

 調理スタッフは没入感を損ねないよう敷居を作って、そこで調理をしているためホールスペースからは見えない。美桜は「なんだ、残念」と口を尖らせていた。

 次々と客が押し寄せるため裏方も忙しく、直人は美桜の来訪に気付いていない。だから、あまり嬉しくない人物についても、察することができなかった。

 そのためホールでは普通に咲綾が対応をしていた。

 

「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」

 

 案内したお客様は、高身長の、すらりとした理知的な美形だった。

 彼はちょっと間を置いてから、柔らかく微笑んだ。

 

「あれ、君は……咲綾さん、だったかな?」

「え……?」

「覚えていない? 直人の兄、武尊だよ」

 

 咲綾は小さく驚いた。

佐間武尊(さま・たける)のことはちゃんと覚えている。

 直人の二つ上の兄で、勉強も運動もできる優等生。ただし直人には辛辣で、「こんなデブが弟だなんて恥ずかしい」と直人をこき下ろしていた男性だ。

 つい最近も、佐間家の人たちは直人の学費を打ち切ったと聞いている。

 佐間家にはいい感情を抱いていなかった。

 

「久しぶりだね」

「は、はい。あの、どうして、ここに?」

「弟の頑張りを見ようと思っただけだよ。偶然とはいえ、咲綾さんに会えたのは幸運だったかな」

 

 おそらく、傍目には弟思いの優しそうな兄に見えているのだろう。

 過去のことや学費の件がなければ咲綾も優しそうな男性と思ったかもしれない。

 

「そうじゃなくて、チケット……」

「ああ、友人にもらったんだ。直人はくれなかったからね。まったく、あいつは不義理で困るよ」

「ふ、不義理なのは、あなたたちじゃないですか」

 

 他の生徒もいるのに声が一段低くなった。

 咲綾のあからさまな態度に、武尊は困ったような顔をする。

 

「おかしいな。俺は、君に嫌われるようなことをした?」

「昔から、直人くんにひどいことを言っていました。それに、学費の件も」

 

 冷たく返せば彼は溜息を吐く。

 

「あいつはまた、自分の都合のいいように……」

 

 困ったように溜息を吐く。

 その反応も少し意外だった。

 

「学費の件。たぶん、直人から自分だけが打ち切られたみたいに聞いてるよね。それは違う、あいつが嘘を吐いたんだよ」

「それは、どういう」

 

 聞き返そうとしたところで、がたんと大きな音がする。

 

「に、兄さん! なにしてんの!?」

 

 そのタイミングで、慌てた様子の直人がこちらに突っ込んできた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 なんか武尊兄さんが咲綾さんをナンパしそうな雰囲気だったから思わず飛び出してしまった。

 

「ああ、直人いたのか。俺は久しぶりに会った咲綾ちゃんに話しかけていただけだ。男女の間に割り込むなんて、無粋じゃないか?」

「……変な言い方しないでください」

 

 僕以上に、咲綾さんが嫌悪感マシマシ。

 兄さんは肩をすくめた。

 

「困ったな。そもそも恋人でもあるまいに、直人に邪魔する権利はないだろう?」

「変質者に襲われる美少女を守るのに権利なんていらないむしろ義務です」

「お前は時々無茶苦茶を言うな……」

 

 うるさい、呆れた顔しないで欲しい。

 

「聞いたぞ? 咲綾ちゃんに、変なことを吹き込んだって」

「なにを言って」

「自分が虐げられている、なんて嘘で同情を買う。お前のお得意の手口じゃないか。だが、そういうのは良くない。もうお前も高校生なんだから、ちゃんとしないと」

「はぁっ!?」

 

 この、ほんっとに、この人ムカつくなぁ……!

 お得意の手口というなら武尊兄さんの方だ。

 こうやって小学生の頃、数少ない友達を奪われた。

 かつての不安が忍び寄って来る。

 

「何が言いたいのか分かりませんが、今は文化祭です。騒ぎをおこさないでくれませんか」

 

 でも咲綾さんは冷静だった。

 兄さんに対して、厳しい視線を送っている。

 だけどそれを受け流し、悔しいくらいにイケメンなスマイルを咲綾さんに見せつけ、兄さんはスッと立ち上がろうとする。

 

「咲綾ちゃん、詳しいことは」

「はい、お座りくださーい」

 

 なお実際には立てず、背後から折原潤さんに肩を押さえられ、もう一度座らされた。

 ダサい。

 

「……」

「……」

 

 沈黙する咲綾さん。沈黙する兄さん。呆然とする僕。

 テイク2。

 

「咲綾ちゃん、詳しい」

「他のお客様の迷惑になりますのでー」

 

 なおテイク2も立てず、背後から近藤正樹くんに肩を押さえられて、もう一度座らされた。

 超ダサい。

 

「もうさぁ、また変なのに絡まれて。え、なにお姉ちゃん。もしかして、アレな男を誘惑するフェロモンとか出してんのー?」

「出してないよっ!?」

 

 さらに美桜さんが横から口を挟む。

 もはや緊迫のシーンを保つことは不可能になっていた。

 

「えーと、相沢くんもやっとく?」

「勘弁しろや。お前が我を張らにゃならん場面で出しゃばりゃしねえよ」

 

 一応、ホールに相沢くんもいます。

 だけど介入するつもりはない模様。ただし、兄さんが暴れたらいつでも飛び出せる位置にじりじりと間合いを調整するのが彼です。

 なので、僕もはっきりと言う。

 

「もうさ、帰ってもらっていい? こんな騒ぎ起こして、先生たちが来ても困るでしょ」

「ま、まあ、変な空気になったしな」

 

 さすがに居た堪れなくなったのか、兄さんは溜息を吐いて教室を出ていく。

 悲しい。こんな悲しいナンパ失敗を見せつけられるなんて。

 

「ああ、咲綾ちゃん。今度、二人きりで話がしたいな」

 

 それでも去り際、最後にもう一度だけ咲綾さんを誘う。

 しかし彼女が返事をするより早く、秋英寺さんが真顔で言う。

 

「いや、大学生っぽいのが学祭に乗り込んできて女子高生ナンパってイタくね? 少なくともオレはないなー」

 

 なんか身も蓋もないこと言ってません?

 

「直人ー、私はお姉ちゃんと違ってけっこう一途系だよー」

「……美桜?」

 

 美桜さんは手をひらひらさせながらなんのアピール?

 もう完全に空気が緩み切っていた。

 兄さんも馬鹿らしくなったのか、肩をすくめてそのまま去っていった。

 

「く、くぅ……!」

 

 あっ、違うわ。けっこうダメージ受けてる。

 間男ムーブが全然機能しなかったな……。

 でも折原さんと近藤くんが「いえーい」とハイタッチしてるから良しとする。

 美桜さんは不機嫌そうに僕に問う。

 

「てかさ、あんなのにまでチケット渡したの?」

「え、僕、渡してない……」

 

 今更ながら気付く。

 本来部外者は、生徒からチケットを貰わないと文化祭に参加できない。

 なのに、なんで兄さんがここにいたんだろう。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 咲綾は手の中にある紙切れを確認する。

 教室から出ていく時、すれ違った武尊はメモを渡していった。

 彼の連絡先だろう。おそらく、「直人が都合のいい嘘を言っている」という言葉が気になるなら連絡してくれ……ということなのだろう。

 武尊は、咲綾が直人に騙されているような言い方をしていた。

 本当のことはいったい…… 

 

「ごめん、燃えるゴミってどこかな」

「あ、こっちに集めてるよー」

 

 ……とか別に興味なかったからクラスメイトの持ってたゴミ袋に連絡先を捨てた。

 超捨てた。

 

 直人とは疎遠だった時期もあり、彼のすべてを知っている訳ではない。

 しかし、もうサナちゃんやひーちゃんやらっちゃんとの接し方で十分理解した。

 佐間直人は他人を陥れる嘘を吐ける男ではない。むしろ、なんやかんや変な事態に巻き込まれた後に「なんでっ!?」と慌てる側である。

 武尊はイケメンだし優しそうな外見だったが、直人に比べればぶっちゃけ信用できるような相手ではなかった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「春乃宮さん、ツーショット写真お願いします!」

「例の萌え萌えきゅーんなオムライスくださいっ!」

「あはは、そういうサービスはないです……」

 

 その後も変なお客様はいたものの、全体としてはスムーズにいった。

 折原さんや相沢くんなどの容姿レベルの高い生徒が参加し、更に客足ブースト。

 大盛況のまま二日目の終わりを迎えた。 

 

「よしっ、黒字だ!」

「ほお。なんだかんだ、やる奴じゃねえか、近藤」

「いや、相沢にもかなり助けられたよ。意外と接客、評判良かったぞ」

 

 最後に近藤くんが収支計算をして、最終的に三万八千円のプラスが出た。相沢くんと戦友みたいな感じになってる。

 クラスの皆は大はしゃぎ。僕たちの和カフェは成功と言っていいだろう。

 

 まあ、売り上げは学校に返却しないといけないんだけどね。

 模擬店で稼いでもそのお金は自由に使えない。というのも、稼ぎを自分の懐に入れられるようになると、展示系や企画系の出し物をやるクラスが減ってしまうからだ。

 徴収された資金は次年度の繰越金になる。一番の報酬は、小さな規模の経営とはいえ滞りなく回し儲けを出したという成功体験なのです。

 それはそれとして皆テンション高く、打ち上げの話をしている。

 

「お祝いでパーッと打ち上げ行こうぜ!」

「焼き肉の食い放題とかどうよ?」

「あたしカラオケいきたーい!」

 皆があれやこれやと話している途中で、登則さんが遠慮がちに進言する。

 

「あの、すみません。その前に片付けがありまして。生ゴミの処理、装飾を片付けて、借りていたものは返却するので確認していただけると……」

「登則さんノリ悪いー」

「えぇ、私ごく当たり前のことしか言ってないですが……。あんまり遅くなると後夜祭が終わってからが大変ですよ」

 

 この後は校庭でのキャンプファイヤーがある。

 以前は展示で使ったものを燃やしたが、最近では勝手に燃やして変なガスが出たら問題なので出来なくなったそうだ。 

 でもやっぱり締めくくりは重要ということで、薪を組んで火を点け、それを眺めながら物思いに浸るイベントに変わった。

 

「ささ、頑張りましょう」 

 

 登則さん主導で片付けを進め、あらかた終わるとクラスメイトが校庭に向かう。

 僕もその流れに乗ろうかなーっと廊下を歩いていると、急に背後から口を押えられた、

 

「むぐっ!?」

 

 なんだ、襲撃!? 僕はキャンプファイヤーとは逆、人目のない階段の方まで引きずられていく。

 淫魔側、もしくは退魔協会の手のもの!?

 ……と慌てて振り返ったら、そこにいたのは美桜さんだった。

 まあ一応退魔協会の手のものです。

 

「み、美桜さん?」

「はーい、お誘いに来たよ」

「いやお誘いっていうか誘拐……よく僕のカラダを引きずれたね?」

「私、身体強化もできるし」

「退魔巫女パゥワーの無駄遣い!?」

 

 外側も内側もイケる退魔巫女、すごい。

 

「えーっと、校庭?」

「うーん、それもいいけどさ。文化祭の終わりを、教室から眺めるのもよくない?」

 

 誘われるまま彼女のクラスに。

 二人で、窓からキャンプファイヤーの様子を見る。

 薄暗くなった空。校庭にはゆらゆら揺れる大きな炎。橙色に染まる生徒達。窓越しに遠い喧騒が滲んでいる。

 誰もいない教室は妙に非現実的で、切り取られた場所にいるような錯覚に陥った。

 

「私たちって、ここなのよね」

「え?」

 

 美桜さんは、普段と変わらない。けれど透き通るような声音で語る。

 

「退魔巫女ってさ、別に正体を隠す義務はないの。でも下手に広めて周りがアブナイ目に遭うのもヤだし、なんとなーく一歩引いちゃう。そういうとこは、私もお姉ちゃんといっしょ」

 

 当たり前の日常に馴染んでも、どこかで線引きをする。

 だから美桜さんにとって普通の暮らしは、窓から眺めるキャンプファイヤーみたいなものなんだろう。

 一緒に文化祭を楽しんでも、最後の最後は踏み込めない。

 

「一応言っとくけど同情して欲しいわけじゃないから。嫌だって思ったことないし。私才能すごいし、活用しないのは無駄じゃん。それに友達が淫魔になんかされたら、戦わない自分を絶対後悔する。だから今に全然満足してる」

 

 ニカッと笑って見せる美桜さん。

 あ、ほんとこの子メンタルすっごいわ。

 

「言いたいのは、“哀れんで”じゃなくて“ありがとう”。満足はしてるけど、やっぱり色々知ってて受け入れてくれる直人には救われてるよ」

 

 すごいストレート。

 思わず照れてしまう。

 

「直人やララたちと遊ぶの、けっこー好きなのよ。気を遣わないでいいし、ホッとする」

「そこは僕もかも。正体バレるんじゃ、なんてビクビクしないで済むし」

「黒衣の外法術師、淫魔の主だもんねー」

「ふふふ、いつの間にやら退魔協会の天敵に……」

 

 冗談のやりとり、僕たちの笑い声だけが教室に響く。

 

「ま、なんかあっても私が守ってあげるって」 

「嬉しいけど、そこは男としてのナニカがアレコレで」

「なになに? 私のこと守ってくれるの?」

「そりゃあ、もちろん。出来る限りのことはするよ。幸い体積大きいし盾にはちょうどいい」

「さすがに盾にするのはイヤかな……。でも、頼りにしてる」

 

 そうして彼女は、僕に向けてそっと手を差し出した。

 

「教室から眺めるキャンプファイヤーも、隣にいてくれるなら案外悪くないね」

 

 薄暗い教室の中、ぼんやりとした灯りを帯びた彼女は、すごく神秘的で。

 その笑顔があんまりにも優しいから、僕は見惚れて呆けていた。

 

「おーい、反応ないのけっこう恥ずいんだけど」

「あ、いや……美桜さん、美人だったから」

「よけいに恥っずい!?」

 

 でも甘い雰囲気にはなれない僕らです。

 差し出された手を握ったら、彼女の方に引っ張られる。

 肩が触れ合う距離、吐息が聞こえるほど近くで二人、流れゆく終わりに揺蕩う。

 こてんと美桜さんが頭を僕に預けた。

 ほんのわずかな重さが心地良い。

 

 そうして文化祭が終わる。

 キャンプファイヤーには参加できなかったけど、僕の顔はひどく熱くなっていた。 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「よ、先生。お疲れさん」

 

 生徒達は燃え盛る炎に見入っている。

 そんな中、秋英寺楓は校庭で人の輪から外れている非常勤講師・椎名薫に声をかけた。

 

「あら、楓さん。文化祭は楽しめましたか」

「けっこうな。春乃宮姉妹の面白いところも見られたし」

 

 主に佐間直人を取り巻くあれこれとか。

 楓自身はあまり縁がないが、傍から見る色恋沙汰を楽しむ程度にはミーハーだった。

 

「ところでよ、気になることがある」

 

 一転、楓は真剣な表情で薫を見る。

 もともと彼女が文化祭に来たのは遊び半分だった。

 半分が遊びなら、半分は仕事……調査も兼ねていた。

 

「魔力、感じたぜ。淫魔に近いが、びみょーに違うヤツ。このガッコからな」

 

 淫魔と契約した外法術師がこの学校にはいる。

 少なくとも文化祭の期間中に、間違いなく校内にいた。

 秋英寺楓はそれを確信した。

 

 

 

 

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