ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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よく考えたらC子さんだった椎名先生

 

 

 十一月に入り、寒さに息も白くなってきた頃のことだ。

 咲綾は退魔巫女の事情のせいで友人が少なかった。

 しかし文化祭の後は親しく話のできる相手が増えた。

 その筆頭が折原潤だ。落ち着いた咲綾とは違ったタイプの派手な女子ではあるものの、さっぱりした性格なので意外にも付き合いやすい。

 そんな彼女から「咲綾ぁ、偶には女子だけでお昼せん?」と誘われて、学食で昼食をとる。

 ちなみに直人は相沢と、近藤ら三人組の計五人でカレーフェスティバル・ベストトッピング選手権~香り高きジハード~を開催するらしい。意味はよく分からない。

  

「そういやさ、咲綾ってキモブタくんのこと好きなん?」

「えっ!? あの、それは、その、えっ!?」

「あ、だいじょぶ。その反応で分かったから」

 

 顔を真っ赤にしてあたふたわたわた。

 それだけで内心を察せられたようで、潤は悪戯っぽく笑っている。

 

「大変だねー、姉妹でオトコの取り合いは」

「そういう言い方は……やっぱり美桜も、そうだと思う、かな?」

「そりゃね。むしろ咲綾よりあからさまでしょ」

 

 はっきりと言えば、高校に入ってからは美桜の方が直人との距離は近い。

 咲綾の方はかつて幼馴染みだった、お弁当を作っている、という点で何とか食らいついているのが現状だ。

 

「ま、応援してるから頑張んなー。その胸使って迫ればキモブタくんも陥落するんじゃない?」

「む、無理だよ!?」

 

 咲綾ちゃんは清楚なので学校や公園でえっちなことなんてできません。

 さんざんからかわれた仕返しに、こちらからもツッコんでみる。

 

「そういう折原さんは、上村くんとどうなの?」

「んー? ちゃんとパートナーやってんよ。うちんとこのカレシはさぁ、わりと嫉妬深いんよね。アタシに近付く男には刺々しいけど、その分優しいし」

 

 彼女の恋人はクラスメイトの上村くん。サッカー部のレギュラーで、イケメンという評価を得ており、女生徒からの人気も高い。潤とは美男美女でお似合いの、本来なら咲綾とは縁のないカースト上位のカップルだ。

 

「まあ一時期は超すごいおっぱいの人に敬愛示し過ぎて“あ、こいつヤバいかな”ってなったけど、それも治まったし問題なし。アタシにとってもおっぱいの人は命の恩人やしね」

「そそそっ、そっ、かぁっ」

 

 潤はあっけらかんとした顔で月見そばをすすっている。

 咲綾ちゃんはビクンビクンしてる。

 

「たださ、内心キモブタくんには対抗心めらめらよ? 今度は絶対俺が潤を守るっ、とか言ってる! まー、あん時は確かにすごかったかんね。ビビりかと思ったらやばいじゃんあいつ」

「そ、そうかな? 上村くんだって、あんな目に遭っても頑張ろうと思えるんだから凄いよ」

「ありゃ。意外と咲綾ポイント高し?」

「ポイントが何かは分からないけどね」

 

 咲綾は霊力を持ち、淫魔と戦える。だからといって、霊力を持たず淫魔に怯える誰かを臆病とは考えない。

 同じように、サッカー部の彼と比較して、直人の方がすごいとは思わない。

 だって直人には魔力や魂霊契約がある。戦えるから戦えた人が勇敢で、戦えないから戦えなかった人が臆病は違うだろう。

 力がないのに心が折れなかった上村も、咲綾からすれば評価は高い。

 そもそも咲綾が直人を好きな理由は強さではない。時々馬鹿だけど、望む自分になろうと必死に頑張るあのメンタルの方にこそ惹かれたのだから、緊急事態での振る舞いはあまり重要ではなかった。

 

「……困りました。合コンに誘おうと思ったんですが」

 

 そこで口を開いたのが、同席していた登則恵子だ。

 咲綾も潤も驚きに目をぱちくりとさせる。なにせ恵子は真面目な女子学生だ。

 肩まである黒髪を三つ編みにして、メガネをかけていることもあり、地味な女の子という評価を受けている。

 彼女からそんな提案が出てくるとは思わなかった。

 

「いえ、知人から頼まれまして。キレイどころを集めている最中なんです。できれば折原さんや春乃宮さんに来ていただければと。私を助けると思って」

「なに、貧乏くじ引かされた感?」

「そんなものです」

 

 はぁ、と恵子は溜息を吐く。

 押し切られてムリヤリ幹事役になった、というところだろうか。大変だと思うが咲綾はきっぱりと断った。

 

「ごめんね、私は無理かな」

「お、意外。咲綾は流されるタイプだと思った」

「流されるタイプだから、自分を律そうと努力しているところなの」

 

 合コンなんて出たことないから怖いし。

 恵子は困った顔で、再度お願いをしてきた。

 

「ど、どうにかなりませんか。少し、最初の三十分だけでも」

「無理よぉ~、だってぇ~、なおとくんに誤解されたくないからぁ」

「……折原さん、それはなに?」

 

 若干怒り気味に咲綾が聞くと、わざとらしく潤はぺろりと舌を出す。

 

「咲綾の内心を演出してみました」

「全然演出来てません。でも、その、やっぱり合コンは。ごめんね、登則さん」

「うぅ」

 

 頑なな態度にがっくりと肩を落としてしまう。

 申し訳ないけれど、変な誤解をされたくないし……あれ? 

 若干潤の演技と被ってしまい、咲綾は少し頬を赤く染めた。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 退魔協会は公的機関ではない。

 企業を経営する夏雅城と冬護院を中心とし、淫魔に操られると困る富裕層の出資を受け、国からの認可を受けて動く、八民二官程度の自警団に近い組織である。

 国からの介入が少ない分自由にやれる反面、どうしても夏雅城の影響が強くならざるを得ない。

 しかし所属する多くは人道のもとに戦う退魔師・退魔巫女であり、運営する上層部にも正義感の強いタイプは少なくない。

 なにより会長である夏雅城幸太郎(こうたろう)自身が、多少の身贔屓や金勘定の優先はあれど、淫魔討伐に対する信念はしっかりと持っている。

 そのため、全く問題がないとは言えないが、団体としてはある程度健全な運営ができていた。

 

 奪魔デートラヘレの調査にあたる別働隊の三名も、そういう真っ当な退魔師・巫女たちだ。

 それぞれが二十歳前後の、霊力が十分に満ちた年齢。例えば春乃宮美桜のような才覚の持つ主はいないが、それなりに場数を踏み、実力だってある。

 先鋒は栄山啓介(えいやま・けいすけ)という。手甲に霊力を込めて殴り飛ばす、典型的な内側向きの術師だ。

 その夜も遭遇戦ではあるが、触手たちを撃退してみせた。

 

「この街、本当に淫魔が多いな。違う、淫魔の手下が多い、って感じか」

 

 触手や淫蟲。上級淫魔が作り出したであろう配下が夜な夜な女性を狙う。

 が、蟲魔自身は姿を隠したまま。おそらく相当に慎重なタイプに違いない。(※蟲の主の方はゲームに忙しいだけです)

 

「なんや、淫蟲の方はあんまり被害出してないんやけどなぁ。触手は、普通に女の子攫って襲っとる。同じ外法術師と契約しとるわりに、行動が一貫しとらんなぁ」

 

 退魔巫女、備谷伊織(びたに・いおり)

 セミロングの髪を軽く縛った、二十歳になる関西弁の退魔巫女。露出度の高い巫女装束を好まず、白衣と緋袴をきっちりと着込んでいる。

 伊織は風の符術を得意とする外側向きの術師で、啓介とは長らくチームを組んで活動していた。

 

「蟲魔は淫魔の主に強い忠誠を抱いています。逆に触魔は従う気がなく好き勝手に暴れている、ということなのでしょう」

 

 そう告げたのは椎名薫(しいな・かおる)

 彼女は春乃宮から離れた後、別働隊のリーダーとしてデートラヘレを追っていた。

 

「薫センセもそう思う? その上、奪魔は奪魔で黒衣と敵対してる感があるんよね。これ、実質的には五大淫魔による宝珠争奪戦なんちゃうかな」

「従うのも策略のうち、それぞれが宝珠を求めている、と」

 

 見た目こそ幼い薫だが、「センセ」と呼ばれているように教職についている。

 三人の中では最年長の二十六歳で、退魔巫女としての経験も彼女が一番長い。熱くなりやすい啓介らの抑え役である。

 

「考えても分かんないことはいいよ。なんにせよ、根城を探してとっちめないと」

「はいはい。けーすけは単純でございますぅ」

「なんだよ、伊織」

「栄山くんも備谷さんも落ち着きましょうね」

 

 まるで引率の先生だ、と椎名は肩をすくめる。

 二人とも腕は確かなのだが、付き合いが長い分遠慮がなさ過ぎて困る。

 ともかく今は淫魔の配下の数を減らす。三人はまたも夜の闇に紛れて行った。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 ……そんな彼らをこっそり監視する淫蟲がいます。

 使い手はそう、この僕。黒衣の外法術師キモブタであります。

 僕はマンションの自室から、目玉羽虫で椎名先生をこっそり覗き見る。 

 先生の傍らには主人公タイプのA男くんに、関西弁の明るいB子ちゃんがいる。

 淫魔の動向を調べるとか言っても素人な僕じゃやり方よく分からないし、本職退魔巫女さんたちにコバンザメして情報を得ちゃおう大作戦を実行中なのだ。

 彼女達はけっこうマジメにミコ活してるから、奪魔を追いつつ触魔の触手も祓っている。

 こそこそ付いて回ったら、運が良ければ触魔本体に遭遇なんてシチュもあるかもしれない。

 

 

 

「キモブタさん、どうしたんすか?」

「ああ、いえ、なんでも。じゃ、次のコラボ、煮詰めていきましょう」

 

 とまあ、それが昨夜の事。

 外法術師活動ばかりじゃ生活が成り立たない。

 お昼間はちゃんとお仕事タイム。今日は土曜で学校が休みなので、ブイなちゅーばーの炎情シュウさんとご飯を食べながら、新たなるコラボ動画作成についての話し合いだ。

 

「うっす。いやー、チャーシュー企画、好評でウチのチャンネルも大盛り上がり! やべーやべーってなもんすよ」

 

 シュウさんは指で輪っかを作って「儲かってまっせ」とニヤニヤしてる。

 わりと体格よく、顔も整ったさわやか系なのに非常に残念な表情だった。

 

「こっちこそ、ブタちゃん好調です。それに、サキュティちゃんねるの方も」

「俺のアバターが役に立ってんならなによりっすよ」

「……じりじり登録者数増えてきてるので、抜かれないか戦々恐々ですが」

「そんなら、俺らもコラボでもういっちょバズらせましょう!」

 

お店は中華屋さんを選んだ。高級店というほどじゃないけど、個室が三つ用意されている。

 ランチで3500円とちょっとお高めだけど、中の人バレ対策の必要経費と割り切ろう。

 というか小籠包おいしっ。ショウガの利いたスープがたまらない。つい単品で二つ追加注文して、火傷を恐れずどんどん頂いていく。

 

「おー、さすがの食いっぷりっす」

「いや、美味しいですよここ。シュウさんもどぞどぞ」

「んじゃオレも……ってあふっ!? うまっ!?」

 

 小籠包を口に入れた瞬間、熱いスープの洗礼を受け見悶える。

 でもね、このスープこそ包子の真骨頂ですよ。

 

「ヤバいくらい熱いけど美味いっすね」

「ですね。このお店で撮影依頼しましょうか? 個室だから撮影の際にも周りの迷惑は少ないですし」

「マジでアリっすよ。うんまー。となると、やっぱりランチで?」

「そうなります。視聴者層的に夜営業の中華コースは財布へのダメージが大きすぎると思うんですよ。ただ、動画にしたことで妙なお客が増えるのもいけない。お店の人も交えて、デメリットを伝えた上で撮影可能かどうかの相談をしたいですね」

「そこそこいいお値段のお店っすから、そういう意味じゃ、宣伝が逆効果ってのもありますわな」

「あくまで店側を尊重して、断られたらちゃんと謝罪して潔く引く精神で行きたいですよね」

 

 ワイルド系なアバターとは裏腹に、炎情さんはノリよく話しやすいタイプだ。

 打ち合わせもとんとん拍子で進み、雑談をする余裕まで出てくる。

 

「そういや、キモブタさんは高二でしたよね。進学すか?」

「はい、一応。動画配信はいつまでも続けられる仕事とは思ってないんで」

「オレより登録者数多いのにその発言は勘弁してくださいって」

 

 たはは、とぎこちなく笑ってる。

 動画で食べていくつもりのシュウさんからすると、不安を煽る言い方だったかもしれない。

 

「僕も生活あるんで、手抜きはせず、可能な限り稼ぐつもりですよ」

「お互い、余計な事情抱えてますよねぇ。夢を与える配信者が、なんとも夢のない話っすわ」

「夢は大事だと僕も思いますけど、それでお腹いっぱいになった記憶もないですからね」

「わりとドライっすね、キモブタさん」

 

 わりきり上手と言ってほしい。

 一応地域活性化もキモブタちゃんねるの目的。だからと言って、私生活を犠牲にしようとは全く考えていないのが僕です。 

 雑談混じりの話し合いは終了し、デザートのツバメの巣入りココナッツミルクまで堪能する。

 

「あぁ、美味かったっすね」

「ですね。じゃあ企画書を作って、改めて依頼に来ましょう」

 

 お腹をさすりながら僕たちは店を出た。

 十一月になり風が冷たくなった。でも熱々中華で火照っているから心地良い。

 帰り道、シュウさんとお喋りしながら商店街を歩いていると、クラスメイトの姿を見つけた。

 

「あれ、もしかして、登則さん?」

 

 普段は三つ編みメガネっ子な彼女だけど、今日はガーリッシュな服装で決めているから気付くのが遅くなった。

 小走りにどこかへ向かう彼女はちょっと頬を赤く染めている。

 あれは……。

 

「お、佐間? 変なとこで会うな」

 

 なんて考えていると、背後から呼びかけられた。

 驚いて振り返ると、そこには秋英寺さんが。

 ごついブーツにタイトな膝上くらいのスカート、それに長袖の黒ジャケット。美人さんだからパンクな服装がばっちり決まっている。

 返事をしようしたけれど、それよりも早くシュウさんが叫ぶ。

 

「あっ、姉貴っ!?」

 

 えっ、お姉さん? 実の?

 

桐葉(きりは)……? おま、なにやってんだ!?」

 

 本当っぽい。

 もしかしてシュウって、(シュウ)のことなの?

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 佐間直人の通う高校の文化祭のルールとして、外部からの来客は生徒が用意したチケットがないと入場できないようになっている。

 しかし直人は家族との関係が悪いためチケットを送っていない。

 だから兄である武尊(たける)は、別途に用意しなければ、入って来られないはずなのだ。

 にも拘らず和カフェに顔を見せたのだから、当然のように伝手がある。

 

「お待たせしました」

「ああ、行こうか」

 

 武尊は駅前で登則恵子を待っていた。

 挨拶もそこそこに向かうのは未成年でも使えるラブホテルだ。

 駅前の飲み屋街を抜けたところには、小さな『アスター』という名のホテルがある。

 ここは紫ネオンのいかにもな外観だが名目上はビジネスホテルとなっている。 

 どう考えてもそういうホテルであり、客もそういう目的でしか使わないだろうが、届け出上は風営法とは何ら関係ない普通の旅館なのだ。

 

「あの、武尊さん。ごめんなさい、春乃宮さんを合コンに誘えませんでした」

「そんな気はしていたよ。あのクラスのノリからするとね」

 

 文化祭で恥をかかされた。

 直接的なやり方で彼女をおびき出せないのは想像がついていた。

 

「まったく、なにがナンパだ。それならもっとうまくやる。俺が欲していたのは、ただの“

食事”だっていうのに」

 

 もともと、そういう意味で声をかけたわけではない。

 直人と仲の良い幼馴染だ、こちらの誘惑に乗れば面白いとは思っていたが、それは単なる遊びでしかなかった。

 

「“霊力の高い女からは良質な魔力を得られる”。退魔巫女なら、と思っただけなのに。あのブタ、本当に腹立たしい」

 

 表情は穏やかなまま。優しい笑みさえ浮かべているのに、口から出る言葉は汚い。

 

「あの子も、ブタの何がいいんだか」

 

 はっきり言えば武尊は、直人を嫌っている。

 デブで無能で、それなのに無駄に善人ぶる性根も、祖父に甘えて一人暮らしをしていることも、何もかもが気に入らない。

 ただし、ちょっかいをかけた理由は、気に入らないからではない。

 一番は、どうしても欲しいものがあるからだ。

 あいつが、祖父から封印術を受け継いだ、なんて認める気はない。

 

「まあ、いいさ。退魔巫女たちとうまく分断してくれるか? なんなら、関係を引っ掻き回す程度でもいい」

「分かりました」

「いい子だ。じゃあ今夜も、楽しもうか」

 

 そうして二人はホテルに消えていく。

 じゅるりと、触手の這いずる音が聞こえた。

 

 

 

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