ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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特別なこと

 

 

 

 

 魂霊契約モードは相手側の名前を口にすることで魂の繋がりを明確にし、魔力を借り受けると共に能力の精度を上げるというもの。

 僕とサナちゃん達が結んでいる契約自体を魂霊契約と呼び、「僕ら、超仲良しなんですよー、まさしくソウルフレンド」って知らしめることにより連携を高め、それがパフォーマンスに影響するみたいな感じだ。

 あくまで覚えた能力に限った精度向上なので、超絶強化形態というより戦闘に慣れない僕への補助輪でしかない。

 淫魔の根幹たる能力の使用は魂霊契約モードにならなくても普通にできる。

 自前の魔力が潤沢かつスキルの習熟度が上がれば、常時このモードと同じパゥワーを引き出せるだろう。あ、魔力をノータイムで借りられるのは明確なメリットだけど。

 つまりどういうことかというと、僕はひーちゃんの淫蟲の精度を上げながらも、サナちゃんの加護による身体強化・精神耐性はあるし、堕淫魔術も夢幻世界も併用できる。

 そうできるように、鍛錬だってしてきた。

 

「いけ、触魔ブラキウム!」

 

 夜の繁華街の外れ。誰もいない道路で僕たちは対峙する。

 指に紫色の結晶を複数挟み、兄さんが命じる。

 ぐねぐねうねりながら突進する触手たち。こちらはひーちゃんの力を借りて、多種多様な淫蟲で対抗する。

 羽虫や芋虫、がしゃがしゃ動く甲虫。あ、兄さんが嫌そうな顔をした。

 やめてもろて? ひーちゃんの愉快な仲間たちやぞ。

 

「そんな虫けらで、防げると思うな」

 

 煩わしいモノを振り払うように、触手がぐおんと空気を抉りながら横に振るわれる。

 芋虫はプチっと潰れてしまったけど、羽虫や甲虫がまとわりつき密集する。すると触手は苦しむように悶え始めた。

 

「熱殺蜂球、か?」

 

 さすがに、お勉強はできるね。

 必殺技っぽい名前だけど、ミツバチがスズメバチと戦う時に集団でひっついて蒸し焼きにする例のあれです。

 似た感じで羽虫たちも複数集まれば十分触手に対抗できる。

 しかし兄さんはにやりと笑う。

 くそ、もうバレたみたい。この方法、倒せはするけど一本の触手に対して複数の淫蟲が必要になるから効率が悪いんだよね。

 相手も数に任せた攻めをしてくるから、撃ち漏らしも出てきた。

 淫蟲をかいくぐった触手が僕に襲い掛かる。

 僕はそれを回避し、今度はシンプルな体術で叩き落とす。

 

「は、速い……っ!? なんだ、その動きは!」

 

 相沢くんに走り負けた僕だけど、魔力を集中すれば瞬発力は高められる。

 こちとらそこそこ戦闘経験を積んでいるんだ。無造作な触手の攻撃なんかには当たってやれない。

 同時に、その驚き方から仮定が確信に変わった。

 兄さんは身体強化ができない上に、僕の戦力についてほとんど知らない。ついでに魔力を触手の使役にしか割けていない。僕の想像通りなら、おそらく新たに生み出すこともできないだろう。

なら、目の前の触手たちをどうにかすれば、それで終わりだ。

 

「くっ……舐めるな」

 

 兄さんは触手の物量で蟲を潰し、次いで頭である僕を仕留めに来た。

 数匹の媚毒バチを差し向けたけれど、それも防がれた。

 いや、食われた(・・・・)

 淫蟲が多種多様なら、触手もまた多種多様。食虫植物のような触手にハチがまとめて食べられてしまった。

 触魔ブラキウムの<適応繁殖>は弱点を突くことに特化している。

 女の子の弱い部分を的確に責めるだけでなく、戦闘においても弱い部分を的確に攻める触手を生み出せるということだろう。

 いや、今回の場合は“前もって用意していた”、かな。だけど僕の情報を兄さん自身はほとんど知らない。そこら辺を考えると、ちょっとかわいそうかも。

 でも同情なんてしている場合じゃない。足元から触手が這い寄る。

 

「ヒート、スタンプぅ!」

 

 熱した四股で触手を踏み潰し、大きく横っ飛び。

 さらに繰り出された触手たち。鞭で打ち据えるように僕に打撃を加えようとしたけど、魔力を右手に集中。ピッグスラップで引き千切る。

 致命傷には至らないけど、距離は詰められない。このままじゃ千日手、なんて思っていたら兄さんがうすら笑いを浮かべた。

 

「こちらの手駒はそれだけじゃないぞ」

 

 夜の暗がりから現れる、奇怪な肉塊。

 比喩ではなく、2メートルを優に超えるぬめぬめした肉の塊だった。

 あれは、学校に閉じ込められた時に見たヤツだ。そう認識した瞬間、肉塊から生えた触手が襲って来る。

 

「おっ、とぉ」

 

 これまで相手してきた触手よりも大きいのに、単純に速い。

 だけど淫蟲の使役を止め、体術に専念したことが功を奏した。ギリギリで捌き、直撃を避けることができた。

 

「大物はこっちが雑魚を蹴散らしてから出して欲しいよね……!」

「なんでそんなことをしないといけない?」

 

 マジレスされた。

 僕は距離をとり、電撃の魔術を肉塊にぶち当てる。でも、表皮が焦げたくらいで焼き切ることはできなかった。

 あの時はサナちゃんが戦ってくれたし、「やわらかい」と言っていたので勘違いしていた。

 もともと触魔ブラキウムは五大淫魔の中でも硬い。その能力で生まれた大物だし、普通の触手よりも防御力だって高いのだろう。

 

「くそう、楽に貫いてたのはあくまでサナちゃん基準なのか」

 

 悪態をついても向こうの攻撃は止まらない。

 脳天をかち割る勢いで叩きつけられる触手を、両腕を十字にして防ぐ。

 だけどすぐさま雑魚触手もたかってくるから、魔力を足に集中して距離をとる。

 けれど、逃げた先には触手の群れ。

 あ、やばい。兄さんは触手をちゃんと戦力的に配置している。

 触手の動き自体の精度は低いけど、時間差で攻める、くらいのことは可能らしい。

 背後からも肉塊の触手が追いかけてきた。

 

「ふちょっ祖の、真似ぇ!」

 

 心光の癒しの教祖は、魔力を爆弾として扱った。

 あれは術式が優れていた訳ではない。退魔巫女姉妹から良質な魔力を得た今なら再現ができる。

 爆発が複数の触手をまとめて吹き飛ばす。

 

「ちぃ、まだだっ」

 

 でもそれを予測しての、時間差の波状攻撃。

 これはさすがに防ぎ切れない。ぎゅぅと身を固め防御態勢をとった。

 触手が鞭のようにしなり、四方八方から僕を打ち据える。あんまり気持ちよくない、ていうか普通に痛い。どうやら僕にMっ気はないようだ。

 

「お前、よくイジメられたよな学校で。お兄ちゃんはあんなに優秀なのにどうして弟は、ってさ。数少ない友達も、俺の方が良いっていなくなったっけ。そうやって小突かれて、なにもできないでいるのを見ると、昔を思い出すよ」

 

 せせら笑う兄さんは無視しろ。

 ゆっくりでいい、防御しながらも魔力を集中しろ。

 

「なにがクソブタちゃんねるだ。商店街のおっさんに騒がれて調子に乗って」

 

 いつも比較されてきた兄弟だけど、動画配信で地域活性活動を始めてからは、同年代はともかく周囲の大人には僕に感謝してくれる人も増えた。

 その頃には一人暮らししてたから詳細は分からないけど、商店街で「弟さんすごいねぇ」くらいの話はされていたのかもしれない。

 でも僕だって、いつまでもやられっぱなしじゃないぞ。

 

「ぱららいず、ぱうぅ……!」

 

 迫りくる触手を、がしっと掴んで電撃を発して引き千切る。

 攻撃を食らいながらも、一個ずつ対処していく。

 ダメージは負った。それでも、周囲には複数の焦げた触手が転がっている。

 なんとか猛攻をしのぎ切った僕を、兄さんは憎々しげに睨み付ける。

 

「なんだ、お前は。なんでお前ばかりが特別扱いされる」

「特別扱いされてたのは兄さんじゃないか」

「そうじゃない! お前は、お祖父ちゃんに封印術を授かった! なんで、お前が……!」

 

 ……? 封印術の書関連については知っているのか。

 なんか持っている情報がちぐはぐ。いや、取捨選択されている、かな。

 

「子供の頃に、俺は見たんだ。アンティークショップで、お祖父ちゃんが悪霊を封じるのを。魔法使いの孫である俺も、いずれあの力に目覚めると思っていた。なのに、実際は」

 

 血が繋がっていないから、素養なんてあるはずもない。

 まあ父さんの時点で霊力は枯れちゃってるから、托卵でなくても霊力は受け継がなかっただろうけどさ。

 

「お祖父ちゃんは、お前に渡した。霊力がないのは同じ。なら、無能なお前より俺が選ばれるはずだろ。なのに、血が繋がっているっていうだけで。それが、腹立たしくて仕方ないんだよ!」

 

 八つ当たりのような触手の攻撃。

 それらを淫蟲で迎え撃ちつつ捌き、僕は努めて冷静に反論する。

 

「えーと、霊力とか血筋以前にさ。弟をイジメて、友達奪って、評判下げて悦に浸ってる兄さんだよ? しかもお祖父ちゃんだって知ってるんだよ? 冷静に考えて、術を継承なんて出来る訳なくない?」

「このっ、クソブタがぁ……!」

「えっ、なんで!? 僕すっごい正しいこと言ったよね!?」

 

 なんか、ものっそいブチギレられた。

 解せぬ。

 

「じゃあ封印術もらってなにするんだよ! 本職の退魔師さんでも、誰かのために淫魔と戦って自分の青春犠牲にするのは嫌って人だっているの! ぶっちゃけ兄さんは要領よく優等生するタイプで、面倒なのとか他人のためにーとか全然やらないじゃないか!」

 

 怒鳴りつけると、普段の余裕ぶった態度をかなぐり捨てて、激昂に顔を歪める。

 

「ほざくなぁ! 触魔、ブラキウムっ!」

 

 殺意に満ち満ちた怒声。

 だけど残念、仕込みは済んだ。

 触手たちは命令を聞かなかった。違う、すり抜けた。

 

「駄目だよ、立ったまま眠ってたら。変な夢を見るから」

 

 そこには、僕が五人いる。いや、六人七人。まだ増えていく。

 夢魔ラエティティアの夢幻世界による白昼夢。うん、まあ、美桜さんと咲綾さんを夜通し淫夢で弄び続けた結果、かなりの勢いでスキルを習熟しました。

 複数の幻影を、本物のような質感で生み出せる。

 兄さんは大量の僕に取り囲まれる白昼夢を見ているようなもの。控え目に言って最悪です。

 

「ちか、よるな!」

 

 触手で薙ぎ払うも数は減らない。

 押し寄せるキモブタ。下手なゾンビものよりも怖いと思う。

 兄さんは訳が分からず焦りに奥歯を強く噛む。

 たぶん僕なら、もっと大雑把な対策を取る。周囲を手当たり次第攻撃して、本物に当たればラッキー程度の作戦だ。

 でも兄さんにはそれができない。戦略的には触手を配置できても、“自分以外を乱雑に攻撃しろ”という命令を下せないから。触手を操る精度が低いせいで、自分が巻き込まれる可能性が高いのだ。

 

「数、減らさせてもらう」

 

 白昼夢に溺れる触手を少しずつ間引いていく。

 それを察した兄さんはまた紫の水晶を使おうとした。だからこそ生まれる隙に、僕はひっそりと忍び寄る。

 

「ピッグ、スラップ! 超っ、弱めっ!」

「あっ、が……!?」

 

 軽く顎に振動張り手をぶつけて脳を揺らす。

 兄さんはぐらりと揺れ、立っていられず、そのまま倒れるように地面に伏した。

 でも意識までは刈り取っていない。

 触手は、完全に動きを止めた。兄さんの命令がないとこちらを襲ったりもしないらしい。

 

「おっ、おぇ……おま、えぇ」

「兄さんの敗因は、淫魔っ子たちの優しさ。それが全てだ」

 

 僕を心配して、損得関係なく契約を結んでくれた。

 スキルだってうまく使えるように教えてくれるし、淫魔式自重トレーニングにも協力してくれる。

 そういう優しい淫魔っ子たちに支えられて僕はここにいる。

 実質四対一なんで、情報もマトモに与えてもらえない兄さんを出し抜くくらいはしなきゃ、皆の心に申し訳が立たない。

 

「訳の、分からないことを、抜かすなっ」

「訳の分からないことじゃないよ。だって、兄さんそっち側の淫魔になんにも教えてもらってないでしょ?」

 

 僕の言葉が癪に障ったのか、立ち上がろうとする。

 でも視点は定まっていないし、カラダに力も入らないようだ。

 

「無理に動かない方がいいよ」

「うるさい。お前ごときが、俺を馬鹿にするなぁ。家族の誰からも求められなかった、不必要なブタのくせに……!」

 

 それが兄さんの原体験。

 すぐ傍に踏み躙っていいモノ()がいたから。実際に踏みつけてきたから、人より高い位置にいると錯覚していた。

 でもね、その万能感は子供の時だけの限定アイテムだよ。

 だって、ある程度成長したら自分の足で歩いていかなきゃならない。踏み台の上にいるつもりで立ち止まっていたら、置いて行かれるに決まっている。

 

 なまじその状態でも問題ないくらい優秀で小器用でイケメンだったから、兄さんは勘違いを是正できなかった。

 反面、僕は母さんのおかげで人より先に歩き始めることができた。その点だけは、感謝しないといけないのかもしれない。

 いや、やっぱり感謝しない。普通に母さんのことムカついているもん。駄菓子とか買うお小遣いもお祖父ちゃんからもらってたからね、僕。

 

「兄さんの抱えてたものとか、葛藤とかはどうでもいい。でも、そいつを出してくれたのは感謝している」

 

 僕は、動かない肉塊に向かい合う。

 だって、あの肉塊は、サナちゃんが退治した化物だから。

 あれは僕が超えないといけない壁の一つだ。

 

「紫の水晶、使っていいよ」

「は……何を言って」

「どうしたの、僕を倒したいんでしょ。やってよ」

 

 その物言いが苛立たしかったようだ。

 目に再び力が戻り、兄さんは紫の水晶を肉塊に与えた。

 

「つぶ、れろぉ……!」

 

 ああ、肉塊がまた動き出した。

 それでいい。それでこそだ。

 

「あの時、サナちゃんは、こいつを簡単に葬った。なら、僕もこいつを簡単に葬る。そうすれば……怖さは薄れる。もっと、サナちゃんたちを大事に出来る。優しくなれる……!」

「なにを、言って」

「昔のことをグダグダ言ってるあんたなんか、眼中にないって話だよぉ!」

 

 硬いものを突き破るには単純な威力が必要。

 でも今の僕はサナちゃんほどの魔術は扱えない。

 なら一転集中。僕に扱える魔力を凝縮してぶちかます。

 

「パラライズ・パウ」

 

 電流の魔術を戦闘レベルまで引き上げ、電撃に。

 掌を覆うじゃまだ足りない。もっと、たくさんのエネルギーを。

 

「……からのぉ、魔力弾、ヒート・スタンプぅ」

 

 熱と雷の魔術の同時行使。

 今までの張り手とは違う。掌に作り出した魔力弾に属性を付与し、圧縮する。

 ……ぬおぅっ、い、意外とキツイっ。気を抜くと魔力弾が暴発しそうだ。

 

「……からのぉ、ぬぉっ!? ファット、チャージ、応用ぅぅぅ!」

 

 ファットチャージは魔力を爆発させて僕自身を加速させる。

 その応用。溜めたエネルギーを、魔力の爆発で射出する。

 

「はぁ、はぁ……」 

 

 迫る肉塊を冷静に見据える。

 我慢しろ。あれをぶち抜けるレベルにまで魔力を圧縮するんだ。

 僕の掌には、圧倒的なエネルギーを有した光球。

 

「あっ、やば」

 

 なのに最後の最後で制御に失敗した。

 だめだ、暴発する。僕は咄嗟に掌を肉塊に向け、ファットチャージの応用で光球を飛ばす。

 ……はずが、限界を迎える。

 例えるならダムの決壊。今までせき止められていたものが急激な勢いで放出される。

 結果として、雷を帯びた熱線のような、圧縮魔力砲を撃つ形になった。

 

「う、あああ……」

 

 兄さんが驚愕している。

 実際、威力はかなりのもの。肉塊は風穴が空いたというか、ほぼ穴。残ってる肉の方が少ないくらいだった。

 佐間直人、高校二年生。ついに手からビームを放てるようになりました。 

 

 

「……ふっ」

 

 動揺するな。

 この電撃熱線砲が僕の必殺技だ、みたいな顔をしておかないと。

 肉塊の惨劇を目の当たりにした兄さんは、腰を抜かしたのか地面にへたりこんでいた。

 僕はシリアスな表情を作って静かに視線を向ける。

 

「あ、ああ……」

「どうする? まだやる……って、無理だよね」

 

 だって兄さんは。

 

「触魔ブラキウム・インヴィディアの契約者じゃないんだから。次が作れないでしょ?」

 

 そもそも、秋英寺さんは文化祭の後夜祭時点で「校内に魔力があった」と言った。

 あの時、僕は魔力を隠蔽していた。それが解けるような行為もしていなかった。

 なので、あのタイミングで感知されたのなら、学内に僕以外の魔力持ちがいないと説明がつかない。

 

「触手は単に、スキルで生み出されたものを魔力の結晶を餌に一時的に借り受けていただけ。魔力の結晶自体は、奪魔デートラヘレがくれたのかな?」

 

 別に契約者でなければ淫魔は従わない、というわけじゃない。

 例えばひーちゃんは契約してない頃から僕に淫蟲を貸してくれてた。

 兄さんも、借りた触手で色々騒ぎを起こしていたんだろう。誰に使役されていようと触手が女の子を犯せば触魔ブラキウムは魔力を得られる。うまいこと使ってくれるなら、淫魔側に損はないのだ。

 

「まあ、普通に考えたら、触魔の契約者って登則さんかな。咲綾さんから聞いたよ、“僕の戦う姿がかっこよかったから好きになった”って。おかしいよね、あの学校の一件で、登則さんは僕が戦うところを一度も見ていないのに」

 

 ひーちゃん方式。たぶん触魔の触手で僕の様子を探っていたんだろう。

 

「どういう経緯でそうなったのか、とか。そもそもなんで五大淫魔が全員日本にいるの、とか。気になるけど。ひとまず、答えてもらおうかな。“どうやって触手を借り受けたの”?」

 

 無駄な言い合いをするつもりはない。

 堕淫魔術、『真実』。シンプルに嘘を吐けなくする魔術で、手っ取り早く吐かせる。

 

「あ、う、あ……。恵子は、俺のセフレだ。男慣れしてなくて、簡単にヤレた。Mっ気が強くて、乱暴な、強い誰かに組み伏せられるセックスが好きで。いつの頃からか、分からないけど。化物みたいな触手を生み出す術を使うようになって。だから、俺はセックスで言うことを聞かせて」

「自分用の触手を、作らせていたと。じゃあ“最近女の子を襲っていたのは?”」

「俺……だ。あの触手の化け物自体が、食事のために女を犯す必要があると。ただ、恵子も魔力を、集めるから、そこまでやらなくていいと」

 

 たぶん、触魔の主な養分は登則さんがえっちでイカせた男の快楽だと思います。

 しかも相当な数をこなしてるっぽい。男慣れしてないどころか、たぶん兄さん以外にもセフレいるな、これ。

 

「まあ、なら最後、“奪魔について知っていることを教えて?”」

 

 その質問に、兄さんは大きく首を横に振った。

 

「奪魔……? なにも、知らない。俺は、俺は。ただ魔力の結晶を貰って、触手を使役する方法と、退魔巫女のこと。そして、封印術の書のことを、教えてもらった……」

 

 僕は小さく溜息を吐いた。

 まず、奪魔デートラヘレ・カーリタースは、この街で活動する上で人間を使い魔のようにして魔力を集めていた。

 心光の癒しの教祖や、スポーツジムのマッチョ術師がその類。そうやって集めた魔力を結晶化したのが紫の水晶みたいなやつだろう。

 で、触魔ブラキウム・インヴィディアは同盟関係なのか、下についているのか。企み自体には関わりがないのか、それは分からない。

 ただ「触魔の契約者なら義理は果たす」くらいにはお互い友好的ではある。

 

そして、触魔の契約者が登則さん。

 つまり奪魔デートラヘレは、登則さんに便宜を図っただけ。兄さんは教祖やマッチョのような立ち位置にもなれない末端以下どころか、完全な部外者だ。

 セックスで言うことを聞かせているような気になっているけど、登則さんからも与える情報をちゃんと制限されていることになる。

 兄さん、誰からも利用されてたんだな。

 

「だからって、許せるかって言ったら、無理だよね。ムカつくし、普通にやなことやってきたし」

「そうか……」

 

 もっと慌てるかと思ったけど、意外と落ち着いている。

 だけど、洗いざらい話して大きな企みと関わり合いがなかったから無罪放免、という気にはならない。

 

「ねえ、“なんでそんなに不思議な力が欲しかったの?” 変な話、優等生で顔が良くていい大学に行って女の子にモテる。現代社会で生きていくには十分なパゥワーじゃない?」

「力が欲しかった、んじゃない。俺はただ、あって当たり前のモノをお前に奪われた。だから奪い返す、そういう正当性の話だ。俺は、お祖父ちゃんの孫で。無能なお前とは違う、特別な……」

 

 あ、これ違うわ。

 兄さんが欲しかったのは封印術じゃない。

 悪い化物と戦う正義感なんて欠片もない。

 求めたのは力そのものじゃなくて、昔見たかっこいい魔法使いの孫という“特別”。

 その特別を、なんにもできない僕に横からかっさらわれたように感じていたのだろう。

 

「俺は、ただ。魔法使いの孫として。力が、力があれば」

「勘違いし続けられた? 自分が、特別な存在だと」

「あ……」 

「僕は、キモブタになったよ。でも、兄さんは結局、あの頃の兄さんのまんま大きくなったんだね」

 

 大きくなってお金を持って、女の子との行為も覚えて、遊びの範囲が広くなっただけ。

 じゃあやっぱりお祖父ちゃんが正解だよ。

 多少汚いことしてでも、皆を守ろうとするお祖父ちゃんが鍛え上げた術だよ? 間違っても、兄さんの自尊心を満たす装飾にしちゃいけない。

 

「兄さんは、ちょっとおいた(・・・)が過ぎた。もう子供の頃の嫌がらせの範疇に収まってない」

「……謝らない、ぞ。お前だって、結局手に入れた力で、調子に乗ってるだけだろ」

「そうだね。別に僕には謝らなくていいよ。外法術師って時点でアウト寄りな存在ではあるし」

 

 ただ、ね。

 僕は腕を振り上げ、兄さんの顔面に向けて突き出す。

 

「そーゆーシリアス調なんて求めてないから女の子への暴行を悔めよ性犯罪者!?」

「へぶあぁ!?」

 

 ピッグスラップで脳を揺さぶる。

 学校の閉鎖事件もアンタの主導でしょうが!

 なんで自分語りしたら魔力確保のための性行為がなかったことになると思ってんの!?

 どんなに飾り付けたってそこの罪は一切軽くならないからね!?

 怒りに任せた張り手で兄さんが吹き飛ぶ。

 一応、生きてる。まあ後は退魔協会に任せるのが無難だろう。

 

「あーもう、ほんとムカつくな、あの人は」

 

 現実の罪状は強姦魔とかになるのかな。

 そんなことをぼーって考えていると、ぴこぴこ手乗りサナちゃんが飛んできた。

 今回は戦闘中、奪魔の介入があるかもしれないので、見張り役を頼んでいたのだ。

 

「あ、手乗りサナちゃん。こっちは終わったよ」

「お疲れ様ですナオトくん大変です!」

「どうしたの? まさか、デートラヘレが!?」

 

 大慌てで聞き返すけど、どうもそうじゃないっぽい。

 

「違います、大変なのはナオトくんです! 張られた人払いの結界に違和感を持ったようで、今こちらに別働隊の退魔巫女たちが向かっています! っていうか、合法ロリ退魔教師巫女がもうすぐきます!」

 

 そりゃメチャクチャ大変だよ!?

 バレる、正体がバレる。

 僕は手乗りサナちゃんの力を借りて、急いで黒衣と仮面を装着した。

 

 

 

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