ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
快楽というのは幾つもある。
サキュバスが食らう性的快感もそうだけど、スポーツで誰かに勝つ、サウナで整う、ゲームの高難度でクリア。
性的快感が淫魔にとって一番豪華で量もあるご馳走なのは間違いないが、いわゆる脳汁どばどば状態ならおやつ程度にはなる。
僕の快楽と言ったらなんといっても動画の再生数が伸びて、コメントがたくさん来て、お金が入ること。
男との性的な接触を好まず、退魔巫女の登場で魔術による快楽のエナジーの摂取も制限されたサナちゃんは、そういう“自分にとって最高に心地良い瞬間”を見つけないといけない。
「……ごめんなさい、ナオトくん。トランプタワー、あんまり気持ちよくないです」
ただ彼女、わりと手先が器用なので、けっこういろんなことを簡単に達成できちゃうんですよね。
どきどきしながらトランプタワーを作り上げ、それを崩す快楽を伝えようと思ったら、わりとスムーズに完成して、崩れても特に感慨がないご様子だ。
「お、おお、鉄。鉄鉱脈発見。とらねば」
逆に眠そうな目のひーちゃんは、ブロック系クラフトゲームで洞窟を探索中。
大量の鉄鉱石にぶち当たり、無表情ながらかなり興奮している。
既にこの子の定位置は僕の膝の上だ。
「ひーちゃんは、魔力大丈夫なの?」
「私も、さーちゃんと同じ。あんまりアレなのはしたくない。恥ずかしいし、めんどうで、しんどい。だいたい淫蟲頼り」
五大淫魔なのに……。
若い淫魔のセッ〇ス離れが問題視される昨今です。
そんなことを考えているとサナちゃんが補足をしてくれた。
「五大淫魔は、上級のトップクラスに分類されます。下級ならば人間を性的に襲うことでエナジーを得ますが、私たちはその根幹たる能力で、肉体的接触なしでも魔力を得られてしまいます。選べる手段が他にある分、したくないことはしたくない、で終わっちゃうんです」
「そっか、他で栄養取れるなら嫌いな食べ物をわざわざ食べたくはないよね」
「そして、サイズの合ってないパーカーを着ていたから、ナオトくんは気付いていないでしょう。実はひーちゃん、体の小ささに反して胸がちょっと大きめです。身長こそ私と変わりませんが、十分に隠れロリ巨乳と呼べる代物なのです……!」
「力いっぱいの説明やめてもろて?」
それを聞かされて僕はどう反応すればいいのか。
「みず、水が天井から……」
あ、ひーちゃん調子に乗って上側の採掘を進めてたら海に出ちゃった。
そのまま溺れてゲームオーバー。しかもリスポーン地点を設定してなかったから、拠点まで戻る羽目に。
「ひーの、ひーの鉄はどこ……? ピッケルもライトも、たくさん作った……」
悲しくなるくらいコントローラーを持つ手が震えている。
そのまま元の場所に戻れず、結局アイテムはすべてロストして力なくひーちゃんは床に崩れ落ちた。
でもしばらくすると起き上がり、てこてこ僕の方に歩いて来る。
「おにーさん、淫蟲が“ハルノミヤ・ミオウ”に会ったよ。姉もいたから、どっちも適当にあしらって傷一つ付けずに帰した」
ひーちゃんには春乃宮さんの特徴を教えてある。どうやらいきなりぶち当たってしまって、それでも助けてくれたらしい。
お姉さんの方にまで気を回してくれるなんてほんといい淫魔だ。
「あ、ありがとう、ひーちゃん!」
「うん。じゃあ、ゲームしよ。洞窟探検。さーちゃんもする?」
一人での攻略は諦めた模様。
誘われたサナちゃんは微妙な表情をしている。
「うぅん、私はゲーム、あんまり興味がないんですよね。あ、でも見てる分には楽しいかもです」
「じゃあ、私の隣で見る」
「はい。ひーちゃん頑張ってください」
銀髪赤目美ロリサキュバスと褐色ロリ巨乳のんびり淫魔っ娘が並んでゲーム。
最近、僕の家では非日常が横行しております。
* * *
夜の闇に紛れ、美桜たち退魔巫女姉妹は郊外を探索していた。
蟲魔ヒラルス・ラールア
外国では五大淫魔に数えられるという、淫蟲で構成された強大な淫魔らしい。
なぜ日本に来たのかは分からない。しかしここら一帯を新たな根城にしているのは間違いないようだ。
街では、夜な夜な淫蟲が女性を襲う事件が勃発している。
今のところ死傷者はいない。ただ、媚薬を注入する毒バチに発情させられ、強制的に絶頂を迎えるらしい。
それが蟲魔ヒラルス・ラールアの仕業と踏んだ協会の調査班は、行為を終えた蟲が郊外に逃げていくという情報を掴んだ。
辿り着いた場所は、いかにも怪しそうな廃ビル。しかもネットでは、オカルトな現象が起こるという噂がまことしやかに語られている場所だ。こうもベタな符号は中々ないだろう。
「でも、おかしい、よね? ヒラルス・ラールアの蟲に犯された被害者は発見されている。なら、最近の女性の失踪とは関係ないのかな?」
咲綾が廃ビルを観察しつつ呟く。
もともと蟲魔ヒラルス・ラールアが、女性の失踪と関わりがあるという話だった。
けれど実際に追っていくうちに、被害者の発見情報がちらほらと出てきた。
つまりこの淫魔に襲われた女性は失踪していないことになる。
どうも前情報と齟齬があり、頭を悩ませてしまう。
「別におかしくはなくない? その淫魔に襲われた十人のうち五人が発見されて、残り五人が失踪ならどっちも合ってることになるじゃん」
「それは、確かに」
「直接対峙すればわかるんだし、考えるだけ無駄だって」
「あくまで調査だよ」
「分かってるって、もう」
美桜は実力が高い分だけ自信家でもある。
しかし決して迂闊ではない。今も適当な態度のように見えて、周囲をちゃんと警戒していた。
このビルには変な噂がある、というのは任務とは関係なく、クラスの友達に教えてもらった。
確か、テナントに入っていた居酒屋が火災を起こし十人以上の死者を出したせいで悪評が流れ、ビルの所有者も手続きをしないまま逃げてそのまま放置されている建物。それ以来、夜になると……という定番の怪談だったはずだ。
「建物の中調べてみよ。もしかしたら、大当たりかも」
「うん、分かった。でも、気をつけてね。あくまでこれは調査だから」
「私は大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ、変な傷を作って夏雅城先輩に愛想をつかされないようにねー」
少しだけ含みを持たせた言い方をする。
もともとそれほど姉妹の仲は良くないが、成長して夏雅城俊哉との婚約が意味を持つようになると余計に関係はこじれた。
イケメンというのは認めるが、シンプルに性格が悪い。ああいう偉そうなタイプは好きではなかった。
「そういう、美桜は。最近佐間くんと……ごめん、なんでもない」
咲綾は何かを言いかけて、けれど途中で口をつぐんでしまった。
そこからは任務に専心する。
五階建てのビルに侵入し、警戒しながら進む。
灯りは美桜が巫術で生み出した、宙に浮かぶ鬼火だ。
刀に霊力を注ぎ込むことで武器にする咲綾とは違い、美桜は炎の巫術を得意とする。風や水も使えるが、これが一番性に合っている。
普通の術師なら符を用いて術を行使するが、彼女は媒介を必要としない。十年に一人の天才と呼ばれるのは、この巧みな霊力の操作が理由だ。
二階に差し掛かった時、姉妹の表情が変わった。
「お姉ちゃんっ」
「うんっ!」
咲綾は刀を抜き前に出る。
目の前に、大量の蟲が現れたのだ。
媚毒バチに、眼球を持つ羽虫。響く羽音の気色悪さに背筋が寒くなる。
その他多種多様な蟲が寄り集まり、一匹の化け物を形成していく。
十秒ほどでそいつは完全な個体となった。
一応は人型を保っているが三メートルを超える、羽音ときぃきぃという鳴き声を常に発する不気味な化物。
発する魔力は、これまで見たどの淫魔よりも強い。
醜悪な淫蟲の集合体が巫女姉妹の前に立ちふさがる。
「これが、蟲魔ヒラルス・ラールア……!」
姉妹の驚愕を余所に、蟲魔が腕を振るう。
咄嗟に後ろに退避したが、籠められた威力に冷や汗が流れた。
咲綾が隙を見て斬りかかるも、刀が蟲魔ヒラルスの体をすり抜けてしまう。
大型の淫魔に見えるが、実際には擬態した虫の集合体なのだ。物理攻撃では元の虫に戻り回避されてしまう。
「お姉ちゃん、どいて!」
ならば焼き尽くせばいい。
美桜が炎の巫術を放つ。本来なら広範囲を焼き払うための術で、羽虫を飲み込もうというのだろう。
効いている。蟲のいくらかは燃え尽きて死んだ。
これを繰り返せば勝てるかもしれない。そう思ったのも束の間、周囲の異変に咲綾が気付いた。
「美桜、退くよ!」
「逃げるなら一人で行って! 私の術は、十分効く!」
「そうじゃないの! 媚薬がガスみたいになってる!」
「っ⁉」
遅れて美桜も理解したようだ。
虫の腹には媚薬が溜まっていた。それを一気に燃やしたことで、媚薬が蒸発しガスとなってあたりに漂っている。
このまま戦いを続ければ、この場はすぐに媚薬ガスで充満してしまう。
「く、ヤバい。中和剤、飲んでるのに」
淫魔の相手をする以上媚薬対策は必須。
当然それを和らげる薬は事前に摂取している。
それでも少し吸い込んだだけで、カラダが火照ってきた。
「私じゃ、相性が最悪だよ。ここは、退いて退魔協会に応援を……」
「それも、ちょっと、難しそうだけど?」
今度は美桜が早く気付いた。
姉妹が昇ってきた階段にも、大量の蟲がいる。完全に閉じ込められた。
この窮地を脱するには、尋常ではない量の虫を葬らないといけない。
今まで多くの淫魔を退治してきた。しかし、そのどれよりも蟲魔ヒラルス・ラールアは厄介だ。これが五大淫魔の一柱の力ということなのだろう。
「もう、壁ぶっ壊して逃げる?」
「それが一番早そう、だね。美桜、お願いできる?」
「おっけ。じゃあ、いっくよ」
方針を決めた二人が動き出そうとした瞬間、虫たちの動きが止まる。
蟲魔ヒラルス・ラールアはまじまじと姉妹を見つめたかと思うと、いきなり声を発した。
「ああ、こいつだ……」
くぐもった低い声だった。
複数の蟲の視線が美桜に注がれていた。
すると不思議なことに背後の蟲たちが一斉に消えた。そして蟲魔は信じられないことを言う。
「逃げるといい。追いはしない」
淫魔が、女を前にして見逃す?
しかも退魔巫女を好き勝手陵辱できる状況で?
企みを警戒し、汗ばむカラダを押して、咲綾が刀の切っ先を蟲の淫魔に突き付ける。
「どういう、つもり?」
「(居候先の家の)主と、約束をしている。人を殺したり、廃人にしたりはしない。退魔巫女の中には、手を出してはいけない女もいると」
「主……?」
その言葉に美桜が、小馬鹿にしたように笑って見せる。
「ふ、ふーん? なになに、あんたそいつの言いなりなの?」
挑発的な物言いは、危険でも情報を得るための交渉の一つだ。この子なりに現状の異質さを考えての行動だろう。
蟲魔は特に怒りもせず、淡々と返した。
「仕方ない。約束さえ守れば、主は赤き天上の宝珠をくれる。だから、見逃す」
蟲魔ヒラルス・ラールアは再び大量の虫に戻り、波が引くように廃ビルから去った。
羽音も、ぎちぎちという節足のきしみも今は聞こえない。
しばらく周囲を警戒していたが、淫魔の気配はない。本当にいなくなったようだ。
あれだけの虫を目の当たりにして生理的な嫌悪感が沸き上がる。だがそれ以上に寒気がする事実を突き付けられた。
この場は見逃してもらえたが、助かったとは思えなかった。
「冗談、でしょ? あんな化物が大人しく言うことを聞くレベルのヤツが裏にいるの?」
美桜が頬の筋肉を引きつらせている。
正直なところ咲綾も、蟲魔の語った内容に戦慄していた。
「五大淫魔を従える“主”……それに、赤き天上の宝珠。あれが日本に来たのは偶然じゃない。たぶん、淫魔の王とも呼ぶべき存在がいるんだと思う」
「そいつが主ってわけね」
姉妹はごくりと唾を飲み込む。
蟲のいなくなった建物の中には、生温い空気が流れていた。