ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
椎名薫は協会に属する退魔巫女にして現役の教師でもある。
幼く見えるが年齢は二十六歳。三十を超える頃には加齢で霊力が衰えるため、経験と霊力を両立できる今が最盛期だろう。
当初は美桜たちと行動を共にしていたが、現在の任務は奪魔デートラヘレの調査・捜索。
しかし肝心の対象は動きを見せず、黒衣の外法術師の暗躍、蟲魔ヒラルスの淫蟲、触魔ブラキウムの触手など。それ以外の淫魔の動きも活発になり、毎晩調査に出ては場当たり的な討伐を繰り返しているのが現状だった。
そんな中、別働隊の最年長として薫は春乃宮の神社に顔を出した。
傍らには、現在チームを組んでいる
「椎名先生、お待ちしていました」
「あ、せんせ。こっちではおひさー」
「どうも、こんばんは。咲綾さん、美桜さん」
春乃宮姉妹は既に出陣の準備を整えており、退魔巫女装束で出迎えてくれた。
四季家の逸材。十年に一人の天才と謳われる退魔巫女、春乃宮美桜。
経験のなさから判断にはまだ甘いところがあるものの、術に関しては現時点でも薫を超えている。
頼もしいやら、才能の差に悲しくなるやら。ただ、多少勝気でも才能に溺れて傲慢になるタイプではない
咲綾もこと近接戦においては、同年代の中でも優秀。真面目な気質も相まって、将来はいい退魔巫女となるだろう。
まあ、それはいい。薫はさっそく本題を切り出す。
「実は、咲綾さん達にも別働隊で得た情報を直接伝えておこうと思いまして」
「そのために今日は?」
「はい。上に報告はしていますが、私たち末端に降りてくるまで時間がかかります。現場での情報にズレがないよう、逐一共有はしておきたいです」
薫が語ったのは、退魔協会の見解と実態は微妙に異なっている点だ。
まず、奪魔デートラヘレは人間をにわか外法術師に仕立て上げ、使い魔として魔力の収集に利用している。
それを潰して回っているのが黒衣の外法術師。
ただし黒衣が正義の味方というわけでもなく、配下である蟲魔や触魔で女性を襲っている。
加えて蟲魔は女性を襲っても軽く絶頂させる程度で開放するのに対して、触魔は明確に女性を襲っている。
その違いから、言うほど黒衣は五大淫魔を制御できていないのでは。
薫が自身の考えを伝えると、咲綾は首を横に振った。
「あー、それ、なんですが。実は、美桜が奪魔と対峙したようで」
「うん、そう。そもそも、協会の見解が間違ってたというか。奪魔デートラヘレと触魔は、仲間……みたいな関係っぽい。黒衣は全然まったく関係なかったのよね」
今度は美桜が、奪魔との一件を説明する。
触魔は同盟関係とは言わないまでも、敵対していない上に状況によっては共に行動をする可能性が高い。
また触魔は誰かと契約しており、それは黒衣でないらしい。
さらに霊力を吸収する能力を持ち、巫術を防ぐまでやってのけるとか。
「こっちでも報告は上げてるんだけど」
「まだ、私たちの方には届いていませんよ。もう、こうして話し合いに来てよかったです」
「ほんと、別口で動いてるとはいえ、もうちょい密に連絡とった方がいいかも」
仕方ないと言えば仕方ないが、現場と上では噛み合わない。
薫たちは顔を見合わせて溜息を吐く。
「では、黒衣と大淫魔と蟲魔。それに対する奪魔、触魔の構図だったと。こうなると、少し話が変わってきますね」
「どういうことですか?」と咲綾が問う。
「それが事実なら、黒衣は、人間に被害が出ないよう立ち回っている、ということです」
大淫魔は大きな動きを見せず、蟲魔の出す被害も大きくない。
奪魔デートラヘレ以外に興味を示していない、という考え方もできる。
提示した仮説に姉妹は大きく見開いた。
「さすが、せんせ! 実は私もそうじゃないかなーって思ってたのよね!」
「私も。そう考えた方が、辻褄の合う点が多いと思います」
二人とも物凄い勢いでこくこく頷いている。
彼女達の部隊は黒衣や宝珠を追っている。おそらく、薫と同質の疑念を抱いていたのだろう。
咲綾は、少しぎこちない表情で付け加える。
「なのでこちらでは、過度に黒衣を追い詰めないように動いています」
「なるほど。上手くいけばデートラヘレとぶつかってくれる、という判断でしょうか」
「……ええ」
まだまだ青いかと思えば、咲綾は中々ダーティな手段を取れるようになったようだ。
嬉しいやら悲しいやらだが、退魔巫女の成長と言えばそうだろう。
「ただ、黒衣は黒衣で魂霊契約をしていますからね。あちらも危険な相手ではあると思います。そこだけは注意していてください」
魂霊契約は外法術師の奥義。
黒衣はそれを五大淫魔のうち二柱と交わした、規格外の術師である。
魂霊契約を成した術者は、退魔協会から最大級の害悪と忌み嫌われる。
それは上級淫魔の根幹たる能力を使えること以上に、淫魔と精神的に同調しなければそもそも契約自体ができないことに由来する。
つまり黒衣の精神は淫魔に近い。人の形をしていても、中身は一種の化け物なのだ。
「……そっ、そっか。魂霊契約ができるってことは、契約者と淫魔は、似通ってる、ってのが大前提だもんね(やばい、また笑えてきた。直人もララやひーと似たようなもんってことだし、ぶふっ)」
美桜は口元を隠し、なにやら考え込んでいる。
かばうように咲綾が立ち、真剣な表情で応じる。
「分かりました。私たちも、十分気を付けます」
「それならよかった。お互いに頑張りましょう」
美桜も咲綾も素直ないい子だ。
大人として、助けになってあげたいと思う。
けれど彼女も退魔巫女。ただ庇護すればいいというものでもない。
軽く挨拶をしてから、薫は神社を後にした。
※ ※ ※
そうして薫が所属する別働隊は、今夜も任務に従事する。
その中で、唯一の男である栄山啓介が何げなく話を振る。
「そういや、先生は蛍火神社に行ったんだよな。春乃宮姉妹、実力も容姿も高レベルって話だけど。俺も見ておきたかったな」
「おおん? なんや啓介、お前ひとさまの容姿に点数つけようってんのかぁ?」
「どこのヤクザだ!? 違うわ、同僚の退魔師が美少女だって話してたから気になっただけ!?」
凄む伊織に、啓介は慌てて言い訳をする。
しかし彼女の勢いは止まらない。
「だいたいぃ? こっちにも美女が二人もおること忘れとるんとちゃうぅぅぅぅ?」
「いや、お前は押しが強すぎるというか」
「はぁ!? なに、ケンカ売っとんの!?」
「そういうところだよ!」
いや、こっちの子達もいい子です。
単にちょっと元気なだけで。
「はいはい、二人とも行きますよ」
微かに笑みを浮かべ、薫たちは暗がりを進む。
調査と並行した淫魔討伐。いつも通りの筈だった。
しかし夜の街を行く彼女達は、途中で違和感を察知した。正確に言えば、気付かずに踏み込んでしまった。
その後、人がまったくいないことに気付き、足を止めて意識を集中して探りようやくその異質さを認識した。
「おい、これ」
啓介の呼びかけに、薫はこくりと頷く。
「はい。人払いの結界、それも魔力で張られたものです」
これは下級淫魔の縄張りではない、術式としての結界だ。しかも退魔巫女たちが三人集まっても、侵入してしばらくは気付かないレベルの。
ならば知性を持つ上級淫魔か、外法術師が……それもかなりの強者がいる。
「嘘やろ、ウチらが気付かんくらい隠密性に優れた結界なんて」
「上級淫魔の中でも飛び切りじゃないか、これ」
伊織も啓介も冷や汗を垂らしている。
薫たちは警戒心を強め、結界を進む。
その先では見つけたのは、焼け焦げた触手の死骸。その中心に立つ、黒衣の男だった。
「何モンや、あんた!」
伊織が符を構えて睨み付け、啓介も拳を握り前に出た。
悠然と立つ黒衣は一瞥すると静かに言葉を発する。
「お前たちは……そうか、この地の退魔か」
かなり低いが、思ったよりも声は若い。
黒衣はこの街において、奪魔デートラヘレと双璧を成す危険な存在だ。
しかし彼女は敢えて対話に出た。
「私は、椎名薫。協会に所属する退魔巫女です」
「これはご丁寧に。我は、そうだな。黒衣とでも呼んでくれ」
既にこちらで使っている呼称を口にする。
まさか、協会にスパイを送り込んでいる? それともこちらの動きを監視されていた?
どちらにせよ一筋縄ではいかないようだ。
「この状況。あなたは、誰かと戦っていたと見受けますが」
「その通りだ。あれは、触魔の生み出したモノだ」
「やはり……」
美桜の報告通りだ。
さらなる情報を得るには、もっと深く踏み込まないといけない。
「黒衣の外法術師……教えてください。あなたは宝珠を集め、淫魔を従え、どうするつもりなのですか?」
※ ※ ※
……ほうじゅ?
僕はレオタードの椎名先生の決意しながらも不安があるみたいな表情に困惑していた。
さて、時間をちょっと遡る。
兄さんをぶっ飛ばした僕は、手乗りサナちゃんから別働隊の接近を聞かされた。
大慌てで黒衣セットを装着した僕が迷ったのは兄さんの対応だ。
「これさ、兄さんが処罰を受けるよう協会につき出すのは当然として、そこから僕の正体って普通にバレるよね?」
「おそらくは」
「でもさぁ、だからと言って口封じに……とかしちゃったら、もう僕は戻れなくなると思うんだ」
「記憶消去の魔術がないわけではないですが、今は時間もありません。もっとシンプルな、特定のキーワードを外に出せなくなる、禁句の魔術で処置するのはどうでしょう」
「というと?」
サナちゃんの説明によると、それは「本人が周りに情報を伝えようと思っても何故か伝えられなくなる」のだという。
あれだ、ファンタジー系レイプもののエロ漫画にあるやつだ。
あんなクソ男に犯された! 勇者様に伝えないと……!?
→なんで、なんで何も言えなくなるの!? いかないで!
→おーおー、勇者様行っちまったなぁ? そんなに俺とセックスしたかったのかぁ?
→違う、私は、助けを求めようとしたのにっ! あああん♡ いやぁぁっ♡
そういう、特定の事柄に関してだけ、周囲に伝えられなくタイプのエロ魔術。
禁句という名前だけど文字やジェスチャーなど、表に出す行為のすべてを封じれるのだという。
「今のナオトくんなら、手乗りサナちゃんサポートがあれば十分制御できます」
サナちゃんの手を借りて、僕は兄さんに魔術をかけた。
しゃーない。この人、僕への嫌がらせに余念がないから。
これでひとまず安心、という暇もなく、別働隊の皆さんたちが僕の前に現れた。
(やった、間に合った、セェーフゥゥゥゥ!)
クールな術師気取ってみたけど内心なんてこんなもんですよ。
彼に関しては目玉羽虫で彼らについても把握してある。
改めてみると椎名先生がすごい。ロリ体型の26歳なのに美桜さん達みたいなエグイハイレグ巫女レオタード。色々ちぐはぐで背徳的。それに比べると普通の巫女装束な備谷さんが清楚に見える。
「黒衣の外法術師……教えてください。あなたは宝珠を集め、淫魔を従え、どうするつもりなのですか?」
で、椎名先生からそんなことを言われました。
退魔協会の中でまだ宝珠の話続いてたの!?
聞き返すまでもなく、先生は自身の考えを滔々と語ってくれる。
「赤き天上の宝珠や輝ける翠玉。これら宝珠は特別な呪具というより純粋な魔力の塊だと私は推測しています」
いえ、純粋なカロリーの塊ですね。
「上級淫魔が欲するほどの代物。相応の魔力を内包しているのでしょう。ですが、あなたにとっては別の意味を持つ。いしひめさまは、鉱石を捧げた者に繁栄をもたらした。端的に聞きます……あなたの狙いは、神代の儀式の再現、ですか?」
??????
ちょっとなに言ってるのか分からない。
反応できずに困っていると、椎名先生は微かに笑った。
「答えてはもらえませんか。では話を続けます。最初は、雨尾山市全域を祭壇とした儀式の成就こそがあなたの狙いだと考えていました。そのために五大淫魔が必要であり、宝珠を捧げて契約を交わしたのだと」
ちゃいます。ケーキ一緒に食べてるだけです。
「しかしあなたは大きな動きを見せていない。むしろ奪魔の方が活発に動いている。そして奪魔が関わっていた教団やジム、触魔の出現場所で、紫の水晶の破片が発見された。奪魔もあなたと同じく、宝珠を捧げることで触魔を仲間に引き込んだ。もしかすると宝珠の争奪戦は、取りも直さず五大淫魔の奪い合いなのでは。であれば、本当は逆ではないかと考えました」
そこで一度深く息を吸い、真剣な目で僕を見る。
「これまでの事件を見ても、あなたは奪魔にまつわる事件のみを狙って潰している。学校閉鎖の件もそうです。つまり、奪魔デートラヘレこそが宝珠で五大淫魔を手に入れ、儀式を行おうとしているのではないか。黒衣の外法術師はその妨害こそが目的……そうではありませんか?」
……そうなの?
あ、でも、デートラヘレって確か僕とは違って。僕とは違ってちっちゃい子が大好きなんだよね。
サナちゃん達を手に入れたいっていうのは、そうなのかも。
「否定はしない。(ロリコンなので)奪魔が、サーナーティオやヒラルスを狙う可能性はある。だからこそ、我は先んじて保護した」
「やはり……」
なんか物凄い「納得したっ」みたいな顔してる。
これ、意外とラッキーなのでは。ここにきて、奪魔と敵対して人間を守ってる外法術師みたいなポジションが降ってわいた。
協会が奪魔だけを敵だと思ってくれるならそっちの方が全然嬉しい。
「あなたたちは、あまり被害を出さないよう動いている。ただし、人間にまったく危害を加えない、とは考えていない。生きていくための魔力を集めつつ、退魔協会とも事を構えたくない、くらいの認識でいいですか?」
「ああ、淫魔が生きるには魔力が必要だ。しかし、あれらほど悪辣に集める気もない。夏雅城の小僧を処理したのは、放っておけばうちの子が危ないと判断したからだ」
これは本当に。
できれば平穏に、のーんびり暮したいんです僕ら。
「なら、私たちは。協力とは言えずとも、一時的な休戦くらいは、できませんか?」
「薫先生!? なに言ってんだ!?」
「ちょ、待ちぃやセンセ!?」
他の二人の反応を見るに、椎名先生の独断なんだろう。
僕が何も答えずにいると、更にたたみかけてくる。
「私たちは、デートラヘレを追っています。それは、あなたにとっても好都合でしょう。私たちも、黒衣に手出しはしません」
「それは、上層部を通していない、貴女の判断だろう」
「はい。でも、実際に動くのは現場です。報告する内容を制限して、うまく誤魔化しますよ」
前々から思ってたけど、先生立ち回りがけっこうダーティよね。
でも、正直助かります。
「……奪魔デートラヘレ・カーリタースの根幹たる能力は<心魂強奪>。触れるだけでなく、結界のように一定の空間にいる者の霊力を吸収し、自らに還元する。その応用で巫術を防ぐこともできる。なにより厄介なのは、五大淫魔の中でもトップクラスの直接戦闘能力。外側向きの退魔師では、おそらく完封される」
僕のセリフに別働隊の皆さんは目を見開く。
たぶん美桜さんから報告はいってるだろうけど、固有名詞も教えておこう。
ていうか、細かいところまで全部伝える。
もう退魔巫女側がどこまで知ってるかを把握するのが難しくなってきた。
この辺りで、僕が知っていてほしい情報は全部伝えちゃおう。
ただし登則恵子さんに関しては伏せさせてもらった。ごめんね椎名さん、クラスメイトだけ贔屓しちゃって。
「我は、人間に甚大な被害を与えようとは思っていない。だが、契約した淫魔たちにひもじい思いもしてほしくない。人を死なせないように、快楽のエナジーを集める。そこが限界だ」
「分かりました。淫蟲に関しては、見逃せる分は、見逃します。ただし、人死にが出るようであれば」
「陵辱もさせないよう、ヒラルスには頼んである」
椎名先生は渋々と言った感じで、頷きを返す。
でも残る二人はやっぱり不満そうだなぁ。僕も動画の関係で、うまく相手側と妥協点を探るけど、こういう交渉って大変なんだよ?
自分の利をとろうとし過ぎると相手怒らせて破断なんて普通にあるし。
なのでちょっとフォローを入れておく。
「椎名薫。貴女を尊敬する。プライドより自身の立場より、後ろに控えた教え子たちの安全を、人々の平穏を選び、得体の知れない外法術師との交渉に臨んだ。何かあれば泥を被るのは貴女だろうに」
「仕方ありません、私は教師ですから」
「だから、尊敬する。貴女は、我が知る限りもっとも高潔な退魔巫女だ」
黒の外套で頭ペコリは佐間にならないので、跪いて敬う心を示す。あ、様です。
椎名先生はあくまで皆のためにこういう地味且つ嫌な仕事してるんだぞー。
「そこに転がっている男は、紫の水晶を使って触魔の眷属を操り、女性を陵辱し魔力を集めていた。我の正体を喋れないよう処置はしているが、それ以外は問題ないはずだ」
ついでに兄さんを売っておく。
その人に関してはどうとでもしてください。
「……そこまで教えて、いいんですか?」
……あっ!?
この言い方だと、兄さんは僕の正体知ってるってばらしたようなものじゃないか!
い、いや、大丈夫。僕のことは喋れないから、大丈夫なはずだ。
「あなたの高潔さに、絆されてしまったようだ。なんて恐ろしい」
「ふふ。まさか、五大淫魔を従える主に恐怖を与えてしまうなんて。では、その点は報告しない、です」
「何かあれば、蟲を通じて連絡しよう」
これでどうにか許してください。
内心で懇願しつつ、僕は淫蟲を展開。目くらましをしつつ、魔力爆発走法でこの場を離れる。
いきなりの邂逅だったけど、一応現地の退魔巫女と休戦協定を結べた。
もし本格的にデートラヘレと事を構えても、助力してくれるかもしれない。