ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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淫魔っ子及び退魔巫女姉妹が出てこないヒロイン不在回です

 退魔協会の総本山は、歴史ある大きな神社ではなく夏雅城グループの子会社、フーガ・エレクトロニクスである。

 薄暗い室内、板張りの床、揺れるろうそくの炎。そういったおどろおどろしい雰囲気はなく、上層部はみなスーツに身を包み、明るい会議室で、データや資料を揃えてミーティングに臨む。

 実働班の退魔師・退魔巫女ばかりがクローズアップされるが、実際には調査にもかなりの人員が割かれているし、事後処理のため政府や警察と交渉をする部署、得られた淫魔のデータをまとめる事務、淫魔関連の依頼を受ける営業(・・)まで在籍している。実は霊力を持たない会員の方が多いくらいだった。

 

 事件を起こした外法術師の処置は霊力を持つ者が担当する。これに関してはフーガ・エレクトロニクスではなく、田舎の旧家で尋問に似たことを同時に行う。

 もともと外法術師は、霊力で淫魔の術を再現した者が大半だ。術理さえ分かれば、霊力でもサーナーティオの『真実』の下位互換くらいはできる。

 その言葉が真偽を見分ける、精度の高い嘘発見器のような巫術である。

 

「俺は、何も知らない。奪魔についても、黒衣についても。ただ、紫の水晶を、奪魔に貰った。それで触魔の眷属を操り、魔力を収集していた。俺は、特別に、特別な自分でいたかった」

 

 だが佐間武尊は何も語らず、特に得られた情報はない。その後の処理としては不同意性交等罪という扱いになる。

 もともと魔力や霊力を持たず、契約したわけでもない彼は、普通の人間として自らの行いの代償を支払うことになる。

 ただし、黒衣の外法術師が武尊にかけた禁句の魔術は、それを誰かに明かそうとしても不可能。無理に吐き出そうとすれば苦痛を覚える。

 なのに尋問の途中も後も、彼は一切そんな素振りを見せなかった。つまり彼は術がなくても「嘘を吐いたと判定されない範囲で佐間直人の存在を隠した」ことになる。

 何も知らない、黒衣(おとうと)について。

 それは紛れもない真実だった。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 今回の事件は、奪魔デートラヘレ・カーリタースが人間を操った結果起こったものである。

 佐間武尊は奪魔より紫の水晶を貰ったことで暴走、触魔の眷属を操り陵辱を繰り返した。

 また、返坂高校を襲った触手の群れもまた、この男の手によるもの。

 ただし触魔ブラキウム・インヴィディアは、別の人間と契約(主従か魂霊かは分からず)している可能性がある。

 女性への強姦自体は彼の意志によって行われたものである以上、相応の処置は必要と考えられる。

 

 これと並行し、椎名薫・栄山啓介・備谷伊織が黒衣の外法術師と接敵。

 取り逃すも、椎名薫が一時優勢となり、ある程度の情報を引き出すことに成功。

 奪魔・触魔の根幹たる能力、その範囲等のデータを入手。

 また、佐間武尊を確保したのも椎名薫以下二名の功績である。

 ……退魔協会側ではそういうことになっている。

 

「上々、ですね」

 

 椎名薫は機嫌よさそうに鼻歌を歌う。

 黒衣から得た情報は、ある程度協会に伝えてある。ただし、別働隊に淫蟲からの攻撃が来ない、何かあれば黒衣から連絡がある等は伏せておいた。

 敵の能力だけでも十分に価値がある。薫たちは一定の成果を上げたと言っていいだろう。

 

「俺は、やっぱり反対だ。奪魔を追うために黒衣を見逃す。それは正しい行いじゃない」

 

 しかし啓介が不満そうに吐き捨てる。

 実直な退魔師だけに、外法術師との裏取引で得られた成果が気に食わないようだ。

 

「確かにあいつの言う通り、淫蟲による被害は少なくなった。俺達にちょっかいもかけてこない。だけど、見えないところで女性は襲われてる。いくらもっと危険な敵を倒すためだからって、確かにいる被害者を見捨てるなんて」

「そうですね、栄山くん。私だって正しいとは思っていませんよ」

 

 それでも黒衣と奪魔を同時に相手取ることは避けられた。

 薫にとっては協会からの評価よりも価値がある成果だ。

 

「落ち着きぃな、けーすけ。センセがああいう取引したんは、ウチらを守るためやん。黒衣を正面突破できるなら、ああはならんかった」※たぶんガチでやったら薫先生が勝ちます

「それは」

 

 その部分を指摘されると弱い。

 薫の交渉は、“使い捨てられる現場の人員”にされないためのもの。守られた自分たちが言えることはないと、啓介もちゃんと理解はしている。感情がおいつかないだけで。

 

「ごめん、薫先生」

「謝らないでください。私がもっと強ければ、他の手を選べた。弱い退魔巫女は、使えるものは何でも使わないといけません」

「それを言うたら、ウチらもや。皆の弱さの泥を、センセが被ってくれた」

 

 反省して頭を下げる啓介と伊織、やはりこの子達もいい子だ。

 

「にしても、黒衣はえらいセンセを評価しとったなぁ。惚れられたんちゃう?」

「あら、そうではありませんよ。淫魔に近しい精神だから危険と予測していましたが、黒衣も意外といい子です」

 

 伊織のからかいに、薫は微かな笑みで返す。

 

「あれは、私が後ろ暗い手段を使おうとしたから、その理由は栄山くんや備谷さんを守るための行動である、と知らしめるためのもの。つまりあなたたちに誤解されて嫌われないよう気遣ったのでしょう」

「えぇ、ほんまぁ?」

 

 最大級の害悪と呼ばれる術師が? と疑いの目を向けてくる。

 だがあんなあからさまに薫を持ち上げるのだ、意図は簡単に分かってしまう。

 わざと佐間武尊が自分の正体を知っているとバラす辺り、かなり信頼されているのも感じられた。

 

「……いえ、意外と、本当に惚れられたのでしょうか」

 

 言いながら、薫は写真をぴらぴらと見せる。

 

「なんだ、それ?」

「奪魔デートラヘレの写真です」

「は!?」

「二メートルを超えた人型で、格闘戦が飛び抜けて強い代わりに触手や淫蟲といった、創造系の能力は持っていません。だからこそ、人間を使い魔とするのでしょう。ただ、陵辱を娯楽のように捉えるタイプなので交渉は難しい、と。あと、幼い外見をした女の子が好きみたいですよ」

 

 もちろん淫魔なので隠蔽や認識阻害は使う。

 ただ、本体の姿はこれで間違いないそうだ。なおこの写真がらっちゃんの夢幻世界で生み出した幻影を撮影したものとは当然知らない。カメラに映る幻影とかわりとヤバめです。

 

「俺らのこれまでの調査が何だったのレベルで情報が入ってくる……」

「なぁ、センセ。もう、ほっぺにちゅーくらいしたったら、いっしょに戦ってくれるんちゃうか、これ?」

 

 まさか、と薫は小さく笑った。

 ただ正義とはかけ離れた行動をとった自分を、「もっとも高潔な退魔巫女」と呼んだのだけは本心からなのだろう。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 改めてサナちゃんに話を聞き、分かる限りの奪魔の情報を椎名先生に淫蟲を通じて送っておいた。

 当然ながら目玉羽虫による監視も続けている。

 今後は邪魔も入らないし、どうぞ調査に力を入れてください。

 

 そうして一週間が経ち、ある地元新聞に兄さんのことが掲載された。

 大学生の犯した性犯罪。

 今回の件はそういうことになったらしい。全国報道されなかったのは、退魔協会の思惑が反映されたのか。それとも、触手という点を除けばありふれた事件と判断されただろうか。

 全国規模では大きな騒ぎにはなっていないが、地元ではちょっとしたニュースになった。執行猶予が付くのか、悪質性を考慮して実刑判決となるか。そこら辺は今後の経過次第だ。

 商店街でもチラホラ知っている人はいるっぽいけど、センシティブな内容なので触れようとする人は少ない。

 今頃実家は、マスコミで大変なことになってたりするのかな。

 あれだけ兄さんを溺愛していた母さんは。

 どうでもいい……なんて考えてしまう僕は、ちょっと冷たいのかもしれない。

 

「すっきりしないものだよね」

 

 嫌な兄、嫌な母親だった。

 でもムカついて離れはしても、ぶっ壊してやりたいとは思っていなかった。

 それが変な形で滅茶苦茶になった。

 悲しいのか、寂しいのか、辛いのか。いや、たぶんこれはちょっとした未練なんだろう。

 どうにもならなかったモノに、どうにかできたのではと縋る、僕の心の情けなさだ。

 

「第一回っ! 極・激辛担々麺バトル! かいっさいぃぃぃぃぃぃ!」

 

 そうして響き渡る相沢竜太くんの声。

 店内で大声出すのやめてもろて? 

 

「ルールは簡単だ。トウガラシが多過ぎてスープがペースト状になっているこの極・激辛担々麺を一番早く完食したヤツが勝利。最下位は全員の担々麺代を払ってもらう」

 

 ものすごく真剣な顔で相沢くんが語る。

 僕たちがこの中華料理屋にいる理由は簡単。彼に無理矢理連れてこられて、「激辛料理を完食できるか対決すんぞ」っていう流れだ。「しようぜ」じゃないからね、「すんぞ」だよ。 

 ちなみにバトル参加者は僕だけじゃない。何故か近藤くんと、炎情シュウさんもいっしょにいた。

 

「いやー、俺も参加してよかったんすか?」

「ああ、こういうのは人が多いほど盛り上がるってもんだ」

「やるからには負けねーっすよ」

「こっちだってな」

 

 中華料理屋に向かう途中で偶然会った、僕の知り合い。

 それだけの理由で激辛担々麺を食べる羽目になった犠牲者(シュウさん)に幸あれ。

 あと近藤くんも「なんで俺まで……」とうなだれている。君も相沢くんに無理矢理連れて来られたんだね。

 

「来たぜ、俺達が乗り越えるべき、熱く燃え盛る壁(極・激辛担々麺)がよぉ……!」

 

 今日の君、ちょっとテンションおかしくないです?

 僕の前にも丼が置かれる。あっ、目が痛い。辛い辛い。湯気の時点でもう辛い。

 

「ダメだろっ、ダメだろこれ!? 確実に危険物指定だろこんなもん!?」

「そういう発言は炎上しますよぉ。ちゃんと視聴者さん意識して、マイルドに表現しないと」

「俺に視聴者いねーよ!?」

 

 近藤くんがテンパってる。

 僕もどっちかというとそちら側の人間です。

 

「じゃあオマエラ、準備はいいか。バトル……スタートだっ!」

 

 相沢くんの合図で、みんな一斉に担々麺をすする。

 

「ぐほぁあああっ!? ごほっ、ごほぉっ! え、辛っ!? かっらっ!」

 

 嘘でしょ、一番にむせて噴き出すのも相沢くんなの?

 僕も近藤くんも一口で悶えているけども。

 

「おー、辛いけどイケるっすね」

 

 そんな中するすると食べ進めるシュウさん。

 多少額に汗はあるものの平然としている。

 僕の視線に気づき、サムズアップと笑顔で言う。

 

「ああ、俺、某カレー屋で辛さ二十倍の常連っす」

 

 だから普通についてきたのか。

 犠牲者じゃないよ、地獄を余裕で歩けるファイターだよ。

 

「なにごれっ!? 辛すぎるぅ!? こんなんならっ、百地の幻想聖姫セクシー写真集談義、素直に聞いておけばよがっだぁ!?」

 

 あまりの辛さにぐおんぐおん上半身が揺れている。

 あ、近藤くんが連れ出された経緯はクラスメイトの百地君がえっちな変身ヒロインのグラビアを教室で見せつけてきて、それから逃れるために相沢くんの手を取った、って感じです。

 他人をこんな地獄に連れ込んでおいて、提案者の相沢くんは一口食べるごとに涙を流してる。

 

「ぐぉぉ、かれぇつれぇ目がいてぇ……! 涙が止まりやがらしねぇ! だが食うぅ!」

「なにが君をそこまで駆り立てるの……?」

「うっせえ! おら、キモブタぁ! てめえも食うんだよ、どんだけ泣いても完食するまでは許さねえからな! 泣きわめいても食い切りやがれクソがっ!」

 

 ……ああ、そう。そういうことか。

 僕は丼をがしっと掴み、一気に担々麺をする。

 

「ぐふえぁふぅ!?」

 

 激辛が喉にダイレクト! 焼ける焼けるぅ!?

 本気で涙出てきたんですが!?

 

「うっ、うぇえぇ。からっ、からひっ。涙がっ、涙がぁ」

「けけっ、こんだけ辛いの食えば涙ぐらい出んだよぉ!? うがぁ!? みずぅ、みずのおかわりおぉ!」 

「ぶほっ!? も、もっとスマートな方法、絶対あったよねぇ!?」

「あぁ!? ざけんな、なんでデブのためにスマートな方法選ばなきゃなんねえんだよぉっ!」

「意味わかんないしシンプルに悪口!」

 

 もう、本気で辛すぎる。なんでこんな真っ赤なペーストスープ作ったのさ。

 家族とか兄さんとの関係はどうでもいいけど、担々麺が辛すぎてドンドン涙が流れる。

 早食い対決だから拭いてる暇もありゃしない。

 でも負けたくないから泣きながらも箸は止めない。

 

「相沢くんっ、ありがとっ!」

「ああっ!? もう奢られる気満々かぁ、おいっ! 勝つのは俺だってんだちくしょうがぁ!」

 

 僕以上に涙しながら、それでも汁一滴も残すつもりがない相沢くん。

 辛みの激戦を軽く無視して、シュウさんは普通に食事を楽しんでいる。

 

「あ、こっちの海老餃子美味そうっすね。すんませーん、追加で海老餃子ー」

 

 えー、本当に辛いの大丈夫なんだ。

 顔を隠さないといけない縛りがなければ、激辛食いで再生数稼げるよ。

 

「…………………誰か俺を救ってくれ」

 

 ただただ、かわいそうな近藤くん。

 あと学校の先生もかわいそうです。今、平日の午前中だから。僕たち四時間目の授業をサボって、ランチ営業一番乗りで入店しています。

 

「からっ、からひぃ。辛すぎて、涙がぁ」

 

 僕は極・激辛担々麺を食べ続けた。

 この涙はトウガラシのせいだから、全然大丈夫だ。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「ひ、ひどい目にあった……」

「大丈夫、近藤くん? ごめんね、僕のせいで」

「大丈夫じゃないけどお前のせいでもないだろ」

「いや、これ僕を慰める会みたいなものだし」

「だとしてもだよ。相沢のやつめ……」

 

 極・激辛担々麺をギリギリで完食した僕たちは、しばらく休んでから学校に戻った。

 結局四時間目・五時間目はサボってるので、戻る必要あるのかな、と思わなくもないけど。

 僕は、辛いは辛いけど身体の耐久力が上がってるしなんとか無事。近藤くんは今もいちごミルクを手放せない。

 

「へへ、やるじゃねえか、お前ら……」

 

 なお極・激辛担々麺バトル最下位は相沢くんだった。

 僕にお金を払わせないようにわざと、とかじゃなくガチで。

 そのダメージたるや、僕が肩を貸さないと歩けないレベルである。

 

「俺さ、相沢を見る目が最近変わってきたわ」

「怖めの外見だし、普通に喧嘩するし、ムカつくヤツには容赦しないしで、不良寄りではあるんだよ? ダメなことをした女の子を受け入れる度量も、義侠心もある。ただ相沢くん、わりと勢いで行動するタイプなんだよね……」

 

 感情のまま教室で叫んだり、UMA図鑑とか。 

 近藤くんは「ああ、何となく分かったわ。お前らが仲いいの」と溜息を吐く。

 どういうことかを聞く前に、相沢くんが悪態をつく。

 

「お前もムカついたら勢いで行動するタイプだろーが」

 

 実際にはかなりの違いがあるはずなのに、そこだけ切り取られると「確かに」と思ってしまう。

 箇条書きマジックに近い何かを味合わされた気がする。

 そうやって限界ギリギリでどうにか僕たちは教室に戻ることができた。

 さて、なんか色々あって気合いが入った。僕は、

扉をくぐると同時に崩れ落ちたから、クラスメイトが何事かと驚いている。

 

「ど、どうしたんですか、みなさん」

 

 ……その中には、登則恵子さんの姿もある。

 そう、事件後も彼女は姿を消すことなく、普通に学校に通っている。

 話、聞かなきゃいけないよなぁ。

 

 

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