ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話 作:自宅戦闘員
ある日の放課後。
僕は咲綾さんと共に、登則さんを問い詰めようと屋上に呼び出した。
鍵は咲綾さんに借りてもらった。元とはいえ夏雅城の婚約者だった経緯からか、わりとスムーズに行った。
扉を開ければ飛び込んでくる色彩。
夕暮れの陽で橙色に染まる。眩しさに少し目を細めながら、僕たちは先に来ていた登則さんを見る。
こんな状況なのに不思議なくらい穏やかな表情だ。夜に変わりゆく街並みの風情を楽しんでいるかのように見える。
「武尊さんの件ですよね?」
感慨もなく彼女は言う。
冷たい表情ではない。今日の小テスト難しくありませんでした? みたいな雑談の延長くらいの軽さだ。
「退魔協会に突き出されたよ。紫の水晶は取り上げられ、今後は刑事事件の犯人としての対応になる、かな」
「そう、ですか。ありがとうございます、春乃宮さん。意外と、嫌いじゃなかったんですけどね、あの人のこと」
咲綾さんから近況を聞かされて、登則さんは残念そうだった。それは、本音だったように思えた。
「にしても、バレてたんですね、私が契約者だって」
「気付いたのは咲綾さんだけどね」
ちらりと視線を送れば、咲綾さんはそっと微笑む。
「登則さんは、直人くんと一度も行動を共にしなかった。ほぼ会話もなかった。なのに、直人くんの行動を知っていた。その違和感に気付けば、監視用触手を操っていたことに辿り着くのも簡単だったよ」
「その割りに佐間くんへの告白すると言ったらものすごく動揺していましたが」
「しーっ、登則さん、しーっ」
イマイチ決めきれない咲綾さんでした。
「でも、普通に私のミスですね。自分で見た光景と、触手の見た景色がごっちゃになっていました」
やらかした、と登則さんが頭を抱えた。
僕も知覚系の淫蟲をあまりに多く出し過ぎると頭パンクしそうになるから、仕方ないと言えばそうなんだけど。
「登則さん、色々教えてもらっていい? 君が、その、触魔ブラキウム・インヴィディアの契約者、なんだよね」
「はい。あなたと同じく、魂霊契約を交わしました。今年の夏休み前くらいです」
デートラヘレのような主従契約ではなく、触魔と魂で繋がったのだと彼女は語る。
時期的には春頃に僕がサナちゃん・ひーちゃんと出会って、心光の癒し事件が起こったから、この辺りで奪魔がちらほら。その後にらっちゃんが来た。
もともと奪魔と触魔は懇意だったから……これって、もしかして。
「ねえ、手乗りサナちゃん。もしかして、本能が強い触魔なら、一人が嫌で皆のいるところに来たって言うのは……」
「……可能性、ありますね」
なんだろう、五大淫魔ってそれぞれ愉快な性格過ぎないだろうか。
戸惑っていると、登則さんが補足で説明をしてくれる。
「言葉は喋れませんけど、契約してから感情や内心は分かるようになったので、たぶんそれであってますよ。以前は人間の敵とされた、自分と同質の存在が何体もいたのに、いつの間にか一人。その状況が堪えたみたいです」
「飼い主が仕事行ってると元気なくなる室内犬メンタルぅ……」
ただ、これを深堀していくのは危険だ。
触魔が海を渡った時期によっては、らっちゃんがまだ向こうにいた可能性がある。
にも拘らず一人が寂しいを理由に行動を起こしたとすれば、またあの子がのじゃってしまう。
「私との出会いも……」
登則さんは少し楽しそうに、触魔ブラキウム・インヴィディアとの出会いを語ってくれた。
───────
梅雨も過ぎたのに雨の強い、夏休み前のある日のことだった。
登則恵子がその路地裏に近付いたのは、ひっかけた四十代の中年男性とラブホテルに向かう途中、男が興奮してそのまま路上でいたそうとしたからだ。
眼鏡に三つ編みと純朴そうな見た目だが顔立ちは決して悪くない。制服のままというのも非常にそそる。
恵子も獣欲を受け入れた。全部は脱がず軽くはだけて、乳首と性器が露出したオープンランジェリーを晒す。
そうして洗っていない包茎ちんぽにひょっとこフェラをかましていると、路地裏で何かが蠢いた。
ずるり、ぬちゃりと粘ついた音を立てて這いずるそいつに、男は悲鳴を上げて逃げ出す。
しかし、恵子は逃げずに、カラダを震わせた。
「超……ごりっぱ、じゃないですか……!?」
そいつが見せた触手は、どう考えても彼女好みの形状をしていた。
───────
「いえ、もちろん化物ですから、怖くはありましたよ? ですが、見せ槍のように触手を突き付けられて思ったんです。ああ、この子は私とセッ〇スをしたがっている。そうして自ら股を開き、人生初の触手プレイを経験しました。最高でした……。ことが終わった後に、おそらく触魔の本体だったのでしょうね。その子にお礼を言いながら撫でてあげました。そうして気付けば、魂霊契約を結んでいたんです」
……うん。
いやね、正直わりと性に奔放なのではという予測はしていたんですが、思った以上にエロに貪欲な子だった。
「いやなこと聞くけど、パパ活的な……?」
「していますよ? 若いイケメンもいいですが、ねちっこいおじさんセッ〇スも味わい深いです。私がなぜ、三つ編みにメガネと地味な恰好をしているか分かりますか? 純朴そうな見た目で、女子高生を抱きたい気弱な中年男性を引っ掛けるためです」
やっべーよ。真面目な優等生でなく純正統派なビッチだったよ。
「さて、佐間くんも契約者ならわかっているでしょうが、誰が相手でも魂霊契約のルールは変わりません。上級淫魔と契約し、その魂と同調できる者は、淫魔の力そのものを得られる」
そう、だから邪悪な淫魔と契約できるような者は、外法術師からは最上級の術師と称えられ、退魔師からは最大級の害悪と侮蔑される。
僕は「淫魔側が超いい子だから同調しやすい」という特例に過ぎない。
「つまり、登則さんは」
「ええ、私は、触魔のブラくんと契約を交わしました。だって、セッ〇スが好きだから」
「…………うん」
「だって! セッ〇スが! ものすごく! 大好きだから!」
触魔ブラキウム・インヴィディアは上級種でありながら、下級種のように本能が強く、快楽のエナジーを求めて女性を襲うタイプの淫魔だ。
それと同調できるのは、快楽を求めて本能でセックスする性欲の強いタイプの人間、っていう理論なのね。
……でもまあ、たぶん。触手プレイの後に撫でてあげたことが、直接のきっかけなんだろうなぁとは思う。
淫魔だって優しくされたら嬉しいのは変わらない。それを僕はもう知っていた。
「そう言った経緯で、私はブラくんと契約を交わしました」
その言葉で、屋上の物陰から、なにかが躍り出る。
体色は緑と紫のまだら。サイズ的には、サナちゃん達より少し小さいくらい。ぬぼーっとした表情の、タコと少年が合体したような。モンスターショタだった。正直言うと、ちょっとかわいい。
「手乗りサナちゃん、確か触魔は触手ボディがメインの筈じゃ?」
「彼の根幹たる能力は適応繁殖、
ああ、つまり。登則さんと生活する上で、彼女が嫌悪感を持たない姿に擬態しているのか。
口は付いているけど、パクパクさせるだけで声は出ない。
容姿を人間に近付けているだけで、本質は触手だから声帯がないのだろう。
「もしナオトくんが最初の契約者だったなら、たぶんつるぺた美少女になっていましたよ」
「いる? その補足いる?」
僕はロリコンじゃありません。
「中身は子供に近いですね。お腹が減ったら快楽のエナジーを求めて、満腹なら普通な甘え方もします」
登則さんが頭を撫でると、気持ちよさそうにしていた。
改めて手乗りサナちゃんが会話を試みる。
「お久しぶりです。触魔ブラキウム、あなたもこの国に来たんですね」
頷きで返す。
淫魔同士なら意思疎通は出来るらしく、「飛行機にとりついて、快適に旅行したみたいです」と補足を入れてくれた。
「契約してから事情を知りましたが、私は野心があるわけでもありません。ブラくんを養うためにちょっと今までよりパパ活からのセックスを増やした程度です。その過程で、武尊さんにバレました。あの人とは、特に淫魔は関係なく、以前からイケメン枠のセフレだったんですよ」
そうして兄さんは暴走した。
自分にはない“特別”を持つ女の子に対してセッ〇スで主導権をとり、触手を自らのモノのように扱った。
「デートラヘレさん、いろいろと悪い淫魔だと本人も言ってましたが、微妙なノリだけど悪辣な方でもなかったですよ。私がブラくんと契約しているのを知っても、“まあブラくんが納得してるなら、俺くんに言えることは特にないんだよねぇ。可愛がってくれてるやん?”程度でしたから」
性格的には人類の敵っぽくはないんだよね。
ただ魔力集めに貪欲で、人間を使い魔にしたりと暗躍気質だから、協会としても僕としても警戒はしないといけない。
「登則さんは、奪魔の目的とかって聞いてるの?」
「いえ。あの性格ですから“将来的にロリロリランド設立したい”くらいは。あ、幼女を飼って牧場にするとか、そういう悪魔じみたものではないので。幼女をイメージキャラにした淫魔が楽しめるテーマパークを作りたいのだとか」
「どっちにしろ最悪ですが?」
ジョークとはいえ思った以上にデートラヘレがただの変態だった。
「紫の結晶は、武尊さんの存在を知って、ならこういうのがあるよん。いい具合に遊ばせちゃって、と渡してくれました。つまるところ、デートラヘレさんって娯楽で人を弄ぶタイプの人外だけど、趣味自体はロリエロに傾いてる方、ではないでしょうか。加えて、武尊さんがなにをしようと、触手を使えばブラくんは魔力を得られますからね。仲間意識もありはするのでしょう」
総合すると、登則さんは別にデートラヘレと連携していた訳ではない。
せいぜい近所さん付き合い程度だった。
また触手による強姦事件にも関わっていない。
でも、武器を与えたのは間違いなくデートラヘレと彼女だ。
兄さんが暴走したのはお前たちのせいだ、とまでは言えない。
なら、僕の結論はこう。
「とりあえず、ビンタしていい?」
「はい、どうぞ」
「っしゃおらぁ!?」
「いったぁああああ!? ぜ、全力できましたねっ、佐間くん」
全力じゃないよ、今の全力ならたぶん首から上が飛ぶ。
女の子を殴るなんて、と怒られるかもしれないけどこれはけじめということで一つ。
「これで、僕の気は済んだ。咲綾さんは、どう?」
僕が話を振ると、彼女は静かに剣のように鋭い目で登則さんを見る。
「触魔ブラキウムを制御できている。奪魔の企みに加担していない。本人が犯罪自体には手を出していない。犯した罪を重視する協会の判断では、そう重くならないはず」
「触手の貸与は?」
「操る手段を奪魔デートラヘレが用意している以上、黒幕はそちらの扱いになるんじゃないかな? もちろん責任は発生するけど……殺人犯にナイフを売りました、かなぁ」
変な話、登則さんって判断しにくいんだよね。
だって、退魔協会は公的機関じゃない。外法術師が魔術を使ってもそれ自体は裁けないので、引き起こした被害に応じて法的に罰する。
「淫魔滅ぼす!」はできても「外法術師死すべし!」な対処は出来ないらしい。術師はちゃんと国籍を持つ人間で、協会は基本的に企業の献金で運営される自警団の延長だから。
この特性上、触手を作って与えただけで本人なんもしてない彼女が、どういう罪になるか僕たちもいまいち分からないのだ。
学園閉鎖の時に女生徒を触手に襲わせましたー、なら兄さんと共同正犯になるけど、そういうのもないしなぁ。
「懸念があるのは、奪魔と連絡し合っていること、触魔の主ということ。そのどちらも解決すれば、協会への報告の必要性自体がなくなる」
「……それは、ブラくんを封印、という話ですか」
「おそらく、そうなると思うよ」
咲綾さんが重々しく言えば、複雑そうに登則さんは俯いた
「まあ、直人くんみたいに誰にも被害を出さずひっそりと暮らすなら、私はあえて報告しないかな。強引に事を運べば、こちらにも被害が出そうだから」
「それはどういうことでしょう?」
登則さんの疑問の答えは、触魔ブラくんが明確に示していた。
言葉は理解しているようだ。彼女を庇うように、咲綾さんの前に立って威嚇していた。
「今のところ、登則さんは直人くんと同じなの。淫魔に懐かれた外法術師。だから、経過観察。暴れないなら見逃せるけど、今後の動き次第では協会で正式に対応しないといけなくなる」
だから、と咲綾さんは登則さんの目をまっすぐに見る。
「奪魔との連絡を絶ち、触手による暴行事件を起こさない。それを、守れるのなら、様子見で構わない。どう?」
「まあ、私としては、助かりますが」
それが咲綾さんの、退魔巫女としての対応だ。
大分サナちゃん達に絆された、優しい沙汰だと思う。
まあ登則さんを突いて奪魔や触魔と全面戦争なんて展開嫌だし、そういう意味で騒ぎが収まるまでは現状維持、という意味が強いんだろうけど。
一応の沙汰が定まって、僕はずっと気になっていたことを聞いてみる。
「ねえ、なんで登則さんは兄さんにあそこまで従ったの?」
触魔と契約していたのだから、拒否しようと思えば軽く跳ねのけられたはず。
それに、咲綾さんにもちょっとヒントみたいなのを与えていたみたいだし。
僕の問いに、登則さんはきょとんとした表情で答えた。
「従うプレイが
僕が何も言えずにいると、登則さんはやんわりとした笑みを浮かべた。
「その意味で、佐間くんはあんまりですね。優しいより乱暴なセッ〇スに傅くのが好きな女だっているっていう話です。春乃宮さん達も、もしかしたらそうかもしれませんよ?」
なんとなく、魂霊契約が最大級の害悪とされる理由が分かった気がする。
まっとうな淫魔と同調できる、“下半身でモノを考える”人間の行き着く先って、わりと破滅的だ。
登則恵子は僕が知る中で、一番邪悪な女の子だと思う。
こんな性嗜好をしているのに、普通に学校生活を送れている。その事実が、僕には怖かった。
「ごめん、登則さんのこと、様子見と言ったけど協会に報告しないといけないかもしれない」
咲綾さんも、彼女の雰囲気に空恐ろしいものを感じたのだろう。
別れ際、真剣な顔でそう言っていた。
最後の最後に、しこりは残った。それでも、今回の件は一応の解決を見たと言っていいだろう。
※ ※ ※
話し合いは終わった。
だからと言って放置はできないので、淫蟲で監視は必要かな。
ある程度は解決したので、放課後は僕のマンションに集まって軽い打ち合わせもしておく。
「問題は、デートラヘレが何をしてるのか、いつまで経っても見えてこないってところだよね」
「これ、もう引っ掻き回すのを楽しんでるだけじゃないでしょうか?」
サナちゃんの予想も間違いじゃない気がしてきた。
「でも協会としては、人間を利用して陵辱を行う奪魔は放っておけないの」
「だよねー。個人的にも腹立つし」
春乃宮姉妹からするとやっぱり奪魔は要注意淫魔には変わらない。たぶん咲綾さんは、本当は触魔も奪魔も討伐したいんだろうな、と思う。
奪魔の手口的に、放置するとにわか外法術師の横行が止まらない。もうちょっと言うと、人間によるヤバい性犯罪が常態化する。
エロい宗教団体とか、セックストレーニングを推奨するスポーツジムみたいな例が増えすぎると、公的機関じゃない退魔協会だと対応が難しい。強制捜査をする権限がないからだ。
なので、「淫魔を倒せば終わる」今のうちに状況を治めたいのが本音だろう。
「まあ今回の一件は、明確な前進だ。実質的に触魔を無力化し、奪魔がコンタクトをとってきたら僕たちが動ける状況を作れた。それに黒衣の外法術師への干渉も軽減できた」
「私たちの立ち位置は、とても危険になっている気がするけどね……?」
咲綾さんに半目で見られた。
協会側に報告できない内容が多すぎるからね。真面目で真っ当な退魔巫女である彼女にはきついだろう。
くそう。どこかに実力派でいながら正義感があって私利私欲に走らず、それでいて現場での判断力に優れダーティな手段も実行できる強かな退魔巫女はいないものだろうか。
きっと情報の取捨選択をうまくやって協会にも報告してくれるのに。
「私は、少し安心はしましたよ。最悪、触魔ブラキウムを処断する必要があると思っていましたから。同じく五大淫魔に数えられたもの。無残な最期はしのびないです」
「サナにとったら同族か……。ん? ララやひーはいいの?」
美桜さんの問いに、ひーちゃんは平然と応える。
「特に仲良くなかった……」
「妾、そもそもぼっちだったのじゃ……」
「なんかごめん。特にララ」
悲しい記憶を掘り起こしそうになってました。
「まあ、もうちょっと頑張ろうか。ひと段落ついたら、温泉旅行とか行きたいなぁ」
「直人くん、おじさんっぽいよ?」と咲綾さんがくすくす笑う。
「おんせんっ。いいです、雪景色の露天風呂! スキーとかスノボもいいと思いません?」
「あ、そっか。この子も温泉好きだった」
こうして触手にまつわる事件は終わった。
すっきりとしない結末ではあった。
でも、穏やかな日々が保たれた。今はそれでよかったと思うことにしよう。
※ ※ ※
しかし彼らは気付いていなかった。
奪魔デートラヘレ・カーリタースが既に仕込みを済ませ、行動を起こそうとしていることに。
そしてそれが、思った以上にアホかつロリコンであるという事実に───
お兄さん戦終了。