ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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冬のあれこれ
らっちゃんといっしょ清楚版


 

 

 

 兄さんは前科持ちとなり、登則さんには監視の目が付いた。それらの情報を椎名先生に渡してうまい具合に調整し、協会に報告してもらっている。

 触魔の一件は、一応ながら解決したと言っていいだろう。

 

 変な話だけど、兄さんに関しては、短絡的な解決法ならいくらでもあった。

 ひーちゃんが淫蟲で兄さんを捕えて○○で××な△△なことをしちゃうとか。サナちゃんによる単騎実力行使とか。

 殺したりが嫌なら、らっちゃんが永遠に覚めない夢を見せることだってできた。

 そういうのをしたくない僕に、淫魔っ子たちは敢えて何も言わずにいてくれた。

 今回の事件が遠回りな解決になったのは、僕が情けないからで、皆が優しかったからだ。

 

 そうして冬休み前のある日のこと。

 自宅のマンションに帰るとらっちゃんがガッチガチだった。

 一目でわかるくらい緊張して直立不動。その周囲ではサナちゃんとひーちゃんが「らっちゃん、頑張ってください」「ふぁいとぉ……」と応援している。なんぞこれ。

 

「わわわわわ。わらっ、わららっわっ」

 

 もはや何らかのバグを起こしています。

 それを見てサナちゃんが肩を竦める。

 

「もう、らっちゃんってば……」

「カタコトさーちゃんはあんまり言えない……」

「それは忘れてください!?」

 

 そう言えば前にサナちゃんも緊張でカタコトになってましたね。

 とりあえず僕は膝をついてらっちゃんと目線を合わせた。

 

「はい、深呼吸ー」

「はひゅー、ふひゅー……」

「ちょっとは落ち着いた?」

「な、なんとかです……あ、のじゃ」

 

 忘れた語尾を付けるくらいには落ち着けたようだ。

 どうにか冷静になれたらっちゃんに向き直り、なるべくゆっくり話かける。

 

「どうしたの、なにかあった?」

「うん……う、うむ。わ、妾、今回頑張ったと思うの。色々提案したり、魂霊契約で魔力とか夢魔の幻影がキモブタさんの役に立ったり」

 

 それは間違いない。

 兄さんとのバトルは魂霊契約ラエティティアモードで戦い、そもそも魔力調達自体がらっちゃんの案でどうにかなった。

 なるほど、確かに今回の事件はらっちゃんの力をかなり借りている。

 

「うん。ありがとう、助かったよらっちゃん」

「にへへぇ……」

 

お礼とばかりに頭をなでなですると、にへへと満面の笑み。

 もちろんサナちゃんとひーちゃんにも助けられているので「ありがとう」を伝えると、二人して「今日はらっちゃんのことをメインに褒めてあげてください」と返ってきた。

 そうしてらっちゃんは、意を決したように僕に言った。

 

「なのでっ! わ、妾っ! キモブタさんにお願いがありゅのじゃ!」

「ええと、ご褒美が欲しい的な話?」

「そうそれぎょほうびぃ!」

 

 言えてない言えてない。

 わりとテンパっているらっちゃんの両肩にポンと手を置いて、サナちゃんがフォローをする。

 

「ナオトくんとゆっくり休日を過ごしたいみたいなんです。隠蔽と認識阻害の魔術は私がしっかりかけますから、連れ出してあげてくれませんか?」

「らーちゃん感謝デー、5%オフ……」

 

 らっちゃんがめっちゃコクコク首を縦に振っている。

 ひーちゃんの発言はちょっとよく分からなかったけど、仲がいいってことなんだろう。

とりあえず次の休日、僕たちは二人でお出かけすることになった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 当日、らっちゃんはものすごい気合いの入れようだった。

 淫魔っ子たちは基本スキルとして魔力で衣装を編むことができる。

 今日はいつものメスガキ調の衣装ではなく、ガーリッシュなふりふりスカートメインの服。いかにもオシャレなハットまで被って、今日のお出かけに備えていた。

 

「かんぺきっ! なのじゃ!」

 

 もともと金髪ボブカットの美少女。

こういうカワイイ系の定番を踏襲すると見惚れるレベルになってしまう。

 

「にに、似合ってるよ、らっちゃん」

 

 おかげで今度は僕の方が緊張で言葉に詰まってしまう始末。

 でもらっちゃんは本当に嬉しそうに、くるっと一回転してみせる。

 

「ほんと? ほんと?」

「も、もちろん」

 

 そんな僕らを温かく見守るサナちゃんとひーちゃん。

 なんというか完全にお姉ちゃん二人だ。

 

「二人とも、お昼はいらないんですよね?」

「うむっ、お外で食べてくる!」

 

 予定としてはお昼を食べてから街をぶらぶらという特に目的を決めない散策だ。 

 基本的にはらっちゃんの行きたいところを優先するつもり。

 

「さーちゃんさーちゃん、お昼ホットケーキしよホットケーキ」

「そうしましょうか。私たちも自由に過ごしているので、ナオトくんもらっちゃんも気にせず楽しんできてくださいね」

 

 意外と優しいひーちゃんだ。たぶんこうやって、らっちゃんが気を使わないようにアピールしたんだろうな。

 

「じゃ、ごめんね二人とも。いってきます」

「はい、いってらっしゃい。楽しんできてください」

 

 サナちゃんとひーちゃんが明るくお見送りしてくれる。

 こうして僕たちは平穏な休日に足を踏み出した。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「お昼はどうする?」

「はまかぜ食堂っ! お魚さんが食べたいのじゃ!」

 

 はまかぜ食堂は商店街にある海鮮メインの定食屋だ。以前、夢の中でらっちゃんと一緒に行ったことがある。今度は現実で、ということなのだろう。

 

「いらっしゃい!」

 

店内に入ると気風のいい大将が迎えてくれる。

彼はちらりとらっちゃんを見ると、小さく首を傾げた。

 

「なんだ、佐間くんの連れは国際色が豊かだな?」

 

あ、そういや前にサナちゃんとも来たんだっけ。

違うタイプの異界のお嬢さんを連れて来たものだから、ちょっと不思議そうな顔をしていた。

 

「そ、そういう時代ですから?」

「……なるほど?」

 

 大将はよく分かっていない感じだった。だけど大丈夫、僕もよく分かってないから。そういう時代って何?

 そんなことよりお昼ごはんだ。無理やり思考を中断して僕はらっちゃんとメニューを見る。

 焼き魚や煮魚、からあげなんかも美味しいけど、らっちゃんは生魚が好きだしやっぱり海鮮丼系かな。

 

「らっちゃん、どれにする?」

「キモブタさんは?」

「ぼくはマグロとホタテの二色丼かな。あ、こっちの海鮮丼はどう? 甘エビとかブリとかも入ってるよ」

「んーん、妾もキモブタさんと同じのがいい!」

 

 らっちゃんの強い要望で二人とも同じマグロとホタテの二色丼を注文。

 しばらく経って届いたのは紅白のコントラストが美しい丼である。大将の腕は素晴らしいので、和食系大好きならっちゃんは満足そうに食べていた。

 

「キモブタさん、交換。交換するのじゃ」

 

 隣の席の家族がおかずの交換をしていたのを見ていたらっちゃんは、僕ともそれがやりたいと交換を申し出る。なので僕のマグロとらっちゃんのマグロを交換した。

 

「んー、交換美味しいっ!」

 

 意味がない、なんてことはない。

 だってらっちゃんが笑顔になるなら、それ以上の価値はないだろうに。

 食事の後はのんびり歩いて、ゲームセンターにでも行こうかなんて話していた。だけど道の途中で、僕は見知った人に出会う。

 同じクラスの女子のリーダー格、折原潤さんとそのカレシさんだ。

 

「あれ、キモブタくんじゃん」

「おー、佐間」

 

 どうやら二人はデートだったらしい。

 らっちゃんは一瞬で僕の後ろに隠れ、恥ずかしそうにチラチラと様子を窺っている。

 

「その子、文化祭の時の?」と折原さんが軽く質問をする。

「うん、らっちゃん。今日は色々遊びに行く予定なんだ」

「へえ、面倒見良いじゃん。相沢見てたから知ってたけどさ」

「別に相沢くんは僕が面倒見てたわけじゃないね」

 

 どっちかというと、相沢くんが僕の面倒をみてくれてると思う。

 らっちゃんはぎゅーっと僕の足に抱き着いて、懐いている親戚の女の子調で挨拶してくれる。

 

「ララなのじゃ! キモブタさんと、お出かけ、ですっ」

「挨拶できてえらいね、うん」

「おい、ジュン。あんま佐間の邪魔してやんなよ、その子がかわいそうだろ」

 

 ……なんだろう、カレシくん以前より優しくなった感じがする。

 僕とは知り合いだけどらっちゃんにとっては他人なんだから気を遣ってやれ、というわりと真っ当な優しさだった。

 折原さんは「んじゃねー」と手を振って去っていく。

 二人は恋人同士なので普通に手を繋いでいる。それを羨ましそうに見ていたから、試しにらっちゃんの手を取った。どうやら正解だったらしく、らっちゃんはにまにまと喜びを堪えられない表情だった。

 

「ふふふっんふんふーんふーん」

 

 最近、サキュティちゃんねるのテーマソングを鼻歌で歌うのが淫魔っ子たちの流行りになっている。

 手を繋いで歩く僕たち。周りが微笑ましそうな視線を送るくらいにらっちゃんがはしゃいでいる。

 

「どこ行く?」

「む? あー、あれ。あの、なんかいっぱい遊べる場所がいいのじゃ」

 

 そうなると、駅前のアミューズメント施設かな。

 ボウリングやビリヤード、ダーツにバッティングセンターなどが出来る。提案すると楽しそうに頷いてくれた。

 アミューズメント施設は、入った瞬間様々な音に溢れている。音と光の洪水に圧倒されていたらっちゃんだけど、すぐに目を輝かせて僕の手を引っ張る。

 

「キモブタさん、あれやろ! あれ!」

 

 最初に指したのはボウリング。二人でシューズを借りて挑戦してみるけれど、意外と上手くいかない。僕は二球投げても全部のピンは倒せなかった。

 

「とうっ」

 

 サキュバスは人間よりも身体能力が高い。技術でなくパゥワーボールでピンをなぎ倒す。

 そういうスタイルなので、上手くまっすぐ行くとストライクが出るけどちょっとズレると成績が伸び悩む。それでも「いっぱい倒れたのじゃ!」とらっちゃんは満足そうだった。

 

「妾、こっちの方が好きかも。せいっ」

 

 その後にやったダーツの方がこの子の性にはあったらしい。

 といっても細かなルールは考えず、シンプルに高得点を競うゲームで対戦をする。真ん中に当たって高得点のエフェクトが出るのが楽しいらしい。

 

「よし、僕もそこそこの点数げっと」

「キモブタさん、ちょっとズレても高い点になるところだけ狙ってるのじゃ。こーゆーの、性格が出るのう……」

「逆にらっちゃんは、ど真ん中狙いだね」

「うむ。がっつりバンバンやるのじゃ」

 

 何度か対戦して、まあどっちが勝ってるのかもよく分かってないけど、とにかくダーツで遊びまくった。

 こういうカラダの動かし方でも結構汗はかく。お喋りもしていたから、施設を出る頃にはすっかりのどがカラカラだった。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

「はふぅ……美味しいのじゃぁ……」

 

 近くの公園に場を移し、僕らは夕暮れの中、ベンチに並んで座ってひと休み。僕はサイダーだけどらっちゃんは冷たい緑茶という渋めのセレクトである。

 落ちていく夕日がゆらゆら揺れている。流れる空気はどこか甘くて、揺らめく夕暮れはまるで飽和した砂糖水の中にいるような不思議な錯覚に陥る。

 オレンジの光に打ちし出されるらっちゃんの夜顔。夜に紛れるこの一瞬がそう見せるのか、少しだけ寂しそうに見えた。

 僕は、自分でも意識しないうちにらっちゃんの手を握っていた。

 

「む? キモブタさん、どうしたの?」

「……あ。えと、ごめん。なんか、らっちゃんがどっかにいっちゃいそうで」

 

 少し目を離したら、この砂糖水の空に溶けてしまいそうな……なんて言ったら、ちょっと気取り過ぎているだろうか。

 僕の変な発言を聞いたらっちゃんは、ちょっと困ったように微笑んだ。

 

「どっかにいっちゃうのは、たぶんキモブタさんの方なのじゃ」

 

 そう言うとお茶を飲み切って、そっと僕の手を外してゴミ箱に空き缶を捨てに行く。

 そのままベンチには座らず僕の前で踊るようにゆっくりとステップを刻む。

 

「強くなるのに魔力が必要だった時、さなさなは選ばせようとした。さーやさんでもみおーさんでもいい。キモブタさんに番ができれば魔力が確保できるって、さなさなは考えた。……でも妾は夢に逃げた。きっと選んだら、なにかが変わってしまうから」

 

 だから淫らな夢で魔力を回復する手段を教えてくれた。

 らっちゃんは以前、それを「決断の引き延ばし」と表現した。僕からしたら正直助かったけれど、彼女自身はずっと引っかかっていたのだろう。

 

「でも、僕は助かったって思ってるよ」

「なら、嬉しい。だとしても妾はダメダメなぼっちなのじゃ」

 

 眩しすぎる夕日を手で避けて、らっちゃんは遠くを眺める。

 

「夢幻世界は無限の世界。妾はその気になれば色んな世界を覗き見れる。だけど、あんまり見ないようにしてるのじゃ」

「それは、どうして?」

「もしも、何気なく覗いたとして。ひとりぼっちの自分が見えたらどうすればいいの?」

 

 微かに震える唇。

 そこには確かな恐怖があった。

 

「ほんの小さなボタンのかけ間違いで世界は簡単に変わってしまう。ちょっとしたことで喧嘩して、一緒にいられなくなって。キモブタさんは、さなさなやひーは、さーやさんやみおーさんは仲良くしてるのに、妾独りだけ路地裏で蹲ってる世界だってきっとどこかにあるのじゃ。暖かい部屋の中、皆でお鍋をつついてるのを妾だけが遠くから見ているの……」

「そんなこと……!」

「そんなことはないって。広大な夢の世界でさえ、そんな可能性はどこにもないって。……いったい、誰が保証してくれるの?」

 

 僕はらっちゃんの夢幻世界を「夢の中で疑似的な並行世界観測ができる能力」だと考えていた。

 そういう使い方をしないのは、らっちゃんが自分の能力の有用性に気付いていないからだと。

 でも違った。多くの淫魔は夢魔ラエティティアの能力を恐れたけれど、それ以上にらっちゃんこそがずっと怯えを隠していた。

 

「だから、夢を未来予測にはあんまり使わないのじゃ。何かの偶然で、この先に起こる見たくないものを見てしまったら、きっともう妾は立ち直れない。未来って、怖いよ? さなさなが、キモブタさんの恋人ができるきっかけを作ろうとしたの、全然意味が分からないのじゃ」

 

 零れ落ちる弱音を止める術を僕は知らない。

 今が、とても楽しいから。らっちゃんはただ変わらないことを願っていた。少しでも長い時間、「なあなあ」な状態を維持していたかった。

 そして彼女は、僕の膝の上に飛び込ように座った。咄嗟のことだけどそれを支える。ぐらりとらっちゃんが落ちる状況なんて作りたくなかった。

 

「今日のご褒美はね、妾にも時間が欲しかったの。みおーさんかさーやさんか分からないけど、いつかキモブタさんにも番が出来て、妾たちも今のままではいられなくなる時がきっとくるから。思い返せる瞬間がたくさんあれば、きっと寂しくないと思うのじゃ」

「そんなこと、言わないでよ……」

 

 僕はぎゅっと後ろかららっちゃんを抱きしめる。

 彼女があんまりにも悲しいことを言うから、僕は泣きたくなった。

 

「確かにさ、僕は人間だから。らっちゃんたちより早く死んじゃうだろうけどさ……。それでも、最後の瞬間まで、ずっと一緒にいたいって思うよ……」

「うん……うん?」

 

 そこで、なんかシリアスさんが焼き芋屋さんを見つけたみたいで走り去ったような気がしました。

 

「あれ? うん? キモブタさん、妾の話聞いておった?」

「え? おったけど」

「妾は今、キモブタさんに恋人出来たら妾たちもこのまんまじゃいられないとゆーよーなお話をしたはずなんですが。のじゃ」

「なんで? 恋人出来て家族と縁切りする人とかめったにいなくない?」

「うぬ?」

 

 どうしよう、なんか致命的に僕らが噛み合っていない。

 ひとまず冷静に整理しよう。

 

「えーと、ですね? らっちゃんは、僕と魂霊契約を交わしています。魂で繋がってる状態です」

「うむ」

「ぶっちゃけ僕も色々やらかしてる訳でして、黒衣の外法術師はとっくに退魔協会に目を付けられています。恋人ができたところで、僕らはほぼ一蓮托生なんですが……なんで離れるという選択肢が入っているのでしょうか?」

「……あ!?」

 

 今さらですが気付いてくれたようです。

 僕らは家族ですが、契約者で、それ以上に運命共同体なんです。

 

「ごめんだけど、らっちゃんが嫌って言っても一緒にいてもらわないと困ります。そういう状況を置いておいても、既に僕の家族はお祖父ちゃんを除いたららっちゃん・さなちゃん・ひーちゃんだけなんでそんな簡単に離れるのは悲しいです」

「あ……う、うん。もしや、キモブタさんもけっこうぼっち?」

「友達がいたからそこまではないけど。家族関係では普通にぼっちだねー」

「そっか……」

「でも、今はらっちゃんがいてくれてるから二人ぼっち。さなちゃんもひーちゃんもいる時は四人ぼっちで、どんどん増えていっぱいぼっちです」

「もはやぼっちが意味を為しておらん……」

 

 でも、きっと誰かは誰かと繋がっていくよ。

 それがどんな形であれ、僕は触れた手を離さないように必死になるよ。

 そういう心が少しでも伝わればいい。そんな思いを込めてぎゅっとらっちゃんを抱きしめる。

 

「うん、妾。今、二人ぼっちなのじゃ」

 

 たぶん、らっちゃんは察してくれた。

 頼りなく、弱弱しく。それでも僕の指をきゅっと握ってくれた。

 

「僕ね、もともと咲綾さんとは幼馴染みだったんだ。でも、疎遠になっちゃって。だから気付いたんだ。幼馴染みの縁とか絆なんて、何もしなかったら薄れて当然。本当に繋がりが大切なら、繋がっている努力をしなきゃいけなかったんだよ」

 

 後悔がないとは言わない。

 でも、そうと気付けた今だから、紡げるキモチだってきっとある。

 

「だから、らっちゃんとの縁を失くさないように、努力したいと思っている。具体的に言うと、三人の女の子と一緒に暮らすわけだから今後は今のマンションじゃなくてもう少し大きな部屋に引っ越す必要が出てくるよね? 戸籍に関しては難しいけど、幸いサキュバスは病気にもならないっぽいし。生活費に関しては動画の収入が今は安定してるけど、サキュティちゃんねるの支えも期待してます。貯蓄はしっかりしていこう。らっちゃんが気にしてる僕の恋人どうこうの話は、まず僕に恋人が作れるかなぁという不安はありますが。もしできたなら、皆と一緒にいる必要があるカバーストーリを作って対処していくのが無難かな。どっかのタイミングで相手には全部を話さないといけなくなるけど、受け入れてもらえないならもう別れるしかないんじゃないかなぁ」

「もうそこまでいくと計画なのじゃ」

「動画配信者の仕事の九割は下準備だと思っているキモブタです」

 

 ふわふわしたやる気だけじゃいい動画は作れません。

 綿密な企画は当然で、それを成立させるのは周りへの気遣いと信頼関係の構築。どんな仕事だって、独りよがりで成功することはないのだ。

 

「な、なんか途中から大分話逸れたけど……妾、まだまだキモブタさんと一緒にいてもいい?」

「もちろん。居てくれないと僕が泣くよ。道端で転がって泣きわめくデブサイクの見苦しさを商店街で見せつけるよ。それが嫌なら、らっちゃんはウチにいてください」

「どんな脅し……でもっ! それなら、キモブタさんのために、妾は家にいるのじゃ!」

 

 必要なのは理由。

 なんでもいいから、らっちゃんに傍にいていいという理由をあげたかった。

 この寂しがりなのに優しい女の子が、僕には遠慮しなくてもいいと思えるまで、小さな免罪符をプレゼントしていきたい。

 

「あー、なんかお鍋の話が出たら食べたくなってきた」

「じゃあ、今夜はお鍋?」

「だね。すき焼きにしよう、すき焼き。貯蓄の話が出たからちょっと牛肉は安いのを狙うけど。ってことで、今からスーパー付き合ってくれる?」

「うんっ!」

 

 二人手を繋ぐ夕暮れの公園。

 もうすぐ夕日が夜を連れてくる。その名残の陽光が僕たちの影を伸ばす。

 きっとどこかで重なる影に小さな祈りを込める。

 どうか、もうしばらくの平穏を。

 あと四人分の牛肉だからせめて三割引きのパックがありますように、と。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 夕食のすき焼きに舌鼓を打った後、直人がお風呂に入っている間に三人の淫魔っ子は集まる。

 

「はい、では第二十七回サキュバス会議を開始します」

 

 そう、サキュバス会議である。今回の議長はサーナーティオだった。

 まずはしゅたりとヒラルスが手を挙げる。

 

「さーちゃん議長、今日の議題は……?」

「今回は特殊な会議です。なにやららっちゃんが悩んでいたようなので、それを取り除くために」

「わ、妾?」

 

 名指しを受けてラエティティアの肩が震える。

 サーナーティオは重々しく頷いた。

 

「私は大淫魔。故に、らっちゃんの悩みをおおよそ把握しています」

「のう、ひー。目玉羽虫で覗いておった?」

「ひ、ひーはなにも知らない……。二人で美味しいご飯食べるのではなんて心配してない……」

 

 恐ろしく早い自白である。

 しかしサーナーティオが、ラエティティアをギュッと抱き締める。

 

「もう、変なことを考えちゃダメですよ。私たちは変則的ですが魂を繋げあった身。もっと、信じてください」

「う、うむ。ありがとう、さなさな。キモブタさんにも、いっぱい慰めてもらっちゃった」

「ナオトくんは、私たちと離れることなんて考えてないと思いますよ。たぶん事情を知らない恋人が出来ても普通に私たちを家族として紹介します」

「うんっ、思ったよりキモブタさん重かった!」

「それ褒め言葉なんでしょうか……?」

 

 微妙なところだ。

 てこてこ歩いてきたヒラルスも引っ付き、三人で抱き合う奇妙な体勢。それでもラエティティアは嬉しそうだ。

 

「ひーは、らーちゃんの心配がよく分からない……」

「うぬ?」

「どうせおにーさんに恋人ができるなら、サアヤかミオウがいい。……あの二人なら、ひーたちのこと全部知ってるし、魂約者のままでおーけーでわ?」

 

 その時、ラエティティアは目から鱗が落ちた思いだった。

 

「そ、そういえば、なのじゃ」

「“ナオトくんに大切な人ができたら邪魔な自分たちは離れないといけない”って事ばかり考えてたんですよね、らっちゃんは」

「うむぅ……」

 

 図星らしく、ラエティティアは押し黙る。

 そこでヒラルスが悪魔の、もとい淫魔の囁きを行う。

 

「ひーは、サアヤ推し。サアヤは流されやすいし、なんやかんやハーレムでも認めてくれそうな気がする」

 

 再び目から鱗がぽろっぽろ。

 

「の、のう。ひー、そこら辺詳しく」

「今日の議題はそれですね」

 

 こうしてサキュバス会議は進む。

 風呂に入っているうちに「ナオトくんに恋人ができてもロリサキュバスハーレムを成立させる方法」というあまりにも淫魔な話し合いが行われていることを、直人は一切知らず湯船で寛いでいた。

 

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