ロリサキュバスと同居生活してたらいつの間にか淫魔の王になっていた話   作:自宅戦闘員

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シチューかけご飯派

 

 

 

 

 

 春乃宮咲綾が『なおとくん』に声をかけたのは、小学校の頃の読書の時間に同じ趣味の絵本を読んでいたから、程度のきっかけだった。

 ちょっと太っていて運動は苦手だけど、穏やかで優しい男の子。彼と一緒に過ごすのはすごく安心が出来た。

 駄菓子屋ではしゃいだり、公園のベンチで日が暮れるまでお喋りしたり、本当に楽しかった。

彼には二つ年上のお兄さんがいて、そちらはとても嫌な性格をしていた。『デブの弟がいると知られたら恥ずかしい』と平然と言うような人だ。

 そういうのを庇ったりもして、どんどん仲良くなっていった。

 

 でも、ある時期から周りにからかわれるようになって、少し距離が出来た。

 ちょうどその頃から退魔巫女としての修行が始まり、夏雅城俊哉との婚約も決まったので、余計に会えなくなってしまった。

 修行が始まって、妹と比較されるようになって、ようやく兄に馬鹿にされていた『なおとくん』の気持ちが理解できた。

 同時に、いつだって笑っていた彼のすごさを思い知る。

 高校に上がってから偶然に再会できた。嬉しかったのに、『なおとくん』とは昔みたいには喋れなくて。

 先輩の目もあったため、自分から話しかけることも憚られて、結局は疎遠なまま。

 卒業して程なくすれば、夏雅城の嫁にならなければならない。

 咲綾にはもうどうすればいいのか分からなかった。

 

 

 なのに、美桜は。

 どうして───

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 お昼ご飯を食べた後、椎名先生は職員室に戻った。

 なので春乃宮さんと二人で喋りながら廊下を歩く。

 

「え、じゃあ春乃宮さん動画サイト本気で全然見ないの?」

「うん。ゲームもしないし、正直SNSも苦手」

「意外とアナログ派。あ、もしかして神社ってそういうの禁止されてる的な?」

「単に興味がないだけー。シンプルにカラダ動かす方が好きだし。ま、“おうちの事情”が忙しすぎて、部活とかは入れてないけどさ」

 

 おうちの事情っていうのは、つまり退魔巫女の修行とか淫魔の討伐なんだろう。

 大変だろうに、苦労を見せずにさらっと言っちゃうのはすごいと思う。

 

「じゃあ趣味的にスポーツやる感じ?」

「うん。前やったセパタクローはけっこう楽しかったなぁ。友達と遊ぶのは好きだから、カラオケ・ビリヤード・ダーツなんかはけっこうするかな? そういうのは趣味、でいいかも」

「び、ビリヤード……! 僕みたいな陰キャには縁がないオシャレさのある響きだ……!」

「あはは、なに言ってんの。普通にお店あるから。ボウリング場とかにも置いてあるし。今度やってみる?」

 

 意外と盛り上がってたけど、急に春乃宮さんはぴたりと止まった。

 何事かと思ったら、ちょうど同じタイミングで、春乃宮お姉さんと夏雅城先輩が歩いてきた。

 

「よう、美桜。なんでお前、こっちこなかったんだよ」

 

 お姉さんの婚約者なんだから、そりゃ面識はあるか。

 結構親しそうに話しかけてくる。でも春乃宮さんは「うげっ」みたいな顔をしていた。

 

 

「言ったでしょ、先約あるって。椎名せんせとの話し合いもあったの。そっちはお姉ちゃんがいればいいじゃん」

「ふぅん。しかし、ずいぶん面白いの連れてるな?」

 

 先輩は初手から僕を馬鹿にしたような物言いをする。

 隣にいるお姉さんは、気まずそうに顔を背けていた。

 

「うん、けっこう面白いよ、こいつ」

 

 春乃宮さんは普通に答える。

 違います、彼のそれは皮肉です。楽しい奴とかそういう意味ではないんです。

 夏雅城先輩はへらへらと、春乃宮さん……あ、お姉さんの方の肩を抱いた。

 

「美桜のやつ、趣味悪くねーか?」

「あ、あの。こういうのは、恥ずかしいので……」

 

 やんわりと断ろうとしているものの、先輩は聞く耳を持たない。

 それどころかもっと大胆に触ろうとしていた。

 

「あんっ♡」

 

 ……ので、彼の手を奪い、デブ肉に押し付けました。

 予想通り、僕の脂肪をぐにっと掴む先輩。変な声が出ちゃった。

 

「なにしてんだ、てめぇ!?」

「ぎゃあっ!?」

 

 蹴られて廊下を転がる僕。

 自前の衝撃吸収材はあるけど、普通に痛かったです。

 

「あ、いえ、その。学校で、女の子にそんな絡み方するのは、良くないんじゃないかと思って……僕の胸を差し出しました。けっこう肉たっぷり詰まってますし」

「ざけてんのか!?」

「ふ、ふざけて、ません、ですはい。横から、あれこれはマナー違反かもだけど。やっぱり、女の子に変なことは、同意がないといけないっていうか……あのその、ごめんなさいっ」

 

 激昂する先輩と、「ぶほぉっ!」と吹き出す春乃宮さん。

 めっちゃゲラゲラ笑ってはる。

 

「さ、佐間、ないすっ! てかさぁ、セクハラ失敗してキレないでよ。普通にさいてー」

 

 春乃宮さんの言葉に先輩は思い切り舌打ちをした。

 そのタイミングでチャイムが鳴り、皆教室に戻っていく。 

 

「ほら、三年の教室に戻ったら?」

「わーったよ、たく。……そんなデブ引き連れて、恥ずかしくないのかね」

 

 先輩は僕を見下した捨て台詞を吐いて、不機嫌そうなまま去っていく。 

 その背中に春乃宮さんはべーっと舌を出していた。

 

「ほーんと、あいつキライ。恥ずかしいのはあんただし、趣味が悪いのはお姉ちゃんでしょ、どう考えても。にしても、ほんとにナイス」

 

 胸板を手の甲で、ぽんっと叩かれる。

 前から思ってたけど、春乃宮さんって機嫌がいいとボディタッチが多くなる。

 

「いや、そんな。……でも大丈夫かな? お金持ちで、お姉さんの婚約者で。なんか家同士の問題とかにならない? そう考えたら僕、余計なことしたかも。ごめんなさい」

「いいんじゃない? なんかあったら家を出ればいいだけでしょ。にしても、お姉ちゃんもさぁ。あんなのに従っちゃって」

 

 べーっと舌を出す。

 本当に先輩のことを嫌っているらしい。

 お姉さんは、申し訳なさそうに僕に頭を下げる。

 

「ごめん、佐間くん。でも、向こうの家は地位が高くて、私だと中々……」

「こちらこそ。ほんと、僕が割って入ってよかったのか……」

「おーい、二人ともチャイム鳴ってるんだから、そろそろ教室戻らない?」

 

 ペコペコし合ってたら春乃宮さんからツッコミが入った。

 

「そうだね。じゃあ春乃宮さん」

「うん、またねー」

「春乃宮さん……も、行こうか?」

 

 姉妹だと呼び方がややこしいな。

 でも、お姉さんの方とか言うと失礼だし、変な感じだけどこのまま行こう。

 そうして僕たちはそれぞれの教室に戻った。

 そう言えば「さあやちゃん」と話したの、久しぶりだな。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 

「大変です、対ひーちゃん用特殊巫女部隊が結成されています」

 

 放課後、超速で帰宅した僕は、いの一番に今日あった出来事を淫魔っ子たちに伝えた。

 氷の巫術を使う、淫蟲退治を想定した合法ロリ退魔教師巫女の赴任。今更だけど属性多いな、椎名先生。

 

「それは、大変」

「だよね、ひーちゃん」

「つまりひーは、外に出られないということ。これはもう、おにーさんの家に閉じこもってゲームをし続けるしかない……。来月出る魔法都市建設シミュレーションもやりたい……」

「ひーちゃん?」

 

 それ単に巫女を理由に引き籠っていたいっていう願望だよね?

 でもサナちゃんも、そんなに慌てていなかった。

 

「ひーちゃんの場合、淫蟲を使役して魔力を回収します。変な話、淫蟲を産み出すのに魔力を10使ったとして、それが潰されるまでに11回収できていれば赤字にはならない訳ですし、特に問題は……」

「うん。あと、わざわざ外に出たくない」

 

 そんなことをVサインしながら伝えないで欲しいです。

 

「私の場合は隠蔽の精度がほぼ完璧なので、外出しても平気です。ただ、蟲魔ヒラルスの名前につられて今後も退魔巫女が常駐するのは好ましくないですね。どんどん集まったら、中には感知に優れたタイプが出てくるかもしれません。商店街のお散歩の時も緊張しながらなんてつまらないです」

「あ、今日は出かけたの?」

「はい。ハンドソープの予備がなくなったので買いに」

「ありがと。いつの間にか在庫管理まかせちゃってるね」

「トランプタワーより楽しいですよ? 商店街の皆さんも声をかけてくれます」

 

 そりゃあね、こんなかわいくてしっかりした子だもの。

 この調子でいったら、いずれは商店街のアイドルになってるかもしれない。

 

「と、話が逸れました。現状を鑑みて、提案です。ひーちゃんを退魔巫女に倒してもらうのはどうでしょう?」

「絶対ダメだよ!? もうこの子はうちの子だからね!?」

 

 僕はひーちゃんを自分の方に引き寄せ、守るようにサナちゃんの視界から隠す。

 腕の中で「照れる……」と言ってたので、ついでにめちゃめちゃ頭を撫でておいた。

 

「あのー、ですね? 別に本当に倒す訳ではなく。たぶん協会の退魔巫女たちが認識している蟲魔ヒラルスって、淫蟲のことだと思うんですよ。だからイイ感じに強敵そうな淫蟲を退魔巫女に倒させて、町から危機は去った……みたいな感じを演出するのはどうかなー、と」

「あ、なるほど。そうだよね、サナちゃんとひーちゃんは友達だもんね。ごめん、早とちりしちゃって」

「いえいえー。それだけ。ひーちゃんを大事に思っているってことですから」

「サナちゃんを倒してーって話でも、絶対ダメって言ったよ?」

「はい、ありがとうございます」

 

 どこまで信じてもらえたのか、にこにこ笑顔でさらりと流されてしまった。

 でも、確かに蟲魔を退治したってことにして、早めに椎名先生には元の居場所に帰ってもらった方がいいかも。

 

「あくまで椎名先生は対ひーちゃんの援軍だし、意外といい案なのかも」

「でしょう? 名付けて『退魔巫女による蟲魔ヒラルス討伐作戦をプロデュース大作戦』です!」

 

 ふふーん、と胸を張るサナちゃん。

 僕たちは安全確保のため、自ら打って出ることにしたのである。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 まあ打って出るっていっても、ひーちゃんが淫蟲を操るだけなんだけど。

 それにこの作戦、大量の淫蟲が倒される関係上、非常に魔力コストが高い。

 魔力集めフェイズを挟むので実行までに結構時間がかかる。

 

「一応、おにーさんに乳吸いヒルとア〇ルねぶり芋虫を放って快楽のエナジーを回収するという選択肢も」

「ええと、できれば遠慮したいかなーと」

「わかった」

 

 ひーちゃんが素直で助かった。

 ベッドでごろごろしつつ淫蟲を操って魔力を蓄える。その間に僕は晩ご飯の準備。サナちゃんはテーブルを拭いたり食器を並べたりと手伝ってくれる。

 テーブルセッティングが終わると、台所に来て、僕の調理風景をじーっと眺めていた。

 

「うーん、お料理って複雑ですね……」

「そう? 僕のなんて、野菜の切り方も雑だし味付けも適当だよ?」

「その適当が難しいんですよ」

 

 この子は僕が学校に行ってる間に、掃除や洗濯なんかもやってくれるようになった。

 でも料理だけは苦手。淫魔にとって食事は娯楽以上の意味はないから、これまで調理の経験なんてまるでない。そのせいか、味の微調整や煮加減・焼き加減が今一つ分からないらしい。

 

「まあ、こういうのは慣れだし。味付けが苦手なら、カレーやシチューのルウを使うだけ。困ったらニンニク醤油に頼ればすべてが解決。さ、今日の晩御飯はホワイトシチューかけご飯だよ」

「わーい」

 

 世の中にはホワイトシチューはバケットやパンと食べる勢がいるけど、僕は圧倒的にご飯にかける派だ。ちょこっと醤油を垂らすのがベスト。

 今のうちにサナちゃんひーちゃんに僕の味方になってもらうのである。

 

「あ、これ美味しいです。和食も美味しかったけど、こっちの方が好みかもしれません。んー、醤油はいらないかな」

 

 どうやらサナちゃんは洋食の方が好みのようだ。

 シチューかけご飯を嬉しそうに頬張っていり。

 

「ひーは三食ケーキでもいい」

「ごめんね、さすがに毎日は僕がキツイ……」

 

 ひーちゃんは徹底した甘党。

 まあこの子達の場合、栄養を取ってる訳じゃないので三食ケーキでも体を壊す訳じゃない。

 だとしても、同じ味が続くのは絶対飽きが来る。美味しいモノでも毎日食べ続けたらそれと気付かずに退屈と変わらないのです。

 なので、いつかケーキを嫌いになっちゃわないよう、手を変え品を変え工夫をしております。

 そうして穏やかな日々を過ごし、二日後。

 僕たちはついに計画の時を迎えた。

 

 

 

 

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