うちは呪術師専用図書館じゃないんですけど   作:月日は花客

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番外.料理は愛情だが、愛情だけで味付けはできない

 

「ぐりとぐらのカステラを作ってみようのコーナ〜」

「イェーイぱちぱち」

「……なにこれ?」

 

 硝子ちゃんと私、男子二人はいつもの書斎ではなく、キッチンに立っていた。ちゃんと全員エプロンと三角巾を装備している。

 私の掛け声に、硝子ちゃんが拍手をしてくれるが、ほか2名はまだ状況を掴めていないらしかった。ここまでほぼ無言で引っ張ってきたから当然である。

 

「え、何? カステラ?」

「ぐりとぐらのカステラを作ります。今から」

「なんでまた、急に……?」

 

 うるせぇ私が食べたくなったんだよ。

 うちには、母がお菓子作りを趣味にしていたこともあり製菓の器具がそこそこ揃っている。計量器、オーブン、ホイッパーにジューサー。

 最近の惰性で買ったフードプロセッサーと、なかなか機能が揃ったキッチンなのだ。

 母に似て、私もお菓子作りは好きだった。無心になりたい時、美味しいもので心を回復させたい時など、いろんな場面でお世話になっている。

 昨今手作りお菓子は忌避されることも多いが、三人はそこまで気にしていなさそうだし、どうせなら一緒に作ってみないか。と言うことである。

 硝子ちゃんたちはぐりとぐらをちゃんと知っている。私も好きだ、あの絵本。カステラが本当に美味しそうな、黄色いお月様をしている絵本。

 

「あれを食べたい。ので、作ります」

「つっても、絵本みたいに簡単には作れないでしょ」

「レシピはネットを探せばいくらでも出てくるんだよ。いいから手伝え。働かざるものに食わせるカステラは無ぇ」

「はいはい、手伝えば良いんでしょ手伝えば」

 

 ぶつくさ文句を垂れながらも、五条くんはどこか楽しそうだ。

 お菓子作りっていうのは、子どもの時に体験してこそだ。クッキーの型抜きだけでも、ホイップを塗りたくるだけでも、誰か大切な人とお菓子を作ることは情操教育としてなかなかに重要だと思う。

 しかし、五条くんはきっとそれをやってない。

 彼がふと溢した、「いつもご飯は冷たい」という言葉。あれを聞いたのは彼がまだ小学生の時だ。今思うと名家として毒味などされていたのかもしれない。

 きっと、まともにお菓子作りを体験したことがないのだろう。私にはまだ五条くんの中に子どもが残っているように思えるのだ。

 まぁ、そういう心配の気持ちもある。食欲と気遣いが6:4くらい。

 本人には言わないが。

 

「私は何度か作ったことあるから、指示に従って。あと、五条くんは袖をまくりなさい」

「ほーい」

「君ら、自炊とか料理……特にお菓子系の経験ある?」

「無い」

「小さい時にクッキー作ったくらいかな」

「菓子よりつまみ」

 

 夏油くん、君だけが頼りになるかもしれない。

 

 まぁまぁそれは置いておいて、早速作っていこう。

 

「卵と卵黄、グラニュー糖を白っぽくなるまで混ぜます。という事で混ぜる人」

「はい!」

「まぁ今回四人分作るから、腕力に自信ある男子二人がやってくれ。溢すなよ〜」

「頑張れよクズども。私のカステラのために働け」

「女帝がいる」

 

 硝子ちゃんにカステラを献上するために頑張ってもらおう。

 その間に私と硝子ちゃんはカステラにかける味変用クリームの準備だ。ヨーグルト、冷凍ベリー、グラニュー糖を潰し混ぜていく。ちょっとゴロゴロ感ある方が美味しそうなので、わざと潰しすぎないように。

 

「このくらい?」

「まだ黄色だ。気合い入れて混ぜろ」

「あー普段使ってない筋肉使う!」

 

 菓子作りは筋肉だ。パティシエの人とか腕ムッキムキになるらしいね。

 今は普通のホイッパーで手動でやってもらっているけれど、私一人でやるなら電動使ってたな〜。一台しかないので今回はお預け。

 私と硝子ちゃん、非力な女子だからさ。こう言うのってやっぱ、レディには大変だからさ。

 

 さて、混ぜられた液に、あっためた牛乳とバターを加えます。これも混ぜたら、薄力粉を投入。

 

「さっくり混ぜます」

「さっくりってどんなん?」

「うちの母親は『さっくりさくさく切るように〜』って歌ってたなぁ」

「泡立て器でどう切れと?」

 

 ゴムベラもあるよ。

 お菓子作りはその計量の大切さと精密さに反して、案外擬音が多い。そこがひとつ、菓子作りが苦手な人のハードルとなっているのかもしれない。

 割と経験がものを言うしね。

 

「でも二人とも上手いじゃん、その調子その調子」

「じんわり腕が疲れるな……」

「まだ二人分だからね、あとでもっかい混ぜる作業してもらうよ」

「うへぇ、お菓子作りって意外と体力いんのね」

 

 まぁ私と硝子ちゃんは君たちの恩恵にあずかっているけどね。

 オーブンを予熱しまして、小さめの鉄フライパンに流し込んでいきます。

 

「流し込むのやりたい人〜」

「はい」

「じゃあ五条くん、溢すなよ」

 

 五条くんは初めてのお菓子作りに、腕を疲れさせながらも目をキラキラさせている。クッキーのように作り途中のサビはあんまりないけれど、楽しんでいるようだ。

 夏油くんと硝子ちゃんも、そんな五条くんを微笑ましい目で見つめる。

 

「俺の分ちょっと多くしちゃお、傑そのボウルよこせ」

「よこすわけなくない??」

 

 ……気のせいだったかも。

 予熱したオーブンで170℃40分。あとは待つだけ美味しいカステラ。

 オーブンに任せようではないか。

 

「40分か〜長いね」

「ところで硝子ちゃん梅酒好き?」

「好き。あるの?」

「去年作ったのがね」

 

 私も梅酒が好きなので、母の慣習をそのまま続けて毎年使っているのだ。初夏、青梅に取り囲まれながらヘタを取っている。

 そんな梅酒、酒をたくさん飲みまくるタイプではないので、大抵次の時に持ち越す。今年は特に残っていた時期だったので、どうせなら硝子ちゃんに飲んでもらおう。私は酒強くないし。

 

「カステラに合うかはわかんないけど」

「酒ならなんでも良いよ。ちょっと度数低いけど」

「いいな、私ももらって良いかな?」

「ちぇー、酒かよ」

「少しだけど梅ジュースもあるから、五条くんはそっち飲みな」

 

 昨年に作っておいてよかった……本当は恵くんたちが次来たら渡そうと思ってたんだけれど。そうか、五条くん酒飲まないのか。

 ホイッパーで疲れたらしい夏油くんが、おっさん臭い声を出しながら梅酒を飲む。硝子ちゃんにとってはチェイサーにもならないのかもしれない、それくらいパカパカ梅酒を飲んでいっている。この娘やっぱ遠慮ないな、良いけど。

 

「はい、飲み終わったらもう二つ作るよ〜」

「はいはい」

「あ〜、沁みる」

「傑おっさん臭いぞ」

 

 

「完成〜! 見よ、この黄金の輝き」

「うまそ」

「これ一人一個? 豪華だね」

 

 完成したカステラは、まさに絵本で見た黄色に焼きあがっていた。

 黒い鉄フライパンにその派手な太陽の色が映える。

 横を見れば、五条くんの瞳が同じくらい輝いていた。

 

「味変のクリームもあるから、ゆっくり食べな。まだ梅酒も残ってるし」

「こんなんもうパーティじゃん……」

 

 ふむ、パーティ。ぐりとぐらも、最後は森のみんなとカステラを食べていた。

 カステラパーティ、カステラパーティね……これが、彼の良い思い出になっていると良いな。

 黄色い宴は、まだ始まったばかりだけど。

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